第7話 好みのタイプ
採寸して数日も経たないうちに亮さんから飲みのお誘いメールが来た。デザイン画はまだ出来ていないのに、それでも良いそうだ。
基本、食事のお誘いはなるべく受ける様にしている。
男性であれ、女性であれ、好意がなければ食事に誘う、という事はないと思うので。
私の何かを気に入ってくれて誘ってくれるのならお答えするべきかな、と思って。
ただ、そうは言っても誰でもOKなわけではない。
ちょっとめんどくさいなぁ、と思う場合は初回はやんわりお断りする。社交辞令も当然あるだろう。一々真面目に受け取る必要はないのだ。
亮さんの場合はもう知り合っているし、何なら、
「しずか今日飲み行こうぜ~」
「おっけ~」
みたいな女子友達ノリだと思っている。
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「急に呼び出してごめんね。・・・スカート初めて見た。似合うね。」
渋谷のヒカリエ前で待ち合わせし、先に着いていた亮さんは会うなり褒めてくれた。
「ありがとうございます。そういえば前会った時は2回ともパンツスタイルでしたかね。」
オーバーサイズのシャツにスキニーのパンツスタイルは定番で良く着ているコーディネートだ。
今日は無地のきれい目な白のスウェットに、ダスティピンクのサテン地でスリット入りのマキシスカートだ。スリットも膝下から片方だけ開いている形なのでオフィスでも問題ない。うちの会社の場合は、だけど。
「たまたまこの服装の時で良かったです。スーツの隣がカジュアル過ぎたら違和感ありすぎますからね。」
そう、いつもはスニーカーだけど今日は低めとは言えヒールの甲浅パンプスだし、髪も下ろしてるからカジュアルなのはスウェットだけだ。
「そういうの気にしてるんだ?」
「基本気にしませんけど人と会う時は気を付けてますね。」
TPPOのパーソンは割と重要よね。
「デートとか?」
「デートこそ何着るかめちゃめちゃ考えるイベントでしょう?」
「もしかしてデートだった?」
「違いますよ。」
「じゃぁたまたまだった、と。誰かに会う予定でもなかった?」
「そうですね、たまたまです。誰かに会うとかはなかったですよ?」
何が聞きたいんだろう?他に誰かと会う予定があったら確実に急な誘いは断っているんだが。
疑問に思いながらも着いたお店は広々としたおしゃれなイタリアンレストランだった。
カジュアル過ぎたら浮きそうなお店だったので、本当に今日きれい目な恰好で良かったと心底思った。
注文したスパークリングで乾杯したところで今日誘った理由を話してくれた。
「採寸の時迷惑かけちゃったし、お詫びも兼ねてもう少しゆっくり話したかったから誘ったんだけど、急なのに予定が合って良かった。」
「お詫びなんて、この前ごちそうして頂いたから良いのに・・・・・まぁ仕事も落ち着いてきた所でしたし、当日とは言え早めに連絡してくれたので来れました。」
「早めじゃなかったら来られない?」
「定時過ぎてたり、電車乗ってたらもう無理ですね。多分彼氏でも引き返しません。」
実際電車乗ってる時に「飲み行こうぜ。」と誘われた時は引き返さなかった。
「そうなんだ、じゃぁ次回も気を付けるよ。」
次回?また飲み行くのかな。デザイン決まってないからその事かな?
しかし・・・今日も素敵スーツだわ。チャコールグレーのグレンチェックにアクセントで薄っすらパープルのラインが入っている。差し色の入れ方が斬新なんだよな~どこの生地なんだろ。イタリアかな。
「何?」
スーツを凝視してたのがばれた。
「いや、今日も素敵スーツだな、って思って。」
「スーツ好きだね。スーツ似合う人がタイプ?」
やんわり笑顔で聞かれた。それは暗に亮さんがタイプだと聞きたいんだろうか。
「いえ、私の好きなタイプは簡単に言うと商社マン系よりガテン系です!」
拳に力を入れるが如く力説した。
亮さんは目を丸くしている。
「スーツ着てないじゃん!」
「着てないですね~」
どうやらツボにはまったご様子。お腹を抱えて俯いている。そうよね、スーツスーツ言うてたもんね、私。
「あ~・・・やっぱり変わってるね、しずかさん。」
「変わってるとは心外ですね。ごく普通の女性ですよ。」
「じゃぁ、性格のタイプは?」
「優しくて思いやりのある人が良いです。」
「それ当たり前じゃない?」
「何言ってるんですか!優しくなくて思いやりのない人多いですよ。」
「例えば?」
「ん~・・・少なくとも初デートとかで遅刻する人は思いやりがない、と判断しますね。」
「どういう事?」
「相手を思いやれてたら初デートで遅刻する事はまずないはずです。その人の時間を奪う事になりますからね。そこに考えが至らない人なんだな、って思ってしまいます。」
「経験談でしょ?」
「・・・」
思わず黙ってしまったが、これでは肯定したも同じだ。
「俺も同じ経験何度かあるよ。」
「あ、そうなんですね。」
だから今日もこの前も時間ぴったりにいたのか。
もちろん私もオンタイムだ。
「そういえば、スポーツバーには一人で良く行くの?」
「そうですね、ラグビー好きなお友達周りにいなくって。試合も基本一人で行きますよ。あそこで知り合った方と現地で合流する事もあるけど。」
「ふ~ん・・・・・試合、観に行ってみたいんだけど、」
「ほんとですか?!じゃぁ一緒に行きましょう!!」
食い気味で答えたから亮さんがびっくりしてる。
「あれ?一緒に行きたくないです?あ、同性の方が良かったらバーの知り合いの人紹介しますよ?」
「いや!しずかさん、一緒に行こう。」
ちょっと待った!みたいな勢いで言われた。それも素敵スマイルで。
これは惚れる女子多いわ~
「やった~!ラグビー観戦仲間ゲットお♪」
両手を上げて喜びたいくらいだ。
こちらも女子の観戦仲間はいるが、推しチームが違うので毎回一緒に行けるわけではない。一人より誰かと一緒に観戦した方がやっぱり楽しい。
ホクホクしてふと亮さんを見たら残念そうな顔をしてた。ラグビーオタク過ぎて引かれたかな。別に良いけど。
お互いの仕事や都合によりすぐの試合には行けず、2週間後の試合の時にまた会う約束と、試合の後デザインを決める事にして、その後はとりとめのない話しをして料理を楽しんだのであった。
TPOにP誰と、が加わったのがTPPOです。
良く聞く、Timeいつ、Placeどこで、Occasion何をする、ですね。
再度お伝えしますが、亮さんはがっつり商社マンです(・∀・)