第4話 お針子さんに手を出さないで下さい
紅茶を頂いて一息ついたら、早速採寸開始だ。
腰まである長い髪は邪魔になるので一括りにする。
「Yシャツの上に着る予定のジャケットならYシャツ着て下さい。」
今の亮さんは少しゆったりしたTシャツに細身のデニムというラフなスタイル。ゆったりしてるTシャツとは言え胸筋が引き立てられ、ここに来るまでにすれ違う女性が結構亮さんをチラ見してたくらいだ。
「Tシャツの上に羽織るからこのままで良いかな。それともTシャツも脱ぐ?」
「・・・・裸の上にジャケット着るならどうぞ。」
ちょいちょいからかわれているのがわかってきたので、こちらもそれなりの対応を取る。
「ははっ。冗談だよ。下はデニムのままで良いよね?」
「はい、大丈夫です。」
採寸する為にメジャー・・・ではなく黒い細い紐を取り出した。
「それは?」
「ウエストの位置をわかりやすくする為の紐です。」
「へ~初めて見た。」
「普通は使わないでしょうね。私は多数の人を測ったりしないので、確実に採寸する為ウエストに目印を付けたいんです。」
「なるほどね~」
さて、最初の難関だ。
「あの、亮さん。」
「はい。」
「採寸の時ちょいちょい当たると思うんですけど、わざとじゃないので嫌かもしれないけどちょっと我慢して下さい。」
「?」
まぁ何のことかはわからないよね。
「・・・しょっ」
紐をウエストに固定する為亮さんの正面から腕を回して右手の紐を左手に渡し受け取り一周させる。
「なるほど。」
「ほんと、ごめんなさい!」
紐を腰に結ぶだけなら何でもないが、如何せん私はやや胸が大きい。片手で数えられないカップサイズだ。その為どうしても自分の胸が採寸の際に相手に当たってしまう。
「謝る必要はないんじゃない?むしろ俺はラッキーですが。」
「えー?だって胸押し付けてくる女子って怖くないです?」
「まぁ言ってる事は何となくわかる。」
「さては経験者ですね。」
私は少し苦笑いした。
きょぬう女子の中にはそれを武器にしてる人もいる。けど全員が全員そうではない事を知って欲しい。
「て言うか、採寸の時って毎回こうなるの?」
「そうなんですよ~女子でさえも当たってたので。あ、男性を測ったのは亮さんが初めてですよ。だから忘れてました!」
「へぇ・・・・」
ん?何か嬉しそう??気のせいか。
さ、どんどん測るよ!
肩幅や首の付け根からウエストまでの距離や腕の長さ等順調に測っていき、残すは問題の胸囲など胴回りだ。
「じゃぁ胸囲測りますね。」
「・・・・」
「ふおっ!!?」
胸囲測ろうとまた正面から腕を回したらふいに抱きしめられた。
こ、これは完全にハグの形!!
「・・・亮さん?・・・・お針子さんに手を出さないで下さい。」
顔を上げ、恨みがましくちょっと睨む。
「いや~何か抱き心地良さそうだったのでつい。」
「警戒しないで良いって言ったのどなたですか。採寸させないなら帰りますよ?」
「ごめんね、お針子さん。」
そう言う亮さんは言葉とは裏腹に楽しそうだ。
このやろう。おちょくりよってえええ。
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若干腹は立ったが、無事全ての箇所の採寸が終了。
測り忘れがないか念の為確認している間に亮さんが紅茶を入れ直してくれた。
「ふぅ・・・・。オーダースーツってどれくらい持ってるんですか?」
「あ~何着だっけなぁ、見る?」
「見たい!!」
オーダーなんて見る機会ないから見れるの嬉しい!
ウキウキして着いていった所で足を止めた。
クローゼットはどうやらリビングの隣の寝室にあるようだ。
「あれ?見ないの?」
亮さんはチラリと横目でベッドを確認した。
「ここからで良いです。何着か持ってきて下さい。」
すぐ近くにベッドがあるからね。
「ああ・・・何もしないよ?」
「半分信用してないんで、ここからで良いです。」
「半分なんだ。」
また笑った!こんにゃろう。
『ピンポーン』
反論しようとしたらチャイムが鳴った。配達?お客さん?ではないよね。今私いるし。
「誰だろ・・・・対応してくるから寝室入って見てて。」
うん、本人いないなら見せてもーらおうっと。
『・・・・!』
「今来客中なんだけど。」
『・・・・・』
相手の話してる内容まではわからないけど、うっすら聞こえる声は女性っぽい。
「ええ?それらしき物なんかなかったけど。」
『・・・・・!』
「しょうがないな~来客中だから手短にね。」
どうやら家に上げるようだ。
リビングに戻ってた方が良いかな、と思い寝室を出る所で鉢合わせた。
「誰よ!!!この女!!!!!」
修羅場来た~~~~~~!!