セイレーンと王子様。序章
あまりにも、夕焼けがきれいだった。思わず身を乗り出すほどに。しかし、それは、間違いだったのか?
「王子!」
ここはどこだ?暗い。苦しい。船から落ちたのか。
「かぽっ。」
口から空気が抜けていく。
「あら、人間?珍しい。えっと、人間は水中では生きられないんだっけ。」
かすかにヒトがみえる。タ・ス・ケ・テ と、口パクでつたえる。
「助けて?ん~。まあ、いっか。なんか面白い物ちょうだいね?」
面白いもの?そんなのいくらでもくれてやる。了解の意味でうなずく。
「オッケー。助けてあげる。」
腕が捕まれる。上に引き上げられる。すごいちからだ。
「プハッ」
空気だ。おれいを言わなくては。
「ゲホッあ、ありがとう。」
「気にしないで。気が向いただけ。なんか面白いものない?」
面白いもの?ふと、恩人の顔をみる。耳が人間と、違う。この耳は、
「セイレーン?」
恩人(?)が息を詰まらせる。バッと、みみをふさぐ。
「な、なんのことかしら?そ、それより面白いものない?助けたお礼にさ。」
なんで隠すんだろう。綺麗な藍色なんだがな。それに、髪の色もきれいな銀色だ。まあ、海のなかにいても普通にしゃべれる理由はわかった。
「すまないが、いまはなにも。明日でどうだろうか。あと、どんな物が欲しいか言ってもらいたい。」
「…の。」
「え?」
「布。布が欲しい。その、それのような。」
布?珍しい…のか?まあ、セイレーンにしたら珍しいんだろう。あと、それとは…多分服だよな。
「わかった。どんな服にしようか?」
「えっと、か、かわいいの!あと、長いり、リボン?も!」
かわいらしい物だな。あの、自分を着飾り、売り込むことしか考えられないやつらより、何倍もいい。まあ、私を知らないんだ。当たり前か。
「明日、あの港の端っこの灯台のしたで。」
「わかった。ん~、夕方がいいな。」
「わかった。では。」
さて、あいつにたのむか。気が向かんが。しかし、まあ、いいか。あいつなら、喋らない。というか、どうするか。もう、日没だ。…まあ、たまには城下町で過ごすのも悪くない。
~次の日~
「おい、起きろ。仕事だ。」
「え?おや、珍しい。なんだい?」
「女性物の服を「お前がっ!」…頼みたい。」
「いいよ!どんな子?何色が似合う?」
「セイレーンだ。髪の色は、…銀色だ。」
ん?固まってるぞ。まったく。
「おーい起き「セイレーン!?」…ろ」
なんだ騒がしい。あと、人の発言を遮るな。まあいきなり聞かされたら、私もそうなるだろう。
「はじめてだ。上手く作れるかわからない。期限は?」
「今日の夕方。」
「鬼畜か。まあ、いい。」
ニヤッと笑う。こいつはこんなやつだ。
「銀なら、青。いや、見たことない色がいいか。いや、見たことない色より…」
ぶつぶつとなにかいっている。もう大丈夫だ。
「ああ、リボンも欲しいといっていた。長いやつだ。」
「わかった。作っておく。ああ、尾ヒレは?」
耳の色と一緒だったな。
「藍色だ。」
おや、もう決めたのか。さすがだ。さて、なにか探すとするか。
おや、もういい時間だ。いい加減出来ているだろう。あいつだし。
「できてるか?」
「当たり前だろう。ほら。」
渡されたのは、翠の服だ。綺麗…と、いうより、こいつ
「お前。本気出したな。」
滅多に出さないくせに。まぁいいか。
「リボンは?」
「おらよ。」
紅か。似合うな。きっと。だが、長いな。まあ、さすがだ。ただ、
「おい、後でこれ着ろよ?」
さされたのは、女性用の服だ。だから嫌なんだよ!こいつは。まあ、いわゆるなんだっけ。ああ、男の娘がすきなんだとか。で、私の顔が気に入ったとか。まあ、いい。よくないが。てか、こいつ身分を考えたことあんのか?
「じゃあな。」
「おう。セイレーンにもいつかあわせろよ。」
あいつは、セイレーンと両思いだ。実際、鱗も貰っている。だが、あってくれないと嘆いていた。まあ、どうでもいい。っとついたか。いい時間だ。
「あのー。約束したものですが。」
後ろから声がかかる。ああ、人化だったか。
「はい。これだな。」
手に取りうっとりとながめている。しかしどこで服を手にいれてるのか…ボロボロだ。
「わたしには、セイレーンと云うこと隠さなくていいぞ。セイレーンが好きなやつもいるし。」
「本当?」
上目ずかいは駄目だ。可愛くみえる。いや、実際可愛いが。
「ほんとうだ。」
「よかった。」
そう言うと、海に飛び込んだ。足が、魚の尾になる。そんな簡単に信用してもいいのか?しかし、
「綺麗だ。」
「えっ」
む、心の声が。しかし、実際綺麗だ。いつの間にかあの服も着ている。
「似合っている。」
顔が真っ赤になった。話をそらすように聞いてくる。誉められなれていないのか?
「あああああの、リボンってどう使うの?」
「好きにしたらいい。髪につかったり、いろんなところに巻いたり。 」
リボンは知っていても使い方は知らないのか。そう言うと、首にまいた。銀の髪や白い肌によく映える。なんだろう、胸がキュウッとなって温かくなってくる。もう日が沈みそうだ。帰らなければ。…というか、どうやって帰ろう。しかし、ああ、うるさい小言が待っているのか。そう思うと気が滅入るな。まあ、歩いて帰るか。幸い、ここは近いらしいからな。
「では、」
「まって、あの、人間のこと、いろいろおしえてほしいの!だめ…かな?」
ふむ。セイレーンが人のことを?
「今日は、無理だ。それに、一周間に一度しか会えない。それでもいいか?」
パアッと顔が輝く。何故だろう。とても嬉しい。
「そういえば、君の名は?」
「…ごめんなさい。教えれないの。あ、私を呼ぶときはトントントトンのリズムで海面を叩いていればいいから。」
「そう、か。では、また次のときに。」
これが私とセイレーンとの関係の始まりだった。