第二十三話「前哨戦」
第三章も三分の二を越えて佳境に入りますぞ。(*■∀■*)
最強無敵の引き籠もりヒーローであるところのマスカレイドは、引き籠もりにふさわしく暇を持て余し……てはいないが、暇である。
余暇時間の過ごし方を熟知しているというか適応しているというか、手持ちの材料だけで楽しむ事に長けているので、いくら時間があろうが持て余す事はないのだ。
自分の中で仕事でないと思えば、一見大変な事でも面倒な事でも苦にしない。その辺、誰もやっていないクソゲーで延々とRTAを走り続ける猛者に似ている。
しかし、彼の場合それが一つに留まらず、突き詰めるところまではいかない。先のクソゲーRTAにしても、せいぜいが世界ところか日本上位程度で限界を感じて止めてしまうのだ。そして、すぐに別の趣味を見つけ出し、開拓し、放り投げる。その繰り返しだ。
飽きたわけではない。普通に楽しんでいるところを、当たり前のように投げ出すのである。極稀に戻って来て楽しむ事すらする。
まるで、自分にとってのそこそこで駆け上がれる最速を試しているかのようにも見える。自分の中では、それを飽きっぽいと認識しているが、確実に違うものだろう。
「な、なんて面倒臭い……」
これまで収集した各種情報を自分とアンドロイド群で再計算し、割り出した人格分析レポートを読んだ南美波は戦慄する。
その結果は、最も相対する人間として納得できてしまうものだったから。そして、あり得ないレベルでヒーローとして突出している現状は極めて危険だと判断する。
極々当たり前の正義感や美学を持ちつつも責任感のようなものに押し潰されないでいるし、本人も自分の性格や特性を熟知しているが故に投げ出さないような対策をとってはいるが、こんなもの、どこで限界が来るか分からない。
そうなれば一瞬にして世界は終わりを迎えるだろう。元々いなかったのならどうにかなるのかもしれないが、マスカレイドはこれまでいたし、今もいるのだ。
急激に変化した世界はマスカレイドありきの世界へと変貌を遂げている。この変化はすでに彼なしで世界の維持が困難なところまで来ていると言っても過言ではない。
本人が言っていたように、二度目の大規模イベントまでならそこまでの影響はなかっただろうが、今はあまりにも強く爪痕を残し過ぎている。それこそ、運営の戦略レベルで。
属人化し切ったこの状況から足抜けするのは容易ではない。理想は力や責任、権利まで含めて可能な限り分散してのフェードアウト。その体制を確立した上、『ああ、そんな銀タイツもいたね』と稀に思い出される程度の認識になる世界なのに。
しかし、世界はそこまで甘くない。マスカレイドだけで捌く事は困難な問題を振りまき、なんだかんだでそれをなんとかしてしまっている。
当然、マスカレイド個人に対する依存は加速する。周囲に強固なサポート体制を整えようが間に合わない。むしろその周囲のほうが悲鳴を上げているような有り様だ。
ここまで理想の展開になりつつある現状にあって、マスカレイド以外の何もかもが足りていない。マスカレイド陣営と考えるなら、そこに南美波の能力を含めてもいいのだろうが、外から見ればまったく同じにしか見えないという問題もある。
その上、それは爆弾だ。何故なら、マスカレイドがいなければ南美波はその制御を失い、場合によっては悪影響すらもたらしかねない。
「私だけじゃ駄目だ……と言っても、今のところその構想に近い形で動いてるのなんて……近藤さんくらい?」
それを認識しているのか、死神官僚こと近藤は絶対に内紛を許さない。人類にそんな事をしている余裕はないと、せめて日本だけでも一枚岩にならないと未来がないと分かっているから。
天職だったのか、それはガッチリとハマった。たかだか若手の官僚一人が、持っているだけで呪詛を振り撒きそうなバインダーと自己防衛能力を手に大鉈を振り続けられるのは尋常ではない。それは誰も想像していなかった、ミナミやマスカレイドでも想定外の活躍といえる。たとえ、その力の源泉がマスカレイド陣営からもたらされたものだとしてもだ。
おかげで日本政府は一枚岩になりつつある。なんなら野党や関連団体まで含め、清濁合わせた離れ技で一致団結されつつあった。
おそらく、歴史上一度も存在していなかったレベルで。そう……それは予想を超えた理想以上の成果と言える。なのに、それでも足りない。
近藤ほど顕著でなくとも、長谷川やカルロス、小野教授も本来のスペック以上に活躍している。
現成、無難に熟し及第点という状態のクリスも、やがては頭角を表すだろう。
対人類まで範囲を広げるなら、そこにキャップマンや東海岸同盟を含めてもいいのかもしれない。
しかし、そこまで広範囲に現代の適応種ともいえる規格外の怪物が生まれつつある中でも、まったくもって足りてない。
世界変革のスピードはあまりに早く、世界中で、マスカレイドから離れるほど顕著に脱落者が続出しつつある。
「本人が現人神にでもなる気なら楽勝なんだけど」
それならミナミとてこんなに苦労していない。容易に世界は一つにまとまり、怪人など一蹴できるはずだ。
もちろん取り零しは多数出るだろうが、今後想定される犠牲に比べれば遥かに少なく済むだろう。
その先に待っているのがマスカレイドを主とする千年王国というのは、現代の価値観で言うなら大問題だろうが、実のところそこまで悪いモノになる気もしないというのが本音だ。
ただ、それは妄想に過ぎない。甘……くはないが、非常に安易な妄想だ。
根本的な問題としてマスカレイドにその気はない。そして、適性もないだろう。実現可能な能力はあっても、それしかない。そのあたり、なんだかんだで代表をこなせているキャップとは違う。
あるいは、それをしなければどうしようもない状況に追い込まれるならやり遂げてしまうだろうが、それはバッドエンドだろう。どうせ、その先に良い未来などない。
「かみさまでも想定外の、都合のいい展開……それでもここが限界?」
ヒーロー任命システム利用時に発覚したという偶然。それはマスカレドや南美波の存在以上に結果が出ているように見える。それはかなり理想的な形で現実になっているようにも見える。
だけど、これ以上に都合のいい展開なんて想像ができないような状況まで煮詰まっている。
「それとも、現状が都合のいい展開に合わせて調整された結果?」
あるいは、それは正解なのかもしれない。マスカレイドという超絶チートユニットに合わせて、あとから再調整されたのなら納得できる。
ひょっとしたら、どこかの平行世界ではもっと細々としたヒーロー対怪人の対立構造が出来上がっているのかもしれない。案外、それはマスカレイド一人を投入したら一瞬にして土台ごと消滅するような世界かもしれない。
実を言えば、ヒーロー避難所こと超避難所で作らせているシミュレーターでもそれを思わせる結果は出ている。
確実なターニングポイントは第一次大型イベント。あの百八体の爆弾怪人が降り注いだ悪夢。マスカレイド不在であのイベントを、そのあとの世界情勢を軽傷に抑え切る事がどうしてもできない。あれから急速に世界が荒廃を始め、平均で人口が三分の二にまで減少するというのが現実的なプランとなっている。
それが本来想定されていた初期展開というなら、そういう事もあるだろうと言わざるを得ないが、とても最初からそんな被害を想定している気がしない。
なにせ、その展開で最も影響が強いと判定されているのは東京の壊滅なのだ。史実に合わせた投下ポイント通りに、いや、一発でも東京の中心に投下された時点で、世界を巻き込んだ最悪のシナリオが展開される。強引に投下ポイントをずらすだけで、多少被害は多いとしても納得できなくもない結果になるのが余計に推察を補強している。
つまり、アレはマスカレイドがいたからこそ路線変更されたシナリオであると。それだけに限った話ではなく、おそらく時間経過につれて路線変更は大きくなっているのだろうか。
「平行世界がどうなってるのか見てみたい。異世界があるんだから、平行世界だってあると思うんだけど……」
そしてそれは、おそらく南美波が絶対に見てはいけないモノだろう。
-1-
かぐやの件については極力ミナミの耳に入れず、その他関係者に関しても内密で動く事に決めた。
かみさまに相談した際に聞いた通り、認識する事で変に化学変化が起きる事を懸念したというのが理由だ。あとはかぐや自身の意見、そして何より自分の勘によるところが大きい。
ただでさえ存在自体が爆弾のような究極のサイバーテロリストなのだから、ちょっとした刺激で何か起きてしまうのを危険視するのは自然だろう、うん。
ぶっちゃけ、ミナミを敵に回すのは本気で怖い。怪人がどうとかいうより、南美波という存在に対して恐怖していると言っても過言ではない。
永続的になんの疑いも懸念もないくらい味方と信じられるような方法があればいいんだが、そんな都合のいい方法などあるわけもない。
なんなら、家族を人質にしても、最悪状況によっては見捨てかねないのが南美波というやつだ。ヒロインの命と世界を天秤にかけられて、ラストバトル直前に日和る往年のRPG主人公にはない割り切りっぷりがあるのがミナミなのだから。
このあたり、本人に言ったら『えー、そんな事ないですよー』とか言いそうだし、実際言ったんだが、本人としても多分自覚してると思うんだよな。そんな様子が随所に窺えるし。
本質的に善性なのは間違いない。夢遊病の如きクラック行為やサイバーテロはともかくとして、感情がないわけでもないし、むしろクールとはほど遠い性格をしているが、根底を異形とも呼べるデジタル的な部分で占めているのがミナミだと思っている。
というか根本的な部分で、世界規模のテロリストかつ、それを当たり前のように語る彼女がまともな精神の持ち主であるはずがないのである。オペレーター採用に至る経緯で死んだ同業者についても、特に悲しみの感情とか見せなかったし。……まあ、本気でどうでもいい相手だったのかもしれないが、普通の人間はそれでも多少は気に止めるものだろう。
さて、そんな爆弾が身近にいる事に関して、俺はそこまで悲観的に捉えていない。常に面を向かって会話しており、その気になれば物理的に会える立ち位置は、監視の面であればこれ以上ないとも言える。
むしろ、オペレーターをやめて……いや、やめなくても一切干渉できないところに行かれるほうが怖い。
できる事なら鎖に繋いで何もさせたくないというのが本音なんだが、それはミナミのポテンシャルを捨てる事と同義で、逼迫した状況が続く今手放せるものでもなく、最大限に活用するならフリーハンドに近い今の環境が最適と判断している。
というか、そういう点を少しでも前面に出した時点で発生する感情的なマイナスを考慮すれば、考える事すら危ういような気がする。
そんな中で最大の懸念として挙がっているのは、やはりかぐやの件である。
ミナミに知られないために一切文書に起こさずにいる脳内ストーリーラインを実現するには、どうしても俺が完全にフリーになるタイミングが必要だ。
なんか、奥さんに知られないように浮気のための時間を捻出しようとしている構図に見えない事もないが、大いなる勘違いである。
だからというわけではないが、つまりそれはミナミのいない時間を捻出するにはちょうどいい理由だった。
『……えっ? あれ、健康ランド行かないんですか? 本当に?』
「良く考えたら、女の子の中に俺一人ってのもな。せっかくだし、女子会楽しんでくるといいよ」
『…………え?』
「いや、だから……」
とはいえ、ミナミのその反応は予想外だった。普通なら、顔を見て窺える感情が完全に未知のものだったからだ。
約束をすっぽかされて怒っているのかなと思いきや、それはどちらかというと放心状態に近いような。
『…………』
「あー実はだな、本当はやむにやまれぬ事情があるんだ」
『え? あ、はい』
どうする? ミナミの考えが読めない。
一瞬、ここでゲロってしまおうかとも思ったけど、声を聞いて冷静になった。さすがにそれはない。危ない危ない。
なら、なんとか納得させるだけの理由を捻り出す必要があるわけだけども……ミナミが何を理由にこの反応をしているのか分からないから難しい。
感情が未知なら、その原因も未知。原因自体はドタキャンに違いなくとも、そのどの部分が引っかかったのか。
「すまない、実は……」
『じ、実は?』
「……面倒になったんだ」
『ニャーーーーーーーーーーーーッ!!!!』
ちょうどいい理由がなんも思いつかなかったので、思わず口にした言葉でミナミが猫になった。
というか、コレにしても別に間違いではないんだよな。もう一つの理由のほうが更に面倒だったので忘れていたが、普通に面倒だし。
引き籠もりってやつは、可能な限り外には出たくないものなのだ。俺の場合、その理由の大部分は労力である。もちろん、普通の引き籠もりの場合は外が怖いとか人が怖いとか、そういう深刻な悩みがあっての事というのは知っているから安心して欲しい。そもそも、俺に外を怖がる理由ないし。
「いろいろ計画を立ててる内は良かったんだけど、いざ外に出るとなると日光が怖くてさ」
『いや、そんな繊細な引き籠もりじゃないでしょ、マスカレイドさん』
なんで急に冷静になんねん。勢いで押し切れないだろ。こっちはカバーストーリーとして棺桶買ったっていいくらいなんだぞ。
「……だって、海と違って健康ランドって基本的に男女別だし」
ミナミのエロボディを鑑賞するにしても、肝心な場面で男女別では堪能できない。かといって、湯上がりの浴衣姿に期待するのはちょっとパンチが弱い。
往年の少年漫画の如く覗きでもすれば別だろうし、マスカレイドの身体能力、あるいはかみさまに頼んでそういう機能を設置する事も可能だろうが、たかが覗きにそこまでする必要性は感じない。
それならもっと別の展開を迎えるべく尽力するのが俺なのだ。
『そ、それはまあ、そうかもですけど……』
「一人で行動するのって寂しいし」
『それは嘘ですね』
「なんでやねん」
確かに嘘だけど、なんで即否定なんだよ。もうちょっと迷えよ。
「とにかく、今回に関しては行く気はない。何故なら、すでに行かないモードに突入してしまったからだっ!」
『ぐぬぬぬぬ……この反応はもう梃子でも動かないという流れ』
良く分かってんじゃねーか。伊達に何年も顔付き合わせてないな。
「だからってわけじゃないが、メイドも一人……いや、二人連れて行ってやれ。強制休暇だ」
よし、ここのタイミングで、近いようで話を逸らす話題をシューッ!
『確かにどこかで休ませないと自発的に休む気配ないですね。マスカレイドさんが待機してるなら一人いればいいっていうのも……うーむ』
「ただ言うだけだと確実に渋るから、片方は世話役のメイドとして同行って言えば大丈夫だろ」
『なんでそう、他人の行動に対しては正確に洞察して誘導できるんですかね』
失敬な。自己管理もしっかりしてるっちゅうねん。
『あ、でも、そう、クリスさんはどうするんですか。ドタキャンなんてしたら自分が原因かもーって気に病むじゃ?』
「気を使わせちゃったって? マスカレイドの正体を知らないならともかく、俺だって知ってるんだから、『つい面倒になっちゃんだ♪』って言えば納得するんじゃね?」
『この銀タイツはもう……』
タイツは関係ないやろ。なんなら、この一言だけ音声用意してもいいぞ。
『あーもう、分かりましたよ。マスカレイドさんがそういう人だって事は! 私が悪いんですよっ!』
「お前がって、どういう意味だ?」
『こんちくしょーっ!!』
ミナミが自己完結してくれたっぽいのは助かるが、何言ってるのかさっぱり分からん。
そんなわけで、俺が計画した健康ランドツアーは俺自身の欠席という形で開催される事になった。
これで結構な時間を稼げるな。……こんな一日単位の時間で一括より、数十分で定期的に複数回のほうが助かるのだが仕方ない。それを検討する場でもあるしな。
-2-
「ちょっと月行って作業してくる。なんもないと思うが、何かあったら緊急回線で連絡くれ」
『はーい。おかえりはいつ頃に?』
「いつも通りマックスで二時間だな。もっと早いかも」
『分かりましたー』
ミナミたちが健康ランドに行った日の真夜中。さすがに寝ただろうという時間を見計らい、定期作業という名目で月へと向かう。
こういった時のアリバイ作りのため、毎日どこかで一、二時間作業をスケジュールしているので不自然さはないはずだ。今日に限って深夜なのも、面倒になったからギリギリになって始めたんだろうなと思われるだろうタイミングである。もちろん狙っている。
当然の如く、内線向こうのインは欠片も怪しんでいない……というか、なんかいつもより気合入っているような。
「……お前、なんでフル武装なん?」
内線画面に映るインは単なるメイド姿ではなく、あきらかに武装していた。まるで、怪人反応のある密入国者が見つかった時や、テロリスト対策支援に向かう直前のような出で立ちである。
『え? 今日はプラタもアルジェントもいないので、いつでも出られるように』
それはそうなんだが、あいかわらずオンオフの切り替えができない連中である。
一人で留守番している以上、寝られないのは仕方ないにしても、普通の夜勤ならもう少しリラックスするものだ。それができるスペックだからというのもあるのだろうが……。
「お前に限った話じゃないが、力の抜き方は覚えたほうがいいな。効率にも直結しそう」
『は、はい。実はちょっと自覚もあったり……でも、今日の健康ランドはそういう目的なのでは?』
「賭けてもいいが、休暇なはずのプラタは絶対休めてないぞ。どこかで仕事モードに入るか、疲れて帰ってくるはずだ」
『はー、そう言われるとそんな気もしますねー。というか、レポートもそんな感じですし』
なんなら、メイド役として同行しているアルジェントのほうが気力回復して戻ってる光景しか思い浮かばない。
「お前の目から見てちゃんと休めてないと判断したら、罰ゲームの刑でもいいぞ」
『え、私判断でいいんですかっ!? じゃあ、クソ鮫映画拘束鑑賞コースとか』
「構わんが、それは以降のお前の基準にもなるから、気をつけろよ」
『うぐ……りょ、了解です。プラタ判断で延々と爆発オチのアクション映画鑑賞とかやだなぁ……』
なんでや、鮫映画もたいして変わらんやろ。
『でも、上手く休めずに疲れて帰ってきたところに追い打ちかー。なんだか……』
「気が咎めるなら、執行しなきゃいい」
『興奮します』
「…………」
まあ、こいつらのスペックなら披露困憊でも十分に機能するから、別に問題はない。日常業務どころか、緊急時の呼び出しでも余裕だろう。
なんなら、そういう状態でも対応できるように専用の訓練メニューを組んだほうがいいかもな。
珍しく、ちゃんとメイドと会話したなーと思いつつ、予定通りそのまま月へ。少し疲れる相手を前に、インとの気の抜けた会話はいい準備運動になったかもしれない。
[ 月面 ]
「お前、どうやって出てくる判断してんの?」
「お知りになりたいですか?」
月面の転送装置前では、すでにかぐやが待ち構えていた。まるで、今日がミナミの干渉する余地がないタイミングだと分かっているように。
今回に限った話じゃないんだが、特に事前連絡したわけでもなく狙って現れるのだ。
「いや、いい。どうせお前の点数稼ぎになるんだろう?」
「そもそも採点はあなたの裁量では?」
「俺の性格から、それを無視できないって分かってやってるんだろ?」
「それはもちろんその通り」
あたりまえだが、かぐやの言う点数稼ぎは明確な基準を持つものじゃなく、あくまで俺の価値観を根底においたもので、簡単に言ってしまえばご機嫌取りに過ぎない。そして、こいつは俺の性格をある程度把握した上でこういったやり取りをしている。
「早速だが、今後の事を考えて定期連絡とる方法を検討したい」
「それは南美波にバレない方法という事でよろしいですか?」
「ああ」
かぐやとしてはバレても問題ないと考えている節がある。
できればそのほうがいいのは確かだろうが、より深刻なのはこちら……マスカレイドだと分かっていて、俺がそう考えている事も分かっている。
今現在把握している範囲での事ではあるが、実際、彼女にとってはミナミにバレて不都合はあっても、致命的とまで言えないだろう。
「こうして確実にバレないタイミングを狙ってくるあたり、何か案はあるんじゃないのか?」
「どうでしょう? 彼女が人類トップレベルのウィザードという程度ならどうにでもなりますが、どうもその範疇を収まるとは思えません」
「だよなあ……」
「しかも、オペレーターとしての権限、各種ロイドのサポートまで含めるとなると、その評価にかなり上方修正が必要となります」
「…………」
どうやら、ミナミがかみさまから代理権限を受け取っている事までは把握していないっぽいな。
であるなら、コレはバレちゃいけない。絶対に気取られないように、反応を制御しろ。伝えるにしても、それは寝返り後だ。
「結局のところ、バレない状況を作り出してここに来てもらうのが一番という事になりますね」
「お前側の都合は?」
「いつでもどうぞ」
「幹部として何も活動していないって事か? 何かしらの仕事はあるもんだと思っていたが……」
「もちろんありますし、実は今も作業中ではあるんですが……」
「AIらしく、脳内でマルチタスク処理しているって事か?」
「違うチャンネルの私を複数動かしているので」
「…………」
やべえな。こいつはこいつで規格外もいいところだ。元の時点で人間に測れるような存在でなかったところにブーストされているとなれば、それくらいやれてもおかしくないって事なのか。
「俺の想定していた怪人幹部の能力とはずいぶん乖離してるな」
「Bの事を基準にしているなら、それで正解ですよ。でも、私は優秀なので」
「お前だけが幹部の中でも規格外だと?」
「うーん、BとCに関しては想像している通りでいいかと。未知の部分も多いAに関しても戦闘力に寄っているのでおそらく。ですが、未着任のE以降は分かりませんね」
「そりゃまあそうだろうな」
極々当たり前の事を言っているだけにも聞こえるが、現時点で決まっていないという事は……。
「完全に未知って事は、お前が消えたら穴埋め前提で強化されるかもな」
「ご明察。私の代わりが着任するというだけではなく、裏切りがあった事、私がそちらにいる事、重要情報が漏れていたりなんらかの内部工作があった事を前提として代役のD、E、いるとすればそれ以降の幹部が選出されるでしょう」
「そのトリガーで強化されるとすれば、既存の幹部についても同じなんじゃないのか?」
「いくら強化されようと、元が変わらないなら予想はつきますよ」
いくら怪人幹部Bが強化されようが、ミナミが二流扱いする奴の強化版でしかないって事ね。
「なので、私の代役は仕方ないにしても、Eが選出されるまで寝返りのタイミングを決めないという手もあるにはあります」
「いつになるか分からないが、お前的にはそれでいいのか?」
「できれば早いほうがいいですけど、理由が納得できるものであれば仕方ないですよね」
それはそうなんだが、こいつは交渉の範囲内でも容易に妥協を見せてくるからやり難い。
「まあ、お前の寝返りタイミングについては考えがある」
「おや、意外にちゃんと考えていらっしゃる?」
「考えてるぞ」
なんせ、最悪こいつの寝返りが表に出るまでミナミを誤魔化さないといけない可能性もあるからな。こっちも必死だ。
「ちなみに、お前が寝返った事で空いた席に座る代役がミナミになる可能性はないよな?」
「それはないですね。幹部になる際には同意が必要ですし、そもそもヒーローのオペレーターとして就任実績がある時点で候補からは除外されます」
「ならいい」
「とはいえ、似たような能力を持つ者が据えられる可能性は高いですけど……」
「お前の認識している範疇でミナミみたいなのはいんの?」
「それがいないんですよねー。私と同格って条件でも無理があるような気はしますし」
「完全に新造なら?」
「それは否定できませんが……むしろその場合、なんらかの制限に引っ掛かると思われます。私や南美波のように元が存在していたというならともかく」
「怪人みたいなものって事か」
「それよりは緩いでしょうか、おそらく」
かぐやも確信はないようだが、その理屈は分からないでもない。それが通るなら、マスカレイドのカウンターとなる存在が出てきていないのは不自然だからだ。自由自在に能力を盛って新規の存在を創造できるなら、盤面を掻き乱しまくっている奴を黙認して放置なんてしないだろう。
完全に不可能ってわけじゃなく、運営がヒーローと怪人、そして自身に定めたルール上での話ではあるが。
「とりあえずは分かった。会うタイミングについてもこちらでなんとか捻出するから合わせてくれ。……それで、何か共有すべき情報はあるか? して欲しい情報でも」
「それでしたら一件。次のイベントに関する話ですが……」
「聞かせてくれ」
少し面倒だが、俺が明確に聞くと言わないとかぐやは口にしない。
「実は今作業しているものもそうなんですが、第三次イベント開始した際のシミュレーションと情報の推移を求められています」
「お前がやってんの? ……いや、能力的には適材適所なんだろうが」
「ええ、本来であれば自分の手駒の範疇で済ませる内容です。ですが、より高度なシミュレーションと情報を求めているようでして……」
「……続けてくれ」
「明確にはしていませんが、どうやら現時点を開催時期とした場合の情報を強く求めている節があります」
「そりゃ、処理している奴なら気付くだろうが、はっきりとは言わないのか。すでに寝返りの意思がバレてるって事は?」
「それはないと断言できます。意図を伝えない事に関しては……私たちって横の繋がりは弱いというか、正直仲は悪いので」
仲良しこよしってよりは悪の幹部っぽくはあるが……確かに協調性はなそさう。
「しかし、まさかイベント開始を前倒しさせるつもりか? それができそうなルールの穴は?」
「私が知る限りはありません。例のアポカリプス・カウンターの変動が止まるまでなら、方法はあったかもしれませんが……」
例のって……こいつらもアポカリプス・カウンターって呼んでんのか。
「不気味だな。もちろん、念のためにって線はあるが……」
「イベント担当が担当外の手を借りる場合、見返りが必要になります」
「なら、何もないって事はないな」
「はい。前倒しで何かするつもりというのは確実でしょう。成果が見込めるなら実行に移す可能性も高い」
怪人幹部Cは相当に焦っているな。
理由は色々考えられるが……ありそうなのはだいたいマスカレイドの影響だろうな。内部のミスで遅れを取り戻そうとしているとかではないはずだ。
「ちなみに次回イベントで投入可能な新システムに関しても、概略なら開示可能です」
「マジかよ……見せてくれ」
「はい、どうぞ。ここで見るのみでお願いします。記憶して転記もなしです」
そうして表示された宙空ウインドウに映る情報は、概略というだけあってたいした文量ではない。しかし……。
「……正気か?」
「このすべてが投入される可能性は低いでしょうが、優先度が高いモノに関してはほぼほぼ」
「それにしたって、おい……」
冗談じゃない。第二次イベント、そしてバージョン2までの影響を見ている、存在からして常識外なマスカレイドさんでも絶句する内容だぞ。
というか、プレテスト扱いとはいえバージョン3だと……。どう足掻いても、地球はメチャクチャになる。マスカレイドが全力で阻止に回ってもだ。
「前倒しに何かするとしても、これらが投入される事はありません」
「そりゃ好材料だがな」
何してくるか予想しようとしたが、こんなモノを見せられては頭が回らない。
「あの、あなたなら問題ないと思って開示しましたが、極力知らないって前提で行動をお願いしますよ」
「……そうだな。最低限でも、お前とのラインを悟られるような行動は慎む」
俺が対策するとしても、怪人や運営、できればヒーロー陣営や人類社会にも悟られないように。
「それで、どうします?」
「……どうとは?」
「私が依頼されている情報処理に何かの仕込みをしますか? 隠蔽に改竄などの直接的なものから、計算ミスとはとられないようなさりげないものまで、それなりに結果は保証できますけど」
「…………」
いきなり提案されて戸惑ったが、確かにそういう事もできるな。クソえげつない手だが、汚い手というのは忌避する理由にならない。ここで判断材料とするのは……。
「基本的にはナシだ。お前が寝返るまでまったく影響が出なそうな部分なら工作してもいいけどな」
「寝返りのタイミングが決まってない状態ではなんとも……」
「今のところ、第四次イベントの告知に合わせてが最有力だ」
「決めていたんですか? いえ、もちろん構いませんが、それだと我々の名付けや幹部Eが着任していない可能性もありますが」
「その時点で残っている懸念がその二つなら強行する」
「おお、思ったよりちゃんと考えて頂けたようで感激しています」
なんか普通に嬉しそうな反応はやめろ。
「しかし、何故そのタイミングを? 確かに混乱は狙えるでしょうけど」
「お前の目的に最適と判断した」
「私の目的?」
忘れているわけじゃないだろうが、それを理由にするのは意外という顔だった。いつもの何か企んでいる表情ではなく、困惑が隠せていない。
「ああ、日本を自分のモノにしたいんだろ?」
「それはそうですが、未だ何も算段が立っていないどころか、何を目標とすべきかすら曖昧ですし。どうやってそこに繋げるつもりかさっぱり……」
「大丈夫だ、なんて言うつもりはないが、多分条件は満たせる。少なくとも、そこに続く道は用意できるはずだ」
ついでに言うと、おそらく日本でしか通用しない手である。
「……は?」
そして、こいつがこんな反応するくらいぶっ飛んだ手でもある。
-3-
結局、何をどう前倒しするつもりなのか、幹部Cの目論見は予想できないまま日々が過ぎていく。
今さらな話ではあるが、第三次大規模イベントの開始日はアポカリプス・カウンターの示す通りと確認がとれた。つまり、来年頭という事になるわけだが、悠長に待ち構えている余裕などはない。
あの日見せられた内容からすればあと二ヶ月なんて短いなんてもんじゃなく、その上で前倒しで起きる何かにも備えないといけない。
問題は、俺が直接動いてどうにかなりそうな準備が少ないという事だ。裏方かつ、俺が知らないはずの情報を元に行動しているという事実を極力避けてとなれば、とれる手は限られる。
『うーん、どうにかして不正アクセスしようと試みるお馬鹿さんが減らない』
「やっぱり、多いのか?」
『多いですね。式典直前だからっていうのが大きいんでしょうけど、下手に完全シャットアウトしているからか、重要情報があるように感じるんですかね』
「そこまで重要な情報はないんだけどな」
四国南に設置されるメガフロート。その完成式典に合わせ、裏では物理・電子問わず数多くのテロが計画されているらしい。
正直、拠点としては血眼になるほど重要ではないのだが、日本が少しでも力を持つ、あるいは持っているように誇示できる材料が気に入らない勢力は多いようだ。
加えて、純粋なテロ目的以外でも探る理由はある。ヒーローとして見るならたいした事のない情報や技術でも、世の大多数から見れば喉から手が出るほど欲しいモノが転がっているのは確かだ。直接ではなくともマスカレイドが関わっている以上は、そこに特別な何かがあると手を伸ばしているヒーローさえいるかもしれない。
とはいえ、警備体制は相当に盤石だ。というのも、日本がとれるほぼ最高峰の人材と各種ロイドが配置され、持ち出し厳禁なヒーローアイテムを惜しげもなく投入されている。ついでに、天下無敵のマスカレイドさんがうしろに控えているときた。
電子的な防衛に関してはもっと無理筋だろう。ミナミが直接率いるロイドチームが鉄壁の防御を構築している。しかも、一時的に例のシミュレーション専用のアンドロイドまで投入するという気合の入りようだ。
『攻性防壁だけじゃなく、手を出してきた相手に逆侵攻していいなら、もっと大人しくなると思うんですけどねー』
「いよいよとなったら仕方ない面もあるが、お前加減が効かないからな」
ミナミに任せると、いろいろと巻き込んで崩壊しかねない。
突破されたわけでもなく、ログに残っているなら、逆襲する相手を吟味してからやるべきだろう。
『ピンポイントに警告を出しているのに、なんでこりないのか。リアルの身バレなんて、ハッカーとしては終わったようなものなのに』
「ヤケになってんじゃね?」
『つまりそういう小物か捨て駒しかいないって事ですね。うーむ』
なんでそういう事になるのか分からなかったが、できる奴はそもそも手を出さないか、最低でも手を引くものだそうだ。
「物理的な侵入者のほうは?」
『島内に未登録の生命反応はありません。一部入島していない者はチラホラいますが、緊急の問題での式典欠席者です。未登録の物品反応や超常パワー由来の反応もありません。もちろん、ヒーローや怪人もいません』
「そりゃそうだ」
あらゆる警戒を抜いて怪人が出現するのは可能だが、その場合は俺が出撃するだけだ。
同じようにヒーローの侵入に関しても警戒しているが、さすがに乗り込んでくるバカはいないらしい。代わりに大量のお祝いメッセージが届いていて面倒くさい。
「そういえば、妹ミナミはもう島に来てるのか?」
『昨日に到着してますよ。現地ホテルで一泊してます』
式典の日程に合わせるように妹ミナミを始めとする一般参加者も入島している。
当日着の参加者、特に外国の要人は多く、相当に人数を絞っているはずなのに現地はてんやわんやらしい。
「今更かもしれないが、妹の大学進学に関してはどう思ってるんだ?」
『年度内に創立できなかったら留年ですね』
「いや、そうではなく」
仮にそうなろうが、本人はおろか家族もお前も気にしなそうだ。
『……ちょっと前までなら遠ざけたいって気持ちもありましたけど、今となってはどこいても危険ですからねー。なら、むしろ一番安全でしょ』
「一応、避難所って選択肢もあるが」
『本当は家族まとめて放り込みたいんですけどねー。なかなかそうもいかないもんで』
多少でも社会にしがらみを持つ人間は安易に選択できないのが避難所行きだ。もちろん身内枠で特別扱いもできなくはないが、それはそれで歪みが出る。下手な手を打って探られて関係性を疑われたら、芋蔓式で俺まで繋がるラインが発生しないとも言えない。そろそろ、家族や関係者含めて身バレした場合の身の振り方を考える時が来ているのかもしれない。
実のところ、怪人被害に対して、ウチやミナミの家族は一般大衆と同等の危険性、あるいはそれより多少安全だというのは分かっている。これは、これまで体験知で感じていた事ではあるが、かぐやを通して確認した今、そこら辺のルールも把握済だ。はっきりと分かった事は大きい。
怪人たちはヒーローやオペレーターの正体について知らないし、認識する事すらできない。探る事さえタブーであり、そもそもそんな事を考えないようにできているらしい。加えて、そのタブーは家族にまで及ぶ。確定情報ではないが、偶然知ってしまった場合でも忘れる事になりそうだ。
つまり、ヒーローの日常やその家族に対して、ピンポイントで襲撃や被害を及ぼすような事はできず、むしろ緩く範囲外にするようにさえ調整されている。
状況が進むほどこの縛りは緩いものになっていくようだが、少なくとも今の段階で直接的な危害や詮索はないという話だ。
例外としては、極端に大きな範囲にそれが含まれる場合。たとえば爆弾怪人の落下ポイントは別としても、その余波で被害が出るような範囲なら意識的な攻撃指定は可能という事である。
加えて、この縛りは怪人のみに有効なものであり、ヒーローや人間には適用されない。どこかの記者が調査しても一切の縛りはないし、怪人が洗脳した人間に探らせるなんて事が可能かもしれない。
おそらくだが、メガフロートにしても島全域を対象にした広範囲攻撃や出撃は問題なく実行可能だろう。
ちなみに、かぐやは特異な出自と能力故のこのタブーを突破しているものの、他の怪人幹部にしても同様らしい。自分を外れ値と呼んでいたのが自我自賛ではないという事を突き付けられた感じだ。
[ メガフロート・完成式典会場 ]
完成式典が始まる。出席者の格としては相当なものだが、人数が絞られているのもあって式の規模自体はこじんまりとしたものになっている。
特に、記者の数が少ないのが雰囲気に直結しているような気がする。普通ならマスコミのヘリとかが飛び、無闇矢鱈にフラッシュが焚かれるような場面だろう。
俺はそんな式の関係者席で、片隅に陣取っていた。引き籠もりでもさすがに出席するのかとミナミに言われたりもしたが、さすがに今日に関しては部屋で待機はできない。俺の予想では、可能な限りの厳戒体制でもまだ足りないと判断しているのだから。
なお、銀タイツではなく背広を着用。蝶マスクもなしの素顔を晒しての姿はあまりに珍しいのか、見て固まっている人も多かった。
会場を担当しているプラタもシレっとしているし、自衛隊代表席の銀河と銀華も反応したのは一瞬だ。クリスと明日香は半ば呆れたような顔だが動揺はない。当然だが、リクジくんたちアンドロイドは完全に無反応だ。
唯一、式場の片隅にいた妹ミナミが死んだ目を俺を見ているのも分かったが、分かっている奴だし、そこまで不自然な反応ではない。
「え、えー、今日という日を迎えられた事を……」
何かの大臣だったはずのおっさんがスピーチを始める。さっきから本当に始めていいのって感じだったが、それでいいのだ。
出席について事前説明などしなかったが、マスカレイドが傍若無人なのは共通の認識だろうし、実際本体ですらないのだから。……そう、出席しているのはあくまで分身の一体であり、本体を含めたそれ以外は明細状態で島の上空に散らばっている。ここにいるのは最悪を想定した要人警護の意味合いが強いのだ。
茶化してはいたが、ミナミも俺の発する雰囲気には気付いているだろう。いつも以上に即応体制が整っているはずだ。
何故、今日のこの日を警戒しているのか。
実のところ、タイミングとしてはピンポイントで警戒するほどの日ではない。あえて言うなら、本来アポカリプス・カウンターが指していた予定日に近い事か。
ただ、それすらもピッタリではないはずだし、一つで根拠とするには弱い。しかし、かぐやから聞いた各種情報。俺やミナミの推測と勘。それに合わせると、何かが起きるなら今日しかないと感じていた。
別に何もなくとも問題はないが、直接現場の空気を感じている身としては、むしろそんなはずはないと思えてしまう。それが今日という日なのだ。
式典の挨拶が進み、会場ではそこらからあの銀タイツはいつスピーチするんだ的な声が聞こえるが、もちろんそんな予定はない。面倒だし。
当然の如く、割と近くにいる総理大臣に請われても無視するだろう。というか、これまで一言も声を出していないから置物の可能性を疑われる可能性すらある。身動ぎ一つするだけで周囲が過敏に反応するから、気を使ってるんだぞ。
そして、式典に伴うイベントが概ね終了するという段になり、あとは式典外で行われる見学会などのイベントに移行しようとしていた時だった。
まるで、開会式終了のタイミングを見計らうようにその時は訪れた。
『唾棄すべき人類、そして我らが宿敵ヒーローの諸君。いかがお過ごしかな』
予想通り、そして唐突に、宙空に巨大なモニターが出現し、騎士甲冑を身につけた推定怪人幹部Cが映し出される。
一応、島中のモニターというモニターは対策を施していたのだが、空中に直接投影されては防げない。実際、手を出せていない参加者の個人端末では同じものが放送されているようだ。
不思議な事に、式典会場ではそこまでの騒ぎになっていない。まったくではないが、特に俺の席に近いところは静寂を保っている。
異様なまでに俺に対する視線が集まっているのは予想通りだが、それはまあ予想通り。俺見てないで上見ろよ。
『安心したまえ。諸君らがアポカリプス・カウンターと呼ぶモノが刻む通り、私が本来宣告すべきイベントは年明けに予定されている』
少々周囲がざわつくが、そんな事は分かっている。
『当然の如く、これはイベント開始の合図ではない。ただのレクリエーションのようなものと考えて頂きたい』
用件をさっさと言え。
『ただ今をもって、我々怪人勢力連合は第三次グランドイベント前哨戦に移行する』
……それは、ルール違反じゃないのか?
現在、引き籠もりヒーローのコミカライズについてのクラウドファンディング実施中!
ちょうとあと一ヶ月なので、ご興味がある方は覗いてみるだけでもどうぞ。
リンクは活動報告やX、準備サイトなどを参照。
ぶっちゃけ苦戦モードなので、テコ入れしないと。(*■∀■*)