第二十二話「占拠怪人サテライト・ジャッカー」
遅れました。(*■∀■*)
『現在、日本担当のヒーローマスカレイドのオペレーターとして就任している南美波その人です』
かぐやの放ったその一言は、高レベルの警戒状態にあった俺の脳を一瞬でバグらせるのに十分過ぎるインパクトを伴っていた。
普通なら鵜呑みにしていい相手の言葉ではなく、幾重にも疑い、その意味はもちろん裏まで読みとった上で、真偽のどちらでも対応できるように検討を始めるところだが、妙に納得してしまう。それは俺がさんざん懸念していた可能性かつ、あまりに身近で、ぶっちゃけありそうな内容だったから。
いや、いくら裏切り表明しているとはいえ、敵幹部の言う事を鵜呑みにするんじゃねーよ。もう少し疑ってかかれよ。というか、ノータイムで同意に近い返事してんじゃねーよと、良く知らない人や、なんならミナミ本人でさえツッコミを入れそうな反応だが、俺は悪くないと思う。
……だって、超納得できて、何か少し違えば十分にありそうだったんだもの。
-1-
『やっと終わりましたー……って、あんまり作業進んでませんね?』
そんな元怪人幹部Dの第一候補だったらしい奴が戻ってきた。すでにかぐやは撤退済である。おそらく転送ではない方法で消えたのには、今のところ突っ込む気はない。……まあ、多分本体じゃないとかそういう事だろう。
「ああ、なんとなく月面で携帯ゲームしてた」
『なんでやねん』
そんなはずもないのだが、空白の時間に対する適当な理由が思いつかなかったのだ。それでいて違和感を持たれないようなものを数分で捏造した。
かみさまから移譲された権限により、ミナミが気になって調査したらたいていの事は本当かどうか確認できてしまう。だから、容易にその真偽が確認できないモノで、如何にも俺がやりそうで、動作実績やセーブデータの確認が不可能に近い、したところで比較が困難な携帯ゲーム機は最適解に近かったのだ。あと、ミナミは興味なさそうって条件も含む。何度目かの転送の際に、月面でゲームするのも乙かもと持ち込んだ自分を褒めてやりたい。
「月面で無限に等しい宇宙空間を背景にプレイすると、いい感じに脳がバグるで」
実際、ちょっとやってみたら新鮮だったので、感想だけはわりと本音だ。プレイしているのはクソゲーという事実もまた脳をバグらせる。
『それはそうかもですけど、なんでそんなモノ持ち込んでるんですか』
「キャンプ場でスマホ弄り始める現代人の心境に近いな。もちろん、キャンプの経験はないが」
特に望んでもいないのに家族サービスという名で連れて来られた子供が取りがちな行動第一位である。
『別に作業が進捗してなくても問題はないですけどね。ノルマがあるわけでもないし、重機でやるより遥かに早いですし』
「そもそもここに重機持ち込めんだろ」
というわけで、なんとなくカバーとして用意した、ミナミには分からないゲーム談義をしてお茶を濁す。
元々、孤高の引き籠もりをやっていた俺は、ひたすら同じゲームのやり込みプレイしていた時期があったのだ。おかげで一部のマイナータイトルに関してはRTA世界記録を狙えるレベルで極まっているのである。メジャータイトルは異次元なので普通に無理。
もちろん、そんなコア極まる話にミナミがついてこれるはずもなく、上手い感じに興味を逸らす事ができた。
「それで、会議のほうは?」
『内容的には特筆するような事はないかと。既定路線の枠からは外れず、広報機関に合わせて……多分、多少先行する形で政府の見解を発表する事になりそうです』
「別に問題はないな。内容についても口を出すつもりはないし。月領有に関しての直接的な意見は?」
直接関係ないところからのご意見は無視以前に聞く気もないが、日本政府からの話なら最低限聞きはするし、納得のできる内容なら考慮もする。
その点については事前に通達済の話で、強烈過ぎるアドバンテージをどう扱うか十分に検討した上で取り扱ってくれと暗に示してもいる。
『メインの議題でしたが、報告すべき事項は特にないです。対外的にはともかく、別にいいんじゃないのーって空気でしたね』
ミナミが言うと、どうしても軽い感じに聞こえるな。会議の雰囲気が分からないのはわりとデメリットかもしれない。
「ミナミがオブザーバーとして参加しているから言い難いってわけじゃなく?」
『本音だと思いますけどね。あの場にいるような人なら、さすがに理解しているって事なんでしょう』
それもそうか。それすら分からない奴なら、官公庁の死神となりつつある近藤さんに首を切られているだろう。実際は単純に首を切るだけじゃなく、相手と事例に合わせて緩急と清濁織り交ぜた対処ができているからもっとタチが悪いんだが、味方なら頼もしい事だ。
世間での政府に対する評価は一昔前から大して変わってはいないのだが、中にはそういう肝の据わった人間はいるという事なのだろう。
『ただ一点、どうしてもマスカレイドさんに確認しておいたほうがいい話題がありまして……例の軌道ステーションはどうするのかと』
「どうするって……ああ、そういう事か」
『回答によっては、再度打ち合わせに逆戻りです』
別に、例の軌道ステーションの存在を忘れていたわけではない。ここを占拠する際にも名前が出たように、常に認識はしていた。日本政府としてもそれは似たような認識だろう。なら、なんで今更って話になるわけだが。
「俺がここを占拠した事を口火にして、世界の未確定エリアに手が伸びかねないってわけか」
『はい。その中で最も無視できない重要な場所があそこと』
公海や空中に関しては、これまでの支配エリア争奪戦の延長線上の話でしかないから俺のスタンスも変わらないが、例のステーションだけは少し毛色が異なる。月同様……いや、地球に近い分、怪人に占拠されたら危険な、より身近な脅威としてそこにある。
アトランティスの直上という位置を含めて、移動すら困難な場所の争奪戦が始まるかもしれないわけか。人間は口出しできても手出しはできない。だけど、ヒーローと怪人はその気になれば他の拠点同様に手が出せてしまう。
「ぶっちゃけ、怪人以外ならどこが占拠しても構わないんだがな」
現実的なラインとしては東海岸同盟。なんなら無理やりアメリカを巻き込んで共同統治してもらっても構わないんだが……。移譲が許可されているなら、秘密裏に渡したっていいくらいなのに。
『自動迎撃システムもありますし、ヒーローでもさすがに厳しいでしょうね。バベルが残っていたなら、移動手段もありましたけど』
「アトランティス直上なんだから、その場合は真っ先に怪人が占拠するだろうな」
具体的な移動方法がない以上、占拠は不可能に近い。いや、月と違い、ヒーローのみならず人間でも行く事自体は不可能でないものの、エリア占拠と維持は極めて困難になる。
かといって、こうして俺が未確定エリアだった月を占拠した事で自重……だったのかは知らんが、そんなものは投げ捨てて手を出してくるだろう。
これだけ離れている月でさえプレッシャーに感じる奴はいるのだ。自分たちの拠点直上に陣取られたら怖くて仕方ないはずだ。自重なんて容易に外れる。
「対応方法としては二択だな。間違っても怪人には取らせないのは前提として、俺が取るか、破壊するか」
『助力して、どこかに占拠してもらうのは?』
「単独でできないならナシだ。それなら破壊する」
『ですよねー』
地球上ほどではないが、俺が月の占拠に踏み切った最大の理由である面倒臭さが多少でもへばり付いてくる。あそこはそういう場所なのだ。
だから、そんな材料を残すくらいならきれいさっぱりなくしてしまうのがいい。別に欲しいわけでもないし。
「ミナミがステーションの設備を活用したいとか、システムにアクセスしたいとかの理由があるなら多少は考慮するが」
『あんまり興味は惹かれないんですよね。イベントの時に多少触りましたけど、大部分は神の領域ですし、手出しできません』
そりゃ、今の人類に造れないものを制御するんだから、既存のシステムで運用できるはずねーしな。
『それで、どうします?』
「ここみたいに暫定でも支配エリアとして確立するとしても今月末。それが方針策定のタイムリミットとして……」
『すぐに動く事はないと』
「……どうしようかな」
どう対処するにしても、それで間に合わないという事はないだろう。完全に怪人の手で占拠されていてあとはシステム的に支配が確定するだけという段階でも、理不尽の塊であるマスカレイドさんなら一日もあれば簡単に引っ繰り返せる。だから、別に早めに動かなきゃいけないとかそういう事はない。
この件について相談にするにしても、誰に、どういう方向でという問題がある。俺以外のどこかの勢力が確保・維持するのは少々非現実的で、どうせ共同での占拠を打診されるのがオチだろう。結局のところ事前連絡にしかならず、それなら事後報告による追認でも十分だ。
つまり、月を占拠した時のように、キャップへ仁義を切る必要すらないと思っている。
「よし、とりあえず偵察だけしよう。怪人の痕跡が見られるようなら確保、なくても最低限ヒーローオブジェクトを設置する」
『確保する場合はそのまま支配エリア化って事ですか?』
「一旦確保してから、破壊する事も検討する」
『あー、なるほど。あんまりに外野がうるさいなら壊してもいいんだぞと脅迫するわけですね』
「人聞きが悪い」
でもまあ、そういう事だ。月と違って、別になくたって構わないモノだし、対外的な対応が面倒なら壊してもいいだろう。
というか、俺としては別にいらないんだが、ただ破壊するとなるとそれはそれでうるさそうだし。
なんなら、条件を付けてどこかに渡してもいいだろう。支配率が残るのは仕方ないにしても、完全に投げられるなら投げてしまってもいい。最低限、マスカレイドに頼らない防衛・維持はできないと駄目だが、ひょっとしたらステーションの機能でカバーできるかもしれんし。
「じゃあ、さっそく行ってくるか」
というわけで、善は急げと例の軌道ステーションに向かう事にした。
もちろん、ただ勤勉というわけでもなく、別の目的もあっての事だ。
-2-
軌道ステーションの位置を確認した上で、ほぼ自動操縦で移動する。巨大で位置を間違えようもない月と比べてはるかに小さいステーションの場合、適当に移動しただけだと見失う可能性が高いからだ。間違えて別の人工衛星やデブリに突っ込んだり、軌道ステーションの迎撃機能を誘発してしまう可能性もある。ついでに言うと、担当エリア外でミナミとの連絡がとれなくなる関係から、事前確認は必須だった。
……そう、俺が考えていた別の目的とは、この通信不可となる空白時間である。ミナミと連絡が途絶するタイミングを狙って、かぐやが再コンタクトをとってくるかどうかの確認をしようと思ったのだ。
結果として、コンタクトはなかった。単に接触から間がなかったからって可能性もあるが、極々短時間の接触と情報交換しかできなかった以上必要ないって事はないはずだ。俺の動向が把握できていなかったとは思い難い。おそらく現在位置が問題で、月面か地表に近い位置でないと接触できないのだと思われる。
今後コンタクトとる場合も月面にいる時にタイミングを見計らってという話だったから、ミナミにバレるかどうかとは別に何かしらの制限があるのだろう。
もちろん、あえてコンタクトをとらなかったという可能性もあるし、正解でも今後ずっとそのままとも思えないから、決めつける気はないが。
「さて」
例の軌道ステーションを目視で捉えられる距離にまで接近。ある程度接近すると自動迎撃システムが作動する事は分かっているので一気に距離を詰めると、特に反応される事もなく外壁に隣接する事ができた。どの程度の質量や速度なら反応するかは未知数だが、少なくともミラージュの全力機動には反応できないらしい。まあ、別途テストしてもいいし、システム掌握できるならスペックも分かるだろう。
移動先はステーション真下。バベルの塔からの連絡用シャフトがあった場所だ。イベントの時に俺が壊したままなら侵入可能な穴が空いているはずである。
迎撃システムがある以上、もしここが塞がっていたりしたら怪人が手を出している可能性が高いわけだ。ヒーローの可能性もあるが。
「……うわ、微妙」
そんな考えの元確認しにいったら穴は塞がっていた……のだが、本当に最低限という感じで、緊急用の修復システムが作動しただけに見えなくもない。
破壊痕などはそのまま、非常隔壁と硬化剤のみで塞がっているような状態だ。
「それじゃ、失礼しますっと」
特に自重の必要性を感じないので、ミラージュで突進して《 マスカレイド・インプロージョン・メルトアウト 》で溶解させ、侵入。
侵入後にしばらく待っていると再度硬化剤が噴出されたので、自動で緊急対応しただけの可能性が高くなった。自動迎撃システムもそうだが、こういう保全管理システムも最低限生きていると。
「さて、怪人が手を出しているなら、もう探知されていると思うが……」
とりあえず侵入口付近に手が加わった様子は見られないが、その気があるなら最低限の監視システムと転送装置くらいは設置しておくはずだ。
でないと、今の俺のように侵入者が現れた時に対処ができない。監視のみなら、それなりに値段の張る転送装置は必須じゃないが、こんな重要拠点に手を出す気ならケチるような額ではないはずだ。俺の金銭感覚……というかポイント感覚が麻痺しかけている可能性はあるけど、間違っていないと思う。
全身の感覚に集中しても、わずかな駆動音らしきもの以外は聴こえない。宇宙服のままだからかもしれないが、少なくとも現在進行形で怪人がいるという事はなさそうだ。
というわけで、次にやる事は怪人が来た痕跡の確認。特に設置物についての調査だ。
ほぼ中心に近い位置に、自前で運んできたアンテナ型のヒーローオブジェクトを設置。これは支配エリア化とエリア内の探査・監視機能、転送機能まで備えたお高い代物である。反映までに時間はかかるが、これ一つでステーション全域をカバーできる優れモノだ。
ミナミとの通信が確立されるまでの間、周囲を歩き回ったりもしたが、別段おかしなところは見当たらない。以前クリスのいた場所に謎の台車のようなものが転がっていたが、これは多分シャフトから射出された緊縛怪人エビゾーリの物がそのまま残っているのだろう。片付けろよ。
「うーん? 怪人共もヒーローもまだ手を出してないのか?」
思ったよりも動きが鈍いのか? アトランティス・ネットワークで月制圧の連絡が出てから一週間以上経っているんだが。
考えなしの奴はいるだろうし、そういう連中が動くには十分だろうに。
『もしもーし、ミナミちゃんですよー。聞こえてますかー?』
「聞こえている。今のところ、確認できた範囲にはなんの痕跡もなかったが、そっちで確認できるか?」
『はいはーい』
ステーション自体の機能を使えるなら一発だろうが、幹部Bのシステムはここの領域にほとんど使われていないので、さっき設置したオブジェクトの機能で確認する必要がある。
『担当エリア内とか、強化に強化しまくった月に比べれば簡素な機能しかありませんけど、まあ大丈夫でしょう。専用でなくとも高いやつですし』
ミナミが言う違いは俺には良く分からないのだが、専門家にとっては違うのだろう。
『そこの機能がそのまま使えるなら、かなり違いそうですけど』
「この施設ってどうやったら動くんだろうな?」
『月での暫定支配みたいに、エリア支配処理がされる月末月初のタイミングとか? ここまで来たら運営に聞いてもいい気はしますが』
「確かに、隠す段階は越えてるしな」
後日、実際に質問を投げてみた結果、予想通り暫定支配確定した時点で開放されると判明した。
ついでに、こういった機能を持つエリアも同様の仕様だと、お漏らしに近い回答まで含まれていたのは意図的なものだろうか。
現在のところ、未確定エリアにそういう類の施設はここ以外存在しない。つまり、今後そういう施設が追加されると言っているようなもので、おそらくは次回イベントから争奪戦が始まる事になりそうだ。
アレなところも多く見られる運営だが、さすがにこれがミスとは思えない。なんらかの意図が含まれているだろう。
『んー、正体は分かりませんが、いくつかそれっぽいものは引っ掛かりました』
「分からないもんなのか?」
『怪人側のオブジェクトってカタログに載ってませんし』
「言われてみればそうだな」
という事は、実際にそれを確認しても用途が分からないなんて事もあるだろうが、とりあえずという事で検知先まで移動する。
「なんじゃこりゃ」
『なんでしょうね』
それは、一見しただけだと正体の判別が難しい形状をしていた。どれもこれも、単なる立方体や球体のような特徴のない形をしていたためだ。
確かにヒーローオブジェクトでもこういう商品はあって、なんなら迷彩機能や偽装機能まで備えたものまであるので、それと似たようなものなのだろう。
赤と黒とかそういう悪い感じの色彩が多いのは怪人オブジェクトの傾向なのかもしれない。
「つまり、全力ではないけど、適当に様子見用のオブジェクトを投げ込むくらいはしていると」
『他に強力なオブジェクトが設置されて相殺されない限り、安物でも支配化はできるからあわよくばって感じですかね?』
「なんてコスい連中なんだ」
大雑把に言って、影響力が1しかないようなオブジェクトでも、それ以外がなければ支配地として判定されるわけだ。俺がオブジェクトを設置した時点で無意味になったが、考えは理解できなくもない。
「という事は、他の未確定エリアでも似た事をやる奴は出てきそうだな。……どんな場所なら有効なんだ?」
『さあ……? 手の出し易い場所なら事後でも対策はできますけど、コスト的に誰かはやりそうですね』
「一応、あとで注意喚起はしておこうか」
対処すべき場所があるとすれば、未確定エリアかつここのように簡単には手の出し難い場所……人工衛星とか? でも、ずっと同じ場所に浮かんでるここと違って、周回するようなモノの扱いはどうなるんだとか、色々と疑問は湧くな。
となると、むしろ公海の海底とかのほうが厄介かもしれない。
『オブジェクトの画像をヒーローネット上の特定サイトで照合してみましたが、やっぱり最低限の検知機能付きエリア支配オブジェクトっぽいですね』
「むしろ、そんなサイトがあるのか」
『むしろ、マスカレイドさんが大暴れした余波で解析が加速したサイトなんですが』
「ああ、瓦礫化しないオブジェクトを回収する機会が増えたしな」
移動する先を竜巻の如く粉砕するマスカレイドさんだが、なにもすべて塵にするわけじゃない。廃墟となった跡にも残るオブジェクトは普通にあるし、巻き込まれても無事なモノだってあるだろう。このあたり、丁寧に相手の拠点を破壊する目的なヒーローチームのほうが回収できるものが少ないなんて事もありそうだ。
「という事は、俺がここに来た事はバレている……のか?」
『最低限のやつなんで、誰かが来た事くらいしか検知されてないかと。下手したら、別の怪人が来た時も同じ反応って可能性すら。類似しそうなヒーローオブジェクトだと一桁ポイントで買えるやつですし』
「ガチで最低限なんだな」
湯水のようにポイントを使っているウチと違い、世間は涙ぐましいやりくりでオブジェクト費用を捻出していたりするんだろうか。
『なので、いくつかある最低品質の転送オブジェクトから怪人が飛んでくるかもしれません』
「とりあえず、見つかったオブジェクトは一纏めにしておくか」
『破壊しないんですか?』
「アホがやって来たら情報が手に入るかもしれんだろ」
というわけで、見つかった小型の怪人オブジェクトを一纏めにして山にしておく。これだけあってヒーローオブジェクトがないあたり、難易度は別にしても統制は利いている事に少し安心した。
あとは、コレで反応があるかとどうかだが……。
「来ねーな」
『そろそろ、ウチのオブジェクトの設置処理が終わって稼働状態になりますね。そしたら、これの影響も無効化されます』
しかし、どれだけ待っても反応はない。カナリア扱いで戦闘員の一体でも放り込んで来ると思ったのだが無反応だ。
こちらの監視機能はステーションのほぼ全域をカバーしているので、離れた位置で何かしているという事もない。
さすがにコレは空振りかと、怪人オブジェクトを破壊するか研究用に持ち帰るか考えていたところに動きがあった。……転送エフェクトだ。
「くくくっ、確かに無人の領域を支配しにかかるとはヒーロー共も思うまい……考えたものだな。む、なんだこのゴミ山は」
……現れたのは戦闘員ではなく怪人。それは別にいいのだが、言動からしてここの状況を一切理解しないとしか思えない奴だった。
まさか、別枠なのか? いくつかの怪人グループがバラバラに行動しているならありそうだが。いや、それよりも……。
「……ボルテック・ジャッカー?」
「うおっ!? 先客だ……と? き、きききききき貴様はマス……」
現れた怪人の姿に既視感がある。そいつはどう見ても、かつて山中で俺が崖下に放り投げたバスジャック犯、占拠怪人ボルテック・ジャッカーにしか見えなかったのだ。同じコンセプト怪人なら姿形が似る事も多いらしいが、さすがにどこかに差異はあるはずなのに、こいつはそのままだ。
アクション映画よろしく、崖下に投げ飛ばしたあともかろうじて生きてましたっていう可能性はない。インプロージョンの炸裂後だったし、死亡時の爆発もシステムメッセージも見ているのだ。
「どういう事だ? お前死んだんじゃ……」
「ち、ちがっ!? そ、そう、俺は占拠怪人ぼ……サテライト・ジャッカー様よっ!!」
『表示されている名前はボルテック・ジャッカーなんですが……どういう事でしょう?』
「なんか、ボルテック・ジャッカーって表示されてるらしいぞ」
「ひいっ!?」
過剰な怯え具合からして、本人としか思えない。だって、これまでの展開を見る限り、マスカレイドの事を知っていても初対面ならこうはならないからだ。
『ちなみに、占拠怪人サテライト・ジャッカーという怪人は別にいて、人工衛星を占拠しようとした結果すでに討伐済です』
ミナミの調べによると、サテライト・ジャッカーでもやっぱり不自然らしい。おまけで表示された画像は、眼の前のこいつとはかなり差異のあるものだ。
「く、くそっ!? なんだ、この魂の底から湧き上がるような絶望的恐怖は! 貴様、どんな化け物だというのだっ!?」
「何言ってんだ、お前?」
「ええい、貴様のようなヒーローがいてたまるかっ!? さては貴様、運営の回し者だなっ!? ルール違反とかそういう忠告に来たんだろっ!? なっ? それなら大人しく帰るんで、もうちょっと待って下さいっ! 帰還権限もらってないんですっ!」
「……何言ってんだ、お前?」
いまいち要領を得ない発言。まるで、初対面の相手を前にビビっているみたいだが、こいつさっきマスカレイドって言いかけたよな?
「お前、さっきマスカレイドって言いかけただろうか。とぼけんな」
「マス……マス? マスカレイド……マスカレイドっ!? ひ、ひいいいいいいっ!? うっ……」
「……は?」
俺の名前を告げると、ボルテック・ジャッカーは唐突に更なる恐慌状態に陥り、崩れ落ちた。
『……あの、なんか心臓止まってるっぽいですけど。さすがに《 マスカレイド・自己紹介 》での撃破は予想外でした』
「んなアホな」
確かに恐れられている自覚はあるが、別段プレッシャーなんてかけてないんだぞ。こんな、クトゥルフの邪神を見たような死に方するような事はないはずだ。さっきまでの言動といい、色々気になる事が多過ぎる。
「心臓発作って言ったよな?」
『え、ええ、人間のそれと構造が一緒かは分かりませんけど、心音らしきものは検知しなくなっているみたいです。というか、この機能一応有効化していただけで詳細は把握していないというか……』
「なら、蘇生させてみるか」
『は?』
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
怪人に向けてではなく、宙に向けて放たれるわずかな衝撃。間に存在する距離と空間の減衰率を考慮し、適切な衝撃が心臓に届くよう調整する。
AEDと似たような要領で、爆発四散するまでに心肺機能を復活させるのだっ!!
尚、普通に心臓マッサージすればいいだろとか言ってはいけない。振動を直接伝えるほうが効果的かもしれないだろ。
「……はっ!? ここは一体!?」
『マジで蘇生した……』
「え、マジで?」
『なんでマスカレイドさんが驚いてるんですか』
だって、上手くいくと思ってなかったもの。AEDを使った経験も、心臓マッサージの経験もない上に、相手は怪人で構造が違うのだから、適切な威力なんて分かるはずもない。いや、怪人の構造に関しては、むしろ人間よりも丈夫だから許容できた可能性もあるな。
「いいかボルテック・ジャッカー、お前が心臓発作でこの世から逃げようとしても何度でも蘇生させてやるからな」
「ひぃぃーっ!?」
『言ってる事は絶望的な脅迫なんですが、聞きようによってはツンデレな医者キャラに聞こえない事もない』
そんなキャラ付けはしとらん。
「というか、俺はなんでこんなところに……マスカレイド・フォールでトドメを刺されて……」
「なんで俺が脳内で考えていた技名知ってんだよ」
『そんな技名だったんですか、アレ』
別にオリジナルじゃなく、赤い通り魔さんリスペクトだ。
「ち、違う、なんで死んだあとに怪人たちが嘲笑していた死亡経緯の詳細情報なんて……うごごごごこ」
「なんか、記憶混濁してるっぽいぞ、こいつ」
『展開的に、このまま脳が破裂しそうですね』
「と、というかマスカレイドっ!? 何故こんなところに! いや、そもそもここどこだ!? 死後の世界まで追いかけてきたのか!?」
「なんか、尋問のしがいが出てきたな」
「ひぃっ!!」
記憶の混濁は見られるが、何か俺の知らない事を知っているようだ。死亡した怪人がそのまま復活してきた事にはからくりがありそうだ。
「や、やめろ。躙り寄ってくるんじゃないっ!?」
「ただ近付いただけなのに」
「ひっ、ひいぃぃぃいっ!! めぎょぶげらっ!!」
『うわーーーーっ!?』
なんか、唐突に苦しみ始めたと思ったら、頭が内側から破裂した。普段スプラッタな光景を見慣れている俺やミナミでもなかなかにショッキングな絵面である。というか、いきなり過ぎてびっくりした。
『いつの間にインプロージョンを? まさか、心肺蘇生の時すでに……』
「俺じゃねーよ」
PCサポートのQAで良く見られるように、何もしていないのに壊れたのだ。だいたいの場合、何もしてねえのに壊れるわけねえだろという素人の浅はかな責任逃れの意識が透けて見える案件なのだが、コレに関しては本当に何もしていない。
状況だけ見ていれば心肺蘇生に使ったインプロージョンが遠因ではと思われるかもしれないが、直接的原因として見るには不可解だろう。
原因調査をしようにも、ちょっと触りたくないグロさだし、さすがに顎より上がないこの状態から蘇生できる気はしない。というか、呆然としている内に爆発した。
「ミナミなら、体が残ってたら解析できた?」
『いや無理です。怪人知識はまだしも、医学的知見とか欠片もないんで』
そうだろうな。まあ、起きてしまった事は仕方ないとして……結局なんだったんだって話になる。
「うーん、ひょっとしてあいつが例の再生怪人か? 死んだはずの怪人が出現した例はあったんだろ?」
『過去の事例とは違いますね。怪人随伴の戦闘員として出てきたわけじゃなく、怪人判定だったみたいですし。ヒーローネット上の情報も、元のボルテック・ジャッカーに追記されています』
「未知の現象って事か」
何かが起きている。再生怪人を作っている奴の能力が進化したとかそういう話なのか?
それに、何故このタイミングで、わざわざ俺の前に現れた。……なんらかの意図か、あるいは俺に対するメッセージが含まれているのか。
いつかの暴走怪人の件が同じ奴の仕業なら、ずいぶんと混乱させられているな。
『あ、死亡原因はインプロージョンじゃないみたいですよ。その他になってます。詳細は……ありませんね。自然死って事?』
「間違っても自然死はねーだろ」
別に俺のせいじゃないって言い訳したいわけじゃないんだが、それはそれで奇妙だな。
結局、ヒーローオブジェクトの設置処理か完了するまで、この件についてミナミとあーだこーだ話す事になった。
ただ、分かった事はさほど多くなく、結局は継続的に他の事例と照らし合わせて検証する必要があるという結論に至る。
これまであんまり気にしていなかった再生怪人どもの動画もあらためて確認してみたのだが、確かに別物だろう。だが、過去にいた怪人が復活したという意味では間違いなく同じ部類の代物だ。……やはり、再生怪人を作っていた奴が強化された線が濃厚か?
-R-
「み、ミスった……あいつ、なんであんな絶妙なタイミングでいるんだよ。思わず暴走爆発させてしまった」
「まさか、こちらの動きを読んであそこに陣取っていたわけでは……」
「馬鹿な。いや……いつかの暴走怪人の件ですでに警戒されていた? しかし、まさかそんな」
「アレの場合、警戒してし過ぎという事はないでしょう。……しかし、こんな思いつきの行動に対応してくるとは」
遠い場所で、再生怪人ボルテック・ジャッカーを送り込んだ当の本人であるリサイクル・リベンジャーとバルバロッサ・シータは、更にマスカレイドへの警戒を強めていた。ほとんど偶然なのだが、そんな楽観視をできないのがマスカレイドなのだ。
どこまでも膨れ上がるマスカレイドの脅威に戦慄するしかない。
-3-
「ご明察です。私がこうして現れられるのは月面までですね」
「まだ何も言っていないんだが」
何日か経って、再び隙間のような時間を作り、月面にてかぐやと対面。別に問いただしたわけでもないのに、俺の疑問への回答を投げつけてきた。
どうやら、前回の移動時にコンタクトをとってこなかった事への回答らしい。
「こちらを高く売り込む算段はあれど、疑念を持たれていい事もないですし」
「お前の言い分を鵜呑みにするならそうだろうな」
「鵜呑みにする必要はありませんが、実際そのままですしね。疑念を晴らせそうな質疑があるなら回答しますが?」
「いや、いい」
別段、直接的にそういう質問をせずとも、質疑応答の過程で判定できるだろう。
「それよりも、再生怪人について何か情報はあるか?」
「再生怪人? ……確かにそういう能力を持った怪人がうろちょろしているという話はありますが、あまり情報はありませんね。調べましょうか?」
「何かリスクは?」
「隠蔽しても、多少は不自然さが出てしまうかと。一度二度ならともかく、積み重ねれば露見する可能性は高くなります」
「……ならいい。忘れてくれ」
そこまでのリスクを負う緊急性はない。こちらはもちろん、かぐやにもだ。
「知っている範囲だと、過去に死んだ怪人を蘇生させて戦闘員扱いで出撃させられる能力を持つ怪人がいると」
「再生怪人リサイクル・リベンジャーってやつか?」
「ご明察。ただ、現在は個人ではなく徒党を組んでいるようですね。他の怪人に向けてサービス提供をしているようです」
思ったよりもあっさりと情報をくれるな。そして、リサイクル・リベンジャーが地味に厄介な奴だという事も判明した。
正直、俺の苦手なタイプだ。対処が困難で、無理をして叩くほどのメリットもなく、緩やかに状況を悪化させてくる。
「そういえば、お前の側から質問はないのか?」
「特には。むしろ聞かないほうがいい面まであるので、今は純粋に質問回答用AIとでも思って頂いたほうがいいですね」
「その回数や内容によって点が上がると」
「はい。その点を評価するのはあなたですが」
極めて割り切った、やりやすい相手を演じていると。対人コミュニケーションの相手と考えるなら厄介だが、仕方ない。
「とりあえず、知らない事は知らない、言えない事は言えない、言いたくない事は言いたくないと言うので聞くだけ聞いてみるといいのでは?」
「お前が持つ情報網の詳細」
「秘密です」
そりゃそうだろうな。間違いなく生命線だし、本当にとりあえず聞いただけだ。
「なんて、本当のところは聞いても理解できないだろうというのが正解です。大半は人間にとって未知の技術ですし、既存の技術にしても数世代独自のアップデートを施しているので」
「……思ったより答えるじゃねーか」
「何分、点数稼ぎが目的なもので」
まあ、言っている事はもっともだ。既存の通信技術を活用しているのにあれだけの事ができるミナミがおかしいのであって、普通なら数世代先の技術を使ってますというほうが自然ではある。そして、それが可能な環境はあると。
「亡命成功の暁にであれば、私がアップデートした技術を提供してもいいんですが。取り扱いは注意が必要ですよね? 特に彼女に渡すかどうかについては」
「……まあな。良く分かってんじゃねーか」
そんなものをミナミに使わせたら更に手がつけられなくなる。元々の候補優先順を考慮するならミナミにかぐや以上の何かがあるのは明白なわけだし、俺自身も普通に危険だと感じる。
ミナミが幹部候補だった事について疑わないのかっていうのは今更だ。基本的にそれ前提で考える。だって、あまりにもしっくりくるんだもの。
尚、かぐやの情報処理能力はロイドたちと比べても格段に高い事が分かった。これはスペック的な意味もあるが、なにより特筆すべきは既存の人類技術との親和性で、他のロイドなら一旦変換を挟むような処理をそのまま実行できるのが強みだという。元々地球産のAIならではって事だろう。
つまり、下手にミナミの部下として配置するのすら危険というわけだ。今こいつがしているように、組んで裏切られたら目も当てられない。元々していた最悪の想定よりも状況が悪化する。
「ちなみにだが、ミナミはなんで候補落ちしたんだ? 俺がオペレーター募集したからとか?」
「分かりません。そこら辺謎なんですよね。私がこうして体を持ったのもあなたの着任以前の話なので。ただ、あなたのような外れ値が一切関わっていないとは思えませんので、何かしらの遠因ではあったのでは?」
どういう事だ? ミナミの候補落ちにマスカレイドの影響がない? 少なくとも表面上は、はぐらかしているようには見えなかった。
詳しく時期を聞いてみれば、俺はまだ引き籠もりやってた時期で……いや、今も引き籠もりのつもりなんだが、とにかくなんの力も持っていなかった頃だ。
てっきり俺がオペレーターを募集した事で、そちらが優先されたのだと思っていたのだが。
『そもそも、どうやって候補を選出しているのかの方法も分かりません。その辺、ヒーローの選出方法も謎ですが』
「……担当エリアから条件指定して検索するシステムがあるらしいぞ。相当に精緻かつ、リアルタイムでの検索が可能らしい」
『ふむ……それは、私が聞いていい話だったんでしょうか?』
「あんまり良くない気もするが、ある程度の情報共有は必須と判断した」
基本的にこいつとの関係は一方的に俺が利益を甘受していても成り立つものだ。そんな中で知らないヒーロー陣営の情報を渡すのは情報漏洩に他ならないが、話をするにも前提となる知識がないと話が進まない場合は別だろう。
『となると、可能性として考えられるのは、相当に高度なシミュレーターを利用しての未来予測。それを使って常に経緯を観測しているなら、ささいな変化で候補が変わる事もあり得ますが』
「やっぱりそれっぽいよな」
『と言っても、やはり原因となる何かはあったはずですが』
「やっぱりそうだよな」
可能性としては、ウチが作っている世界シミュレーターよりも更に高度なモノを運営か、それより上が保持していていて、それを元に算出された結果というのが考えられるが、回答は出そうにない。実際存在する可能性は高いし、その気配もあるが、少なくとも現時点で確認する事はできないからだ。
そんな未来予測をしていたのなら、変化があるとすれば本人よりも外的要因のほうが大きいと思うが、そうなるとあり得そうなのはバグの温床であるマスカレイドさんか、その元である俺という事になってしまう。……あるいは、かみさまか?
「しかし、ずいぶんと都合が良い話ですよね。まるで、あなたが勝つためにすべてがお膳立てされているよう」
「……何が言いたい」
「だって、あの方はあなたの天敵でしょう? その上、格が落ちるとはいえ似たような脅威になり得る私すら、こうやって無力化できる状態にある」
「…………」
バレテーら。もはや隠す気もないが、ミナミが敵に回った場合、どんな怪人よりも脅威になるのはさんざんシミュレーションしている。
どこまで本気で捉えているか知らんが、本人にも言っているんだが、いまいち本質的に理解しているようには見えない。
こいつにしても、能力の方向性がミナミと同じなら間違いなく脅威だ。こちらにミナミがいるからある程度対処できるかもしれないが、他の怪人に比べて脅威なのは間違いない。それを離反させられるのが大きいと考えているのは本音なのだ。
「未来予測シミュレーター、あるいはそれに類似するものの存在を加味しても、何か大きな意思のようなものを感じられます」
「運営や、その上の神々の?」
「それは分かりませんが、個人的な見解であれば運営はノータッチだと思うんですよね。最低でもその上かと。もし多少でも目論見通りなところがあるなら、ここまで振り回されていないと思います」
「振り回してんの? 俺」
「はい。おそらくあなたが思っている以上に」
やたら権力のあるモンスタークレーマー的な扱いかと思っていたが、もう少し重要な捉えられ方をしているっぽいな。今後の活動に関わるし、地味に重要な情報かもしれない。表面的な怪人側の反応とか聞いてみたい気もする。ありそうな怪人ネット上のマスカレイドスレッドの中身とか。
「でも、排除はできない。ルール上はもちろん、多少グレイな部分で力を行使しても力で押し返される」
「何か具体的な例がある感じだな」
「ええ、私が掴んでいる部分としては……」
かぐやの口から出てきたのは、やっぱりそうかという内容ばかり。とはいえ、はっきりそうだと分かった点は大きい。
たとえば、第一次グランドイベント最終盤における東京への爆弾怪人三体同時落下。
第二次グランドイベントはもっと露骨で、元々はムーが舞台となるはずだったところを出撃順が強制的に遅れるアトランティスに変更した事や、周囲を囲むバリアが他に割り当てられるはずだったリソースを割いてまで強化された事などなど。あきらかに運営内に俺を排除したい勢力はいて、結果としてそのすべてを粉砕している状況らしい。
まあ、おかしな部分はあるよな。東京だけに三連射とかいくらなんでも特別扱いし過ぎだし、軌道ステーションを設置するなら赤道付近を陣取れるムーのほうがまだそれっぽい。まあ、地面から直立する軌道エレベーターとか、常に直上に陣取っているステーションとか今更なんだが。
-4-
『あ、またサボってるんですかー』
「失敬だな。ノルマは達成したっちゅうねん」
『いや、ノルマとかないですけどね。そんなに面白いんですか、それ。色々調べてみたんですけど、いまいちRTAの良さが分からなくて』
「これはクソゲーだな。RTAなら面白いってタイプのクソゲーですらない、紛うことなきクソゲーだ」
『なんでわざわざ、そんなクソゲーを……』
だって、マイナーどころじゃないと世界記録には太刀打ちできないし。発表したりはしないから結局自己満でも、達成感は得られるのだ。
ちなみに、今回はかぐやと応答しつつも作業は続けていた。全力ペースではないが、それなりに作業は進んでいる。
なのにわざわざゲームをプレイしているのは、より強い理由作りの他に、前回プレイしてRTA熱が再発してしまったのが原因だ。こんなクソゲーなのに、久しぶりに調べたら地味に新ルートとか見つかってたりするんたぜ。
「んで、ステーションについてはどうだった?」
『政府としては全面的に認める上に干渉しないという方向に落ち着きました。ついでに、公式発表として支持を表明するとか』
「思い切ったな。別にこの件について優遇したりはしないのに」
『むしろしないでくれって話でしたね。個人的には、秘密裏に外壁素材や硬化剤のサンプルなんかは渡してもいい気はしますが』
「そこら辺は適当にバラまくか」
それで研究が進むならそのほうがいいのだ。結果、それで宇宙技術が発展して月まで来るとしても、別に問題はない。
ちなみに、月とは違ってステーションの件はすでに色んなところで発覚していて、秘密裏に認めるとの回答を送ってきた勢力もある。
キャップなどは絶対に破壊などせず拠点として確保しておいてくれとの意見で、アメリカ政府と同意見との事。でも、表向きには文句言うしかないから許してねって事だった。もちろんそんな口調ではなかったが、だんだんとそんなノリになってきた感は否めない。
「とはいえ、月以上に文句は出てくるだろうな。頑張れば到達可能な場所だけに」
『迎撃システムで撃ち落とせばいいのでは?』
「文句言われるに決まってるだろ。……というか、暫定支配確立まではその制御もできないな」
間髪入れず、当たり前のように撃ち落とせと言うミナミさんはともかく、現時点で制御が利かないのはちょっと問題かもしれない。
「自動なので制御不能ですって注意喚起しても、どうせ嘘だろうとか言って突っ込んでくる奴とかいそうだな」
『それで撃ち落とされたら文句言うわけですね、分かります』
国によっては、モンスタークレームを素でやってくるからな。ああいう連中はどんだけ面の皮が厚いのか。
まさか、本気でそう考えて行動しているわけでもないと思うんだが。
『むしろ、制御不能じゃなく撃ち落としますって言えばいいんじゃ』
「……アリかもしれないな」
それでも本当に撃ち落とす奴があるかって言い出す馬鹿はいそうだが、制御不能よりはマシに聞こえる。
というわけで、日本政府の発表に合わせて暫定支配確立までは近くに来たら無条件で撃ち落とす旨を発表した。
色々懸念はあったものの、そもそも辿り着く事すら難易度が高く、基本的に怪人の勢力圏内である事もあって実際に撃ち落とす事にはならなかったのは幸いだ。
ただ、あきらかにステーションを目的地として移動していた形跡は確認できたので、アホはいるという事なのだろう。
[ かみさまの六畳間 ]
「なるほど。大変だね、英雄君も」
久しぶりに訪れて報告したかみさまの反応はいつもと変わりない、淡々としたものだった。基本的に他人事のような扱いで状況を俯瞰しているのは、神様っぽいと言えるのかもしれない。
ただ、月やステーションの領有の件はついででしかなく、本題は別にあるんだが。そのために、わざわざミナミをシャットアウトしている。
「まあ、本題はかぐやの件なんですが」
「怪人幹部ねえ……君の好きにしていいと思うけど。どうなろうと私は責任を取るつもりはないし」
その本題にしても、かみさまの反応はどこ吹く風である。担当神という立場から見ても、本来なら重要な案件だと思うんだが。
ミナミには共有にしないにしても、かみさまくらいには共有してもいいんじゃないかと思い至ったのだが、意味は薄かったかもしれない。
「ただ、ミナミ君に言うかどうかに関しては消極的に反対しておくよ。絶対駄目と言う気はないけど、現時点での共有はやめておいたほうがいいと思う」
「かみさまもそう思います?」
「どこかで言う必要はあるだろうけどね。最低限、幹部の存在が確定するまでは避けたほうがいいと思うな。亡命についても」
「存在が確定?」
適当に相槌打っているだけかと思いきや、かみさまも何か考えているのか?
「怪人幹部AやらDって暫定的な名前だろう? 多分、本当の名前が付けられるタイミングがあるはずだ。その前だと、すげ替えられるだけな気がする」
「…………」
「名をつけられる事で存在が変質する可能性もあるから、その可能性も考慮すべきかもね」
思ったよりもまともな意見だった。ああ、かみさまは自分の名を失っているから、特に目に付き易いのか。
となると、かぐやがそこら辺を気にしていたような発言があった事にも気付く。暗殺絡みの件でオススメしないと言っていた部分だ。
「ミナミ君が再度候補になるとは思えないけど、確定後ならその心配もなくなるだろうしね……なんだいその顔」
「いや、かみさまがちゃんと上司してるなと」
「何言っているんだね。私はやる気と責任感がないだけで、ちゃんと味方だよ」
それはそうなんだが、一応でも考えていたという事実に少し感動してしまった。
「あと、寝てばかりいるのにも限界を感じて暇になってきたというのもある。最近は色々と地上の事も調べているんだよ」
というか、それが本音じゃないだろうか。
「というわけで、なんか自堕落に過ごすための有意義な方法とかないかな。引き籠もりな英雄君なら得意じゃない?」
「海みたいな活動的な施設は嫌なんですよね? なら、健康ランドでも造ればいいんじゃないですかね。あとは温泉とか」
「あーいいね。英雄君のおかげでポイントは有り余っているし」
担当神のカタログでそういった類の施設が買えるのは知っているのだ。もちろん高額だが、かみさまのポイントが有り余っているのは知っているから、まさか足りないなんて事はないだろう。というか、俺が稼ぎまくった影響でかみさまのポイントは想像を絶する額になっているはずだ。
おそらくだが、名前を取り戻すどころか権能すべてを取り戻せる分は貯まっているんじゃないかと思う。だって、これで足りなかったから他の担当神はどうするんだってレベルで稼いでるし。
というわけで、最終的に温泉付きのスーパー健康ランドを建設して入り浸る事になったそうだ。なんかオプションで付けたマッサージサービスがいい感じらしい。
福利厚生として俺やミナミも使っていい事になったので、どこかで使わせてもらうかもしれない。
『あー、いーっすね温泉。基本的に男女別な分、いつかの海水浴よりハードル低いし』
部屋に戻ってミナミに説明したらそんな反応が返ってきたので、なんだかんだで計画を立てる事になってしまった。
「以前約束したのとは違うんだから、別に個人で行ってもいいんだぞ。そうでなくとも、妹と一緒にとか」
『え? あ、いやだなあ。マスカレイドさんが寂しいかなーと』
「引き籠もりの俺がそんな事を気にすると思うか?」
『え、えーと、じゃあ、このミナミミナミの悩殺ボディーを堪能できるチャンスがなくなりますよーと……』
「お前、前回あんな醜態晒しておいて良く言えるな」
前回は流れで強引に約束して引っ張り出したが、それでちょっと楽しくなっちゃったのかもしれない。
でもなあ……確実に目の保養になるであろう海水浴と違って、健康ランドや温泉は基本男女別だしな。まあ、今後別の誰かに開放する気なら事前調査は必要かもしれない。以前と違って、今だったらクリスを連れて行ってもいいわけだし、いい休養になるかもしれないから話してみるかな。
しかし、アポカリプス・カウンターやら次のイベントやらで世界規模で緊張が走っている中、ついでに言うなら月とか軌道ステーションとか領有してる中でする話か、コレ?
……張り詰め過ぎも良くないよねって事か。
引き籠もりヒーロー第四巻ようやく発売開始しました。(*■∀■*)
続けて、無限の三巻もそろそろ発売予定です。