舞台裏「怪人幹部」
PCぶっ壊れて環境再構築中なので、いつもより誤字が多いかも。(*■∀■*)
-1-
怪人幹部Cからの出頭要請を受けて再生怪人リサイクル・リベンジャーが向かった先は、宮殿のようにも見える荘厳な建物だった。
今に始まった事ではないが、怪人たちは自分が生活しているのがどういう空間なのか知らされていない。地球でない事は知っているが、用意された良く分からない場所をただ使っているだけである。
アトランティスをはじめ、地球上に存在する土地への移住を求める怪人たちは、多数からの認識として確実に存在しているという安定感を求めているのかもしれない。
未だ経営が火の車で、天井のない廃ビルからの脱却すらできない再生怪人リサイクル・リベンジャーに移住先などないわけだが。
大体、同じコンセプト怪人というだけで仕事を求めてやってくる連中が悪い。そして、文句を言いつつもそれらを雇用してしまうリサイクル・リベンジャーの意思が最大の原因だ。怪人にとって、お人好しは美徳にはならないというのに。
怪人幹部が用意したこの場所も当然どこの空間にあるか分からず、転送でしか行き来できない謎の空間だ。
一時的、恒常的に関わらず、ここまでの規模の空間を用意できるのは幹部ならではだろう。あるいは、運営などから怪人幹部専用に用意された専用の空間なのかもしれない。
個々の怪人でもポイントを使えば謎空間を借りる事はできるが、簡単に死ぬ怪人は継続的な契約にかかるポイントはかなり割増で、信用情報の査定も厳しいのだ。
普段、屋根のないビルを拠点としているリサイクル・リベンジャーとしてはどうしても気後れしてしまう、そんな場違い感を感じさせる場所だった。
そんな場所で呆然と目の前の建物を眺めていたら、声をかけられた。
「貴様も呼び出しか、再生怪人リサイクル・リベンジャー」
「は? あ、えーと……」
「魔刃怪人フラクタル・エッジだ」
その怪人はどこかで見た事があるという程度には有名な怪人だった。逆に言えばその程度の知名度でしかなく、パッと見で名前が浮かぶほどでもない。
どちらかというと、多くの怪人相手に商売している再生怪人リサイクル・リベンジャーのほうが知名度としては上だろう。彼が名前を知っていたのもそういう事かもしれない。とりあえず、顧客名簿には名前は載っていないはずだ。
「ひょっとしてあなたも?」
「ああ、呼び出されてここに来た。他にも数人待機していて挨拶だけは済ませてきたところだ」
「はあ」
自分だけではなかったという事実に再生怪人リサイクル・リベンジャーは胸を撫で下ろした。自分のような木っ端怪人に、幹部がなんの用だと不安しかなかったからだ。
「それで、結局今回はなんの話か聞いてますか? ただ、来いとだけ指示が届けられたんですが」
「俺も知らんが、呼び出したのが怪人幹部Cである以上、次のイベント絡みだろうな。我々がその準備要員か、本番に投入される人員かは知らんが」
「はあ」
再生怪人リサイクル・リベンジャーは生返事しかできない。言われてみれば、順番的に次のイベント絡みという想像はつくが。
これまで二度の大規模イベントで、それぞれ怪人幹部A、怪人幹部Bが顔出ししている以上、次は怪人幹部Cの番だろうと。
「知ってるだろうが、これまでのイベントで既存の怪人が投入された事はないから、我々がそうだという保証はないがな」
再生怪人リサイクル・リベンジャーはバージョン2のアップデートで恩恵を受けた一人ではあるが、過去二回の大規模イベントに関してはほとんどノータッチだ。表面的な情報は知っていても、そういう事があったという程度にしか知らない。
それは単に興味がないという事もあるが、フラクタル・エッジが言ったようにイベント専用に用意された怪人しか投入されていないというのが大きな理由だろう。……ただ、例外もある。
「特殊性癖四天王のエビゾーリは……」
「ああ、あいつがいたか。……とはいえ、アレはどうなんだろうな。詳細は知らんが、イベント要員として配置されていたのか?」
「さあ?」
一切情報が公開されていないから、アレがどういう形でイベントに参加し、今宇宙を彷徨っているのかは知らないし、公開されていない。
ただ、タイミングや状況的に、参加していたと考えるほうが自然というだけだ。だって、イベント特有の制限でも喰らっていない限り、緊急帰還できるはずだもの。
「そういえば、そろそろ時間ですが、移動しないんですか?」
「開始する前に仮面執事どもが呼びに来るそうだ。結構前から待機しているが、そう聞かされている」
「仮面執事?」
「中立派のモドキどもだ。つまり運営が絡んでる事は間違いない」
「モドキ……」
人類は別として、ヒーローと怪人の対立構造に含まれない中立の存在がいる。元締めをしている運営やその上の事ではなく、似たような立場でどちらでもない連中の事だ。
各種評価・査定をする評価官や、カタログ商品の準備をする者たち、OP映像制作の補佐として用意されたカメラマンや、宣伝役のマスクド・コマーシャルもその部類だ。
怪人役場の職員など、怪人よりな存在やその逆のパターンもあるが、基本的にどちらにも与さないのが特徴である。仮面執事というのも、そういう立場の存在なのだろう。
そして、そういう中立派が絡んでくるという事は公然と運営が絡んでいるという証拠でもあった。怪人が勝手に悪巧みする分には、彼らの絡む余地は少ない。
ちなみに、フラクタル・エッジがモドキと呼んでいるのは、どちらかといえば彼らが怪人に類似する存在であるからだ。実際、~怪人と呼ばれている者もいるように、広義では怪人といっても差し支えはないだろう。
「まあ、モドキといえば、怪人幹部たちについても似たようなモノかもしれんがな」
その言葉に、再生怪人リサイクル・リベンジャーは返事どころか相槌すら打てずにいた。
実質的な上司である怪人幹部に不敬だとかいう理由ではなく、自分が日常的に創り出している存在がそのモドキに分類されるものだから非難されている気がしたためだ。
ただ、怪人幹部が自分たちと根本的に異なる存在だという意見に関しては、確かにそうかもしれないなとは思っていた。上官として配され、無条件で従うべく刷り込まれた存在に違和感を持つ者は意外に多いのかもしれない。
それでも大多数がその構造を受け入れているのは、怪人自体が情念や情報を元にした、出自のあやふやな存在であるからだろう。良く分からないがそういうモノという価値観を受け入れるのに慣れているのである。
「えーと、私も他の怪人さんたちに挨拶をしておいたほうがいいですかね?」
「好きにすればいい。別に、そんな事を気にするような連中でもないと思うがな。俺の場合も、暇だから回っただけだ」
「ちなみに、我々の他にはどんな怪人が?」
「ここから見えるのもいるだろう。ほら、あのデカブツだ」
「は?」
フラクタル・エッジが指差した方向には山があった。いや、巨大な岩だろうか。あまりに自然に溶け込んでいたため、背景と認識していた。
「アレはオーストラリアに陣取る岩石怪人オーガスだ」
「ああ、聞いた事があります。現在最大級の大きさとか」
見た目は完全に大岩……というよりも、エアーズロックそのものだ。それ自体が怪人として変質したため、元からあるものが動き出したというべきか。
完全に無から発生する怪人が多い中で彼のように元が存在する怪人は少数派だ。
「奴はサイズ感の違い故に話は通じない。俺も、一方的に挨拶しただけだ」
「はあ」
「他にも、深海怪人ディープワン、翅蟲怪人チャバネス、異形怪人ボディホラー、腸虫怪人デスワームなど、普通に近寄りたくない怪人がウロウロしている」
「素直に待っている事にします、はい」
それらは、そこまで顔の広くらいリサイクル・リベンジャーでも良く知っている名前だった。
人間やヒーローに忌み嫌われているのはいいとしても、怪人側からも敬遠される、扱い難い連中である。
「ちなに、精神汚染してくる母性怪人オギャリオンは俺も近寄っていない」
「怪人相手にわざわざ精神汚染はしないと思いますが」
「といっても、我々は怪人だからな」
なんという正論。怪人そのものであるリサイクル・リベンジャーは納得するしかなかった。
わざわざしない事をする奴が多いのが怪人だからだ。人間的な価値観で測るのは間違っている。
「恐竜怪人ジュラシック・ハウラーなど、話の通じる奴はいたがな。ただ、総じて言えるのは……」
「言えるのは?」
「今日ここに集められたのは全員、敵に回せば一筋縄にいかない怪人ばかりという事だ。もちろん、貴様もな」
「は、はあ……そうでしょうか?」
なんか過大評価されている気がして申し訳なくなるが、反論する材料も持たない。リサイクル・リベンジャーの自己評価は未だド底辺の頃のままで、現在の評価もちょっと良く分かっていないのだ。そんな彼が、こんな面倒臭そ……いや、強そうな面々と一緒に同列に扱われてもいいものか疑問だった。
そこには同類扱いしないでほしいという気持ちも多分に含んでいる。
しばらく二人でそんな話をしていたら、唐突に案内人が現れて建物へ移動する事になった。
どうしても某銀タイツを思い出してしまう蝶マスクを着けた男だったが、振る舞いそのものは執事らしく粗の見えないものだったので脳がバグる。
-2-
待機していた場所がバラバラだったからか集まりは悪かったが、しばらくすれば目的地の天井のない巨大ホールへと怪人が集合した。
オーガスが入る事を想定しているのか、これから会議をする雰囲気には見えない、だだっ広いだけの場所だ。
ただ、オーガスが入るためのルートはなかったので、当の本人は上から覗き込む形になる。元々巨大なエアーズロックが立ち上がるだけで、その巨大なフロアが影で覆われるほどだ。
再生怪人リサイクル・リベンジャーはその隅へと陣取り、できるだけ存在感を出さないように縮こまる。
「あの……あの人たち怖いんで、フラクタル・エッジさんも離れて欲しいんてすが」
「奇遇だな。俺も超怖いんだ」
いつの間にやら同志認定されていたらしい。リサイクル・リベンジャーとしてはちょっと迷惑だった。
フラクタル・エッジは本格的な武闘派怪人だ。搦め手を好む事が多い怪人の中で、自身の戦闘力に特化した正統派である。
そんな彼にとって目の前の連中は、どいつもこいつも相手にしたくない奴ばかりだった。簡単に言ってしまえばタチが悪い。
この連中が集まれば、街の一つや二つ、簡単に壊滅する事だろう。暴れればではない、集まるだけでだ。立っているだけでも迷惑。そういう存在なのだ。
そんな中で、リサイクル・リベンジャーは一種の清涼剤にも見える。能力を見ればタチが悪いのは同じだが、本人は無害だ。
『ようこそ、怪人の諸君』
唐突に、広いホールのどこからでも見える巨大な宙空スクリーンが出現した。
そこに無駄に装飾を凝らした甲冑を着けた謎の男が映っている。顔は見えないが、おそらく怪人幹部Cだろう。
『今日ここに集まってもらったのは他でもない。諸君らが想像している通り、第三次グランドイベントについてだ』
自己紹介すらないが、彼が怪人幹部である事を疑う者はいない。何故なら、怪人であるが故に、彼が無条件で上官である幹部だと本能が伝えてくるからだ。
絶対に覆らない上下関係。自由極まり、秩序に縛られない怪人が膝を突かざるを得ない、恐怖に似た何かを感じさせる。
……それは、大多数の怪人がマスカレイドに対して抱く恐怖に似ていた。
実は、ここに集まった怪人の半数以上は、この場に至るまで従順に従う気などなかった。裏に運営の影が見える以上、本格的に逆らう事はなくとも、ささやかな反抗くらいはするつもりだったのだ。しかし、結果を見ればコレである。
巨大とはいえ、本人そのものではなくただのモニター。映像でその姿を見ただけで圧倒され、本能的に従ってしまう。怪人にとっての怪人幹部とはそうそうものなのだと突き付けられた。
別に彼のようにすべての幹部が恐怖で縛ったりはしない。しかし、それぞれ別の理由で絶対に逆らえないのが怪人幹部という存在なのだ。
『愚かな人類共の社会に我々を浸透されるために用意された段階的な大規模イベントだが、第一回、第二回と比較しても大規模になるため、こうして事前の準備が許可されている。またコレはバージョン3のプレテストも兼ねており、導入予定の機能について一部事前導入する事も可能だ。君たちを呼んだのは、主に第三次グラントイベントで先導役となってもらうためだが、このテスト要員でもある』
あらかじめ予想されていた次のイベントへの言及はともかく、バージョン3という言葉にフロアがざわめく。
あれだけ既存の常識や価値観を破壊し、地球上を大混乱させているバージョン2でなく、すでに次の段階が用意されているというのか。
ある程度情報が公開されているヒーローや怪人でさえ、未だ全貌を把握し切れていないというのに。
『楽しみたまえ、怪人諸君。君たちは未来への先導役という立場を与えられた』
圧倒的存在感から放たれる、想像すらしていなかった事実を告げられ、場の怪人たちはただただ圧倒されるのみ。言葉の意味すら飲み込めずにいた。
『ふむ、やはり私が前に出るのはやり難いようだな。進言は正しかったという事か』
「だから言ったでしょう」
その時、唐突に、なんの前触れもなく、モニターの前に人影が現れた。
「怪人にとって、幹部という存在はあまりに大きい。そういう風に作られているのだから当然の事」
『そのようだ。では、あとは君に頼むとしよう、アルファ』
「承知致しました、我が主よ」
その男は、一見人間にしか見えない。怪人らしい異形部分はないし、身に着けているものは軍服のような何かだ。
だが、モニターが消え、幹部の姿が見えなくなっても未だ残る圧迫感は、彼が怪人にとって上位の存在であると示している。
「さて諸君。そういうわけで、以降は私が説明を代行しよう。同じ怪人同士、仲良くしようじゃないか」
本当にそうなのか。ここにいる怪人たちの誰もがそう疑問を持たずにいられなかった。
彼から感じられる気配は確かに怪人だろう。しかし、自分と同じカテゴリとはまったく思えない。
「私は侵略怪人バルバロッサ・アルファ。以前のイベントで投入されたS級怪人と同じ立場の、謂わばボス役だ」
S級怪人。それは、幹部ほどでなくとも怪人たちにとって特別な意味を持つ存在である。
通常、少なくとも現在のシステムにおいて、怪人が昇格できる限界はA級だ。過去に確認されたS級はすべてイベント用に用意された個体、第一回の爆弾怪人グランド・スラム、第二回のアンチ・ヒーローズのみだ。例外としてイカロス・ガーディアンという存在もあるにはあるが、彼らには公開されていない秘匿情報である。
A級で頭打ちになるが故に、A級内は玉石混交になる。今ではB級、C級よりも人数が多いのがA級怪人なのだ。
同じ怪人と言われようが、どうしても特別と認識せざるを得ない格上。それがS級なのである。
銀タイツに散々ボロクソな扱いをされているS級でも、そんな事ができるのはアレだけなのだから評価は揺るがない。
S級怪人を正確に評価するなら、見るべきはバベルの塔でマスカレイド以外が戦った記録だろう。
ヒーロー側には一人の死亡者も出ていないものの、それは世界でも屈指の上澄みである東海岸同盟の上位陣が、極端に安全マージンをとった上での戦いだったからだ。
基本的には五体一以上の構図を維持、湯水のようにヒーローアイテムを使い、バックアップも万全。後半になるほど、出撃可能な補充要員は増えていく。
何より大きいのは時間的な制約だ。マスカレイドが稼ぎ出した正に異次元のタイム・アドバンテージは、心の余裕以外にも多くのメリットを生む。
そんな状況で、アンチ・ヒーローズはヒーローたちを圧倒し続けた。対ヒーローに特化した個体故の優位がなくとも、その評価は覆らない。あの戦いを見て弱いと評価する怪人もヒーローも人間もいないはずだ。
そして、目の前にはそういった特殊なアドバンテージのないS級怪人がいるとなれば、圧倒的プレッシャーに抗っても実力を試してみたいという怪人はいる。
「模擬戦? どうも固いようだし、試してみるのもアリだな」
たまたま近くにいた、血の気の多い恐竜怪人ジュラシック・ハウラーの提案により、何故か怪人同士の模擬戦が始まりそうだった。
再生怪人リサイクル・リベンジャーとしては気が気じゃない。他の怪人に比べて弱いなんてレベルじゃないし、その差を埋めるための準備も皆無だ。
何より、この連中が集まってまともな模擬戦になるはずが……。
「人数もいるわけだし、ヒーローたちがやったというトーナメント形式でも……」
と、組み合わせを考えるためか、アルファが怪人の詳細情報を見たところで動きが止まった。
「……うん、無理だな」
早々に諦められた。良く考えなくても当然だが、こんな存在しているだけで災害みたいな連中でトーナメントなど成立するはずがない。
というか、個人戦闘に特化した怪人など、フラクタル・エッジをはじめ数名しかいない有り様だった。
「あー、提案者のジュラシック・ハウラーと……あとフラクタル・エッジだけ、私とやろうか。何、レクリエーションだ。殺す気で来ていいぞ」
過剰にしか見えない自信だが、この場にいる誰もがそれを当然と感じるほどに、プレッシャーの質に差があった。
特に、指名された二人に関しては、沸き立つような闘争心すら見えるようだ。
そして、二対一でもいいというアルファに対し、タイマン勝負を誇示する二人。その二連戦が始まった。
おそらく、やるつもりなら瞬殺されるだろう。それくらいの差がある事は分かる。
しかし、その模擬戦はあくまでレクリエーションだと突きつけるように、試合時間は長く続けられた。
全力を発揮し易いよう、あきらかに調整された力で合わせられている。あれだけ結果を残しているフラクタル・エッジでさえ赤子同然だった。
結局、武闘派と呼ばれた二人の怪人は何もできずに終わる。
「ふむふむ、なるほど。悪くない。多少予定からズレるが、お前ら二人は私が預かる事にしよう」
「預かる?」
「指揮系統……ってほど固いものでもないが、私直属の部隊員って事だ。もちろん第三回グランドイベントまでのだがな」
それを聞いて、リサイクル・リベンジャーは自分がどうなるのか気になった。
お眼鏡に適ったのがあの二人だけで、他は全員が失格なら喜ばしい。なんなら、自分だけでも放免してくれないかと。
「基本的にお前たちの素養に合わせた形で所属を分散させる。本来はその篩分けと統括役が私なわけだ。この後、資料で再評価して担当を決めるから、ここで待ってろ。一応でも仲間同士だから、その間に親睦を深めるのもいいかもしれんな」
と言って消えるアルファ。残された面々といえば、こんな空気の中で親睦を深める事などできるはずもなく、能動的に動き出す者はない。
確かに、圧倒的カリスマとプレッシャーに晒され続け、自分の矮小さを突き付けられた彼らにはある種の同族意識が芽生えていた。
しかし、根本的に大多数は近寄りたくないメンツばかりなのだ。近付いただけで物理的な問題が発生する事を売りにしている奴は、同類の危険性も熟知している。
結局、何故か定位置のようにリサイクル・リベンジャーの横へフラクタル・エッジが戻ってくるまで誰も動こうとしなかった。
「お、お疲れです」
「おー。といっても、ダメージはねえがな。本当に疲れただけだ」
「何回か攻撃喰らってませんでしたっけ?」
手加減されていたのは間違いないとだろうが、リサイクル・リベンジャーの目には最低限戦いの形にはなっていたように見えた。
お互い攻撃はヒットしていたし、必殺技も命中していたはずだ。
「絶妙にダメージにならない程度で加減された。……アレは技術だな。人間の戦闘技術の何かしら、多分複合されたモノが基盤になっている」
「はあ」
「おそらくだが、出力自体にそこまでの差はないはずだ。少なくとも使ってはこなかった。その上で格付けを済ませた……いや、躾けられたって事だな。不甲斐ないと思うなら笑ってもいいぞ」
「はい……は? いや、そんなはずないでしょう!?」
「お前は戦闘型じゃないから分からないだけで、ジュラシック・ハウラーも感じてるはずだぜ」
名前が出たのでなんとなく視線を送ってみるが、ジュラシック・ハウラーはうなだれたまま動かない。
フラクタル・エッジが言っていた事が本当なら、普通の怪人はそうなるだろう反応だ。どちらかと言えば、素直に認められるフラクタル・エッジのほうが異端だろう。
「だが、アレの……上官殿の怖いのは、そんなところじゃない。あんな事ができるのに、おそらくお前と似たような後方支援がメインだろうって事だ」
「はい?」
アレが自分と同じ? そう言われてリサイクル・リベンジャーの脳がバグる。
もちろん、ただカテゴリ分類の話でしかないのは分かるが、それ以上に困惑していた。
「A級からどれだけ強くなってもS級に届かないのは単にシステム的な壁って言われているが、案外実力も足りてねえのかもな」
「は、はあ……」
そんな世界なんだろうか。フラクタル・エッジですら遥か頭上に見上げる事しかできないリサイクル・リベンジャーには想像も付かない。
そして、そんな連中に自分が何を期待されているのか分からなかった。特異な能力を持って生まれ、バージョン2で芽は出たものの、未だ弱小怪人でしかない自分に。
-3-
「さて、再生怪人リサイクル・リベンジャー。私があなたを担当する侵略怪人バルバロッサ・シータです」
「は、はい」
しばらくして、フロアにいた怪人たちが一人、また一人と呼ばれていき、ほとんど最後まで残ったリサイクル・リベンジャーが通された先で待っていたのは、アルファと同じ軍服を着た女性怪人だった。
人間の価値観で見るなら相当な美人である事は分かるが、リサイクル・リベンジャーとしては雰囲気が若干柔らかめな事だけが嬉しかった。別に異性やその美醜に興味などないし、リサイクル・リベンジャー自身は一応男性人格ではあるが、多くの怪人同様性自認があいまいなのである。
ちなみに、怪人は男性モデルである事が多いが、それなりに女性や無性も存在し、更に少ないが両性も存在する。ただ、大体が粗暴な性格で、それが好ましいとされているため、見分けが付かない事も多いのだ。そんな超どうでもいい豆知識が何故か頭に浮かんだのは現実逃避なのか。
「あ、あの……私一人、ですか?」
「はい。あなたと巨岩怪人オーガスだけは個別での対応となります。作戦に投入される際も似たような運用になるかと」
あまりに不安で聞いてしまったが、怪人としての能力を活用するなら、似たような力の持ち主で固めたほうがやり易いのはそうだろう。
オーガスに関してはその圧倒的質量、リサイクル・リベンジャーに関しては能力の特異性がネックで個別対応になったのだ。
「まず、今回あなたたちが参加する場合の条件について説明しましょう」
「は、はい。……あの、強制では?」
「任意です。断って頂いても、特にペナルティなどは発生しませんが……」
「……が?」
「幹部C様は、あなたに関してだけは特に強く参加を求めているとだけ」
それは事実上強制のようなものじゃないなのだろうか。招集を受けた時点で、選択肢などないように感じる。
「また、例外ではありますが、幹部B様も、あなたの能力には期待していると」
「は?」
「幹部様はどなたも謎の多い方ばかりなので、どういった意図かは分かりませんが、後々、個別に接触があるかもしれません」
「後々……」
「イベント後という意味です。私たちと違い、あなたがたは確実に死ぬ事が決まっているわけではないので」
「は? 死ぬ?」
さっきから……いや、最初からかもしれないが、ただ聞き返す事しかできない会話が多過ぎる。
「グランドイベント用として用意された我々は、イベントクリア条件であり、たとえ生き残った場合でも破棄が決まっています。そういう役割が決まっている我々と違い、あなたがたは生き残りさえすれば、特に制限もなくそのまま活動可能です」
疑問だったのは、どちらかといえば目の前の怪人が破棄される事だったのだが、解消されたので良しとする。
それはそれとして、衝撃の事実が告げられた。目の前の彼女……に限らず、S級怪人が使い捨て? イベント用だからこそ許されたスペックなのだとすれば理解できないわけでもないが、だからといって素直にそういうものだと割り切れないのも確かだった。
戦闘員ほどではなくとも怪人は捨て駒のようなものだし、実際運営からそう扱われている節はある。しかし、彼女らはそれ以上だというのか。
だからと言ってどうしようもないし、する気もないが、情報の奔流にただただ困惑させられている。
「というわけで、今回参加頂く場合は、イベントまでの出撃ノルマ免除の他、ポイントの手当など……」
その後、始まった説明によれば、待遇としてはまずまずという内容だった。細かい部分は確認が必要だろうが、全体的に見てかなりの好条件と言っていい。
それでいで、既存の活動に制限などはない。自分が離れたら火の車を通り越してそのまま消し炭になりそうなカイジン・リサイクラーの業務もこなせる。忙しくなるのは確定だが、得られる報酬で追加人員を雇うなりして補填する事も可能だろう。
何より、怪人としてどうしても気になってしまう強化関連のメリットが巨大過ぎた。怪人としての本能、弱小怪人であるが故になおさらかもしれないが、強さへの興味は無視できない。
「バージョン3で導入予定の各種システムのプレテスト要員として、あなたが最適と判断されています。具体的な情報は、公開に参加契約締結が必要になりますが……」
どうしますか、とでも言いたげな表情で、シータはピラピラと紙を見せつけてくる。それは当然この計画への参加契約書だ。
「…………」
リサイクル・リベンジャーが悩んだのはほんの数瞬。選択肢は提示されているものの、こどの道ほとんど参加一択だ。強制でないというだけで、立場や能力、待遇、その他もろもろの条件は、決して逃げられない事を突き付けている。
怪人らしくタチが悪い事に、自分の意思でサインさせるための誘導が巧妙なのだ。ここ最近まで、社長としてそういう悪辣な契約を大量に見せつけられてきたリサイクル・リベンジャーとしては、まだマシな提案にしか見えない。そう見えるのは、下手な詐欺師より巧妙である事の証拠かもしれないが。
ならば、迷う必要はなかった。
「確かに受領しました。では、さっそくこちらをどうぞ。今回、あなたが関わる事になるだろう新システムの概要です」
特に反応は変わらず、あまり軍人らしくも怪人らしくもない柔和な笑顔で差し出される資料。
……その内容は想像を絶するものだった。
「ば……かな」
思わずキャラではないシリアス顔になってしまうくらいに、その内容は強烈だった。
バージョン2で導入された各種システムがある以上、それなりのものは想定していたのに、軽くそれを上回ってきたのだ。
しかも、コレはあくまでリサイクル・リベンジャーが触れる事になる部分の抜粋に過ぎない。
「……運営は地球を滅ぼす前提なのか?」
「さあ?」
これまでの活動方針として、ヒーローと怪人、人間の構図は勢力バランスの取り易い形で調整されていた。
根本的な構造として怪人がヒーローよりも弱いというのは、その構図にも意味があっての事だ。基本的に補充の難しいヒーローと容易な怪人の違いというだけではなく、怪人がやられ役なのは基本構造に組み込まれたものだと。
そして、怪人はどこかでそれを認識し、納得さえしている。悪行を為し、人類社会にとっての悪を演じる事もグランドラインだと。
だからこそ、この資料に記載されている内容に驚愕するしかない。
「まさか、マスカレイドの影響とか」
「どうでしょう? 元々この予定だったかもしれませんし、調整された可能性も否定はできません。ただ、我々怪人はおろか、おそらく幹部様たちも知らないかと」
これが盤面の調整だとするなら、あまりに苛烈過ぎる。しかし、マスカレイドという劇物ありきの調整というなら納得できない事もない。
人類が死滅しようが特に感傷は抱かないだろうリサイクル・リベンジャーでさえそう感じる内容だ。
「とはいえ、コレが導入されても、どの道アレは倒せないかと」
「えーと、S級怪人でもやはりそう思うのでしょうか?」
「イベント的な限定要素はあれど、過去のS級とそこまでの差はありませんしね、私たち。特殊な制約で強化されていた分、対ヒーローとしてはアンチ・ヒーローズのほうが強いですよ」
そうなのか。それを一撃で粉砕するマスカレイドはともかくとして、フラクタル・エッジが苦戦したアルファも、ヒーロー複数人なら倒せるという事になるわけだ。改めて、ヒーローと怪人の基本スペックの差が身に染みる。
「というか、あまり大きな声では言えませんが、マスカレイドに関しては幹部様たちですら手も足も出ない気が……。完全なイレギュラーですよ、アレ」
「…………」
もう、アレの事は考えないほうがいいのかもしれない。
「とはいえ、今回のイベントに関しても、アレの対策はどうしても必要になるんですがね」
……考えないといけないらしい。
「やっぱりそうなるんですね」
「だって、基本的にフリーハンドですもの、あの銀タイツ」
それはそうだ。どこの勢力の誰を見ても、それこて幹部のような存在であっても何かしらの制約はあるのに、アレは本当に自由に動いているとしか思えない。そして、それを運営に黙認されているような状況だ。何か裏取引でもしているんじゃないかと疑うレベルでフリーダムである。
そんな、どんな手でもとれる核弾頭……いや、大規模災害みたいな奴を無視して、世界規模のイベントなんて成立するはずがない。
第二回の時だって、想定されていたプランはすべて破壊され尽くしたはずだ。元々どんな計画だったかなど知らないが、いきなり本拠地に突っ込んで来てそのまま終了なんて計画のはずはないだろう。
そして、伸し掛かってくる期待からして、そんなマスカレイドと多く向かい合う可能性が高いのはリサイクル・リベンジャーだった。
能力からして直接やり合う可能性は低くとも、対策は用意する必要がある。そんな未来を想像して気が遠くなりそうだった。
-4-
それからしばらくの間、再生怪人リサイクル・リベンジャーは多忙を極める事になる。
時間が足りない。アポカリプス・カウンターの増加により、想定よりも準備期間に余裕はあるらしいが、とてもそうは思えない。
準備期間を得られたのは主にマスカレイドが暴れ回った影響だが、その影響はどの勢力から見ても一長一短といえる。
おそらく、一番影響を受けたのは長期の準備期間が発生した事で投入されたリサイクル・リベンジャーたちだろう。
カウント増減がロックされるタイミングでアポカリプス・カウンターの残り時間が少なければ彼らの招集はなく、前回までのグランドイベント同様にS級怪人主体での戦略になっていたはずだ。
ただ、怪人幹部Cにとって、通常の怪人を組み込んで得られるアドバンテージはそう大きくない。特に戦力的な恩恵は少ないと感じていた。
「そこで、戦力のテコ入れとして最も期待されているのがあなたなわけですね」
「……色々知った今なら、ある程度納得はできるんですがね」
担当のシータに説明されて、自分に期待されている事は理解できた。実際に聞かされれば確かに期待するのも理解できると。
ただし、それは想定通りに機能した前提の話である。
ただでさえ自分の能力とバージョン2の仕様に振り回され気味だったのに、そこに大量の要素が追加されても使いこなせるはずもない。
この準備期間で数々の能力を習得し、理解し、熟知して、かつ暫定でもドクトリンを完成させるなど不可能に近い。
怪人勢力として見れば想定の数割でも十分過ぎるほどの恩恵を得られるが、期限までには一割ですら実践できれば御の字というラインで、そのラインすら実現できるかは怪しい。
マスカレイドが稼ぎ出したカウントの減っていく速度がやけに早く感じられてしまう。それはまるで、マスカレイドがリサイクル・リベンジャーを苦しめるために調整したと言わんばかりに絶妙な塩梅だった。
「まあ、実際にあなたが活躍するのはイベント後でしょう。イベントの本来の目的通り、お披露目、プレテストと考えるのが良いかと」
「あなたたちや幹部殿はそれでもいいと?」
「幹部様はそうでしょうね。私たちとしては、自分たちが唯一輝ける場は華やかになれば嬉しいかもしれません」
正直なところ、シータは自身の感情が分からない。イベント用に作られたS級怪人バルバロッサシリーズは、そんな事を感じるほど情緒が育っていない。
そんな感情を多少でも汲み取ってしまったリサイクル・リベンジャーは、多少でもその意に応えたいと思ってしまった。
やるべき事は変わらない。ただ意欲が湧くだけ。概念存在である怪人は、その多少の意欲だけでも強くなれる。
それで生まれるのは人類を蹂躙する外道戦術の完成というのが怪人らしくていい。木っ端怪人として生まれ、ただただ遜って生きてきたリサイクル・リベンジャーの意識改革には十分過ぎるきっかけだ。
「ちなみに、今回招集された十三人の怪人以外でも、個人的な資産や伝手を使う事は許されているんですよね?」
「ええ、我々から用意できる報酬は変わりませんが、個人的に投入するのであれば制限の範疇に含まれません」
「ウチ……カイジン・リサイクラーを使っても?」
「あなたが社長なのだから、当然それはご自由に」
直接招集され、直属の指揮下に組み込まれた十三人の枠は、主に報酬と条件で許可された枠に過ぎない。
だが、元々自分が持つ裁量でポイントを使う事や、外部の怪人を使う事は特別禁止されてはいない。
リサイクル・リベンジャーが経営する工房も、本人がいいのなら利用する事は許される。もちろん、更なるブラック労働で社員たちが逃げなければだが。
彼だれでなく、自分の伝手を使って手駒を用意している者は他にもいた。目立つのは個人的な手下の多いジュラシック・ハウラーやチャバネス、オギャリオンの面々だろうか。彼らは自分たちだけでもちょっとした軍団を用意できる。
これらの行為が彼らの完全な持ち出しになるかは判断の難しいところだ。イベント側から報酬こそ出ないものの、その分自由でもあるため、なんらかの利益に繋げられればいいのだ。
シータを含むバルバロッサシリーズ、怪人幹部C、そして怪人幹部Bが思うに、その条件で一番の恩恵を得られそうなのは再生怪人リサイクル・リベンジャーだった。
「ああ、ただし公開情報は気をつけて下さい。特にバージョン3関係」
「それはまあ……自信がないので、洗脳処理をお願いするかも」
「本人の意思ならいいんじゃないでしょうか」
イベントに無関係な怪人でも、事前情報を得る事は多大な利益に繋がる。インサイダーのようなものだから当然だが、そのあたりの制約はかなり厳し目になっていた。外部に漏らしたらシャレにならないペナルティが発生する情報が多過ぎるのだ。
「我々はそれでいいとして、肝心の進捗はどうなってるんですか? 期間に大幅なズレが生まれて、例の要塞も仕様変更するって話でしたよね」
「正直なところ、あまり芳しくはないようですね。増加したカウント分の強化や追加ができるかというと難しいかもしれません」
「私の戦略にも関わってくるんですが」
「といっても、最大の原因は人手不足なのでどうしようもないというか……。だいたい、あの銀タイツのせいですね。まったく忌々しい」
普段、本心のようなものを見せないシータだったが、最後の言葉だけはマスカレイドへの怨嗟が透けて見えた。
次回グランドイベントの鍵となる要塞群は、アポカリプス・カウンターの値によって投入可能な規模が変更される仕様だった。
元々予定されていた分に影響は少ないが、増加カウント分で追加された膨大な枠を消化できていない。
基本的にその建造は怪人によって行われるのだが、絶対的にその数が足りていなかった。
ある意味勝手に補充される怪人たちだが、いきなり大量に追加されるわけではなく、発生にはある程度の期間を必要とする。
そのため、要塞構築に必要な期間はあっても、人手が足りないという問題が発生していた。時期的に影響の少ないはずの南スーダン怪人引廻しですら怪人の減少は無視できず、世界中で繰り返された銀の災害によって更に大量に脱落した分を加えれば、進捗が遅れるのも当然だろう。加えて言うなら、怪人の手が必要なのは要塞建造だけではない。
怪人たちの活動自体には影響はないし、どうせ勝手に増えると、減った事自体は誰も気にしていないのだが、マスカレイドの行動は一部で無視できない影響を与えていた。
「仕方ないので緊急で建築専業の戦闘員を生産して割り当ててますが、この増産分のポイントはイベント予算から出てるんですよね。……おのれ、マスカレイド」
「勘弁して下さいよ」
第三回グランドイベントの主題はバージョン2で導入されたエリア支配システムだ。それに加えて、イベント独自の主題として支配者未確定エリアの扱いが挙げられる。それは、現在支配が確定している陸上部だけでなく、海底や空中などもそれに含まれていた。
それらの拠点となる空中要塞、海中要塞の建築は、たとえ追加分であろうとも妥協はできない。あればあるだけ、強固なら強固なだけ有利になり、軍団の展開速度にも直結する。そういうモノなのだ。
「幸いなのは、マスカレイドが自分の支配エリア拡大には消極的な事ですね。これで、今のタイミングで未確定領域に手を出されていたら、イベントそのものの大戦略が歪む」
「……それって可能なんですか?」
「実は可能なんですよ。極端な話、海底にオブジェクトを建てて宣言すれば領有は可能です」
ならば、何故怪人側で確保に動かないのかといえば、怪人自身が気付いていないのもあるが、現時点でそれをすれば仕様がバレるからだ。
だから、やろうとした怪人がいれば止められる。多少ペナルティを払おうが、その行動で支払う影響が大き過ぎるからだ。
ついでに言うなら、それをしても維持ができない。いくら攻めるに難い環境とはいえ、脆弱な防備を突かれればそれで終わりだ。
ただヒーロー側に情報を与えるだけの行動は防がなくてはならない。
「実際、南極や北極の扱いでヒーロー側に気付かれる可能性はありました。いや、気付いているヒーローはいるかもしれません」
たとえ気付いていても、それをどう活用するかは個人による。現時点で動きが見えないのは、そういった事情を含んだ結果かもしれない。
「マスカレイドがそれに気付いたら?」
「……最悪です。今のところ動きはありませんが、アレに動かれるとイベント前に勝負が決まる可能性すらある。海や空を領有して維持できるのは事実上アレだけですし」
それがイベントの詳細が最終確定する以前、アポカリプス・カウンターのロック前までならイベント内容の修正も効いた。しかし、今それをやられると何もできない。
「なんて事だ……」
巨大な規模とバージョン3の内容で怪人大攻勢の絵すら浮かんでいた第三回イベントだが、実際のところはかなり際どい立場にあるらしい。
実際のところ、それに気付いたとしてもマスカレイドが行動するかはかなり怪しい。
ポリシー的にそれをするのは敬遠するし、本人を良く知る者ならそうなるだろうと考える。また、別のヒーローに伝達して行動させる事もまずない。ただでさえ混乱し加熱する人類社会にガソリンを注ぐ事になる上に、ヒーロー勢力間でも亀裂を生みかねないと。たとえイベントの思惑まで含めて完全に看破していたとしても、対処はイベントに合わせて行うだろう。
しかし、彼らはそんなマスカレイドの性格や思惑など知らないから、不安に苛まれ、戦々恐々とするしかない。今更ながら、とてつもなく面倒なイレギュラーだった。
「なんかいい案ありませんかね? リサイクル・リベンジャー」
「そんな無茶振りされても……」
「ですよねー」
未だ与えられた力を使いこなせず四苦八苦しているというに、マスカレイド対策など無茶振りでしかない。何もなく、ただ対策だけでも無茶振りだが。
ただ、まったく何もできないわけではないかもしれない。口に出せばやらざるを得なくなるから、最低限形にできる状態にしてから……。
「ん? 何か鳴ってますよ」
「ああ、定時外報告ですかね? まさか、さっきの会話がフラグだったとか……」
「そんな馬鹿な……あれ、こっちもだ」
唐突に、リサイクル・リベンジャーの持つ端末も震えた。
とはいえ、彼のプライベート端末に直接連絡してくる者は会社の人間だけで、鳴っているのも着信音ではない。
「……緊急速報?」
それは、ほとんど発信された事のない、怪人全端末に向けての緊急連絡だった。
怪人はヒーローよりも情報伝達が遅く、緩い。重要な情報ですらニュースにならない事すらある有り様で、こんな緊急連絡などは初めてだった。
「は? …………はあっ!?」
そこには、思わず二度見するほどの大ニュースが記載されていた。いや、二度どころか何度見ても情報が脳に浸透してこない。
ふと泳いだ視線がシータへと向けば、彼女らしからぬ表情で端末を凝視していた。
「ま、まさか、そちらの連絡も……」
「……ええ、同じですね。間違いないない……やられた。フラグどころじゃない」
そこに表示されていたニュースは簡素ながら重大極まるものだった。
『マスカレイド、月全域の暫定支配権を取得』
月を支配しても、次のイベントに直結する影響はありません。(*■∀■*)







