10-3 本当の協力者
まてよ。
本来の目的は「現実世界に帰還する」だ。
帰るために「赤石を取り戻す」、そのために「犯行に使われたであろうアイテムを追う」。
それが「VLD業界に巣食う闇に立ち向かう」的な感じになってる。
一体どうしてこうなった……。
「でもお父様を問い詰めないと。
もし関わってるとしたら、ぶん殴ってでも言うこと聞かせてデッキケースを回収させるわ。」
潜入調査の次の日。
講義が終わった後オリティアを体育館裏に呼び出し、相談していた。
また物騒な事を言ってるが、お父さんが関わってるなら確かに情報は得やすいのかもしれない。
「でもお父様に会うのは至難の業よ。世界を飛び回ってるし。」
「へー、そうなんだ。」
「それに……家出同然の私なんかに会ってくれないだろうし。」
「あー、そういやそんな関係だったな。」
前に話してくれたが、オリティアは一人前のデュエリストになると言い家から出たそうだ。
資金援助はしてくれるが接点は一切無いらしい。
お父様が厳しく、デュエルさせずに剣術・魔法を叩き込まれたと言っていた。
今考えると、デュエルが危険なものだと知っていたから遠ざけた、とか……?
「強行突破ね。」
「またその方向か。勝算はあるの?」
「お父様に会うには夜中侵入しても意味ないし……会社の警備は最高ランクね。」
「勝ち目は無いってことか。じゃあ知恵を借りてみるか? 博士に。」
「そうね。リクシンの頼みならなんとかなるかも。」
こいつ、ちょっと期待してたな。
使えるものは何でも利用する賢い女め。
ヴェアえも~んってのと違うんだぞ。
まあ手違いで俺を召喚したんだから、これくらいのわがまま聞いてほしいけどね。
正直、ここが正念場だと思う。
◆◆◆
「で、何で皆いるの。」
その日の夜。
魔女の森に入るには、人目の付かない夜の方がいい。
いざ行こうとしたその時、オリティアその他二名が俺の部屋にやってきた。
「……博士のところに行くんだって? ……ずるい!」
「私も! お役に立ちたいです!」
「ごめん、情報が漏れた。」
オリティアが手を合わせて俺に謝る。
タタミとクラウは行く気満々だ。
……しかし、どこまで話した?
「おい、彼女らはこれから行くところを知ってるのか?」
オリティアの近くに行き、コソコソ喋る。
「博士の家に行く、って言っただけよ。」
「それがどういうことか分かってるのか?」
「ええ。」
オリティアが俺から離れた。
「これから先、お父様に会うとしたらどんな危険が待ってるかわからない。
もしかしたら組織ぐるみで私たちは消されるかもしれない。
それでも、あなた達は行くの?」
「……今更それを聞くの?」
「私はリクくんの行く場所ならどこへでも行きます。」
「でしょうね。ほら、そろそろこの子達に全部話す頃じゃない?」
そうだな。
ここまでついてきてくれてるのに、今更隠し事なんて良くない。
彼女らにも知る権利はある。
「……全部。」
「はい。覚悟は出来ています!」
「覚悟。そうか、薄々隠し事に気がついてたんだよな。じゃあこれから向かう先で全部話すよ。
これから向かう……魔女の森で。」
「「…………無理無理無理無理!!」」
二人からの拒絶反応。
どんだけトラウマなんだよあの森は。
昔話を語ったと言うおばあちゃんの話、聞いてみたいわ。
◆◆◆
市街地を抜け、魔女の森に入る。
博士には連絡済みなので、相変わらず虫すらいない平和な山道。
しかし俺の両腕はガッツリホールドされている。
右にタタミ、左にクラウ。
さらに俺のパーカーのフードをオリティアに掴まれてる。
時々引っ張られて苦しい。
「オリティアは慣れたんじゃないのかよ。」
「な、慣れるわけ無いでしょ!」
「……本当に、何もいない……?」
「ちょっと歩くの早くないですか!?」
俺が転ぶと全員倒れるな、これ。
俺らは団子状態になりながら森を進む。
転ばないように歩くのが精いっぱいでおっぱいの感触に浸れなかった。
「よし、ついた。」
「……すごい。こんなところに家が……」
「立派な家ですね……。」
深い森に見えるが、いつも通りちょっとした林道を通るだけで着く。
森のなかに突如現れる建物、博士の家についた。
玄関で鉄の取っ手みたいなやつをコンコンっと鳴らす。
ガチャ
「あらぁ。今日はずいぶん多いのねぇ。」
タタミとクラウが固まる。
オリティアも一瞬引くが、すでに顔見知りだ。
「ご、ご無沙汰してます。ヴェアロック様。」
「オリちゃん、久しぶりね。そちらの固まってる二人は?」
「こいつらは――ああだめだ、絶望を感じたクリリンと悟飯みたいになってる。
中に連れて行こう。」
あまりの衝撃だったのか、あ……あ……としか言えない二人。
オリティアと俺で腕を抱えて中に入った。
暖炉のある、いつもの部屋へ。
◆◆◆
「さて、どこから話そうか。」
「その前に……」
オリティアがクラウの顔の前で手を振った。
クラウは反応がない。
「え、そんな衝撃を受けることなの?」
「当たり前よ。しかもあの森を抜けた後だから衝撃は倍よ、倍。」
オルモアが人数分のココアを用意してくれた。
知ってる顔とココアが出てきて、二人とも少し落ち着いたようだ。
「じゃあ、ゆっくり話すから覚悟はいい?」
「これ以上覚悟が必要なんです!?」
「……お手柔らかに。」
二人には、オリティアと同じようにこれまでの経緯を説明した。
博士の正体。
俺の正体。
俺の目的。
俺は赤石を国に返したいのではなく、犯人から奪って自分のために使いたいということ。
その情報収集のために、二人に近づいたということ。
これを聞いて俺のことが嫌になるならそれでしょうがない。
彼女たちはどう思うだろうか?
「どうも何も、私はリクくんのしたいことを手伝うだけです。
命をかけて助けていただいたのは事実ですし、VLDが抱えてる問題に関わる事が出来ました。
何も変わりませんよ。」
「……ウチは今、すごい興奮してる!
……ジャーナリストって『知りたい』って気持ちをエネルギーに動いてるんだよ?
……こんなにりっくんの事を『知りたい』と思ったんだから、どこまでも追いかけるよ!」
「そうか……二人とも、ありがとう。」
「それにしても伝説の魔女様がまだ存命だったとは驚きました。
これはリクくんが持ってる不思議なマジックアイテムも頷けますね。」
俺は改めてアイテムの詳細や作る経緯、俺の世界の話をした。
久々にできる、ありのままの雑談。
肩の荷が降りたような気がして、気軽に話せた。
もう元の世界の言葉がチラッと出てきても不思議がられない。
皆に話せてよかった。
「……魔女さまは……ずっとここに住んでたんですか?」
ちょっとビクビクしながら、タタミが博士に質問をした。
「そうねぇ。外に行ってもやること無いし。」
「オルモアちゃんはずっとここにいたんですか?」
「オルモアはねぇ、三年前くらいかしら?」
「……どうやってここに辿り着いたの……?」
タタミがオルモアに尋ねる。
確かに、なんでこの子は助手になれたんだろう?
「たどり着いたんじゃないわよぉずっとここにいたんだから。」
「え? どういう意味ですか?」
オリティアが質問した。
「今年で三歳になるってこと。」
え! マジで!?
わかったぞ、こういうときファンタジーでは……
「もしかしてオルモア。お前ホムンクルスとかそういう類の。」
「当たり~。りっくんよく知ってるわねぇ。この子は私が作った魔法生物なの。」
皆から、えーー!という驚きの声。
確かに病弱そうなのに力が強かったり、人形みたいな雰囲気はあった。
作られた生命。
生まれてきた意味を問うたり、「これが涙……」みたいな展開はあったのか。
あとで聞いてみたい。
「……何で作ったんですか?」
グイグイ行くなぁタタミは。
できちゃった結婚した夫婦に聞くんじゃないんだからさ。
それは悲しみを背負う場合もあるから、けっこう慎重にならないと。
「転移装置の動物実験が終わってぇ、人間で実験したかったの。
それに助手も欲しかったし、人体錬成にも興味があったし。」
人体錬成って聞くと禁忌しか思い浮かばない。
この世界ではメジャーな魔術なのか。
それとも伝説の魔女だから出来る禁術なのか。
「やっぱり人間の形にしたほうが実験が捗ったわねぇ。
本当、オルモアには感謝してるわぁ。」
「でも勇者様は男性ですよね? 男性を転移したいのに女性を作ったんですか?」
「え?」
「ん?」
「オルモアは……『ついてる』わよぉ。」
ガタッ!!
「え!? どうしたのリクシン、急に立ち上がって。
確かに驚きよね。オルモアちゃん……オルモアくん?」
「心の性別まではわからないわねぇ。どうなのぉオルモア?」
「私は、その、別に。」
「あぁでもぉ、りっくんが気になるって言ってたし、女の子かなぁ?」
「なんですって! りっくんが気になるとは詳しく聞かせてもらいますよ!」
「違、私は、気になるって、そういう……」
「……耳が真っ赤になってる。……男の子が男の子を……これは……ふへへ……。」
「私は『ついてる』って言っただけで男の子では無いわよぉ。
ちゃんと女性の体の形も再現してるし、性別が実験に影響しないようにしたの。」
「女性の体? そういえば肩幅とか骨格は女性らしいわよね。胸も……無い人よりは。」
「……ウチよりあるかも……って言わせないで!」
「あのー、リクくん? 大丈夫ですか? ずっと立ってますけど。」
「はっ! うん、大丈夫、びっくりしたなぁ。ははは。」
一瞬意識が飛んでた。
どっちとも取れるハイブリッドってことだな!
てっきり男の娘かと思って焦った。
あれか、どっちかというとフタナリってやつか。
本当、異世界って怖……面白い。
そんな雑談もしながらのんびり作戦会議。
次にオリティアのお父様がこの国に帰ってきたときが勝負。
潜入用アイテムを駆使して、お父様が在社している時にカチコミを入れる。
この街に支社があるみたいで、そこのスケジュールはオリティアが押さえている。
連絡が入り次第直接会いに行き、場合によっては俺の持ってるデッキケースを使う。
黒の魔術団ケースの元になったプロトタイプ、それがこれ。
ケースを魔改造しているので『黒の魔術団改造品』と似たような効果も出せるみたい。
強制デュエルさせて洗いざらい吐いてもらうという作戦だ。
お父様がデッキを持ち歩いている可能性はあるらしい。
そのお父様に勝ちたくてデュエリストの道を選んだのがオリティアだ。
デュエルできれば俺がなんとかするので、そこに賭けることにした。
なんとなく流れが決まったとこで、俺らはこの家に泊まることになった。