7-3 漫画の主人公
「俺のターン、ドロー!!」
この世界に来て初めてデュエルした時のように。
元気に声を出す。
俺は今、主人公だ。
カードゲーム漫画のように、自分の信念を貫くヒーローになりきるんだ。
「メインフェイズ!
[スケルトン魔法使い]のスペル枠二個使用、重スペルカード《リビングデッド》!!
前のターン倒された[ブラックスカル・ドラゴン]を一ターンだけ呼び戻す!!」
[スケルトン魔法使い]が呪文を唱え、俺の後ろに巨大な魔法陣を展開させる。
そこにバラバラになった骨の残骸が集まる。
集まった骨は形成され、[ブラックスカル・ドラゴン]になった。
「そのままスカルドラゴンのスペル枠を二個消費、重スペルカード《髑髏の復活》!
倒された下級スケルトンを二体まで復活させる!!」
「また復活かぁ!? クソ、めんどくせぇ!」
「[スカルオウル]と……[髑髏の調教師]をスペル召喚!!
そして[髑髏の調教師]のスキル! [サンブレイズ・ドラゴン]のコントロールを得る!!」
[スカルオウル]によって、全てのユニットが『種族:スケルトン』になる。
肉が消えて朽ちていった太陽のドラゴンを、調教師が奪い取る。
「おっとぉ、そう来ると思ったぜ。対抗! 重スペルカード《大戦の残火》!
このターンバトルフェイズをスキップして、お互い1,000ダメージだ!」
「くっ……やはり持ってたか。だったら――」
「まだだっつーのバ~カ。さらに対抗! 装備スペル《バーサーカーカウル》!!
装備したユニットは攻撃力に守備力数値分上乗せされるが……
ターン終了時、持ち主に守備力分ダメージだ!!」
ガシャン! ガシャン!
骨になった[サンブレイズ・ドラゴン]だが、近未来の宇宙船のような甲冑が装備される。
見た目はSFストーリーに出てくるロボットみたいだ。
ヤクザは俺がコントロールを奪うことを見越し、ドラゴンに装備をさせた。
「そのままこのターンで死ね!!」
「だけど……これでドラゴンは俺のものになった。次はこいつを通常召喚!
手札から下級ユニット[スケルトン精鋭戦士]! 召喚時のスキル!
味方ユニットを一体破壊することで『効果破壊からも復活できる効果を得る』!」
「チッ、そんなユニットがいたか。」
スケルトン重戦士と同じ見た目だが、骨の色が青い。
[スケルトン精鋭戦士]はスケルトン戦士などと同じ戦闘破壊からの復活能力を持っている。
しかし味方を犠牲にすると追加で能力を得ることが出来るのだ。
「もちろんスキル発動、[サンブレイズ・ドラゴン]を破壊だ。」
[スケルトン精鋭戦士]が炎のドラゴンに剣を向けると、ドラゴンは光となり消えていった。
これで装備スペルによるデメリットも無くなった。
「これでメインフェイズ終了……。」
「おら、何も出来ずにこれで終わりだろ?
バトルフェイズは無ぇんだから、早く終了宣言しろよ!!」
「おいおい、まだ俺のターンは終了してないぜ?」
「はぁ!?」
「[ブラックスカル・ドラゴン]のもう一つのスキルを発動!!
『破壊された味方を、エンドフェイズ時にスキル召喚する』!!」
[ブラックスカル・ドラゴン]は全体破壊効果の他にもう一つスキルが有る。
厳密に言うと『味方の種族:スケルトンに対し、効果破壊からの復活スキルを与える』能力だ。
本来は自分の効果で破壊されたスケルトンたちを、復活させるのに使う。
守備力が低いのは骨だからではなく、スキルが強いからだ。
「エンドフェイズ時、『種族:スケルトン』の破壊されたユニットは復活する!」
「……まさか!」
「そう、[スカルオウル]の効果によってスケルトンになった[サンブレイズ・ドラゴン]復活!」
カッッ!!
再び眩しい閃光とともに、太陽のドラゴンが現れた。
しかしその姿は朽ち果て、ほぼ骨だけになっている。
「俺のフィールド上で破壊されたならば、俺のフィールド上にスキル召喚する!」
「馬鹿な……ドラゴンが二体……どう戦えば……!」
「は~? 馬鹿かお前。お前のターンが回ると思うなよ。」
ヤクザの口調を真似てみた。
「[サンブレイズ・ドラゴン]の召喚時効果があっただろ? 忘れたのか?
[スケルトン精鋭戦士]を破壊してお前に5,000ダメージ!!」
「ナニィィィィ!!」
ドゴォオオオオ!!
ドラゴンから放たれた炎で、相手のシールドがぶっ飛ぶ。
ヤクザは爆風に後ずさりする。
「エンドフェイズは続いている!
破壊された[スケルトン精鋭戦士]をエンドフェイズ中に復活させる!
ここで[スケルトン精鋭戦士]のスキル発動! [サンブレイズ・ドラゴン]を破壊する!!」
「ま……まさか!!」
「アニキ!!!」
「そのまさかだよ。
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!
[スケルトン精鋭戦士]復活! ドラゴンを破壊!!
[サンブレイズ・ドラゴン]復活! 5,000ダメージ!!」
バゴォ!! ドゴォ!! バゴォ!! ドゴォ!!
ドラゴンが復活するたび、口から隕石のような炎の玉が打ち出される。
何度も、何度も。
すでにシールドは無いが、ヤクザが爆煙で見えなくなるまで完膚なきまでに打ち込んだ。
今までの怒りを込めて。
「ぐああああああああ!!!」
「ドロー!モンスタ……もういいか。」
もうやめて!と止める人がいないので、自分で止める。
YOU WIN
「よっしゃあ!!!」
おもいっきりガッツポーズ。
本来ならこれもマナー違反、"ジャッジキル"スレスレの行為か?
◆◆◆
カードゲーム用語【ループ】。
あるカードとあるカードの効果を組み合わせると、永遠に処理が終わらないコンボ。
カードゲーマーは新しいカードを手に入れると、絶対に考えてしまう。
開発者はカード発売時に気が付かないため、天才プレイヤーが後々発見することがほとんど。
俺ももちろん、この世界でループが発生するカードを探していた。
見つけはしたが、最上級二体揃えるなんてロマン溢れて使えたものではなかった。
まさか実現できるとは。
「ガハッ……グッ……」
「アニキ!!」
デュエル空間は消え、元の路地裏に戻っていた。
倒れているヤクザアニキに近寄っていく手下ども。
「くっそてめぇ! 殺す!」
手下どもが俺に向かって指を指す。
ボウガンのような魔法を出す気か。
「ひれ伏せ」
ガツン!!
「ウガッ! イテぇ……」
「ヤクザたちの体の自由を俺にくれる」という賭けに勝ったわけだ。
三人には顔を地面に付けてもらった。
「くっそてめぇ……」
「覚えてろ……絶対ぶっ殺す……」
まだこいつらは自分の立場がわかっていないらしい。
「何だ? もう一回デュエルしたいって?
馬鹿か。するわけねーだろ。『お前らは俺にデュエルを申し込むことが出来ない』。」
「グゥッ!」
命令は絶対だ。
自分たちがクラウにしたことを思い出せ。
「てめぇ! 絶対殺す! 殺すッ!!
逃げても無駄だ! 俺の舎弟を使って地獄の底まで探し出しテメーの……」
「はぁ……。もういいからそういうの。お前らの顔なんて見たくないわ。」
俺は大きく息を吸った。
「『彼女への命令をすべて解き、今ここで起こったすべてのことを忘れ、
今後一切自ら・あるいは手下を使って復讐することを禁じ、
今すぐダッシュで遠くまで立ち去れ』!
『今すぐに』!
『今すぐに』!!」
ヤクザ共はスッと立ち上がり、俺達の後ろへと走っていった。
「グッ……ウウウウウーーーー!!」
声にならない声を発しながら。
ヤクザがいなくなると、クラウが抱きついてきた。
「ふ……ふえぇぇぇぇーーーー」
泣いている。
ごめん、正直俺も泣きそう。
「ごめんなさい、ありがとう、ありがとうございます!」
「いやいや俺こそ何も出来なくてごめん。怖い思いさせてごめん。」
今更になって足に来た。
足が震えている。
壁に背をつけ、落ち着くまでしばらくそこにいた。