7-1 普段通りの自分
ブワーーーーーーーー……
あたりの景色が変わっていく。
今回は溶岩の池に浮かんでる、巨大な闘技場のような場所だ。
心なしかカラッと暑い気がする。
「スーーーー……ふぅ。」
深呼吸する。
落ち着け。
ここで負けると俺達は確実に殺される。
運動もできない、勉強も大してできない俺に、デュエルで与えられたチャンス。
デュエルならこんな相手、負ける気がしない。
「……先攻もらいます。ドローフェイズドロー。
メインフェイズ、[スケルトン戦士]を攻撃態勢で召喚します。エンドフェイズですどうぞ。」
パチッパチッ
手札をシャッフルするたびに何故かパチパチ音が鳴る。
カード弾いて音を立てている。
いつも通り。
現実世界の俺たち。
店舗大会の決勝戦、あの雰囲気を思い出せ。
「ああ!? なんだテメー、すぐサレンダーしろやゴラァ!!」
対戦相手のヤクザアニキが、持ち場を離れてこちらへ来ようとする。
ブブーー
謎の電子音とともに、ヤクザの行動が止まった。
「デュエル中に席を立つと反則負けです。それでもいいですか?」パチッパチッ
「はああああ~? うぜえ! 絶対殺す!!」
デュエルを開始したらこっちのもの。
お互いがノーゲームを宣言しないと引き分けにならない。
デュエルが終わるまで俺に暴力を振るうこともできないのが「誓約」だ。
次のヤクザのターン。
しぶしぶ下級ユニット[ヴァルカン・クロコダイル]を召喚。
俺の[スケルトン戦士]に攻撃し、破壊する。
クロコダイルのスキルを含めると、シールドライフは23,000になった。
「俺のターンドローします。
メインフェイズ、下級ユニット[スケルトン重戦士]を攻撃態勢で召喚します。
バトルフェイズ入ります、[スケルトン重戦士]が[ヴァルカン・クロコダイル]へアタックしたいです。
対抗はありますか?」
ノックをするように、透明テーブルに置かれたサモンカードをコンコンっと叩く。
「ねーーよ!! さっさとしろやぁ!! ウゼェことしてんじゃねぇ!!」
「ではお互い攻撃力3,000なので相打ちです。
[ヴァルカン・クロコダイル]のユニット破壊時効果により、俺のシールドが1,000削られます。
で、えーーーーーっと、少し長考します。」パチッパチッ
カードゲーム用語?【シャカパチ厨】。
常に手札をシャッフル。
常にカードが擦れてパチパチ。
現実世界のカードショップ大会で絶対に現れる、自称トーナメント思考の連中。
別に煽ってる訳じゃなく、本人たちは手札を悟られない戦術としてやっているようだ。
しかしその冷静そうな言葉と、常にパチパチ音が鳴るところがどうも気に障る。
それを今再現して、自分のペースに持ち込む作戦。
「先程エンドフェイズ時に復活した[スケルトン戦士]は攻撃しません、ターンエンドですどうぞ。」
右手をフワッと相手の方に差し出し、相手のターンだということを示す。
「うっぜえええええ!!!」
どうやら効いてるらしい。
相手はかなり冷静さを欠いているようだ。
ただこの戦い方、思った以上に俺も冷静になれる。
さっきは胸糞悪くなりプッツン切れて、相手を殺したいという気持ちまであった。
しかしいつも見ていた光景を再現することにより、いつも通りの俺が帰ってくる。
あくまで、これはカードゲーム。殺し合いじゃない。
自分の能力を最大限に引き出し、ぶつける。
ただ、さっきから手の震えは止まらない。
こんなに手が震えるのは、人生初の店舗大会に参加した時以来だ。
落ち着け。常に最善の手を考えろ。
次はヤクザのターン。
ヤクザは[ヴァルカン・エレメント]を"攻撃態勢"で召喚して終わった。
エレメントはスペル枠が五個もあるし直接ダメージスキルまである反面、攻撃力はゼロ。
間違いなく罠だろう。
ヤクザはエレメントの維持費1,000ダメージを払って、シールドライフ24,000。
俺はシールドライフ22,000。
「俺のターンドローします。メインフェイズ、下級ユニット[スカルオウル]守備態勢で召喚。
すべての場のユニットは『種族:スケルトン』になる常時効果スキルが発揮されます。」
[スカルオウル]のスキルにより、相手の燃え盛る黒い人形は棒人間のようになってしまった。
しかしヤクザはもう聞いていないようだ。
機嫌悪そうに手札を見つめ、貧乏ゆすりしている。
「[スケルトン戦士]が[ヴァルカン・エレメント]へ攻撃します。対抗はありますか?」パチッパチッ
「甘ぇよ! スペルカード二枠で装備重スペル《残弾魔弓》だ、死ね。」
「自分ユニットの攻撃力を『現在自分の場に残っている火属性スペル枠×1,000』にするスペルですね。
では攻撃力3,000になった[ヴァルカン・エレメント]に対してスケルトンは2,000なので破壊されます。」
[スケルトン戦士]がエレメントへ斬りかかる。
しかしエレメントの周りに「炎の矢」が三本浮かび、スケルトンが撃ち抜かれた。
装備枠で一個使われても、エレメントの攻撃力が常時4,000以上になるカード。強い。
矢が一本飛んできて、ダメージを食らってしまった俺のライフは21,000。
「では[スケルトン重戦士]のアタックは? 攻撃力3,000相打ちですが。」パチッパチッ
「そっちはスペル《ファイアウォール》で確実に殺す!」
「[スカルオウル]の対抗、スペル《魔力税》です。
そのスペルを『追加で三枠払ってもらわないと無効化』する効果ですが、もう払えませんよね?」
「あーそうだよ!!」
燃え盛る黒い棒人形の前から炎の壁が消え、[スケルトン重戦士]が斬りかかった。
棒人形の周りの矢は二本になり、矢を弾きながら重戦士が叩き潰す。
「エンドフェイズ時、[スケルトン戦士]の任意効果起動します。戦闘破壊なので、スキル召喚します。
ターンエンドです、どうぞ。」
「あーーーもううぜえ早く死ねやそのスケルトンみたいになってよお!!」
なんか大きい声で喋り出した。
確実にイライラしてる。
そのまま大きい声で彼のターン。
中級ユニット[ヴァルカン・ドラグーン]を召喚し、俺の[スカルオウル]に攻撃してきた。
意外と冷静にスペル要員を潰してくる。
やはりそう簡単には行かないか。
ドラグーンのスキルで地味に削られ、俺のライフは20,000になった。
「俺のターン、ドローします。」パチッパチッ
相手の手札は3枚。
俺の手札は5枚。
あえて相手のライフを削らないことにより、手札を増強させない。
おそらくライフを削るカードしか入っていないため、手札増強カードは無いはず。
一度相手のデュエルを見ているからわかる。
フェアじゃないが、それすらも利用して確実に倒す。
「下級ユニット[髑髏の調教師]を守備態勢で召喚します。そしてスキル発動。
自身を破壊することで、1ターンだけ[ヴァルカン・ドラグーン]のコントロールを得ます。」
「させるわけねーだろ! 対抗《炎の投げナイフ》! 対象ユニットに2,000ダメージ!!」
セクシーなスケルトンお姉さんがドラグーンを誘惑する。
しかし無残にも、小型竜に乗ってる上の人が燃え盛るナイフを二本投げ、調教師は消えていった。
「まあ、でしょうね。ターンエンドです。」
相手ユニットを強制的に味方にする……コントロールを得る。
それすらもイライラさせる作戦ではある。
「はぁ……ホントつまんねぇわお前。」
「アニキ~、早く終わらせましょうよ。あいつ全然攻撃して来ないじゃないですか~。」
「まぁ、今あいつの場にはスペルを使えるユニットがいない。ボコって終わりだ。」
まずい。
何か来るのか?
相手の手札は二枚だし、魔力的に最上級出せるとしてもまだ1ターンほど早い。
俺の読みだといくら直接ダメージカードがあっても、20,000からは削られないはず。
冷静に考えてはいるが、全てが思い通りに行くとは限らない。
手札を持つ俺の手は力んでいた。