6-1 隣町へ
デート当日。
この日まで休みが無かったため、服装は商店街で調達した。
黒いワイシャツと暗い青のネクタイ。
グレーのジーパンっぽい素材のズボン。
薄い灰色の肩掛けバッグ。
……やっちまった。
「オタクは黒く染まってしまう」
いやでも異世界のトレンドとか知らないし、もしかしたらこっちではイケてるかも?
もっとシルバー巻いたほうがいいのかな。
「あ! お待たせしました~。」
駅前で待ってると、俺が来た方と反対側からクラウがやってきた。
「い、いやいや待ってないよ…………!!」
な……
なんだこいつ……"殺し"に来たか?
童貞を殺しに来たか?
えろいメイド服みたいに胸元が強調された服。
お腹部分はキュッとしていてスカートは控えめなフリフリ。
7分袖だけど肩も鎖骨もがっつり見えてる。
全体的にベージュ・茶色・ちょっと薄いピンクで構成されている。
普段制服しか見てない俺を、確実にトキメキ死させるため着てきた服としか思えない。
「あれ……? なんか服装変でした?」
「いや! そんなことないよ! か、かわいいなーとオモッテ……」
「またまた~、褒めても奢りませんよ?」
素直に褒めようと思ったらドモってしまうDT。
それに対し扱い慣れてるJK。
俺は生きて帰れるんだろうか。
「駅」と呼んでいるが、この世界には列車は走っていない。
この駅は「テレポートポータル」。
昔ダンジョンに設置されていた「テレポートする仕掛け」を利用して、離れた街まで飛ぶ仕組みがある。
それを各駅に設置。利用者は最寄りの駅までひとっ飛び。
便利な世界だ。
が、俺らはテレポートを利用しない。
俺がどうしても「バス」を利用したかったからだ。
この「学院前駅」から隣町までバスが走っていて、前から乗りたいと思っていた。
博士はこの世界に「ジドウシャ」はないって言ってたが、バスを見て意味がわかった。
あのRPGに出てくる「ホロ馬車」の親玉みたいなのが道を走っている。
デカくて長い。タイヤがたくさんついて芋虫みたい。馬がいなくて自走してる。
たしかにあれは自動車とは似ていない。
中はどうなってるか気になった。
「さあ、このバスです。」
「おお! 近くで見るとデカイ! ……あ、ごめん田舎者みたいww」
「いいんですよ初めてなら。さあ乗りましょう。」
ページュ色した「ホロ」に覆われたドーム部分の、一部分が開いて中に入った。
……安心したというかガッカリしたというか。
目の前にICカードを通す機械みたいなモノがある。
座席は簡潔な二人がけソファーが複数、2列に並んでいる。
これ普通にバスじゃん。
「そこにキャッシュカードを通すんですよ。」
「お、おう。」
だろうな。
ICカード認識端末のようなアイテムの上に、キャッシュカードを触れて通す。
そして一番後ろの席に、クラウと一緒に座る。
座席に降車ボタンまである。まんまだよ。
ただ、進み始めたバスの無振動具合にビビる。
あんなにタイヤついてるのにどうなってるんだ?
この世界の道路は舗装こそされてるが、アスファルトみたいにキレイではないのに。
しかしまあ、振動しない、「ホロ」部分は中から透けて景色が見える、隣には美少女。
いい一日になりそうだ。
◆◆◆
隣駅までの道のりは、民家、畑、林、民家……が続く普通の流れだった。
小動物はいたが、モンスターの気配は無い。
今住んでる街は学生大会の開会式やるくらいだから都会かと思ってた。
しかしバスに乗って少し離れてみると、元の世界の田舎街レベルだったことがわかる。
「ではまず、行きたいっていってたカードショップ行きましょう。」
「お、行こう行こう!」
隣町の駅からちょっと離れたところの、バス停で降りた俺たち。
この付近に大きなカードショップがあるらしい。
「あそこです。」
「ああ、あの建物か。何階?」
「何階って……全部ですよ?」
え!?
クラウが指差してる建物は、田舎のデパートサイズ。
カードショップと言えば、寂れたビルの一テナントにあるイメージ。
あんな建物に何が詰まってるんだ?
俺は田舎者みたいに周りをキョロキョロして歩く。
いや、なるべく首を動かさず目だけで追うようにはしてるけど。
よくわからない建物や店ばっかりだ。
「あれ? もしかしてフォロウさん?」
ん?
カードショップの建物に近づくと、クラウが俺に聞いてきた。
誰だよフォロウって。
クラウは入口の近くで上を見上げている男性に駆け寄っていった。
俺もついていく。
「やっぱりフォロウさんだ! こんにちは。」
「やあ。偶然だね。こんにちはクラウ。」
誰だこのイケメン。
ノッポさんみたいなツバが長い帽子を深くかぶってる。
服装もシンプルな長袖長ズボン。
でも溢れ出るイケメン臭。髪が金色で肌が白い。
俺より背が高い上にイケボイス。
この子とどういう関係よ!
「リクシンさん、前に言ってませんでした? フォロウさんに会ってみたいって。」
「フォロウ……あ! あのフォロウさんか! 初めまして!」
思い出した。
全国学生DPランキング一位。フォロウ・ランラインさんじゃあないか。
まさかの有名人。
誰よこいつ、って思ってたけど一気にテンション上がってしまった自分が悲しい。
「フォロウさん、こちら54期に編入してきた外国人の、リクシン・ニシオさんです。」
「ああ、君があの。」
え、俺この人にも知られてたの?
目立っちゃ駄目とは何だったのだろうか。
「ああ、はい。よろしくお願いします……」
そうだ!
なんの前触れもなく突然だが、ここであのアプリの登場だ。
パンパカパンパンパーラーラーー!!
《赤石探索アプリ》~!
博士の発明品。
「スマホ」内部に赤石に反応する魔術センサーを埋め込んだ事で、赤石が近くにあれば反応する。
怪しい人物に会った際は、それを見て所持しているかどうか確認する。
俺はカバンに手を突っ込みスマホを確認する。
……まあ、反応あるわけないか。
アプリ作ってもらって何だけど、普通持ち歩かないよな国宝を。
「よろしく。君とはいつか話をしたいと思っていたんだよ。」
「そ、そうなんですか? 俺なんてそんな……」
「うーん。何かこう、君から不思議な力を感じると言うか?」
ギクッ。
白石の事か? 異世界人の事か?
「あはは、そうですかねぇ。でも、俺もいつか強くなって、フォロウさんと戦いたいっす。」
「本当かい? それはとても楽しみだね。」
そう言って帽子を取る。
うわあ……
わかってはいたけどなんだこの完璧な造形は。少女漫画か。
なんかこう、cv:石田彰って感じ。
「これからもよろしくね。」
「よ、よろしくです!」
そう言って握手を交わす俺ら。
クラウにも丁寧に挨拶し合っていた。
そして石田は駅の方へ歩いていった。
ショップに用事があったんじゃないのか。
「クラウってフォロウさんと親しいの?」
「親しいってほどじゃないですけど。お父様の会社関係で何度もご一緒したことがあったんです。」
「へー、すごい人脈だね。」
「そんなことないですよ~。」
オリティアとは大違いだ。
あの子は上辺だけの付き合いみたいなのが多そうだからな。




