5-2 水魔混合
「水属性サモンカードを使い、上級ユニット[仄暗い水の底の主]召喚!!」
ポチャン……
地面にできた魔法陣に、水の落ちる音。
魔法陣はみるみる水没してしまい、大きな水たまりができた。
このフィールドは森の中で太陽光がそこまで届かない。
さらに水たまりは濁っていて底が見えない。
スッ
!?
水たまりの真ん中から、真っっっ黒い"子供の手"が出てきた。
めっちゃビビった。
そして水の音もなく、スッと姿を表し水の上に立つ子供。
まっっったく光を反射しない全身真っ黒な子供。
顔も見えない。
少し頭を傾けたまま動かない。
「あーこれあれだ。夜中に後悔するやつだ。夢に出てくるやつだ。」
いつか見たホラー映画を思い出してしまう。
観客もドン引き。
見た目が怖すぎて直視できない。
でもスペル枠がいいんだもんこいつ。
[仄暗い水の底の主]
攻撃力2,000 守備力4,000 スペル枠:水属性2個、魔属性2個
「えっと、魔属性スペル《一寸の死体にも五分の魂》! [ボム・ウニラ]を過労死させるよ!」
この黒い子供は、水ユニットなのに魔属性と水属性のスペル枠を2つずつ持つ。
スペルにより[ボム・ウニラ]がまたまた復活。
そして。
「[ボム・ウニラ]、アサシンに攻撃! 自爆特攻!!」
うにーーーーー!!!(覚悟の声)
攻撃力0のウニがアサシンに立ち向かう。
もちろん三枚におろされて終了。
相手の攻撃力2,000分の反射ダメージを、俺のシールドが食らってしまう。
しかし目的通りウニラのトゲが相手のデッキケースを襲う。
「なんと! 上級サモンカードが!!」
「よっしゃあいいの落ちたぜ!! しかも相手の場には五体のユニットがいて召喚上限!
これで上級ユニットは来ないな! はっはっはターンエンド!」
そんなことを言ってフラグを立ててみる。
説明口調で喋ったとおり、このカードゲームは場に出せるユニットの数が決まっている。
なので実際このゲームでは「ウィニー」デッキの選択肢は得策ではない。
ウィニーという言葉が生まれたカードゲームでは、序盤に死ぬほど小型ユニットを出してくるからだ。
あ、ちなみに。
召喚しないとユニットが存在したことにならないこのカードゲーム。
「墓地肥やし」ができない。
なので墓地(捨て札)利用系カードは扱いがムズく、それを使ってる俺も選択肢が得策ではない?
「オラのターン! ドロー! 残念でしたなぁ。」
「おおっといきなり否定!!」
うん。知ってた。
手札7枚もあれば対策カードくらい引いてるだろ。
しかも対抗のカウンタースペルカードも絶対持ってると思い攻撃もしなかった。
いま俺のユニットを除去されるのはまずい。
「『場のゴブリンを一体回収して召喚できる』スキル召喚発動!!
上級ユニット[ゴブリン盗賊団の団長]!! さらに味方の装備を移せるスキルも発動!!」
パシュゥゥーーーー
[ゴブリンの魔法使い]が煙に巻かれ消えた。
そこに、ゴブリンなのにイケメン。
アラビアンな服に謎の細かいマジックアイテムをつけた、団長らしい出で立ちのゴブリンが現れた。
さらにいつの間にか、魔法使いが持っていた《アフタヌーンスター》をアサシンが持っている。
[ゴブリン盗賊団の団長]
攻撃力6,000 守備力3,000 スペル枠:土属性3個
「[ゴブリン盗賊団の団長]スペル枠2個使用! 重スペルカード《アース・クエイク》!!」
ゴゴゴゴ……ドドドドガガガガ!!
団長からスペルが放たれると、細かい地震とともにダイスが現れた。
ダイスが振られ、出た目はまさかの「6」。
その×1,000のダメージを「土属性以外」に与える。
揺れが大きくなる。
「それはまずい! 対抗水属性スペル《ウォーターミラー》!!
ユニット一体のダメージは、水に映った幻影が肩代わりする!!」
黒い子供がもう一人、水から出てきて消えていった……気がする。
本当にスペル効果なのか、ただの心霊現象なのか、もう一度ご覧いただきたくなる。
とにかく仄暗い子供は守ったが、ナマコはやられてしまった。
なまーーーーーー!!(叫び声)
「ではさらに、団長とアサシンのスペル枠二個分で重スペルカード《アース・エナジー》!
『全ての土属性ユニットの攻撃力プラス2,000』!!」
「くっ……」
「攻撃力8,000になった[ゴブリン盗賊団の団長]で[仄暗い水の底の主]にアタック!!」
「対抗! [仄暗い水の底の主]スキル発動! 攻撃してきた相手を一回だけ手札に戻す!!」
「それはちゃんと確認して知っていた! 対抗スペルカード《連帯責任》!!
手札から三枚召喚カードを捨てないとそのスキルは無効化される!!」
「こっちもだよ! 対抗魔属性スペル! 《魔力税》!!
スペル枠を追加で三個支払わなければそのスペルは無効化!!」
「持ってたかーー!!」
スペル枠、団長は三枠使い切った。
アサシンたちも一体は使い切り、一体は装備に潰れてる。
この無効化互換系スペル、聖属性の次に闇属性が強いと思う。
ポチャン……
また水の音。
攻撃をしようと前に出た団長の前に、小さな水たまりができる。
団長がジャンプで交わして前に出ようとすると……
ゾワワワワーーーーーーッ!!
真っっっ黒い何本もの手が団長をつかむ。
手の形は薄っぺらい影ではない。
しっかりと、何個も関節がある、子供の手だ。
完全に手が団長を捉え、ゆっくりと水たまりの中に沈んでいく。
「自分でやっといて怖えぇ……もう水たまりの上を歩けなくなるよこれ。」
チャポン……パシュゥゥゥ!
カードが一枚、相手の手札に戻っていく。
戻った上級サモンカードはリセットされもう一度使える。
が、魔力はもう一度消費されるので、相手の魔力がオリティア並なら危なかった。
次のターン、相手は上級を出せるだけの魔力はあるだろうか。
「破壊じゃないだけマシか。ターンエンド。」
破壊じゃない。
けど、破壊されない俺の[スケルトンマスター]等にも効果があるのが「バウンス」。
バウンス(手札に戻させる事)は、召喚に使った魔力を無駄にさせることもできる。
でもそれだけじゃない。相手の手札が一枚増えるんだぜ?
「俺のターンドロー。よし、いけるか?」
さあ、見ててくれ。
これが今回、俺が組んだデッキの動きだ。
「まず手札から下級ユニット[スケルトン魔法使い]を召喚……
そしてこいつの魔属性スペル二枠で《魂の取引》発動ッ! 俺は5,000ダメージを受ける!!」
バリィィィン!!
「ぐっ……! お互い! 手札を二枚ドローする!!」
「お? 引かせてくれるのかありがたい。」
お互いにドローする。
対戦相手オクシートの手札は二枚引いて七枚。
俺も二枚引くが、壊れて手札になったシールド分含めて手札六枚になる。
「そして! [仄暗い水の底の主]の魔属性と水属性枠を使い、"複合スペルカード"発動ッ!」
「おお……」
「複合スペルなんて珍しい……」
観客が驚いていた。
この世界の住人はデッキの属性を統一したがる傾向にある。
確かに、複合スペルなんて入れてる人は見たこと無い。
でもこのスペル、カードゲームではよくある効果で有名だと思ったんだけどな。
「《黒き聖水の浄化》ッ!
手札をすべて捨てて! 同じ数だけドローする!!」
「なんだって! 上級サモンカードが!!」
相手はいい手札をストックしてただろう。
そんなお互いの手札を捨てて、引き直す。
俺は六枚引き直したが、まだ目をつぶっている。見てない。
ここにあのカードがあれば……!
ちらっ
「あった!! 続きましてえぇぇ再び!!
[仄暗い水の底の主]残りの魔属性と水属性スペル枠使用ッ!
《黒き聖水の浄化》あああああああ!!」
「対抗スペルカード《連帯魔力》! 手札の召喚カードを三枚捨てないとスペルを無効!」
「おうおう捨てたるわ!! 三枚召喚カードを――」
俺はフリーズした。
あとは「目的のスペル」を引ければ完成かと思っていた。
しかし……
「くそー、そんだけ手札があれば払えるか……ん? どうかした?
オラの《連帯魔力》が無効化されるから……六枚手札を交換するよ?」
「そ……そうだ! 俺は二枚手札交換だ! ……ターンエンドだ!」
「え、攻撃は? いいの? じゃあオラのターン、ドロ…………え!!」
シーーーン……
あ。気が付かれた。
今デッキケースから射出された、ドローの音の軽さ。
対戦相手はデッキケースを触って確認してる。
まあそりゃ気がつくよな。
「……何も召喚せ・ず・に!! 《アース・クエイク》でダイスロール!! 対抗は!?」
「無いっす」
「無い……無いか! 結果は4,000ダメージ!! 守備力4,000の[仄暗い水の底の主]を破壊!!」
「ぐあーー」
「そして!! 《アース・エナジー》で全体的に攻撃力を上げ! アタック!!」
「あいやーーーー」
バリバリバリバリィィィィン!!
YOU LOSE
相手のデッキはあと5枚だった。