5-1 有名な緑のモンスター
デュエル開始の言葉「デッキオン!」の言葉と同時に、あたりが森に包まれた。
15メートルほど離れた対戦相手との間に木は生えていない。
木々に囲まれた闘技場みたいな感覚だ。
「じゃ、オラのターン。ドロー!」
先攻はオクシート。
お、これがあの有名な。
土属性ユニット、ゴブリン。
子供サイズの緑のあいつが、マントと杖を装備している[ゴブリンの魔法使い]。
[ゴブリンの魔法使い]
攻撃力0 守備力2,000 スペル枠:土属性2個
この下級ユニットを守備態勢で召喚し、彼はターンエンドを宣言。
「俺のターンドロー! 下級ユニット[ボム・ウニラ]召喚!」
[ボム・ウニラ]
攻撃力0 守備力2,000 スペル枠;水属性1個
「あれ? スケルトンじゃなくて水属性か。」
観客が喋ったと思ったら、気がつけばアイヌマが観戦していた。
その他にも何人か観戦していて、彼らは授業の後半にデュエルするようだ。
俺はウニを守備態勢で召喚し、エンド。
「オラのターンドロー! 下級ユニット[ゴブリンのならず者]召喚!
[ボム・ウニラ]にアタック!」
[ゴブリンのならず者]
攻撃力3,000 守備力3,000 スペル枠:土属性1個
ゴブリンのくせにマッチョな外国人みたいな彼が、大きな棍棒で殴る。
トゲトゲしたウニみたいなモンスターはトゲごと粉砕された。
うにーーーーー!!(叫び声)
「おっと、ここで[ボム・ウニラ]のスキル発動! 相手のデッキの上から三枚を見て、破棄する!」
飛び散ったトゲが、オクシートのデッキケースめがけて飛ぶ。
彼は身構えるがデッキケースのみに当たった。
デッキケースから三枚カードが飛び出る。
「ほうほう……土属性デッキで……《装備スペル》が多いな。」
相手のデッキを見て戦術を分析する。
これも立派な"情報アドバンテージ"。
「あー、痛いの行ったな。ターンエンド。」
「俺のターン!」
俺は[髑髏の結界師]を守備態勢で出す。
いつも使う[スケルトン魔法使い]より少し骨太で、地面に描かれた結界の中に座っている。
[髑髏の結界師]
攻撃力0 守備力3,000 スペル枠:魔属性1個
「この結界で守りを固める! ターンエンド!」
「いやー、それじゃ無理じゃないかな。ドロー!」
オクシートはニヤリとしながらドローした。
「手札から[ゴブリンのならず者]をもう一体召喚!
さらに下級サモンカードを消費して、[ゴブリン・アサシン]をスキル召喚!
こいつは『場にゴブリンが3体以上いる場合に召喚可能』なスキルを持っている!
もう一体! [ゴブリン・アサシン]スキル召喚!!」
[ゴブリン・アサシン]
攻撃力3,000 守備力1,000 スペル枠:土属性1個
子供のようなゴブリンの、杖を構えた[ゴブリンの魔法使い]が一体。
ガッチリした人間サイズの[ゴブリンのならず者]が二体。
子供サイズなのに殺気を感じる、黒ずくめの服を着た[ゴブリン・アサシン]が二体。
みんなそこまで大きな図体ではないが、5体のモンスターに一気に囲まれると威圧感がすごい。
「おっと……相性悪いな。"ウィニー"だったかな?」
カードゲーム用語。
低攻撃力低コストのユニットを大量展開し、一気に勝負を決めるデッキを「ウィニー」という。
正直二ターン目でやられてたら終わってた。
一ターン遅れて来る「ウィニー」なんて番長が使ってた武士より弱いぞ。
相手の手札運に助けられた。
「[ゴブリンの魔法使い]の土属性スペル枠! スペルカード《アフタヌーンスター》!
これは装備スペルだから[ゴブリンの魔法使い]に装備!」
小さな魔法使いは、棒の先に鎖があり、鎖の先に大きな丸い岩がついている武器を装備した。
トゲのないモーニングスターって感じ。
スペルを装備するとスペル枠を失うため、魔法使いの土属性枠はあと一つだ。
「《アフタヌーンスター》の効果! ダイスを振って出た目×1,000、
相手ユニットにダメージを与える!」
「くっ……ダイス運に賭けるしかない。」
なるほど、攻撃力の無い魔法使いに装備させるのは強い。
空中でお昼のトーク番組に使っていたようなダイスが転がった。
出た目は「4」。
トゲのないモーニングスターは岩部分が、ぐぐっと大きくなった。
魔法使いが棒を振ると、長い鎖につながれた岩が大きく旋回し、俺のユニットを襲った。
「4,000ダメージ!! [髑髏の結界師]を破壊!」
「対抗! 破壊される前に魔属性スペルカード《一寸の死体にも五分の魂》発動!
先ほど死んでいった攻撃力0ユニット[ボム・ウニラ]を復活させる!」
スペルを撃てるユニットが消される前に壁ユニットを出しておく。
攻撃力ゼロ、守備力2,000以下のユニット限定で一ターン復活できるスペルだ。
「では……攻撃で[ボム・ウニラ]を撃破! 残りのゴブリンも攻撃!!」
「よく守ったウニ!! くそぉ、残りはライフで受ける!!!」
パリパリグシャァ!!!
ならず者3,000、アサシン2,000×二体、合計ダメージ7,000。
シールドが一枚割れてしまった。
ただ相手もウニラの効果で、デッキからスペルカードなどが破棄された。
「くそ……俺のターンドロー!!
俺は中級ユニット[アーマード・なまこ]を守備で召喚! ターンエンド!」
でろん!
ビッグスクーターくらいありそうな"ナマコ"が召喚された。
きもい。
[アーマード・なまこ]
攻撃力0 守備力6,000 スペル枠:水属性2個
「オラのターン! ドロー! そのうまそうな生物を調理してやれ!!
スペルカード《ドレインルート》!! 守備力を4,000下げる!」
「うまそう!? え!?」
「そして全軍攻撃!!」
地面から生えてきた植物の根っこに絡まれ、ナマコはハムのようにキュっと絞まる。
動くことができないナマコ。
ゴブリン軍団が攻撃を仕掛けてくる。
「対抗! 水属性スペルカード《栄養満点間欠泉》! すべての攻撃を無効化!
その後お互いは自軍ユニットの数だけドロー!!」
ぶしゅーーーー!!
ユニットたちの足元から温泉が吹き出てきた。
そのマイナスイオン効果?に癒やされるユニットたち。
「ユニットの数……まあいいや。5枚ドロー。ターンエンド!」
「俺は1枚ね。」
………?
観客がザワザワする。
次のターンに進まない。
「あ! いっけね、オラの手札8枚だ! 『上限枚数ルール』によって一枚捨てる!」
カードゲームには手札上限枚数が決まっている場合が多い。
無限に手札を増やして相手ターンに回せないのだ。
このVLDカードゲームのルールでは、『手札上限枚数:7枚』である。
「よし俺のターンだ! 頼む、来てくれ! ドロー!」
来てくれ、といいつつ特定のカードを待ってはいない。
「このターン動かないとヤバイから何か来て!」の意味だ。
「……しゃあない、ここで使い切るか。
俺の魔力を全部使い! 上級ユニット召喚!」
「おおー」
「上級か、なんだろうね」
観客に期待されている。
やはりデュエルは上級まで行って殴り合うのが盛り上がるようだ。
俺はなんとなく右手に魔力が流れ込むイメージで、力を込めた。
上級ユニットの姿かたちを想像して。