4-2 森の魔女
「本当にあったの……こんなところに家が……」
深い森を抜け――たと言いたいが虫すらいない一本道だった。
突然現れる大きな家。
博士の家についた。
チャイムは無いので、玄関で鉄の取っ手みたいなやつをコンコンっと鳴らす。
「魔女の森ってね、軍隊でも退治できないモンスターがいるから近づいちゃだめって。
おばあちゃんからね、ちっちゃい頃からずーっと……」
ガチャ
「あらぁ。いらっしゃい。」
オリティアが、ドアを開け出てきたヴェアロックの顔を見て一瞬固まる。
「あ……ひゃああああ魔女おおおお!!」
ストン!! ズザザザ……
尻もちをつき、後ろにズリ下がる。
「え!? どうしたオリティア!?」
「あらぁ、ほんっとに巫女に似てるわねぇ。」
「魔女……なんで……」
怯えて泣きそうな彼女を無理やりかかえ、部屋に入っていく。
暖炉のある、いつもの部屋へ。
◆◆◆
とりあえずココア飲ませとけってことで、ココアを用意。
「落ち着いた?」
「落ち着いてはいないけど……ここあがおいしい」
よかった。落ち着いて混乱してる。
「じゃあこういう驚きがあるかと思うけど、頑張って聞いてね。」
「え!? 博士の正体が語り継がれる魔女だった以上の驚きが!? ……ええ、がんばる。」
まずは今まで嘘をついていたことを謝った。
博士って呼んでたけど、実は勇者と行動をともにした魔法使いだったという事。
俺は外国人じゃなくて異世界人だということ。
『白石』というアイテムの存在。
そのアイテムで行われた実験。
そして、『赤石』の盗み計画。
全ては俺が元の世界に帰るため。
俺はどうしても帰りたい。
国民の混乱を招くことは予想していたし、もちろんオリティアに迷惑がかかることも知っていた。
ただ俺は自己都合の為だけに行動してきた。
弁解の余地はないし、曲げるつもりは無い。
その思いだけ伝えた。
「ごめんな、こんな人間で。 しかも炎の巫女の末裔・当事者である君にこんな話をして。」
「ああ……うん……え? そうだね……」
情報量があまりにも多いんだろう。
彼女の目が虚空を見つめている。
まるで俺がこの世界に来たときの顔みたいだ。
さあ、ここからどうなる。
怒るのか? 失望するのか?
もしかしてお父様とやらに言っちゃうとか……
「ちょっと……お手洗い貸してくださいますか?」
おう、敬語になった。
怖い。
これは怒ってるのか?
入り口で立っていた博士の助手が、彼女をトイレに案内する。
「……やっぱり教えるのは失敗したかな。」
「うーん。でもいい子だから話せばわかってくれそうだよぉ?」
しばらくしてからオリティアが戻ってきた。
ただ大きい方に行きたかっただけならよかったけど、違うだろうな。
「長かったね」とかギャグを言って場を和ませることも出来なそう。
あー、どうしようかなこの空気。
「あのー……」
「ん? 何か質問あるのかオリティア。」
「リクシンは親も友達も、もう誰とも会えないの?」
「そうだね。サヨナラもアリガトウも誰にも言うこともできず、ここに連れてこられたよ。
しかも連れてこられたって言っても手違いで、この魔女様も愛する人に会いたかっただけなんだ。」
「そう……それは信じるけど。」
「だから『白石』の魔力回復に50年も待てないんだよ。
今できる手が、『赤石』強奪だったんだ。」
「うん。
私も母親を小さいときに亡くしてて、だから家族に会いたいっていうのはすごくわかる。
赤石も……私が同じ立場でも同じことするかもしれない。」
うつむいて話していた彼女は、急に顔を上げた。
「うん。そう!
私はリクシンの力になりたい。困ってるなら助けたい。
こんな話を聞いて。それが正しいことなのかも分からない。
でも自分がそうしたいから動く!
べ、別にリクシンのためじゃないよ。それが結局、自分の力になるから!」
「オリティア……
うん、ありがとう。その髪型はツンデレキャラだと思ってたよ。」
「うん、え? つん? う、うん。」
意識高い系女子みたいな理由ではあるけど、本当にありがたかった。
「じゃあ~、どうやって犯人を見つけようか考えよぉ~。」
「え! は、はひ!」
魔女様が喋ると、緊張して背筋が伸びるオリティア。
「そんなに緊張すんなって。」
「だって50年前にあの【魔女の獄炎】を起こしたヴェアロックだよ!?
小さい頃から恐ろしい魔女って教えられてきたもん!」
「それはもう昔の話ぃ~!」
魔女一人 対 赤国国防軍。
戦いはわずか3日ほどだったが、この国が滅びかけたとか。
多くの怪我人を出し建物は殆ど燃えていたらしい。
魔女の狙いは『赤石』。
結局、賢者が間に入り仲裁して終わった。
実はこの時、この山一帯と研究所と『白石』の原案をもらっていたようだ。
「へー、博士そんな強かったの?」
「そうだよぉ~? もっと尊敬してもいいんだからぁ!」
「だからね! リクシンがタメ口聞いてるとかびっくりなんだよ。」
「ふーん。こんなのほほ~んとしてるオバサンがねぇ。」
「りっくん……? ……今ここで……再現しようかぁ【魔女の獄炎】……?」
「あ!! ごめん!! おねえさん、お姉さま!!」
よかった。
オリティアが笑ってる。
これで『赤石』陣営に通じるパイプができた。
心強い仲間ができた。




