3-3 結束する鬼の力
「俺のターン! ドロー!!」
野太い声で高らかに宣言。
すでに開始から数ターン経過した。
デュエル空間は夕方の採石場。
仮面ライダーが怪人と戦う撮影場所みたい。
「下級ユニット[オーガの足軽兵]を召喚! アタック!!」
足軽と言いつつ、ガタイのいい赤い肌をした鬼が攻撃を仕掛けてくる。
俺の方は相変わらずスケルトン系ユニット。
攻撃力に特化しているオーガたちに軽く蹴散らされる。
「くっ……俺のターン!」
[スケルトン重戦士]を並べる程度じゃ太刀打ちできない。
倒されても復活するとは言え、相手がどんな怒涛の攻撃を仕掛けてくるかわからない。
これはイメージだけど、日本の武士をモチーフにしたユニットには大量展開されて殺される気がする。
ってか日本の武士をイメージしたユニットに疑問。
この世界にも武士がいた……?
「ここはこいつ! 下級ユニット[スカルオウル]守備態勢で召喚!」
[スカルオウル]
攻撃力0 守備力2,000 スペル枠:魔属性1個
骨でできたわりに可愛らしいフクロウ。
こいつが召喚されると、あたり一面が黒い霧に覆われた。
ガタイのいい赤い鬼たちは痩せ細り、骨のようになってしまった。
「オウルのスキル発動! すべてのユニットは『種族:スケルトン』になる。
種族統一デッキなら、これで味方の援護が出来なくなるはず。ターンエンド!」
「俺のターン! フ……そんなんで俺のオーガが止められると思ったか?
中級ユニット召喚! [オーガの宝槍使い]!
スキル発動! 『相手ユニット一体の効果を無効化して破壊』する!」
「なにッ!」
神々しい槍を持つ赤い鬼は、召喚されて早々生気を奪われる。
しかし骨になったオーガは槍をフクロウにぶん投げる。
フクロウが破壊され、オーガたちの姿がもとに戻った。
その後も防戦一方。
戦闘で破壊されたスケルトンはターン終了時に蘇るスキルがある。
ただこのままではサンドバッグどころか、宝槍使いに動かない骨にされてしまう。
中級ユニット[髑髏の魔術師]を守備態勢で召喚し、守りを固める事しか出来なかった。
「くそっ、ターンエンド。」
「フン、つまらんな。」
つまらないと言われてしまった。
確かに、俺は相手に大きなダメージを与えられていない。
カードゲームってのは「除去して殴る」っていうのがシンプルで強い。
除去も殴りもしっかりしてる相手の「オーガ」。
これは強いぞ。
「俺のターン! これで終わりだ。上級ユニット[オーガの鬼武将]召喚ッ!!」
オーガは鬼って意味だから、鬼が二個ついてる?
頭痛が痛いみたいな。
身長が3メートル位ありそうな、赤く光る甲冑に身を包んだ将軍が召喚された。
「[オーガの鬼武将]のスキル発動!
手札一枚を捨てることでデッキのサモンカードを使用できる!
デッキからスキル召喚するのは中級ユニット[オーガの軍師]!
さらにスペルカード《剣闘鬼の戦略》を発動!
種族:オーガをデッキに戻すことで、デッキのサモンカードを使用できる!
[オーガの足軽兵]をデッキ戻し、[オーガの剣術師範]を召喚!
剣術師範のスキル発動! 種族:オーガ全員の攻撃力1,000アップ!」
一気にユニットが展開される、この威圧感。
相手の場にはユニット5体。全員攻撃力5,000オーバー。
ここまでカード同士の効果掛け合い「コンボ」が成立すると、関心しか出てこない。
「つまらない戦いだった。[オーガの武者]、[スケルトンの戦士]にアタックだ。」
「クソッこいつはどうだ! [髑髏の魔術師]のスペル枠三つを全て消費!
重スペル《断罪の巨大ギロチン》!! 攻撃態勢の相手ユニットをすべて破壊する!」
「え?」
「ん?」
コワモテの番長からカワイイ「え?」が出た。
対策されるだろうとダメ元で撃ってみたカウンタートラップ。
まさか通っちゃう?
対抗でスペル無効化されたら止まるし、そもそも破壊されない防御スペルあるだろ?
対策カード持ってないのか?
[オーガの軍師]は……相手ユニット一体のスキルを無効化する能力持ちか。
スキル対策だけ用意してても……
「ぐおおおおお! すべてのユニットは破壊される……」
「オトバさん!」
がっくりとうなだれる番長に、舎弟が心配をして声をかけていた。
俺のユニットに攻撃を仕掛けてきた鬼たちは、落ちてきた長~いギロチンに真っ二つ。
死体がすーっと消えると、戦場には[髑髏の魔術師]だけがポツンと立っていた。
「えっと……俺のターンでいい?」
相手の手札1枚。
それが対抗トラップ対策じゃないのに突っ込んでくるとは思わなかった。
カードゲームあるある。
後先考えず手札使いきってしまうと、あっさり返されてジリ貧になったりする。
俺のターン、普通にスケルトンたちを展開して殴る。
相手はダメージによってシールドが破壊され、手札が増える。
しかし次の相手ターン、反撃が来るかと思ったら……そんなことはなかった。
相手は守備態勢で防戦一方、フルボッコだった。
「俺の……負けだ……」
「オトバさん!!」
YOU WIN
どこかから勝利宣言が聞こえ、フィールドが元の校舎裏に戻る。
オトバと呼ばれる男は、地面に手をついていた。
その後、舎弟に肩をかかえられ、去っていく。
いつのまにか夕方になり、寂しい背中を夕日が照らす。
「覚えてろ」なんて捨て台詞を言う姿がもう、昭和かよって感じだった。
「ふう。何だったんだあいつ。」
なんとか勝てた?のかな。
あれで15位ってんだから、この世界のトーナメントシーン(大会環境)はどうなってんだ。
いや、俺が初心者だから知らないだけで、もっと深いとこでギャンブル的要素があったのか?
よくわからん人だった。
ま、運が良かったという事にして帰ろう。
「うわあ!」
びっくりして声を出してしまった。
振り返ったら後ろにオリティアが立っていた。
さっきの番長並みに、腰に手を当てて。
「やっと見つけた。」
「……なんだよ今日はもう。」
◆◆◆
学年のリーダーを努めているオリティア・レッドマイン。
聞こえてくる噂はどれも、気品溢れ、気高く、他人を寄せ付けないようなエピソードだった。
そんな人に付きまとわれても無言で無視して帰る。
変なデュエルで疲れていた俺は、かまってる余裕がなかった。
自宅は学院の正門から見て、賑やかな商店街と逆方向の静かな住宅街。
そこの小さなアパートのワンルーム。キッチン付き。
内装は海外の木造ホテルみたいな雰囲気。
部屋には質素なベッドとテーブル、冷蔵庫しかない。
いや冷蔵庫と思われる箱があることはびっくりしたけど、この部分は現実的で本当助かった。
ただ博士の家もそうだったが、土足OKなのが落ち着かない。
そこだけなぜアメリカン。
そんなアパートに帰ってきた。
部屋に入り、ドアを閉める。
「ちょ! ちょっとまって!!」
ドアに足を挟むオリティア。
新聞勧誘か。
「んー? なんだよ。」
「ちょっと話を聞かせて欲しいだけなの!」
「部屋に上がる気?」
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから! 大丈夫、何も痛いことはしないし怖がらないで!」
痛いことってなんだよ。
ああ、そういえば俺を炎魔法で縛り上げたことがあったっけ。
しょうがないなぁ、話だけしてさっさと帰ってもらおうか。
部屋に上げて椅子に座らせると、彼女はなぜかソワソワし始めた。
俺はベッドに座る。
「えっと……男の子の部屋に入るの初めてで……」
「お? そうなの? 強気で入ってきた割には急に緊張してんのな。……襲われても知らないぞ?」
「はぁ? あんたになら余裕で勝てるわ。」
?
なんだこの違和感。
「えーっと、あなたお嬢様のオリティアさんですよね?」
「そうだけど。別にお嬢様ってわけじゃないし。生まれた家が裕福なだけだしー。」
「はぁ、こいつ……お前そもそも、敬語どこ行った。」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はオリティア・レッドマイン。
炎の巫女の末裔で、第53期生のリーダーをしてるわ。」
「おい聞けよ人の話。しかも知ってるわ有名人!」
「あらそうだったの。あなたの名前は?」
「俺? 俺は……リクシンだよ。リクシン・ニシオ?って言えばいいのかな?」
「リクシン。珍しい名前だね。」
そのセリフ、この世界でも言われると思わなかった。
「じゃなくて、マジ敬語どうした。おまえキャラが変わってるとか俺に言ってたじゃねーか。」
「敬語とか疲れるじゃん。いいの、誰も見てないし。炎の巫女っぽく優等生に生きるの大変なんだよ?
マジ恨むわウチの家系……」
俺の中にお嬢様イメージがあったわけじゃないが、性格の変貌に驚きを隠せない。
「それよりも。あの《リリース》とか言ってたルールは何なの?
あと黒いデッキケースはどこで手に入れたの?
他の国からの留学生って噂があるけど? あなた何者なの?」
きたか。
質問攻め。
しかしここで、考えておいた設定を話す機会だ。
「そんなに知りたいか…じゃあ誰にも内緒な。」
「そっちこそ私の性格が違うって言いふらさないでよ。
まあ言いふらしても誰も信じてくれないと思うけど。」
「ああ、ソッスネ。」
俺は「記憶喪失の外国人」。
カードゲーム【VLD】を研究している博士に保護された。
何故かこの国の言葉は話せる。
何故かVLDも得意。
なので、VLDをしていたら記憶が蘇るかもしれないってことで、博士が学院に編入させてくれた。
黒いデッキケースは博士から貰った。詳細は知らん。
今のところ生活に必要なもの以外思い出せていない……という設定。
「ふーん、そうなんだ。」
あれ、うまくごまかせなかったか?
それとも俺なんて興味ない?
「まあそんなわけで俺も自分のことをよく知らないんだ。」
「で、《リリース》ってなに?」
やっぱそこ突っ込むか。
それを説明するには嘘を要所要所に混ぜないといけないから色々難しい。
そうだ、とりあえず落ち着かせるため彼女にあれをごちそうしよう。




