2-5 寝れない夜
この世界の常識について教わったり作戦を練っていると、気がつけば夜だった。
朝昼晩、しっかりとご飯が出てくる。
誰がいつ作ってるかは分からないが、キッチンは見せてくれない。
ただ出て来る料理は、見た目はグロくてもどこか知ってる味で、美味しかった。
夜には風呂まで借りれた。
広くて居心地のいい風呂に入ってスッキリした俺は、また今朝と同じ部屋で寝ていた。
「うーん寝れねぇ。情報量が多すぎる。」
もう一度状況を整理しよう。
まずここが異世界なのは理解して……
そう思ったときだった。
「りっくーん……」
おおびっくりした。
ヴェアロックだった。
……
……………
……………………全裸!?
ドアの横に立つお姉さまを直視できない。
暗くてそこまで見えないけど、巨大な胸は開放されてるし、下半身も遮るものはない。
むしろ綺麗すぎて海外のヌードモデルかと思うくらい。
「え!? ちょっと!! なにやってん……」
「一緒に寝てくれるぅ?」
はい!?
それはちょっ……
ああ、だめ、断れない!
女性経験の無い俺は、受け入れることも断ることもできず固まっていた。
「えい。」
俺のベッドに入ってきた。
これ本当に全裸だよな。
この世界の人は全裸で寝るの? 裸族なの?
どうしよう、俺も全裸になろうかしら。
「うーん……勇者様ぁ……」
俺の肩に顔を擦り付けてくる。
ああ、なんだよ。
俺に勇者の影を重ねてんのか。
俺と一緒に寝たいんじゃなくて異世界人なら誰でもいいのかこいつは。
……って、それでも意識するっての。
全裸の、このアメリカンサイズの胸が!
俺の左腕に!
集中だ……全神経を左腕に集中しろ。
全力でこのチャンスを楽しむんだ。
「なんかね、勇者様と同じ匂いがするぅ。異世界の匂い?」
「なんすかそれww」
スンスン……
ふおーーーー!!
これ寝れないよ!
心臓の和太鼓が二重奏決め込んでるよ!
ビクン!
あっ
え?
そこに膝を乗っけるのはやめてください。
ちょっとちょっと……
まずいって……
「ん? ……あれぇ、ごめんね。反応しちゃったかぁ。」
「いやいやいや! だってこの状況しょうがないでしょ!」
「うーん、そうだねぇ。男の子だもんねぇ。」
そう言ってポンポンと俺の大事な部分を軽く叩かれた。
そのたびにビクンビクンと反応してしまう。
これは……
このあとの展開はまさか!
「おーーい。オルモア~~!」
……え?
オルモアさん?
「はい、呼びましたか。」
オルモアは普通に服着てる。
やっぱこの痴女だけか裸族なのは。
「この子お願い。」
「はい、かしこまりました。」
「え? お願いって……え?」
そう言ってオルモアは、俺を引っ張り上げ部屋の外に連れて行く。
ん?
どういうこと?
さっぱりわからん。
エロ展開じゃなかったの?
え……
え!?
ああ~~~~~~~~~~~~~~~
数分後。
ぐったりして帰ってきた俺を、ベッドの痴女が誘う。
「ほーらおいでぇ~」
俺は何故かエロいことを考えられず、そのままベッドに入った。
そして仰向けになってぐっすり寝た。
◆◆◆
翌日。
ヴェアロックは隣にいなかった。
食堂まで降りていくと、ちゃんと白衣みたいな服を着ているヴェアロックの姿が。
「おはよう~。ちゃんと寝れたぁ?」
「ええ。まあ。おかげさまで。」
前日と同じように朝食を食べた。
朝食を食べながら、今日からカードの練習を始める話をした。
カードはオルモアが教えてくれるらしい。
「よろしく、お願いします。」
「お、おう……」
なんだか気まずい気がする。
とにかく、この日から俺とオルモアのカードバトル練習が始まった。
「じゃあ先生、お願いします。」
「先生、ですか。」
まんざらでもなさそうだ。
さて、ここからゲームの説明になるわけだけど。
RPGならチュートリアルってやつかな。
これが小説とかラノベだったら俺は読み飛ばすかも。
―――――――――――――――
簡単なルール説明。
まずカードの種類は2種類と簡単。
「サモンカード」と「スペルカード」。
サモンカードはその名の通りモンスターを召喚できるカード。
自分の知識の中にあるモンスターを、ユニットとして召喚できる。
スペルカードは、いわゆる魔法カード。
それぞれ「効果」が記載されていて、条件や代償が整えば効果が発揮される。
自分で魔法を撃つことはできず、ユニットに「スペル枠」を消費して撃ってもらう。
流れとしては、まずお互いカードを集めて50枚の束にした「デッキ(山札)」を用意。
↓
「デッキオン」の掛け声でデュエル開始。
↓
山札の上から最初の手札となる5枚のカードが射出。
次に「シールドカード」となる5枚が射出。
↓
先攻が一枚カードを引き、召喚やスペルを使用して準備をし、ユニットに攻撃させる。
↓
攻守交代し、後攻も同じように進める。
↓
シールドが無くなり直接攻撃出来れば勝ちとなる。
魔法道具「デッキケース」によってデュエル空間が展開されると、立ち位置が決まる。
自分から対戦相手までの配置を説明すると、
・自分
・自分のカードを置く透明テーブル
・透明な五枚のシールド
・召喚された自軍ユニット
・召喚された敵軍ユニット
・透明な相手のシールド
・相手のカードが置かれる透明テーブル
・対戦相手
このようになる。
デュエルは一対一。観戦出来るが助言は禁止。
割り込んで効果を使える「対抗」能力など駆使して相手の作戦を崩し、勝利を掴む。
―――――――――――――――
ルールはだいたいこんな感じ。
いろいろなカードゲームをやってきた俺はすぐ馴染めるだろう。
しかし問題なのはカードプール(カードの種類)。
あまりにも多い上に聞いた話だとちょっと特殊でわかりづらい。
カード効果は有名なものだけでも、できるだけ暗記したい。
ヴェアロックの資料室は、俺の召喚された部屋の隣だった。
地下に用意されたその資料室には大量のカードが散乱していた。
まるでデッキを組んでる最中の俺の部屋じゃねーか。
こんなジメジメしたとこにカードを置いて、カードが痛まないのだろうか。
「お。さっき言ってたレアカードの『最上級サモンカード』けっこうあるじゃん。」
「はい、開発者の一人である博士は、ある程度のカードを、所持しています。」
「で、これがモンスターの魔導書? 見たことあるやつばっかりだから、イメージは余裕かも。」
「それは、すばらしいです。準備ができたら、『トレーニングモード』で、練習しましょう。」
「りょうかい。片っ端から覚えていくよ!」
こうしてスペルカードとモンスターの物色、カードの整理をして。
対戦ではない「トレーニングモード」でオルモアと模擬戦をしていった。
◆◆◆
「ふうううああああ~……」
思わず息が漏れてしまう。
ここはヴェアロック家自慢の屋上露天風呂。
レンガ造りの外国的古風な建物かと思いきや、屋上に風呂があるとか日本でもあまり見ない。
この家の世界観がよくわかんない。
風呂に浸かりながら、これからのことを考えた。
まさかカードゲームの世界に来てしまうとはな……
異世界に飛ばされた主人公は、何らかの力を持ってるのがテンプレだ。
けど、俺そんなにカード強くないしなぁ。
でも学園生活で無双できたり、女の子とハーレムできちゃったりするのかな……
「フヒヒwww」
気持ち悪い笑いが出た。
……でもわかってるんだ。
これはきっと、俺の夢だ。
カードゲームの世界なんて俺に対して都合が良すぎる。
……ただ問題なのは、意識ははっきりしていること。
夢じゃないような自覚がある。
そのため夢とでも思っておかないと、精神が持たない。
あまりにも現実離れしすぎて発狂しそうだ。
調子に乗って犯罪を犯したり、精神が病んで命を粗末にしたり。
異世界転移主人公たちはよく正気でいられたな。
夢でも何でもいい、俺は生きる!
生きて現実世界に帰るよ!
そしてこの世界が異世界なのか、妄想世界なのか、はっきりさせてやろうじゃないか。
「よし、負けねえよ。俺は。」
そう強くつぶやいた。
第二話 終わり
<次回予告>
野良デュエルをして目立ってしまったリクシンは、さっそく目を付けられる。
第三話 「VS 番長」