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君の世界Ⅲ

 新島くるみ。

 頭部大量出血。

 搬送途中に死亡。

 葬儀は三日後。


 あの後…

「大丈夫だよ。」

「そうか、くるみ。じゃあ行ってこい!」

くるみはすぐに走り出していってしまった。

…だいたい、ここで止めとくべきだったんだ…

その先の横断歩道。

くるみは…

『キキキーッ!!!!』

「くるみーーー!!!」

「くるみちゃーーーん!」

全てが終わった。

耳の奥にはサイレンの音が鳴り響いていた。

俺はずっと立ち尽くしていた。

いや、ずっとくるみの名を呼んでいた。

彼女が死んでしまうまで…彼女の時が失われてしまう前まで…


 今、病室には俺とくるみしかいない。

くるみは息さえもせず、ベッドに横たわっていた。

「なぁ、くるみ。」

くるみは返事をしない。

「俺って、何で生きているのかな?」

「……」

「なんで、神は…俺みたいなバカなやつを生かして、くるみやねえちゃん、父さん、母さんみたいな良い人間をこの世にとどめておかないのかな?」

「……」

「なんでだろうな?」

「……」

「くるみ…」

俺はくるみの頬を撫でた。

「冷たいな…」

「……」

「この世界に俺はもう必要じゃないのかもな…」

「そんなことないよ!」

急に大声がした。俺が振り返ると、彼女は泣いていた。

「必要に決まっているでしょ!ゆーくんは、私が必要としているのよ!この佐伯風奈が!」

こいつは何を言っているんだろうか。

こいつはなぜ泣いている。必要?何を言っている…

この世界は俺を必要としていない。

俺もこの世界を必要としていない。

「ゆーくん?」

ゆーくん?

誰だ?そんな名前は知らない。

「まさか、くるみちゃんの前なのにクロバージョンになっちゃったの?」

クロバージョン?

あぁ、そうだった。

信じられるものが近くにいないと俺はどうしても不安になって…

クロバージョン。

いや、本当の俺に戻る。

全てを信じず、世界を景色としか見ない俺に。

「やはり…くるみちゃんがいっちゃったから…」

「そうだな…」

「ごめんなさい。」

なぜ、こいつは謝っているんだろうか。

そうだ…

くるみ…

俺はくるみの顔を見た。

「くるみ…」

俺はまたくるみの頬を撫でた。

「私のせい…競争なんてしなければ…」

競争…

そうだよ!

「そうだ!だいたい、そうなんだよ!お前がいらないことをしたせいで!」

俺の中で何かがあふれ出した。

「俺の大事なものをお前は二つも奪いやがって!」

「そ、それは!」

「美夢だって!おまえのせいで!死んだようなものだろ!!」

何を言ってるんだ!俺は!やめろ!

「ゆーくんのバカ!」

風奈は叫び、病室を出て行った。

俺は何をしているんだろうか…

こんな俺などこの世界にはいらないのかもしれないのかもしれない。

「おにいちゃん…」

くるみがいない世界など…まず、俺が必要としていない!

そして、俺が必要としている世界が俺を必要としていないなら…

「おにいちゃん…」

すべて、消す!!

「おにいちゃん…ってば…聞いてよ…」

えっ…

俺はくるみを見た。

「くるみ…なんで…?」

「私にもわからないよ…

でも、おにいちゃん…」

「なに?」

俺はくるみの手を握った。

「くるみ…くるみは、楽しかったよ。確かにいろんな事があって、いろんな事出来なかった世界だったけど、楽しかったよ。それも全部、おにいちゃんがいたからだよ。おにいちゃん…大好き…おにいちゃんの妹で本当に良かったよ。」

「くるみ…」

「おにいちゃん…本当にありがとう…」

「くるみ…じゃあな…」

「おにいちゃん…ゆっくり人生を楽しんだらまた会いに来てね…ゆっくりでいいからね…ずっと待ってるから…」

「あぁ…くるみ…」

「お…にい…ちゃ、ん…」

くるみは目をつぶった。

「せめて安らかに眠ってくれ…くるみ…」


 俺は病院の屋上のフェンスの外側に立っていた。

「なぁ、くるみ…」

俺は曇天の空に向かって聞いた。

「雨降るのかな?いつか、おれには恵みの雨は降るのだろうかな?」

そんなものは降らない。分かっている。

「くるみ…おまえ、言ったよな…?おにいちゃん…ゆっくり人生を楽しんだらまた会いに来てね…って。言ったよな?」

雨が降り出していた。

「俺、この世界では楽しめなさそうだ。だから、楽しめないから…もう会いに行くよ。くるみ…」


 俺は…この世界は…消滅した…


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