第3羽 スーパーヒーロー呪文でしゅら(シナリオ)
■ 法太の部屋(夜)
法太「まったく何だよデシュラ! 変な魔法かけやがって。
おかげでまた恥かいちゃったじゃないか」
デシュラ「ふんだ。お兄ちゃんが運動得意になりたいというから協力してあげようと
したんでしゅら。女の子にもてたいなんて聞いてなかったでしゅら」
法太「だ、だ、誰がもてたいなんて言ったよ」
デシュラ「あの、春日弥生という子の前で、でれでれした顔していたでしゅら」
法太「あのな、おまえ恩返しするために、うちにいるんだろ。
だったらちゃんと僕のためになるように魔法を使ってくれよ」
デシュラ「う~~、それを言われると返す言葉も無いでしゅら」
法太「分かればよろしい。頼むぞ」
デシュラ「はいでしゅら」
法太の母、部屋に入ってくる。
母「二人とも、さっさとお風呂入ってちょうだい」
二人「は~い」
■ 浴室(夜)
デシュラ「お兄ちゃん、背中を流してあげるでしゅら」
法太「いいよ、いいよ、気つかわなくて」
デシュラ「遠慮しなくていいでしゅら」
法太「んじゃまあ、頼むかな」
デシュラ、法太の背中を流す。
法太「そういや、僕、一人っ子だったから、親以外と風呂に入る事って、
ほとんどなかったな。デシュラは兄弟いるのか?」
デシュラ「お姉ちゃんがいるでしゅら」
法太「そうか、デシュラは一人っ子じゃないんだな」
デシュラ「まあそうでしゅ。でも、一人っ子が良かったでしゅ。
わらしのお姉ちゃん、こわいんでしゅ」
法太「兄弟がいればいたで、いろいろあるんだろうな。
――よし、じゃあ、交替だ。僕がデシュラの背中流してやる」
デシュラ「ありがとでしゅら」
法太「あれ?」
デシュラの背中、肩甲骨のところから、小さな白い羽が生えている。
法太「デシュラ、おまえ、背中に羽があるぞ!」
デシュラ「あ、いけない。人間界では羽は隠しておくように言われていたのでしゅら」
デシュラの背中の羽、消える。
法太「背中に羽なんて、天使みたい……。おまえ、本当に魔法の国から来たんだな」
デシュラ「何度もそう言ってるのら」
法太「羽があるってことは、飛べるのか」
デシュラ「もちろん!」
デシュラ、背中の羽を再び生やし、パタパタさせて浴室内で宙に浮く。
法太「! デシュラ、次の望みが決まったぞ」
■ 馬飼家の庭(昼)
法太「今度は呪文間違えるなよ」
デシュラ「ばっちりでしゅら」
法太「飛んでて、落っこちたりしないだろうな」
デシュラ「魔法の切れる時間に注意すれば大丈夫でしゅら。ヨーハ ニーハ」
デシュラ、ステッキを振る。ステッキからの光が法太を包む。法太の背中に羽が出現。
法太「おおー、すげーー。自分の思い通りに羽が動くぞ。これで飛べるんだな?」
デシュラ「お兄ちゃん、ちょっと待つでしゅら」
法太「ん?」
デシュラ「このまま2人で飛んだら、人間界が大騒ぎでしゅ。
見えなくなる魔法をかけるのら。キョーハ グァッタ」
デシュラが、法太とデシュラ自身の二人に魔法をかける。
法太「特に変わらないぞ」
デシュラ「わらしたちはお互いに見えるけど、
他の人たちにはわらしたちの姿は見えないのら」
法太「じゃあ、透明人間みたいなもんか」
デシュラ「似たようなもんでしゅ。じゃ、飛ぶでしゅよ」
デシュラ、背中の羽を羽ばたかせて浮く。法太も同様に浮く。
■ 空
法太「す、す、凄えーー。僕、空飛んでるぞ」
デシュラ「喜んでくれてうれしいでしゅ」
法太「しかも、デシュラの魔法が一発で成功した」
デシュラ「それはほめられているのでしゅか?」
法太「まあ、深く考えるな。あ、春日さんたちが、歩いている」
法太、眼下に歩いている春日弥生とその友達を見つける。
法太「おーい!」
■ 地上
歩いている春日弥生たち、空を見上げる。弥生たちには雲しか見えない。
春日弥生「変ねえ……。上から声がしたような気がしたけど」
■ 飛んでいる法太とデシュラ
デシュラ「お兄ちゃんだめでしゅ。私たちが空を飛んでいるのは秘密なんでしゅから」
法太「そうだった、悪い悪い。でも、本当に見えないんだな。
春日さん、こっち見上げたけど、僕らに気が付かなかったもの」
デシュラ「言った通りだったでしょ」
「キャーーー!」下から悲鳴。引ったくり犯の男がカバンを持って走っている。
「誰か捕まえて!」後ろから若い女性が引ったくり犯を追いかけている。
法太「大変だ!」
法太、急降下で、引ったくり犯を追う。
デシュラ「あ、お兄ちゃん」
あわてて追いかけるデシュラ。
法太「待てーー!」
法太、引ったくり犯に追いつく。引ったくり犯をつかみ、上空に持ち上げる法太。
引ったくり犯「わ、わ、わ、何だ!?」
引ったくり犯には法太は見えず、勝手に自分の体が浮き上がったように感じている。
上から、引ったくり犯を落とす法太。落とされた衝撃でのびるひったくり犯。
カバンを盗られた女性や警官がかけつける。
法太「(上空に戻り)へへへ、いいことすると気持ちいい」
デシュラ「お兄ちゃん、危ないでしゅ。けがしたらどうしゅるですか」
法太「まあまあ。いっぺん正義のスーパーヒーローみたいなことしてみたかったんだ。
かたいこと言うなよ」
「助けてーー」眼下からまた悲鳴。今度は、小さな男の子が川で溺れている。
法太「デシュラ、大変だ、助けなきゃ」
法太とデシュラ、向かう。
デシュラ「で、でも、お兄ちゃん、そろそろ魔法の効き目が切れる時間でしゅ」
法太「な、なんだって? あの子を助けるまで何とかもたないの?」
デシュラ「う~ん、ぎりぎりでしゅ……」
法太「この手につかまれ」
法太、溺れている男の子に手を差し出す。しかし、男の子は気付かない。
法太「そうか、見えないんだった。じゃあ、無理やり抱き上げよう」
デシュラ「お兄ちゃん、もう時間が無いでしゅ」
法太「そんなこと言ってる場合か!」
法太、おぼれている子を抱き上げて上昇。ところが、そこで背中の羽が消える。
法太「わ!?」
デシュラ「魔法が切れたでしゅ」
川に落ちる、法太と子ども。
法太「(男の子にしがみつかれ、二人で溺れながら)デシュラ、何とかしろーー!」
デシュラ「えーと、えーと……。そうだ、クーオイ ズーナ!」
法太に魔法がかかる。
デシュラ「お兄ちゃん、今のお兄ちゃんはスポーツ万能でしゅ!
その子をかかえて泳ぐでしゅーー」
法太「そうか、今の呪文はスポーツ万能の呪文か!」
法太、子どもをかかえ、ロケットみたいに泳いで、岸へ到達。
■ 場面変わって、歩いて帰る途中の法太とデシュラ
デシュラ「お兄ちゃん、やっぱりスーパーヒーローになりたいでしゅか」
法太「う~ん、そうだなあ……」
前方に泣いている小さい男の子。
法太「ボク、どうしたんだい?」
男の子「おうちが分からなくなっちゃったの」
法太「迷子か……。自分の家がどのあたりか分かるかな?」
男の子「ここ」
男の子、持っていた迷子札を見せる。
法太「なんだ、この住所なら直ぐ近くだよ」
デシュラ「ようし、それならおうちへ帰る呪文で」
法太「待て、デシュラ」
デシュラ「?」
法太「これくらいなら魔法は要らない。僕が送ってく」
デシュラ「そうでしゅか」
法太「何でもかんでも魔法に頼ってちゃダメだよな、やっぱ。できることは自分でやるさ。
スーパーヒーローになるにしても、自分の力でなりたいもんな」
デシュラ「お兄ちゃん、えらいでしゅ。デシュラも影ながらお力になりましゅ」
法太「ま、ほどほどでいいぞ、ほどほどで」




