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第12章 最後の一日 その5

 突然の山田の言葉に、開いた口が塞がらなかった。


 息子の死に百万円か。その微妙さ加減がいかにも父親らしい。あの男の姑息なやり口を思うと腹の中が煮えるようだ。しかも、そのせいでアマネちゃんがこんな危険な目にあってるなんて。


 でも、いまは親父のことより山田たちを何とかすることを考えなきゃ。


「だいたい下条をイジメてたのは吉沢だ。俺らはちょっと手伝ってただけさ。金が欲しいんなら、アイツんちから取ればいい。吉沢んちは金持ちだからな。百万でも二百万でもどうってことないだろ。俺んちはそうはいかねえんだよ」


「フン、世の中舐めんやないで。金が払えんのやったら、まずセージとお父さんに土下座でもして謝り、話はそれからや」


 体格的には大人と子供ほども差のある女子中学生に啖呵を切られて、さぞかし腹が立ったんだろう。山田の顔色が真っ赤になり、それからみるみる紫色に変色した。


「ふん、口の減らない女だ」


 山田は紫色の茹蛸のような顔色のまま、口の端を大きくゆがめてニヤリと笑う。


 妙に余裕のあるその態度に、僕の背筋は寒気を覚えた。


「土下座するのはどっちの方か、おまえの身体に教えてやる。二度となめた口叩く気もおきねえようにな。おい、おまえら」


 山田の合図で、仲間の一人が手にしていた大きいバッグからビデオカメラと三脚を取り出した。


「桂木、おまえ処女か? それともハナクソの野郎とバンバンやってたのか? まあ、どっちでもいい。女子中学生の輪姦ビデオなら高く売れんだろ? それとも、ネットに流して学校中のみんなが見れるようにしてやってもいいんだぜ」 


 僕の嫌な予感は的中したみたいだ。


 山田たちはアマネちゃんをレイプして、それをネタに僕の自殺の件から手を引かせるつもりらしい。彼女の証言がなくなれば、親父も強気で交渉することができなくなると踏んでいるんだろう。


 ご丁寧に三脚付きのビデオまで用意してたってことは、最初っからそのつもりでアマネちゃんを呼び出したわけだ。


 吉沢は警察を呼んでくれただろうか?


 彼女の大ピンチに何もできない自分に、幽霊の僕じゃあ歯噛みするしかできない。


 しかし、山田たちの強姦計画を聞かされてもアマネちゃんは冷静だった。


「フン、そんなことやろう思うてた言うたやろ。ウチがこんなところまで一人で来たと思うとるん?」


 そう言うと、デニムのポケットから携帯電話を取り出す。


「今までの会話は全部、職員室にいる汐下先生にも聞こえとったはずや。ウチを輪姦するってはっきり言うてくれたもんな。今頃、先生が警察呼んでくれとんのとちゃうか」


 彼女はどうやといわんばかりの顔になった。


 置き手紙にあった「身の安全を確保してる」っていうのはそのことだったのか。


 汐下先生がついていてくれれば一安心だ。警察も、先生からの通報なら大至急駆けつけてくれるだろう。


 僕はホッとして息を吐いた。


 そして同時に、心霊現象研究会の部室で見たアマネちゃんと汐下先生の二人並んだ光景を思い出していた。


 やっぱり、アマネちゃんには一緒に生きて行くことのできるパートナーが必要だ。僕では、彼女の助けにならない。そのパートナーが汐下先生なら、安心してアマネちゃんを託すことができる。


 ところが、山田たちは相変わらずニヤニヤといやらしい笑いを浮かべたままだった。


「そりゃあ、大変だ。俺たち逮捕されちまうかもしれないなあ。ところで桂木よお、おまえの携帯、大丈夫か?」


「?」


「いやな、なんでか理由はわかんねえんだけど、さっきからこの教室、携帯つながらないんだわ」


「!」


 アマネちゃんは、ギョッとして携帯の画面に目をやった。


 みるみるその顔色が蒼くなる。


 覗き込んでみると、電波の状況を示すアンテナが一本も立っていなかった。


 山田が手下の二人に命令した。


「おい、生方、先崎、おまえ職員室行って汐下を拉致って来い。警察にタレ込まれないようにな」


「先公連れてきて、どうするんです?」


「汐下のヤローには、AV男優になってもらう。そうすりゃ、ヤツも俺らに逆らえなくなるだろ」


 それを聞いたヤンキーの二人は、ニヤニヤしながら教室を出て行った。アマネちゃんも隙をついて逃げ出そうとするけど、残った連中にすぐ逃げ道を塞がれる。


「なんで? さっきまでちゃんと通じとったのに……セージ? セージなん?」


 もちろん僕じゃない。でも、なんで携帯が通じないんだろう。この教室はもともと電波の入りのいいところだったはずだ。


「結局、神様は俺たちの味方ってことじゃねえのか。さあて、お楽しみをはじめようか。おい、おまえら」

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