第12章 最後の一日 その1
その十二 最後の一日
翌朝、いつものように駐車場で目を覚ました。
フラフラと屋上に上って、辺りを見回してみる。
試験休みの今日、おそらく職員室にはテストの採点をする先生が来ているはずだ。けれど、目に付くところに人影は見当たらなかった。
空はどんより曇って今にも雨が降り出しそうだ。見慣れた校舎の風景は、天気のせいか、なんだか重苦しい。もちろん、富士山なんかは全然見えなかった。お世辞にもいい眺めとは言えない。
それでも、僕はこの景色を愛おしいと思った。
ここからこうやって景色を眺められるのは最後かもしれない。そう思うと胸の辺りがキリキリと痛くなった。
明日の僕は、どこで何をしてるだろう。天国にいるか、地獄にいるか。それとも、亡者堕ちして自分が誰かも忘れ彷徨っているかもしれない。
そもそもなぜ、僕は自殺なんかしてしまったんだろう。この大馬鹿野郎。あのとき踏みとどまりさえしていれば、違った今があったはずなのに。
湧き上がる後悔を振り払うように大声で叫んだ。
「よぉし! 下条聖二、十四歳、死後四十九日。最後の一日を頑張るぞ!」
そうだ。悔やんでばかりはいられない。僕にはやらなきゃいけないことがある。
吉沢との待ち合わせ場所は、駅前のロータリーだった。
そこに現れた元イジメっ子・現イジメられっ子をみて、僕の目は点になった。
私服のコイツを見たのはそういえば初めてのような気がする。吉沢の服装は、派手なメタリックパープルのスカジャンにピチピチの革ズボン、それに顔の半分を覆うような真っ黒いサングラスだった。とても中学生の格好とは思えない。
それだけじゃない。おまけにヤツは、派手なペイントを施した明らかに暴走族仕様のスクーターにまたがっていた。
「吉沢……おまえ、そのカッコ……それに、運転免許なんて持ってるのか?」
僕に指摘されると、ヤツはサングラスを下げながらにやりと笑った。
「下条、おまえ日本の法律知らねえのか? 中学生が免許とれるわけないだろ」
ヤンキーくんは法律を熟知しているらしいけど、法律を守らなきゃいけないってことは知らないようだ。ヘルメットを被る気もまったくなさそうだし。
「松田先輩は顔が広かったからな。知り合いカンケイ探すんなら、藤沢あたりまで行くことになるぜ。いちいち電車移動ってわけにもいかねえから、バイト先の先輩に借りてきたんだ」
そりゃ確かに、機動力はあったほうがいいと思うけど。
「よっし、じゃあ出発進行!」
吉沢はヤル気満々で叫び、甲高いアクセルの音を響かせた。
不愉快な騒音を撒き散らしながら走る族仕様のスクーターは街中では注目の的で、すれ違う人たちがみな眉をひそめる。そのあとを飛んで追いかけながら、心底、周りの人間に自分の姿が見えないことをありがたいと思った。
それから僕たちは、松田先輩の友人やバイト先の居酒屋を調べて回った。
最初にあたった先輩の同級生曰く、
「ビックリしたよねえ。美奈に付き合ってる男がいたのは知ってたけど、あの子相手のことすっごい内緒にしててさあ。まさか、駆け落ちするとは思わなかったよ。えっ? 彼女が恨みを買ってなかったって? まあ、けっこうワルいこともしてたし、何があっても不思議じゃないけど」
次に、松田先輩がバイトしていた居酒屋では、
「んー、よく仕事中に男からのメールがきてたな。で、オレらが冷やかしたら、『ダーとはラブラブだ』とかってノロケてたけど。んー、彼氏の名前? さあ、知らねえなー。店に来たこともなかったし。顔も見てないんだよね。ほらフツープリクラとかあんじゃん。そういうのないのって聞いたら、それもないって」
彼女は、交際相手の男性の素性を周りには完全に秘密にしていたらしい。
怪しい。
やっぱり、松田先輩の彼氏が犯人なんだろうか。
しかし、その彼氏の手がかりがないんじゃあ、どうにもならないぞ。
唯一の彼氏の情報は、先輩が時々ヘルプに入っていたというキャバクラのキャバ嬢が見せてくれた携帯の画像だった。
「あ、ミーナのカレシ? あるよ、たしか花火大会で撮ったって送ってくれた写メに、カレシが写ってたんじゃないかな」
そう言って見せてくれた携帯には、男性の胸に顔を埋めてピースサインする浴衣姿の松田先輩が写っていた。
なるほど、たしかに美人だ。派手なメークに笑顔がまぶしい。
けれど彼氏の方は、首から上が切れて、肝心の顔が写っていなかった。




