第7章 未練を清算するということ その3
「はははは、やっぱ、あの二人つきあってたんじゃん」
また一人きりになった屋上に、むなしい笑いが響く。
今の様子だと、吉沢と水鳥川はかなり前からそういう仲だったんだろう。
少し驚いたけど、思い当たる節はいくつもあった。というか、なんで今まで気がつかなかったんだろう。そっちの方が不思議なくらいだった。
それより驚いたのは、吉沢たちが僕をイジメはじめた理由だ。
やつらが僕のことをいじめてたのは、水鳥川さんのことが原因だったのか。僕は今まで、ただ鼻のホクロがきっかけで理由もなくイジメの標的にされたんだとばかり思っていた。
僕は、この二年間、本当に彼女のことが好きだった。
正直、初恋だったと思う。
気がつくと、彼女の姿ばかりを目で追っていた。告白する勇気なんかは全然なくて、密かに想いを募らせているつもりだった。
でも、みんなバレてたんだ。
そんでもって、キモいと思われてた。
最悪だった。
ほくろをハナクソと間違えられる方がよっぽどマシだ。
「ざけんなよ! イヤならイヤってはっきり言えばいいじゃんかよ! そんなんで人をイジメるなっつうんだよ!」
水鳥川里子も吉沢アキラも、その取り巻き連中も、なんちゅうサイテーな人間なんだ。
でも、もっと情けないのは自分だった。水鳥川さんにとって、僕はそんなにキモいヤツだったのか。
もう、涙も出なかった。
不幸中の幸いは、吉沢が僕の死に後ろめたい思いを感じているらしいってことか。さすがにイジメの張本人だ。他人はごまかせても、自分の心まではごまかせるはずがない。もし、それが原因で二人が別れるって言うんならザマーみろだ。
(――でもだからって)
水鳥川さんが僕を好きになる日は永遠にやってこないんだよな。
幽霊になって、僕はアマネちゃんのことを好きになった。だから、以前に水鳥川さんを好きだった気持ちはとっくに清算できてるもんだと思っていた。
好きでもない女の子からなら、嫌われようがキモいと思われようがへっちゃらなはずだ。
それなのに、胸の痛みが止まらない。
いっそのこと屋上から飛び降りて死んでしまいたかった。でも、それはできないんだ。そのカードはもう切ってしまっている。
ふと見ると、敷地のあちらこちらに青々とした草木が生い茂って、間もない夏の訪れを予感させていた。
二年間、水鳥川さんを好きだった学校生活の思い出が浮かんでくる。
まぶしさに息を呑んだ体育祭。すれ違うだけで耳まで赤くなった渡り廊下。
夏になれば、また学校のプールで水泳部の練習がはじまる。水鳥川さんの水着姿は、多くの男子生徒に夢と希望と夜のオカズを与えることだろう。
その頃には、きっと僕はこの学校にいない。
* * *
いったん、ここで切ります。




