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OORK ルーク  作者: ことわりめぐむ
5/6

5 おなじじゃない

 ここにきて、何日も経った。本当は指で数えられるほどしか過ごしてないのだけれども、ルークには一年ぐらいに長かった。

 はじめは何もできなくて、ロジーナの後をちょろちょろついていくだけだった。うっかり人形を落としてしまった事があり、ロジーナに散々しかられていた。そのあと壊れた人形の変わりに、人形用の洋服を着せられ人形のフリをさせられたりしたこともあった。

 もともとインプットすれば何でもできる彼は、自己学習システムにより覚えがよい。不慣れな仕事もほとんど慣れてきて一人で店の中を案内できるようにまでなった。

「あんまり、めだっちゃいけないのにね」

 仕事を取られた嫌みにしか聞こえない言葉をロジーナはカリスにつぶやいた。

「誰も彼がロボットだなんて分からないさ。ロジーナも俺も全くばれてないだろ」

 意味深な言葉をつぶやきロジーナの頭を優しくなでる。

「ルークだって分かんないんだし、人間になんか分かるわけないわ。だってマスターは天才だもの」

 ロジーナは自分の髪の毛をくるりと指で巻いた。


 ルークの仕事はもうひとつある。

 ロジーナのお使いのお供だ。今日も決まったように時間になるとロジーナが食卓を飾る材料を買いに行く。

「今日はね。魚を買うんだって、カリスが言ってたよ」

「魚?たいして栄養にならないのじゃないの?」

 主人の健康を考えてかロジーナはルークにたずねた。

「栄養は、肉ほどはないけれど、体のためには魚も食べないとね」

ロジーナに難しい言葉を使えば機嫌を損なうことを覚えたルークは簡単に説明した。

「そうなの」

 思った通り突っかかってはこない。


 魚は、魚屋というロジーナのこだわりでちょっと遠い魚屋まで二人は歩いていった。彼女にもルークにも初めての道なので、迷子にならないように周りの変わりそうにないものを見て覚えていた。


 角のパン屋の看板。


 公園を通り抜けて、見えるバス停。


 そして、遠くに見える‥‥青い線。


「ロジーナ。海が見えるよ」

 かなりに遠くに海が見えた。レンガの屋根伝いに空とは違う深い青が見え隠れする。はじめて見た海という風景がなんだか嬉しくて、ロジーナに大声で伝える。

「見えないわよ」

 ルークより背が低い彼女は不機嫌そうに返した。

 ちゃんと見えるって、とルークはロジーナを持ち上げた。


「何するの‥‥」


「みえたでしょ」


 いつも見ている位置からは見えないものが見えて、ロジーナは黙った。

 ルークに持ち上げられたまま瞳は青くて広い海に釘付けになる、金色の髪とひらひらとしたスカートが風になびき、後ろから前に広がっていた。


 しばらくロジーナとルークはそのまま遠くの海を見ていた。


「海が近くにあったのね、どおりでなんだか湿気っぽいと思ったわ」

 ルークの手から解放されるとロジーナは一言いい先を急いだ。

 魚屋に着く。先ほど目視した海の近くということが、より新鮮なのだろうと言う証明できたのだからロジーナは満足だった。

 帰り道、すぐ近くに海があるのだから近くで見たいとルークは遠回りで帰る。

 海を左手に見ながらロジーナとルークは歩く。


「ルークありがとうね」


 彼女の言葉に、なんだか分からないけれどルークは「うん」と頷いた。

 お礼を言われることなんて、何かしたかな、彼の頭をデータが駆けめぐる。

そのとき、猫がロジーナに飛びかかってきた。ルークはぼーっとしていて猫の気配が分からなかったらしい。

「イヤッ。なんなのよこの猫」

 逃げるロジーナに必要以上に飛びかかってくる猫。

 たぶん狙いは、彼女の持っている魚だろう。

「ロジーナ。きっと魚が欲しいんだよ」

「そんなこと‥‥。これはマスターの食事なのよ何とかしてよ」

とうとう彼女は転倒してしまった。

 そこまでされてしまうと、ぼんやり見ているわけにも行かず猫を捕まえようと手を伸ばした。

 相手は威嚇のポーズを取って抵抗するが、ルークはそんなことは気にしないで猫を捕まえた。しばらくは叫び手の中でもがいていたが、自分を捕まえている手にかみついて逃げようと試み始めた。歯形がつくほど酷く噛み付く。

 手に穴が開いても、ルークは痛いという感覚がないので全く動じない、けれどもあまりにもひどい鳴き声で泣くのでかわいそうだから放してやることにした。


「大丈夫ロジーナ?」


 振り返った先のロジーナは地面に座り込んだままだった。不思議に思って近づくと彼女は足を隠すように押さえていた。

 みれば、彼女の足が裂けていた、と言うよりは折れていた。足は木で似せて造られていて、折れた木の先がスカートを突き抜けている。


「ロジーナ?」


 それを見て、ルークが聞く。


「君。人間じゃないの?」


 彼女の顔は青ざめていた。隠そうと慌てて動くが、かえってスカートが破れ折れた木の足があらわになっていた。


「君も僕と同じなの」


 人間以外はロボットだと決めつけている科学力の固まりは人間以外の少女に向かってそう聞いた。

 その表情はなんだか嬉しそうに見えた。

「あなたと同じじゃないわ。間違いなく人間よ‥‥体は人形だけれどもね」


 僕と同じじゃない、人形だから。


 でも、人形って動くの‥‥?


 でも動いている。


「非科学的だね。でもロジーナは。ロジーナだ」

 簡単に結論を出すとルークはロジーナを持ち上げた。

「ちょっと何するの」

「つれて帰るんだよ」 

「おろしてよ」

 ルークの手から逃れようとロジーナもばたばた暴れる。

「ちゃんと魚持っててね。このまま歩けないロジーナを置き去りにして行くわけにはいかないし。僕、力はあるしね」

 持ち上げたというよりか抱きかかえたか‥‥彼女の抵抗は気にせずに、そのまま彼は主人の待つ家まで帰っていった。


「マスター。ルークに見つかってしまいました。ごめんなさい」

ルークにつれて帰ってもらってすぐにロジーナは奥の部屋で修復をはじめられた。

 古びた椅子に座らされ、折れた足を根元から外される。方膝をついた人形師が丁寧に持つ足と体とのつなぎ目から青と赤いコードがあらわれる。

「黙っていなさい、どうせいずればれることだったんだ。その日が早く来ただけだよ」

 主人は手慣れた手つきで、コードを折れた足から外すと新しい足と繋ぎなおす。ロジーナはその作業をすまなさそうにただ見つめていた。

 コンピューターに人格ができあがったことも普通に考えればおかしな出来事になってしまうのだが、ルークは自分のことはこの際、気にしないで一人考えを進めていた。


 人間なのに、体は木製。人形館の人形?


 人形だから、ロボットと違う?


「ねえ。カリス。君も人形なのかな」


 ロジーナもカリスも食事はとらないし、働きづくめでも疲れない。ルークの知っている普通の人間だとは思えない。

 ロジーナが人形ならばカリスもそうに違いない、ルークはそう思って聞いてみた。

「そうだよ」

全く否定せず、ロジーナはおっちょこちょいだなぁ‥‥と言いながら話を進める。

「ルークと同じで人に知られてはいけないことだ、口外はしちゃあだめだよ」

 簡単に口止めされて、ルークは素直に分かったといった。

「何で人形が動くの」

 その質問にカリスは胸に手を当てて笑う。


「ここにね、体を動かすための機械が入っているからだよ」


「きかい」

 見上げるルークの瞳にカリスの手がうつる。

「機械なら僕と同じじゃないの?」

 そう言うルークの肩にカリスは手を置いた。

「同じじゃないな。これは俺もロジーナも、マスターからもらった大切な命の素だ、原理とかは詳しく俺は知らないけどな。あんまり、このことについては話さない方がいいと思うよ、ロジーナがまた、いじけるからね」

 カリスはとても気楽だ。真剣に言葉を考えて話しているのかものすごく気になる。真実を伝えてくれていないのだろうかという、気持ちになる。


 博士どうして僕の中には人を疑うプログラムがあるのですか‥‥。

 これさえなければ結構楽なのにとルークは思う。 


 ロジーナが、修理を終えて姿を現した。痛々しいほどに割れていた足は元通りになり、破れていた洋服は新しい物と取り替えられていた。

「よかったね。ロジーナ」

 カリスがまずそういった。

「マスターは天才だもの。心配なんてなかったわ」

 いつもの強気な態度が落ち込んでいるようには見えなかった。

「ルーク。この子が人形だって事は。内緒にしておいてくれないかな」

 ロジーナの後ろから現れた主人がルークに向かい笑って言う。

「分かりました」

 主人にまで言われてしまっては、本当に黙っているしかない。ルークは人形という事実には、もうふれないことにしようと思った。


 僕とは違う、機械で動く人形。


 そんなロボットが居てもいいだろうとは思うけれど、同じじゃないという言葉がなんだか寂しかった。


 二人がヘルゼに命をもらったと言うのなら、自分の命は博士からもらったものなのだと手を胸に当てて実感した。博士の側に行けば自分と同じロボットが居るかもしれない。そう考えはじめた。


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