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壊れた人形を捨てただけなのに、家族が少しずつ“直されていく”

掲載日:2026/03/05

その人形は、最初から気味が悪かった。


髪は絡まり、片目はひび割れている。


服も破れていた。


昔はお気に入りだったはずなのに、いつの間にか押し入れの奥にしまわれていた。


高校生になったある日。


彼女はそれを見つけた。


「……もういらない。」


ゴミ袋に入れ、外のゴミ箱へ捨てた。


それだけだった。


次の日。


朝食の時間。


父が新聞を読む。


母が味噌汁をよそう。


普通の光景。


なのに、少しだけ違った。


二人の動きが、ぴったり同じだった。


同じ角度。


同じタイミング。


「……ねえ。」


彼女が声をかける。


二人は同時に顔を上げる。


同じ笑顔で。


「どうしたの?」


その瞬間、背中が冷えた。


夜。


眠れない。


静かな家。


そのとき聞こえた。


きし。


きし。


きし。


糸が擦れる音。


彼女は部屋のドアを開ける。


廊下の先。


両親が立っている。


動かない。


ただ、こちらを見ている。


そして、ゆっくりと口が動く。


同じタイミングで。


同じ声で。


「まだ、直っていないね。」


彼女は走って部屋へ戻る。


次の日。


両親の瞬きが減っていた。


笑顔が少し硬い。


会話が短い。


まるで、プログラムされたみたいに。


そしてある夜。


部屋の中で音がする。


振り返る。


机の上。


あの人形が座っていた。


捨てたはずの人形。


割れた目が、彼女を見ている。


口は動かない。


けれど声が聞こえる。


頭の中で。


やさしく。


ゆっくりと。


「壊れていたのは……」


「あなた。」


彼女は耳を塞ぐ。


けれど声は止まらない。


「直してあげる。」


次の日。


彼女は学校へ行かなかった。


鏡の前に座っていた。


両親が後ろに立っている。


同じ姿勢。


同じ笑顔。


机の上の人形が、静かに見ている。


夜になるころ。


彼女はゆっくり立ち上がる。


ぎこちない動き。


瞬きが少ない。


笑顔が、少し硬い。


「まだ……直りきってない。」


声が同じ調子になる。


それから数日後。


家の中には三つの人形のような影が座っている。


動かない。


笑っている。


同じ姿勢で。


そして、玄関のドアが開く。


小さな女の子が入ってくる。


楽しそうに言う。


「わあ、新しいお人形いっぱい!」


少女は三つの人形を並べる。


父。


母。


高校生の少女。


そして机の上の人形を抱き上げる。


「この子が作ったの?」


誰も答えない。


ただ、同じ笑顔で座っている。


少女は嬉しそうに言った。


「じゃあ、もっと遊ぼうね。」

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