壊れた人形を捨てただけなのに、家族が少しずつ“直されていく”
その人形は、最初から気味が悪かった。
髪は絡まり、片目はひび割れている。
服も破れていた。
昔はお気に入りだったはずなのに、いつの間にか押し入れの奥にしまわれていた。
高校生になったある日。
彼女はそれを見つけた。
「……もういらない。」
ゴミ袋に入れ、外のゴミ箱へ捨てた。
それだけだった。
次の日。
朝食の時間。
父が新聞を読む。
母が味噌汁をよそう。
普通の光景。
なのに、少しだけ違った。
二人の動きが、ぴったり同じだった。
同じ角度。
同じタイミング。
「……ねえ。」
彼女が声をかける。
二人は同時に顔を上げる。
同じ笑顔で。
「どうしたの?」
その瞬間、背中が冷えた。
夜。
眠れない。
静かな家。
そのとき聞こえた。
きし。
きし。
きし。
糸が擦れる音。
彼女は部屋のドアを開ける。
廊下の先。
両親が立っている。
動かない。
ただ、こちらを見ている。
そして、ゆっくりと口が動く。
同じタイミングで。
同じ声で。
「まだ、直っていないね。」
彼女は走って部屋へ戻る。
次の日。
両親の瞬きが減っていた。
笑顔が少し硬い。
会話が短い。
まるで、プログラムされたみたいに。
そしてある夜。
部屋の中で音がする。
振り返る。
机の上。
あの人形が座っていた。
捨てたはずの人形。
割れた目が、彼女を見ている。
口は動かない。
けれど声が聞こえる。
頭の中で。
やさしく。
ゆっくりと。
「壊れていたのは……」
「あなた。」
彼女は耳を塞ぐ。
けれど声は止まらない。
「直してあげる。」
次の日。
彼女は学校へ行かなかった。
鏡の前に座っていた。
両親が後ろに立っている。
同じ姿勢。
同じ笑顔。
机の上の人形が、静かに見ている。
夜になるころ。
彼女はゆっくり立ち上がる。
ぎこちない動き。
瞬きが少ない。
笑顔が、少し硬い。
「まだ……直りきってない。」
声が同じ調子になる。
それから数日後。
家の中には三つの人形のような影が座っている。
動かない。
笑っている。
同じ姿勢で。
そして、玄関のドアが開く。
小さな女の子が入ってくる。
楽しそうに言う。
「わあ、新しいお人形いっぱい!」
少女は三つの人形を並べる。
父。
母。
高校生の少女。
そして机の上の人形を抱き上げる。
「この子が作ったの?」
誰も答えない。
ただ、同じ笑顔で座っている。
少女は嬉しそうに言った。
「じゃあ、もっと遊ぼうね。」
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