第7話 追放された神官
セナとルソンが城を出てから、4ヶ月が経ち、季節は春から夏に移り変わろうとしていた。
リティス村で出会った少年も加わり、セナ達は天蘭王国の南に位置する都。 月明を訪れていた。
「お腹空いたわね~」
「そうですね~、姫さま、歩いてる最中に何回か、ぐーってお腹鳴ってましたもんね」
「ルソン、そういうことは気付いていても言わないでちょうだい。恥ずかしいでしょ」
「はは、すいませんね。つい言いたくなってしまいまして」
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月明を訪れたセナ達は昼食をとるため、月明の都にある中華料理にいた。
ルソンとセナの会話を向かい側の席に座りながら聞いていたリクスは、目の前にある木造の四角い茶色のテーブルに頬杖をつき、ぽつりと呟いた。
「セナとルソンって、本当、仲良いよね」
「そうかしら?」
「まあ、俺と姫さまは、小さい頃からの付き合いだからな。思ったことは結構はっきり言える関係性ではあると思っているぞ」
「そうね。お互い遠慮したり、気を使うようなことはないわね。小さい頃からずっとこんな感じよ」
セナとルソンは主従関係であるが、幼なじみでもある。
リクスはセナとルソンが幼なじみであることを知らなかったのかセナの言葉に少し驚く。
「へぇー、ルソンとセナは幼なじみだったんだ」
「ええ、」
そんなセナ達の会話が終わるのと同時に、同じ店内にいるテーブル席の方に座る客の話し声が聞こえてくる。
「ルク陛下が殺されたらしいぞ」
「ああ、そうみたいだな。聞いた話しによると、セナ姫様も行方知れずになっているらしいな」
「そうなのか、それは知らなかった」
「これからどうするんだろうなぁ……」
男性二人のそんな会話を聞いたセナ達は顔を見合わせて、小声でひそひそと話し始める。
「ねえ、ルソン、今の話……」
「ああ、もうルク陛下が殺されたことが知れ渡っているみたいだな」
現国王であるルク王は春祭りの日の夜。
セナの叔父の手によって殺された。
「ルク陛下ってセナの父親だよね……?」
向かい側の席でルソンと共に座っていたリクスに問いかけられ、セナは頷いてから口を開いた。
「ええ、そうよ……」
「そっか、あのさ、嫌だったら答えなくていいんだけど。誰に殺されたかはセナは知ってるんだよね?」
リクスの言葉にセナは少し悲しげな顔をし、静かな声で答えた。
「ええ、知っているわ」
「そうなんだね……」
叔父であるソレザが何故、ルクを殺したのか。その理由はセナにはわからないが、どんな理由であれ許すことはできないとセナは思っていた。
注文して、運ばれてきた中華料理をセナ達が食べていると、杖を手に持った白髪の老人が店内へと入ってきた。
白髪の老人は店内を見回して空いてる席を探す中で、セナ達の姿が目に入る。
「あれは……」
白髪の老人は何かに気付いたのか、少し驚いた声色で呟いた。
そして、セナ達がいる席へと向かう為に歩き始めたのであった。
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「ここ座っていいかのぉ?」
白髪の老人がセナ達がいる席までやって来るなり、セナが座っている方の席を指差してそう声をかけた。
「え、えっと、はい! 空いてるので座ってもいいですよ」
「ありがとうなぁ……」
白髪の老人は空いていたセナの隣の席に腰を下ろすなり話し始める。
「そなた達はこの都の者か?」
「いいえ、違うわ。王都の人間よ」
セナの返答に白髪の老人は「なるほど」と白い髭を左手で触りながら呟く。
「私も昔、王都にいたなぁ……」
老人の言葉にセナは反応し、箸で皿の上の揚げ物を取ろうとしていた手を止めた。
「そうなんですか?」
「ああ、若かりし頃だがなぁ、こう見えて神官として王城に務めていたのさ」
白髪の老人はそう言い、セナの方に顔を向けるなり、フードを被ったセナの顔をじーっと見つめた。
「ふむ、空色の髪に空色の瞳か…… 神のお告げがあったから、ここまでやって来たのが。どうやらこれはわしの最後の役目なのかもしれぬなぁ……」
「なんだ? この爺さんは……」
ルソンは眉をしかめて、白髪の老人を見ているとセナの隣に座っている老人は話し始めた。
「そなたは天命の盾と天命の力のことを知っているか?」
「ええ、知っているわ。建国神話の初代国王が持っていた不思議な力が天命の力で。その天命の力を持つ初代国王を守っていたのが、天命の盾よね?」
「ああ、そうだ」
建国神話にも登場する初代国王は不思議な七つの力を持っていた。
初代国王はその力を使い戦に幾度も勝利し、この天蘭王国の領土を広げたのだ。
そして、そんな初代国王に仕えて、いかなる時も支え守ってきた4人の護衛。
それが『天命の盾』と呼ばれている者達だ。
「そなたにはその初代国王が持っていた天命の力と同じ力がある。神からのお告げをわしは今朝、聞いたのだ」
「え……?」
白髪の老人の思いもよらない言葉に、セナは思わず困惑した。
自分に初代国王と同じ天命の力があるなど考えたこともなかったセナにとって、たとえ王城に仕えていたという神官の言葉であっても、すぐには信じられるものではなかった。
「やはりそなたは知らなかったのだな」
「おい、爺さん、何言ってんだ? 姫さまに初代国王と同じ天命の力がある訳ないだろ。姫さまはどうみたって普通の人間だ」
ルソンが白髪の老人にそう言うと、白髪の老人はルソンを見てから、「はぁ……」とため息をついた。
「まあ、信じるか信じないかは人それぞれだが、そなたに一つ助言をやろう。天命の盾を探されよ。彼らはきっと、これからそなたの役に立つ」
「天命の盾ですか?」
「ああ、そうだ。地図は持っているか?」
白髪の老人の問いに向かい側の席に座っていたルソンの隣にいたリクスが「持っているよ」と返し、肩にかけていた鞄のチャックを開けて、セナから預かっていた地図を取り出した。
「その地図をわしに少し貸してくれぬか?」
「セナが良いって言ったらいいけど……」
リクスはそう言ってからセナに顔を向けるとセナは頷き返し「いいわよ」と答えた。
セナの返事を受けて、リクスは手に持っていた地図を向かいに座るセナの隣にいる白髪の老人へと手渡した。
「ありがとう。この地図に目印をつけても良いか?」
「え、ええ、構わないけれど目印ってなんの?」
セナが白髪の老人に問い掛けると白髪の老人は白い上着のポケットからペンを取り出して、地図の上に何やら書き込み始める。
セナは地図を覗き込み見ると、老人は地図上に小さい丸をつけていた。
「うむ、これでよかろう」
白髪の老人は、地図上に目印となる小さな丸を書き終えると、リクスから手渡された地図を丁寧に半分に折り畳み、隣にいたセナへと手渡した。
「天命の盾がいる場所に丸をつけておいた。これで探す手間が省けるだろう。ではな」
白髪の老人はそう言い終えるなり、ゆっくりと立ち上がり、セナ達に背を向けて歩き出す。
セナ達はそんな白髪の老人が店の外に出るまで見送った。
「天命の盾を探せと言われましたけど、どうしますか? 姫さま」
向かいに座るルソンの言葉にセナは数秒、黙ってから口を開く。
「さっきのお爺さんが言っていたことが本当なのかはわからないけど。せっかく助言をして頂いたんだもの。探すわ、天命の盾を。奪われた玉座を奪還する為にも今は戦力が必要だもの」
「よし、それじゃ、さっきのお爺さんが付けてくれた目印の中で最初にこれから向かう所を決めないとだね!」
リクスの言葉にセナとルソンは頷き返したのであった。
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昼過ぎ頃。
天蘭王国の城内の部屋を掃除していたセナの侍女であるリーナは部屋の窓から見える青白く澄み渡った空を見上げながら一人呟いていた。
「はぁ、姫様がいなくなってしまってから、もう4ヶ月経つんですね……」
ルク陛下が何者かに刺殺され、姫様とルソン様が行方知れずになったことを知ったのは春祭りの翌日のことだった。
そしてルク陛下が亡くなられてから4ヶ月が経った今でも城の中と王都ではその話で持ちきりである。
「生きている信じて、姫様の帰りを待つしかないですよね」
帰ってくることを信じて今の自分にできることをやろうと、リーナは強く心に決めて立ち上がり部屋を後にした。
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都。月明を出たセナ達は老人が目印をつけてくれた地図を頼りに天命の盾のうちの一人がいるであろう、紅蘭国の南にある森の中を歩いていた。
「本当にこんな森の中に、天命の盾のうちの一人がいるのかしら……?」
「んー、まあ、確かにそうですねぇ」
「いなかったらどうするんだ?」
リクスの問いにルソンは明るい笑みを浮かべて告げる。
「まあ、その時はその時で考えよう!」
「ええ、そうね!」
「うん」
紅蘭国の南にある森の中に入ってから4日経った昼前頃。セナ達は森の中にポツンと建つ小さな家を見つける。
「こんな森の中に家……?」
「誰か住んでいそうだな」
「そうだね」
木造で出来たクリーム色の小さな家の前でセナ達は足を止めた。
セナ達が家を見ていると一人の男が家の中から出てくる。
「なにか用か?」
家の中から出てきた背の高い男は白いシャツと黒色の長ズボンというラフな格好していた。
男はセナ達を見て訝しげな顔をする。
セナは目の前にいる男が天命の盾の内の一人であると知らずに天命の盾のことについて問い掛ける。
「あ、あの、私達、天命の盾のうちの一人を探しているのですけど、何か知っていたりしませんか?」
セナの問いに男は手に持っていた籠を地面に置いてセナ達の方を見る。
「ああ、知っている何も、俺が天命の盾のうちの一人だが」
まさか、天命の盾のことを聞いた相手が天命の盾の内の一人だとは思ってもみなかったセナ達は驚いてから嬉しそうに喜び出す。
「え、そうなのか!」
「あのお爺さんが言っていたことは全て本当だったということね!」
「うん、そうだね」
嬉しそうに喜ぶセナ、ルソン、リクス。
そんな三人の姿を見て、シウは何がそんなに嬉しいのかわからず、首を傾げた。
しかし、何かに気づいたのかはっとした表情になる。
「もしかして、セナ姫様か……?」
「ええ、そうよ。よくわかったわね」
シウの問いにセナは優しい声色で返答してから、被っていたロングマントのフードを取る。
そんなセナの隣にいたルソンとリクスは交互に口を開く。
「姫さんの髪色珍しいからな。フードとって顔を見たら気付く人も少なからずいるだろう」
「確かに、目立つ髪色してるもんね」
セナの髪色は綺麗な空色であり、瞳の色も淡い水色。
あまり見ない髪色と瞳の色の為、容姿だけでこの天蘭王国の第一皇女であるセナ姫だと気付かれる可能性が高かった。
なので、常に白いロングマントを羽織り、ロングマントについたフードを被っていたのだ。
「やはりそうか。もしかして、俺を探して此処まできたのか?」
「ええ、私達は今、理由あって天命の盾であった者達を探しているの」
「なるほど。それで、俺に何の用だ?」
天蘭王国から天命の盾を探しに此処までセナ達がやってきた。
そんなセナ達の目的は何なのか。
シウに思い当たるのはたった一つしかなかった。
「私達と共に来て欲しいの」
「来て欲しいねぇ…… 何の目的があって、俺が一緒に着いて行かなきゃいけないのかがわからないから、着いていくとは言えないな」
セナ達の真剣な表情を見て、シウは即答できないことに申し訳なさを感じながらも、彼らがどれほど本気なのかを見定めたいという思いが強く、今すぐにでも「着いていきたい」と言いたい気持ちを押し殺していた。
「これから先の未来。奪われた玉座を奪還する為に貴方達が必要なの」
「まあ、そういうことだ」
「俺からもお願い。一緒に来て欲しい」
初代国王に仕えていた天命の盾である者達はそれぞれ不思議な力を持っていた。
シウはそんな天命の盾である者の一人であり、初代国王に仕えていた天命の盾であった先祖の血を引いていた。
「少し考えさせてくれ。セナ姫様、貴方が仕えるに値する人間か見定めたい」
シウの発言にルソンは少しムッとしたのか、少し強い口調で発する。
「そんなことしなくても姫さまは、仕える価値のある方だ」
「ルソン、いいのよ。そうよね、わかったわ。貴方の気持ちが決まるまで待つわ」
見定めたい。
そう言った理由が彼にはきっとあるのだろうとセナは瞬時に察し、シウの気持ちを受け入れた。
「ああ、待ってる間、俺の手伝いも必須だぞ?」
「ええ、いいわよ」
「手伝い必須とか、めんどくさいね、あんた」
「おい、リクス。そういうのは思ってても口に出すな」
ルソンはリクスの頭を軽く手で叩き注意する。
リクスはルソンに軽く叩かれても文句を言い続けていた。
セナはそんな二人に挟まれながら「落ち着いて、二人とも」となだめる。
シウはそんなセナ、ルソン、リクスの三人の会話を聞きながら、ふっと柔らかい笑みを溢す。
「暫く賑やかになりそうだな」
木々の隙間から差し込む陽の光がそんな4人の姿を照らしていた。




