第24話 王女奪還
セナが連れ去られた先――
その可能性が最も高い場所として、ルソンたちが辿り着いた答えは一つだった。
黎明国の王都。
月影村を発った一行は、街道を東へと進み、昼夜を問わず歩き続けた。
黎明国へ近づくにつれ、道行く旅人の数は増え、行商人の荷車や巡回兵の姿も目立つようになる。
だが、それは同時に――
人攫いが紛れ込みやすい場所でもある、ということだった。
「……王都か」
遠くに見えてきた高い城壁を見上げ、ルソンは低く呟いた。
黎明国の王都は、名の通り“夜明け”を象徴する国の中心。交易も人の往来も盛んで、華やかさと活気に満ちている。
しかし、その光の裏側に、深い闇があることをルソンは知っていた。
「犯罪組織が根を張るには、うってつけだねぇ」
セルの言葉に、ルソンは無言で頷く。
彼の視線は、城門へと続く道の先ではなく、その脇へと逸れていた。
王都へ入ってからしばらく。
繁華街を抜け、人気の少ない裏路地へと足を踏み入れた頃だった。
石畳はひび割れ、建物の壁には古い傷跡が残る。
昼間だというのに、陽の光はほとんど届かず、空気は重く澱んでいた。
「……ここだな」
シウが足を止める。
彼の視線の先にあったのは、街の景観から浮いた一軒の建物だった。
表向きは倉庫のように見えるが、窓はすべて板で塞がれ、出入り口には不自然なほど頑丈な鍵がかけられている。
周囲には人の気配がない。
だが――静かすぎた。
「この場所、嫌な感じがする」
リタが小さく呟く。
鼻を突く、微かな薬品と鉄の匂い。
そして、建物の裏手へと続く地面に残された、引きずられたような痕。
ルソンはその痕の前に膝をつき、指先でなぞった。
「……新しい」
胸の奥が、ぎり、と軋む。
「間違いない。セナはここに連れてこられた可能性が高い」
ルソンは立ち上がり、建物を見据えた。
その目に、もう迷いはなかった。
「……行くぞ」
一行は無言で頷き合う。
ここが、犯罪組織の隠れ家であることは疑いようがない。その奥に、セナが囚われていることを信じて。
✾✾✾
隠れ家の裏口は、古い木製の扉だった。
鍵は掛かっているが、長年使われていないのか、金属の擦れる音は鈍い。
ルソンはシウ達に視線を送り、静かに頷く。
シウが一歩前に出て、短剣を差し込み、わずかに力を込めた。
――カチリ。
小さな音と共に、鍵は外れた。
扉の向こうから、湿った空気が流れ出てくる。
薬品と血の混じった、不快な匂い。
「……間違いないな」
ルソンの呟きに、誰も返事をしなかった。
一行は息を殺し、闇の中へと足を踏み入れる。
薄暗い通路、無造作に積まれた木箱、壁に残る擦り傷――
ここが、人攫いや密売を生業とする犯罪組織の拠点であることは明白だった。
「足音が聞こえた……来る」
セルの小さな声と同時に、通路の奥から複数の足音が近づいてくる。
「侵入者だ!」
怒号が響いた瞬間、空気が一変した。
男たちが武器を構え、襲いかかってくる。
ルソンは即座に剣を抜き、先頭の男の攻撃を弾き返した。
「邪魔をするな!」
鋼と鋼がぶつかり合う音が、狭い通路に反響する。
リタは素早く距離を詰め、敵の懐に潜り込むと、確実に動きを封じた。
「数が多いですねぇ……!」
ルイアが弓を引き絞り、闇の中で動く影を射抜く。
倒れた男の背後から、さらに別の男が飛び出したが、シウの一撃がそれを阻んだ。
「先へ行くぞ! 姫さまを優先だ!」
ルソンの声に、一行は頷き合いながら前進する。
奥へ進むにつれ、抵抗は激しさを増していった。
だが、誰一人として足を止める者はいない。
――そして、地下へと続く階段の前に辿り着く。
「……いる」
シウが低く告げる。
階段の下から、微かに感じ取れる気配。
ルソンは剣を握る手に力を込め、一段ずつ降りていった。
地下室は、粗末な石壁に囲まれた空間だった。
その中央、鎖に繋がれ、床に座り込んでいる少女の姿があった。
「……姫さま……!」
その名を呼んだ瞬間、セナははっと顔を上げる。
「……ルソン……?」
掠れた声。
だが、確かに生きている。
「動くな!」
背後から現れた組織の男が、刃を突き出す。
だが、ルソンは迷わなかった。
一瞬の踏み込み。
剣閃が走り、男は声を上げる間もなく倒れ伏す。
残った者たちも、仲間たちの連携によって次々と制圧されていく。
やがて、地下室には荒い呼吸の音だけが残った。
ルソンはセナの前に跪き、震える手で鎖を外す。
「……遅くなって、すまない」
セナは一瞬、目を見開き――
次の瞬間、力が抜けたようにルソンの胸に倒れ込んだ。
「……来て、くれるって……信じてたわ」
その言葉に、ルソンはそっとセナを抱き寄せる。
「ああ。必ず、迎えに行くと決めていた」
セルとリタが周囲を警戒し、シウとルイアが出口を確認する。
「ここはもう危険だ。すぐに出よう」
ルソンはセナを抱え上げ、静かに頷いた。
こうして――
黎明国の王都の影に巣食っていた犯罪組織は崩れ去り、セナは、仲間たちのもとへと戻ったのであった。
セナ達の旅はまだまだ続いていきますが、これにて完結とさせて頂きます!ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
また、今後も色々とお話を書いていく予定です。
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