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暁夜の下で姫は誓う 〜父を殺され、居場所を失った王女が再び王になるまで〜  作者: 藍凪みいろ
第三章 紅蘭国編

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第22話 天命の力


 セナ達は野宿を繰り返しながら、山奥にある村を目指して歩き続けた。

 険しい道も、冷たい夜も越えて――

 そして五日目の昼過ぎ、ようやく目的地に辿り着いた。


 山に囲まれた小さな村。

 家々は年季が入っており、人の気配はあるものの、どこか静かだ。


「……ここが、ラルク村」


 セナはそう呟き、近くにいた村人へと声をかけた。


「あの、すみません。この村に、天命の力について詳しい方がいると聞いて来たのですが……どこにいらっしゃいますか?」


 村人は一瞬、こちらを値踏みするように眺め、それから顎で村の奥を示した。


「あー、その話なら、あの中年のおっさんだな。案内するよ、ついてきな」

「ありがとうございます」


 セナ達は村人の後を追い、土の道を歩いていく。

 やがて、一軒の質素な家の前で立ち止まった。


「おーい、おっさん。あんたに用があって来た客人だぞ」


 村人がそう呼びかけると、家の中から足音がし、戸が開く。

 現れたのは、茶髪の混じった中年の男性だった。


「……客人だと?」

「ああ、そうだ。じゃあ、俺はこれで失礼するぞ」


 村人はそう言って立ち去り、私たちはその男性と向き合った。


「あなたが……天命の力について知っている方ですか?」

「ああ。とりあえず、家に入ってくれ」


 促されるまま、セナ達は家の中へと招き入れられた。


「私はロアスという。……わざわざ、こんな山奥の村まで来た理由は、天命の力のことを知るため、だな?」

「ええ」


 セナは一歩前に出て、はっきりと頷いた。


「私が持っている天命の力が、どんな力なのかを知りたくて。この村に、それを知る人がいると聞いたの」

「なるほど……」


 ロアスはセナの背後に立つ仲間達へと視線を移す。


「そこにいる四人は、天命の盾だな」

「……なぜ分かる? 俺たちが天命の盾だって」


 シウが鋭く問い返す。


「あなたは……何者なんですか?」


 リタの声にも、警戒が滲んでいた。

 そんなシウとリタの問いにロアスは肩をすくめる。


「私は何の力も持たない、ただの人間だ。だが――」


 ロアスと名乗った男は少し間を置いてから続けた。


「私の曽祖父は、天命の力を持っていた初代国王の護衛だった」

「……初代国王の、護衛?」


 ルソンが思わず声を上げる。


「ああ。だから私は、天命の力が何なのかを知っている」


 ロアスは再びセナを見た。


「……貴方は、セナ姫様だろう?」

「ええ、そうよ」


 セナが答えた瞬間、何故か胸の奥がざわついた。


「どうして分かったんだと顔に書いてあるな」


 ロアスは静かに語り始めた。


「曽祖父は言っていた。いつかこの村に、天命の力を持つ者がやって来ると」

「それは……初代国王から?」

「ああ。初代国王は知っていたのだ。天命の力を持つ者が、未来に生まれることを」

「……なぜ、そんなことが分かった?」


 シウの問いに、セルがぽつりと呟く。


「未来を見る力……?」


 ロアスは深く頷いた。


「その通りだ。初代国王の天命の力は未来視だった」

「なるほどな……」


 ルイアが低く唸る。

 そしてロアスは、決定的な言葉を口にした。


「セナ姫様。貴方が持つ天命の力も、初代国王と同じだ」


 ――その場の空気が、一瞬止まった。


「未来を見ることが出来る力。それが、貴方の天命の力だ」

「……」


 セナはすぐには言葉が出なかった。


「どうして、そこまで分かる?」


 ルソンがセナを庇うように一歩前に出る。


「もし、ここにセナ姫様がやって来たら、渡してほしいと。曽祖父から預かっている物がある」


 ――セナの天命の力。

 そして、初代国王から受け継がれた何か。

 それが、今、明かされようとしていた。


 ロアスはゆっくりと椅子から立ち上がると、長年使い込まれた木机へ向かった。

 

 引き出しを開けると、そこには他の書類とは明らかに違う、細長い封筒が一通、丁寧に収められていた。

 彼はそれを取り出し、しばし視線を落とす。


「……これだ」


 そう短く告げると、ロアスは封筒をセナの前へ差し出した。

 セナは一瞬だけ躊躇い、そして静かに受け取る。


「これは……?」


 封筒を開け、中から取り出した一通の手紙。

 紙の縁はわずかに黄ばみ、長い年月を経てきたことを物語っていた。

 セナは息を整え、ゆっくりと読み始める。


――未来の第一皇女への伝言だ。


 私は、この天蘭王国の国王であり、「天命の力」という不思議な力を持っている。

それは、未来を見ることが出来る力だ。


 私は、死ねばこの力も消えるものだと思っていた。だが、どうやらそうではないらしい。


 私が死んだ後、この力は未来に生まれる皇女へと宿る。

 ――そう、この手紙を読んでいるお前にだ。


 だからこそ、私が持っていたこの力を宿したお前に、伝えなければならないことがある。


 この力は便利だ。

 良くない未来を先に知れば、それを回避するために動くことが出来る。

良い未来を見ることも出来る。


 だが、使い方を誤れば、この力は恐ろしいものとなる。


 私は、本来起こるはずだった悪い出来事の未来を見て、それを回避し、変えた。

しかし、その結果待っていたのは、さらに最悪な結末だった。


 未来を変えるとは、そういうことだ。

 また、この力は他の者から見れば、あまりにも利用価値が高い。信用している者以外には、決して伝えるな。


 自分の力が何なのか理解できない限り、この力は使えない。

 だが、この手紙を読んでいるお前なら、もうきっと使えるはずだ。


 私と同じ力を持ったお前が、道を踏み外さぬことを願う。


 手紙を読み終えたとき、部屋には重たい沈黙が落ちていた。


「……初代国王から、姫さまへ……」


 ルソンが絞り出すように言う。


「ロアスさん。貴方は、この手紙を読んだのか?」


 セナから視線を向けられ、ロアスは苦笑いを浮かべた。


「ああ……読んでしまった。すまない」


 だがセナは首を振った。


「いいのよ。ロアスさん……ありがとう。この手紙を、ずっと捨てずに持っていてくれて」

「渡さないと、曽祖父に怒られるからな!」


 その言葉に、セナは小さく笑う。

 けれど、その表情はすぐに引き締まった。


「私の力は……未来を見れる力……」

「初代国王と同じ力、か……」


 シウが呟く。

 セナは手紙を胸に抱き、静かに立ち上がった。


「ロアスさん。私、もう行くわ」

「姫さま……?」

「私には、やらなければならないことがあるから」


 ロアスは深く頷いた。


「ああ。また何かあったら来るといい。どんなことがあっても――セナ姫様。貴方なら、きっと大丈夫だ」

「ええ。ありがとう」


 セナはルソン、そしてシウ達を見渡し、力強く言った。


「みんな、行くわよ」


 セナはそう言うとシウ達は頷き返す。

 家の外に出ると眩しい日の光がセナ達の姿を照らす。

 セナは振り返ることなく歩き出し、村を後にした。

 未来を知るという重荷を胸に抱きながら――。


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