第22話 天命の力
セナ達は野宿を繰り返しながら、山奥にある村を目指して歩き続けた。
険しい道も、冷たい夜も越えて――
そして五日目の昼過ぎ、ようやく目的地に辿り着いた。
山に囲まれた小さな村。
家々は年季が入っており、人の気配はあるものの、どこか静かだ。
「……ここが、ラルク村」
セナはそう呟き、近くにいた村人へと声をかけた。
「あの、すみません。この村に、天命の力について詳しい方がいると聞いて来たのですが……どこにいらっしゃいますか?」
村人は一瞬、こちらを値踏みするように眺め、それから顎で村の奥を示した。
「あー、その話なら、あの中年のおっさんだな。案内するよ、ついてきな」
「ありがとうございます」
セナ達は村人の後を追い、土の道を歩いていく。
やがて、一軒の質素な家の前で立ち止まった。
「おーい、おっさん。あんたに用があって来た客人だぞ」
村人がそう呼びかけると、家の中から足音がし、戸が開く。
現れたのは、茶髪の混じった中年の男性だった。
「……客人だと?」
「ああ、そうだ。じゃあ、俺はこれで失礼するぞ」
村人はそう言って立ち去り、私たちはその男性と向き合った。
「あなたが……天命の力について知っている方ですか?」
「ああ。とりあえず、家に入ってくれ」
促されるまま、セナ達は家の中へと招き入れられた。
「私はロアスという。……わざわざ、こんな山奥の村まで来た理由は、天命の力のことを知るため、だな?」
「ええ」
セナは一歩前に出て、はっきりと頷いた。
「私が持っている天命の力が、どんな力なのかを知りたくて。この村に、それを知る人がいると聞いたの」
「なるほど……」
ロアスはセナの背後に立つ仲間達へと視線を移す。
「そこにいる四人は、天命の盾だな」
「……なぜ分かる? 俺たちが天命の盾だって」
シウが鋭く問い返す。
「あなたは……何者なんですか?」
リタの声にも、警戒が滲んでいた。
そんなシウとリタの問いにロアスは肩をすくめる。
「私は何の力も持たない、ただの人間だ。だが――」
ロアスと名乗った男は少し間を置いてから続けた。
「私の曽祖父は、天命の力を持っていた初代国王の護衛だった」
「……初代国王の、護衛?」
ルソンが思わず声を上げる。
「ああ。だから私は、天命の力が何なのかを知っている」
ロアスは再びセナを見た。
「……貴方は、セナ姫様だろう?」
「ええ、そうよ」
セナが答えた瞬間、何故か胸の奥がざわついた。
「どうして分かったんだと顔に書いてあるな」
ロアスは静かに語り始めた。
「曽祖父は言っていた。いつかこの村に、天命の力を持つ者がやって来ると」
「それは……初代国王から?」
「ああ。初代国王は知っていたのだ。天命の力を持つ者が、未来に生まれることを」
「……なぜ、そんなことが分かった?」
シウの問いに、セルがぽつりと呟く。
「未来を見る力……?」
ロアスは深く頷いた。
「その通りだ。初代国王の天命の力は未来視だった」
「なるほどな……」
ルイアが低く唸る。
そしてロアスは、決定的な言葉を口にした。
「セナ姫様。貴方が持つ天命の力も、初代国王と同じだ」
――その場の空気が、一瞬止まった。
「未来を見ることが出来る力。それが、貴方の天命の力だ」
「……」
セナはすぐには言葉が出なかった。
「どうして、そこまで分かる?」
ルソンがセナを庇うように一歩前に出る。
「もし、ここにセナ姫様がやって来たら、渡してほしいと。曽祖父から預かっている物がある」
――セナの天命の力。
そして、初代国王から受け継がれた何か。
それが、今、明かされようとしていた。
ロアスはゆっくりと椅子から立ち上がると、長年使い込まれた木机へ向かった。
引き出しを開けると、そこには他の書類とは明らかに違う、細長い封筒が一通、丁寧に収められていた。
彼はそれを取り出し、しばし視線を落とす。
「……これだ」
そう短く告げると、ロアスは封筒をセナの前へ差し出した。
セナは一瞬だけ躊躇い、そして静かに受け取る。
「これは……?」
封筒を開け、中から取り出した一通の手紙。
紙の縁はわずかに黄ばみ、長い年月を経てきたことを物語っていた。
セナは息を整え、ゆっくりと読み始める。
――未来の第一皇女への伝言だ。
私は、この天蘭王国の国王であり、「天命の力」という不思議な力を持っている。
それは、未来を見ることが出来る力だ。
私は、死ねばこの力も消えるものだと思っていた。だが、どうやらそうではないらしい。
私が死んだ後、この力は未来に生まれる皇女へと宿る。
――そう、この手紙を読んでいるお前にだ。
だからこそ、私が持っていたこの力を宿したお前に、伝えなければならないことがある。
この力は便利だ。
良くない未来を先に知れば、それを回避するために動くことが出来る。
良い未来を見ることも出来る。
だが、使い方を誤れば、この力は恐ろしいものとなる。
私は、本来起こるはずだった悪い出来事の未来を見て、それを回避し、変えた。
しかし、その結果待っていたのは、さらに最悪な結末だった。
未来を変えるとは、そういうことだ。
また、この力は他の者から見れば、あまりにも利用価値が高い。信用している者以外には、決して伝えるな。
自分の力が何なのか理解できない限り、この力は使えない。
だが、この手紙を読んでいるお前なら、もうきっと使えるはずだ。
私と同じ力を持ったお前が、道を踏み外さぬことを願う。
手紙を読み終えたとき、部屋には重たい沈黙が落ちていた。
「……初代国王から、姫さまへ……」
ルソンが絞り出すように言う。
「ロアスさん。貴方は、この手紙を読んだのか?」
セナから視線を向けられ、ロアスは苦笑いを浮かべた。
「ああ……読んでしまった。すまない」
だがセナは首を振った。
「いいのよ。ロアスさん……ありがとう。この手紙を、ずっと捨てずに持っていてくれて」
「渡さないと、曽祖父に怒られるからな!」
その言葉に、セナは小さく笑う。
けれど、その表情はすぐに引き締まった。
「私の力は……未来を見れる力……」
「初代国王と同じ力、か……」
シウが呟く。
セナは手紙を胸に抱き、静かに立ち上がった。
「ロアスさん。私、もう行くわ」
「姫さま……?」
「私には、やらなければならないことがあるから」
ロアスは深く頷いた。
「ああ。また何かあったら来るといい。どんなことがあっても――セナ姫様。貴方なら、きっと大丈夫だ」
「ええ。ありがとう」
セナはルソン、そしてシウ達を見渡し、力強く言った。
「みんな、行くわよ」
セナはそう言うとシウ達は頷き返す。
家の外に出ると眩しい日の光がセナ達の姿を照らす。
セナは振り返ることなく歩き出し、村を後にした。
未来を知るという重荷を胸に抱きながら――。




