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暁夜の下で姫は誓う 〜父を殺され、居場所を失った王女が再び王になるまで〜  作者: 藍凪みいろ
第二章 天命の盾編

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第9話 桜花村


 天蘭王国の南に位置する月明(げつめい)の都にある宿屋の部屋にセナ達はいた。

 月明かりが静かな部屋を照らす中、セナは喉の渇きから目を覚ます。


「んん……喉乾いたわ……」


 セナは白いベットの上から起き上がり部屋に置いてある自分の鞄の中から、水が入った水筒を取り出し口に含む。


 フィルラ村を出てから水筒に新しく水を追加して入れていなかった為、水筒の中に入っている水は残り僅かである。


「もうそろそろ水、なくなるわね。後で追加しなくちゃ」


 セナは静かな声で一人呟きながら、部屋の窓の近くにあるベランダに出て、星が点々と瞬く夜の空を見上げた。


「リーナはどうしているかしら……」


 城に残してきてしまったセナの大切な侍女の一人であるリーナ。


 城を出てから、セナはできるだけ残してきた人達のことを考えないようにしていた。

 しかし、こうして夜空を見上げて静かな夜の空気に触れていると、どうしても城にいた頃のことを思い出してしまい、不安な気持ちが湧き上がってくる。


「姫さん?」


 ベランダに出て夜空を見上げているセナに気付いて目を覚まし、起きてきたルソンはセナの背後に立ちセナに声を掛けてくる。


「ごめんなさい。起こしてしまったかしら」


 セナは申し訳なさそうな顔をして、後ろを振り返りルソンを見る。

 ルソンはそんなセナを見つめて、優しい笑みを浮かべながらセナの真横まで歩み寄る。


「いや、大丈夫だ」

「そう、それならいいのだけど」

「ああ、」 


✾✾✾


 次の日の朝。  

 セナ達は宿屋を出て月明の都で食糧や物資を調達して朝食を済ませてから、月明(げつめい)(みやこ)を後にした。

 そしてその日の夕方頃、セナ達は森へと入った。


「もうお腹ぺこぺこだよ~」

 

 リクスの呟きにルソンは頷く。


「確かにな。少し早いですが夕食にしましょうか?」

「そうだな、じゃあ、俺、ちょっと火を起こせる薪探してくる」

「俺もシウと一緒に行ってきますね」


 シウとルソンはセナとリクスにそう伝えて、薪を探しにその場から立ち去って行く。

 セナとリクスはルソンとシウ。

 そんな二人の姿を見送ってから動き始める。

 

「ええ、いってらっしゃい。じゃあ、私とリクスで夕食の準備でもしちゃいましょうか」

「そうだね!」


✾✾✾


 すっかり空が暗くなり、夜の静かな空気が漂い始めた頃、セナ達は夕食を食べながら他愛のない会話をしていた。


「リクスって、ほんとに料理上手よね!」

「そうかな?でも、皆んな美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるよ!」

「姫さまも、もう少し料理上手くなってくださいよ~」

「リクスには劣るけど、料理はそこそこ上手い方だと思っているわ」


 セナもリクス程ではないが、料理はそこそこできる方だということをルソンは知っていた。

 セナの真っ直ぐな瞳を見て、ルソンは少しセナのことをイジり始める。


「ほう、じゃあ、今度、料理対決でもやりますか?リクスと姫さんで」

「いいんじゃないか、面白そうだ!」


 ルソンの発言にシウは頷きながら賛成する。

 セナはそんなルソンとシウを見て、ほんの少したじろぐ。


「そ…それは遠慮しておくわ」

「なんでですか?そこそこ料理上手いなら、勝てる自信があると思うんですが」

「私にはまだ、リクスと料理対決は早いと思うの。もっと修行を積んでから対決したいわ」

「そうですかぁ、まあ、今よりももっと上手くなろうとするその姿勢が、姫さまの良いところですね」


✾✾✾


 翌日の夕方頃。

 セナ達は天蘭王国の西に位置する桜花村に辿り着いた。

 夕食を食べる為に入った飲食店でセナ達は客同士のある会話を耳にする。


「ルク陛下が殺されてしまってから、一体どうなるか心配だったが、ルク陛下の弟のソレザ様が王位につくことになったみたいだな」

「ああ、そうみたいだなぁ」


 セナ達の目と鼻の先のカウンター席に座っている男性客同士の会話を耳にしたセナ達は小声で話し始める。


「ねえ、今の話って……」

「ああ、ソレザ様が王位についたって言っていたな」


 ルク陛下の弟のソレザはルク王の実弟(じってい)でもある。


✾✾✾


 桜花村にある飲食店を出ると空はもうすっかり暗くなっていた。


「今日はもう暗いですし宿屋に泊まりましょうか」


 ルソンの言葉にセナとリクス、シウの三人は頷く。


「そうね」

「そうだな」

「うん! そうしよ」


 セナ達が宿屋に向かう為、街頭に照らされた道端を歩き出そうとしたその時。

 少し遠くの前方で言い争っている男二人の声がセナ達の耳に入る。

 セナ達は言い争っている男二人の元に走り寄って「どうしましたか?」と声を掛けた。


「こいつが俺にぶつかってきたんだ!」


 男は顔を赤くしながら声を荒げる。 

 男は大分酔っているのか、ふらふらとしながら目の前にいる蜜柑色の明るい髪をした青年を指差す。

ルソンは男が指差した青年を見て確認するように問う。


「そうなのか?」

「俺はぶつかってなどいないが。はぁ、まあ面倒だからそうだと言っておくか。あと、俺は謝ったぞ」


 青年は謝罪したと男に伝えるが、男は何かが気に食わないのか、また声を荒げる。


「嘘をつくな! 謝ってないぞ」

「はぁ、すまなかったな。これでいいだろ? じゃあな」


 蜜柑色の髪をした青年はそう言い、そそくさとその場から立ち去って行く。


「次はないからな!」


 男は立ち去って行く青年を睨み、荒々しく怒鳴りつけて、その場から立ち去って行く。

 立ち去って行く男の背を見つめながらシウはぽつりと呟く。


「今の男、天命の盾の内の一人かもしれない」

「え……?」

「本当か!?」

「追いかけよう!」


 先程の青年を追い掛けるシウの後に続いて、セナ、リクス、ルソンの三人も走り出す。


「少し話しがしたいんだが。いいか?」


 シウ達が先程の蜜柑色の髪をした青年に追いつき、声を掛けて引き止めると青年は首を傾げてセナ達を見る。


「ん? さっき声をかけて来た人達じゃないか」

「ええ、呼び止めてしまってごめんなさい」

「いや、大丈夫だ。それで話しがしたいって言ってたが、何の話しがしたいんだ?」

「ああ、俺達、今、旅をしながら人探しをしててさ」


人探しをしていると言ったリクスの発言に青年は興味を持ったのか聞き返してくる。


「人探し……?」

「うん、天命の盾の内の一人を探しているんだ」

「天命の盾って、初代国王に仕えていたっていう不思議な力を持つ者達のことか?」

「ええ、そうよ」

「なるほどな。もしかして、何か手掛かりはないか聞きたいのか?」


 青年がセナ達にそう問い掛ければ、シウはそんな青年をじっと見つめて首を横に振る。


「いや、手掛かりを聞きたい訳じゃない。だって、もう目の前にいるからな」

「目の前にいるって、なんで俺が天命の盾だとわかった? もしかして、お前も天命の盾か?」

「ああ、そうだ。俺は天命の盾だ」

「まさか、本当にやって来るなんて……」


 青年は困惑した表情を浮かべ、軽く頭をかいた。

 セナはそんなシウを見つめながら話しを続ける。


「貴方はシウと同じ、天命の盾の内の一人なの?」

「ああ、そうだ。俺の名前はルイア。天命の盾の内の一人だ。不老不死の身体と相手に幻聴を聞かせたり、幻を見せることが出来る力を持っている」

「ええ、存じているわ。私の名前はセナ。この天蘭王国の第一皇女よ」


 セナがこの天蘭王国(てんらんおうこく)の第一王女であることを知った青年は驚きの声を上げる。


「セナ姫……? 貴方が? え、どうしてこんな所にいるんだ?」

「もう暗いし、私達も長旅で疲れが溜まっているから、明日の朝、9時頃にこの場所でまた会えるかしら? その時に話すわ」

「ああ、そうだな。わかった」


✾✾✾


 ルイアと別れた後、セナ達は桜花村(おうかむら)にある宿屋に着き、空いてる部屋を借りた。


「まさか、桜花村に着いた日に、天命の盾の内の一人が見つかるなんて思わなかったわ」

「そうですね。俺もびっくりしましたよ」

「それにしてもシウ、よくさっきのルイアって人が天命の盾だってわかったね」


 リクスが感心したようにシウを見てそう言えば、シウは頷き告げる。


「まぁな、天命の盾である者は一目見ただけでわかる」


 天命の盾である者達は同じ天命の盾であるかどうか、顔を見るだけでわかるのだ。


「へぇ~、凄いんだなぁ」

「とにかく、明日、ルイアと名乗ったさっきの人と話すわよ」

「そうですね!」


 会話が一区切りつくとリクスは眠そうな顔をセナ達に向ける。


「うん、じゃあ、俺はもう寝るね。疲れが溜まってるし、もう眠いし……」

「リクス、お風呂入らなくていいの?」

「明日の朝、入るよ。おやすみ~」


 リクスはそう伝えて、白いふかふかのベットに倒れ込む。


「姫さま、風呂入ってきたらどうですか? 俺とシウは後で入るので大丈夫なんで」

「ええ、じゃあ、入ってこようかしら」

「うん、いってらっしゃい。セナ」


✾✾✾


 次の日の朝。

 宿屋の部屋から出たセナ達は昨日、ルイアと出会った場所へとやって来た。


「おはよう。ここで立ち話するのもあれだし、落ち着いて話せる所に行かないか?」

「そうね」


 セナ達はルイアに連れられて桜花村にある和菓子屋へと足を運ぶ。

 和菓子屋の店内に入ったセナ達は席に着き、ルイアと話し始める。


「それでセナ姫様はどうしてこんな所にいるんだ?」

「私達は今、理由あって城から出て旅をしているの」

「なるほど。城を出た理由はなんだ?」


 ルイアの問いにセナは今に至るまでのことを話し始めた。

 春祭りの日の夜。

 自分の父親であり、天蘭王国の国王(ルク)がセナの叔父であるソレザに殺されたこと。

 幼なじみのシウォンのお陰で、セナはルソンと共に城から出れたこと。

 セナはそれら全ての話しを目の前にいる蜜柑色の髪をした青年(ルイア)に伝えた。


「近い未来に玉座を奪還する。その為に今は戦力が必要なの」


 セナ達の話しを聞き終えたルイアは頷いてから、口を開く。


「大体の理由はわかった。まさかこの村に来るとは思っていなかったから驚いたよ。祖父が言っていたことは本当だったんだな」

「祖父が言っていたって?」

「俺の父さんの父親。俺からみたら祖父にあたるんだが。祖父は初代国王に仕えていた天命の盾の内の一人だったんだ」


 ルイアの祖父は初代国王に仕えていた天命の盾の一人であった。

 そして新たな天命の盾の主がセナである。


「そうなのね」

「ああ、祖父が言っていたよ。未来に天命の盾の主となるセナ姫様が俺を探してこの村に訪れると」

「初代国王に仕えていたのか、一緒だな。俺の母親の祖父も初代国王に仕えていた」


 ルイアの祖父は天命の盾の内の一人であったこと。

 ルイアが幼少期の頃、祖父から未来にセナが自分を探しにこの村にやってくると伝えられていた為、セナがこの村に来ることを知っていたとセナ達に告げる。

 

「そうだったのね」

「ああ、俺はこの村から一度も出たことがない。生まれ育ったこの村を出るのは少し抵抗があるが、俺も外の世界を知りたい。着いて行ってもいいか?」


 ルイアはセナを見つめて問い掛ければ、セナは強く頷き返す。


「ええ、勿論いいわよ。ありがとう。これからよろしくね、ルイア」

「ああ、よろしく」


✾✾✾


 その後、ルイアはセナ達を連れて家へと続く道を歩いていた。


「俺の母親は小さい頃に病で亡くなったんだ。母さんが亡くなってから父さんは男手一つで俺を育ててくれた」


 シウの隣を歩いていたリクスはルイアの話しに少し表情を曇らせる。


「そうなんだ……」

「ああ、まあ、今は家に父さんはいないんだが」

「そうなの?」

「ああ、父さんは商人の仕事をしていて色々な場所を巡っているから、暫くは帰ってこないだろうな。ここが俺の家だ」


 ルイアはそう言い足を止めて目の前にある茶色い家を指差す。


「父さん宛に置き手紙を残してくるから、ちょっと外で待っててくれ」 

「ええ、わかったわ」


 ルイアが家の中へ入って行くのを見送り、セナ達はルイアの家の前で待つことに。



 少し経ってからルイアが家から出て来る。


「お待たせ」

「ええ、それじゃ行きましょうか?」

「そうだな、姫さま。ルイア、荷物それだけで大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だ。問題ない」


 ルイアの荷物があまりにも少ないことを心配したルソンだったが、問題ないらしい。

 新たに加わった仲間のルイアと共に歩き出したセナ達は次の目的地について話し始める。


「姫さん、次に向かう場所どうしますか?」

「そうね、シウ、天命の盾である者がいそうな候補場所ってあったりするかしら?」

「ああ、ある。桜花村(おうかむら)に来る前に候補場所として出した 清華国(せいかこく)にあるスディア村だ」


 スディア村は清華国の北に位置する村である。

 他国である為、セナ達は村の名前を知らなかった。

 

「スディア村か。聞いたことない名前の村だな」

「俺も聞いたことない。まあ、他国だからもあるけど」

「じゃあ、次の目的地はスディア村にしましょう」

「了解です!」


✾✾✾


 その日の夕方頃、セナ達は桜花村を出た。

 桜花村を出てから4日目の夕方頃。

 天蘭王国と 清華国(せいかこく)の間にあるルーダ川の上にかけられた橋を渡り、セナ達は清華国へと入った。


 清華国に入ったセナ達はルーダ川近くにある森で野宿することに。


「セナ、おやすみ」

「ええ、おやすみ。リクス」


 セナとリクスは先にテントに入り睡眠をとる為、目を閉じる。


 テントの外ではルソン、シウ、ルイアの三人が見張りをしてくれている為、安心して眠ることができる。

 

 テント越しに聞こえる三人の声と時折鳴くフクロウと虫の音が徐々に遠ざかり、セナは静かに眠りに落ちた。


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