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廃ホテルの十一人 ―鬼守の血統―  作者: 猫森満月


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第40話「夜明け」

 玲奈の身体が眩い光の柱となって、崩落する天井と、そこから溢れ出ようとする闇の奔流に激突した。


「あああああああああっ!!」


 それは玲奈の最後の叫びだったのか、あるいは闇の断末魔だったのか。轟音と共に、地下祭壇全体が激しく揺れ動く。


「高木さん!しっかりして!」


 美咲は、意識を失った悠真の体を必死に揺さぶった。だが、彼はぐったりとしたまま動かない。 天井の崩落が激しくなり、巨大な岩がすぐそばに落下した。


(このままじゃ、二人とも生き埋めになる……!)


 美咲は、捻挫した足の痛みをこらえ、アドレナリンだけで動いた。悠真の腕を掴み、自分の肩に回す。彼女の細い体では、大人の男性を支えるのは不可能に近かったが、火事場の馬鹿力か、あるいは別の何かが彼女を突き動かしていた。


「立ってよ、高木さん!」


 彼女の叫びに反応したかのように、悠真の目がうっすらと開いた。焦点は合っていないが、足に力が入る。


「……そうだ、逃げないと……」


 二人はもつれ合うようにして、崩れ落ちる祭壇の間を後にした。背後で、玲奈の放った光が闇を飲み込み、すべてが崩壊していく音が響く。


「岡田さんは!?」

 悠真がかすれた声で叫んだ。


「あっちだ!」

 美咲が指差す先、階段の入り口付近で、岡田が壁に寄りかかりながら、必死に這って進もうとしていた。彼は清一に重傷を負わされていたが、まだ息はあった。


 悠真と美咲は、二人で岡田の両脇を抱え、文字通り彼を引きずるようにして、揺れる階段を駆け上がった。


 一歩一歩が永遠のように感じられた。 背後から追いかけてくる轟音は、ホテル全体が崩壊していることを示している。 ロビーを突っ切り、壊れた玄関の扉から外へ転がり出た瞬間、彼らの背後で、木造の古いホテル「鬼守荘」が、地響きと共に完全に倒壊した。


 夜明けの薄明かりの中、三人は土砂降りの雨に打たれながら、荒い息を繰り返した。 黒煙と埃が雨に混じり、泥となって地面を叩く。


「……終わった……のか?」

 岡田が、苦しそうに咳き込みながら言った。


 悠真は、自分の手を見つめた。 黒かった爪は、すっかり元の色に戻っている。体からあふれ出ていた異様な力も、まるで嘘だったかのように消え去っていた。


「……ああ」

 悠真は答えた。


「終わったんだ」


 美咲は、泣いていた。恐怖からか、安堵からか、それとも失われた多くの命への哀悼か、彼女自身にもわからなかった。 悠真は、そんな彼女の肩をそっと抱き寄せた。


 玲奈は、身を挺して彼らを救い、そして二十年の呪縛から自らも解放されたのだ。 あの「鬼」とは何だったのか。悠真の祖母と美咲の母が関わった二十年前の事件の真相は、清一と影山の死によって、再び闇の中に葬られた。


 だが、悠真は知っていた。 自分の内に一度芽生えた「何か」は、完全には消えていないことを。 それはただ、眠りについただけなのだと。


 雨が徐々に弱まり、東の空が白み始める。 生き残った三人は、言葉もなく、ただ静かに昇る朝日を見つめていた。 地獄のような一夜が、ようやく明けた。

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