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廃ホテルの十一人 ―鬼守の血統―  作者: 猫森満月


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第26話「悪夢の正体」

『そうだ。そして、次は、誰にする?』


 頭の中に響く声は、嘲るようであり、唆すようでもあった。それは、紛れもなく自分自身の声でありながら、決して自分のものではない、異質な響きを持っていた。


「やめろ……黙れ……!」


 悠真は、頭をかきむしり、その声を追い出そうとする。だが、声は消えない。それどころか、次々と忘れていたはずの「記憶」を脳裏に送り込んでくる。


 ――暗い、狭い空間。鉄の匂い。目の前で、金髪の男が恐怖に歪んだ顔で何かを叫んでいる。その口元に、自分の手が伸びていく。指が、ありえないほど鋭く、長くなる。男の柔らかい肉を、まるで熟れた果実のように引き裂いていく、生々しい感触。歓喜。そうだ、圧倒的な歓喜が、全身を駆け巡る。


 ――次に見たのは、地下の祭壇。カメラのフラッシュが焚かれる。邪魔だ。この神聖な場所を汚す、不敬な存在。気づいた時には、自分はその男の首を掴んでいた。硬い頸椎が、指の力でゴキリと音を立てて砕ける。その時の、高揚感。


「うわあああああああああああああああっ!」


 悠真は、ついに絶叫した。 その声に、眠っていた美咲がびくりと体を震わせ、目を覚ました。


「高木さん!?しっかりして!」

 美咲は、悠真の肩を掴んで揺さぶる。


「大丈夫ですか!?すごい汗……」


「……見たんだ」

 悠真は、かすれた声で言った。


「俺が……翔くんと、啓太さんを……殺すところを……」


 その言葉に、美咲の動きが止まった。


「……何、言ってるんですか…?高木さん、疲れてるんですよ…」

「違う!」


 悠真は、彼女の肩を掴んだ。その力は、自分でも制御できないほど強い。


「夢なんかじゃない!あの感触は、本物だった!俺の手が、あいつらを……!」


 パニックに陥る悠真。 その時、今まで黙って成り行きを見ていた玲奈が、静かに言った。


「やっと、思い出したんだね」


 その声には、何の感情もこもっていなかった。ただ、事実を告げるだけの、平坦な響き。 「あなたは、『器』だから。この儀式の、主役だから。あなたがみんなを殺して、力を取り込んで、最後の鬼になるの。それが、あなたの役割」


「役割……だと…?」

「そう。二十年前、あなたのおばあちゃんは、その役割を怖がって逃げ出した。だから、儀式は失敗した。でも、あなたは違うでしょ?」


 玲奈は、純粋な瞳で、真っ直ぐに悠真を見つめてきた。 その瞳の奥に、悠真は、自分と同じ「鬼」の匂いを、確かに感じ取っていた。


「まさか……俺が……?」


 悠真は、震える自分の両手を見つめた。 記憶の欠落。断続的な頭痛。そして、あの生々しい悪夢。 全てのピースが、おぞましい形で一つにはまっていく。 このホテルで最初に牙を剥いた「鬼」は、外部の怪物などではなかった。


 それは、悠真自身の、内側に潜んでいたのだ。


 俺が、仲間を殺した。 その絶望的な事実が、ゆっくりと、だが確実に、悠真の正気を蝕んでいく。 彼は、自分が人間ではなくなってしまうのではないかという、根源的な恐怖に、全身を支配されていた。


 そして、その恐怖の奥底で、あの低い声が、再び楽しそうに囁いた。


『さあ、思い出せ。次は、誰を喰らう?隣にいる、美味そうな女か?』

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