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廃ホテルの十一人 ―鬼守の血統―  作者: 猫森満月


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第17話「血の痕跡」

 影山の告白が投じた爆弾は、特別室の空気を引き裂いた。憎悪をぶつけ合う影山と、狼狽しきった清一。誰もが固唾を飲んで二人を見つめていたが、その対立はすぐに膠着状態に陥った。影山はそれ以上語ろうとせず、清一は恐怖で声も出せない。結果として、部屋には以前にも増して重苦しく、疑心暗鬼に満ちた静寂だけが残された。


 啓太の生首が転がる床。そのおぞましい光景から目を逸らすように、悠真は美咲を伴って部屋の隅へと移動した。


「大丈夫か、佐藤さん」

「……はい、なんとか」


 美咲は頷いたが、その顔は紙のように白い。悠真は、自分自身も冷静さを失いかけているのを自覚していた。思考を整理しなければ、この狂った空気に呑まれてしまう。


「もう一度、状況を確認しよう」

 悠真は、自分に言い聞かせるように話し始めた。


「今、生き残っているのは、俺たち五人。俺と佐藤さん、石川さん、影山さん、そして…玲奈ちゃん」

 その言葉に、美咲はこくりと頷く。バスに乗っていた十人のうち、半分が死んだ。わずか数時間のうちに。


「殺され方が、一貫していない」

 悠真は続けた。


「それがずっと気になっている」

「一貫してない、ですか?」

「ああ。翔くんと啓太さんは、物理的に破壊された。まるで獣にでも襲われたかのように。でも、鈴木さんと優奈さん、彩花さんは違う。彼女たちは、まるで自分の心が見せた幻覚に誘われるように死んでいった。岡田さんの死は、機械の暴走だ。まるで、犯人が複数いるみたいじゃないか?」


「犯人……」

 美咲は唇を噛んだ。


「石川さんが、二十年前のことを隠すために…?でも、あんな剥製を動かしたり、人の心を操ったりなんて、人間にできることじゃ…」

「そうなんだ。だからと言って、影山さんが犯人だとも考えにくい。彼は儀式を止めようとしているように見える。となると、やはり玲奈ちゃんか、このホテルそのものが『鬼』なのか……」


 混乱する情報を必死で組み立てようとするが、どうやってもピースがはまらない。その時、ズキン、と悠真の蟀谷に鋭い痛みが走った。


「っ…!」

「高木さん?どうしたんですか、顔色が…」


 美咲が心配そうに覗き込んでくる。


「いや、なんでもない……少し、頭痛が」


 嘘だった。ただの頭痛ではない。啓太の首が部屋に転がり込んできた、あの瞬間から、断続的に続く奇妙な感覚。そして、記憶の欠落。


「佐藤さん」

 悠真は声を潜めた。


「少し、おかしなことを聞くかもしれないんだが……」

「はい?」

「啓太さんが殺された時、俺は、どこにいただろうか」

「え?……高木さんは、ずっとここに。私と一緒に、影山さんたちの話を聞いて……」


 美咲はそう答えたが、その声は徐々に自信を失っていった。そうだ、あの時、誰もがお互いの正確な位置など把握していなかった。


「実は、あの時…」

 悠真は、告白するかどうか一瞬ためらった。


「一瞬だけ、意識が飛んだような気がするんだ。本当に、一瞬だけ。気づいたら、啓太さんの悲鳴が聞こえて……」 「疲れてるんですよ、高木さん。こんな状況じゃ、無理もありません」


 美咲は、必死に悠真を安心させようとしていた。だが、その言葉は悠真の心に植え付けられた疑念の種に、わずかな水滴を与えただけだった。


(そうだ、疲れているだけだ)


 悠真は、無意識に自分の両手を見つめた。ごく普通の、どこにでもいる男の手だ。だが、その指の先に、何か赤黒いものがこびりついているような、嫌な錯覚が拭えない。彼は、ズボンのポケットに手を突っ込み、強く拳を握りしめた。


「高木さん……なんだか、匂いがしませんか?」

 ふと、美咲が鼻をひくつかせた。


「匂い?」

「はい。鉄みたいな……血の匂いはずっとしますけど、それとは別に、なんだか古いお線香のような……」


 美咲はそう言いかけて、首を振った。


「ごめんなさい、気のせいですよね。この部屋、いろんな匂いが混ざってて、鼻がおかしくなってるのかも……」


 その会話は、それで途切れた。 二人は、これ以上の深入りは危険だと感じ、重い足取りで皆が固まっている場所へと戻ろうとした。 その時だった。


 部屋の隅の闇に座っていた玲奈が、ふと、悠真の顔を見つめて言った。 その声は、悪意のない、子供のような純粋さで、だからこそ、何よりも恐ろしかった。


「あなたの番が、近づいてるね」

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