開けても、開けても…。
扉。
開けても、開けても、また扉。
最初は気まぐれだった。
古びたビルの廊下を歩いていて、何気なく扉に手をかけただけだ。
――ギィ。
薄暗い部屋を通り抜け、反対側の扉を開けると、また同じ廊下。
壁の色も、床の模様も、照明の位置さえも変わらない。
不思議に思いながらも、もう一度、扉を開けてみた。
――ギィ。
そこにも、また同じ扉。
三度目。四度目。
気がつけば、数えるのをやめていた。
背後を振り返ると、そこにはもう“来たはずの扉”は存在しない。
ただ、目の前に続く扉だけがある。
汗ばむ手で取っ手を握り、震える指で押し開ける。
――ギィ。
また、扉。
その時、ふと気がついた。
ほんのわずかに……取っ手の位置が低くなっている。
そして次の扉では、さらに低く。
次の扉では、さらに、さらに。
しゃがみ込まなければ掴めないほどに下がっていった時、ようやく悟った。
――これは“出口を探す扉”ではない。
――これは“入り口へ近づく扉”だ。
最後の扉の下には、もう取っ手が無かった。
暗闇の底へと吸い込まれるように、床が開いていた。
……その先を覗き込んだ者がどうなったのかを、知る者はいない。
ただこの話には、ひとつの決まりがある。
夜中に何気なくドアを開け続けてはいけない――
気づかぬうちに、“あちら側”へ行ってしまうからだ。