3、学園祭
「はいー、静かに!」
その時、クラスに入ってきたのは担任だ。彼女は教壇に立つと、手を叩いた。授業開始の挨拶をしようとした今日の日直、雛乃ちゃんを遮って、先生は面倒くさそうに話す。
「今日のホームルームは、学園祭の出し物を決めるのに使って良いわよ。はい解散!」
そう言って先生は出て行こうとしたが……何かを言い忘れたのか、こちらを振り返った。
「主導は王子ね。よろしく〜」
先生は私を指名する。教師が私の事を王子というのは良いのだろうか?
「あれ? 先生は、何ばすると?」
朱音さんが首を傾げて訊ねると、先生は少しだけ考える。
「私は職員室で休け――仕事しているわ。決まったら伝えにきてちょうだい〜」
「先生〜! 休憩って言っちゃってるじゃーん、ウケるw」
「大人にも休憩は必要よ〜、覚えておきなさい! じゃあ、王子。よろしくね〜」
そう言って颯爽と去っていく先生。
「先生……とても素敵なのですが、なんか残念なところありません?」
先程から様子を見ていたのか、口を開いていなかった麗奈さんに言葉が教室に響く。ふう、と色気満載なため息を吐く麗奈さんに続いて、私たちも全員が無言で頷いた。
「さて、気を取り直して……学園祭の出し物だが……」
「てかウチら、人数足んないし〜、マジ大変なのとかムリゲ〜じゃね?」
りおなさんが足をぶらぶらさせながら、話す。その言葉に全員が首を縦に振った。
その中でも雛乃ちゃんは、一生懸命考えてくれているらしい。首を左右に捻りながら、うんうん唸っている。
同時に、彼女はりおなさんの様子をハラハラしながら見ているようだ。そうだなぁ……彼女はこのままだと――。
「てかさー、一年は合唱で、二年は絵だったじゃん? ウチら、8人しかいないし〜、やれることマジなくない? ……あたっ!」
「りおなちゃん!」
雛乃ちゃんが、りおなさんの元へ慌てて向かう。いつも椅子をグラグラさせては、転ぶんだよな……彼女。
でもそんなりおなさんを心配する雛乃ちゃんは、天使のようだ。やっぱり可愛い。
転んだりおなさんに「大丈夫?」と声をかける雛乃ちゃん。
「ひなちゃああああん!」
りおなさんに抱きつかれて優しく抱きしめる雛乃ちゃん。ああ、やっぱり可愛くて頬が緩んでしまう。
周囲に視線を送ると、皆が微笑ましい表情を――おや、私を見ているのは気のせいだろうか。まあ、気のせいだ。だって、あの可愛らしい二人を見ずに、私を見る必要などないからな。
穏やかな雰囲気が漂う。それを引き締めたのは、渚くんだった。
「話は戻すけど、僕も……りおなさんの意見に同意かな」
渚くんは肩をすくめる。
「だからと言って何ができるか……うーん、僕じゃ思いつかないな。また同じ事をやるのも忍びないし。屋台でも開いちゃう?」
「王子と姫の店ですわよ? 忙しそうじゃありません?」
麗奈さんの指摘に、「あー」と言葉が詰まる渚くん。みんなも想像したのか、顔色が悪い。
雛乃ちゃんだけは、「姫なんて……」と顔を真っ赤にしている。うん、可愛い。
「ねぇねぇ雛ちゃ〜ん! ちょい光っちの横、立ってみてよ〜!」
「え、でも……」
「よかよか、気にせんでよかよ〜」
そう言われながら、朱音さんに引きずられてくる雛ちゃん……ああ、かわ――。
彼女が私の隣に……。
今まで一定の距離を保ってたのに、今回初めて近くに立った気がする。こうやって並ぶと、彼女の顔が私の肩辺りにくるのか。小さいな……。
二人で並んで立つと、席に座っているみんなが息を呑む音が聞こえた。
……一人だけ鼻息荒く、スケッチブックをめくる音が聞こえるが。
「ほんとばい……ふたりの破壊力、ばりヤバすぎっちゃろ?」
「これは……まずいね」
「お二人を見に、お客様が殺到してしまうかもしれませんねぇ……」
朱音さんと渚くん、麗奈さんがため息をつく。ああ、私たちが王子と姫だからか? 有名だから見にこよう、という人がいるのかもしれない。
まあ、朱音さんの言う破壊力が何かは分からないけど。
全員が――いや、翡翠さんだけは鬼の形相でスケッチブックに書き付けているが、それ以外の皆は「うーん」と唸りながら、頭を捻っている。普段であれば本を読んでいる栞さんも、本から視線を上げているくらいだ。
私も捻り出したいのだが、良い案が思いつかない……そう思っていたところに、声がかかった。
「おお、なんや? みんな、めっちゃ暗い顔してんなぁ〜」