16、結果発表
――そして、私の頭に何かが乗せられる。
「この戦いを制したのは……白の王子、如月光だー!! 今年はなんと! 一票差! 一票差で白の王子が優勝だ!」
静かだった会場内が一気に盛り上がる。
……正直なところ、信じられなかった。
この発表は夢で、まだ自分は寝ているんじゃないか、と。けれど、現実だと教えてくれたのは、隣にいた真くんだった。
「光はん、おめでとさん!」
肩を叩かれた。その刺激が、私に現実だと教えてくれる。
停滞していた頭の回転が、徐々に戻ってきた。私は我に返ると、真くんに笑いかけた。
「ああ、ありがとう」
そう私が笑うと、客席から「きゃー!」という叫び声が聞こえた。そして同時にパタン、と何かが倒れる音も。
「いやー、光はん。その顔でその笑顔とか、反則やん。女子全員おちるで? あ、おちてたか〜」
楽しそうに笑う真くん。
私が一位を取ったと言うのに、清々しい表情でこちらを見ている。私が真くんに呼びかけようとする前に、司会の声が会場に響いた。
「それではここで、ミス・ミスターコンテストで一位に輝いたお二人から、受賞のコメントをいただきましょう! では、ミスの桐生さんから、お願いします!」
その言葉に雛乃ちゃんの肩が小さくぴくりと跳ねる。
そして彼女は一呼吸置いてから立ち上がった。司会に案内されてマイクの前に立つ雛乃ちゃん……まだ小刻みに肩が震えている。観客からは見えないだろうけれど、大丈夫だろうか?
「……あの、えっと……」
顔が真っ赤になっている。照明の光の関係で頬の赤さは観客から見えない……だろうけれど、様子がおかしいかな? くらいには思われている気がする。口を開こうとして閉じてしまう彼女の様子に、観客がザワザワし始めた。
「あの……桐生さん?」
司会も不思議そうな表情をしている。隣にいる真くんは、雛乃ちゃんの様子に気がつき、「意外やなぁ……」と呟いていた。
おや、真くんも知らなかったのか……意外だな。
私は緊張している彼女に近づく。私の行動に気がついた真くんは、口笛をぴゅう、と吹いた。
司会も私が近づいてきた気配を察したのか、雛乃さんから離れていく。雛乃ちゃんも私が隣へときた事に気がついたらしい。少し驚いた表情をしていた。私は彼女の肩に優しく触れる。
「雛乃さん、大丈夫。君ならできるよ」
そう言って微笑めば、雛乃ちゃんは満面の笑みを見せてくれた。
「うん、ありがとう。光くん!」
――
満面の笑みを見せた雛乃はんが喋り始めた。
やっぱ光はんは凄いわ。あの一言で彼女だけでなく、会場の空気を変えてしまうんやから。
騒々しかった会場が、光はんの行動によって一瞬にして引き締まった空気になったなぁ。
あれはわてには無理や……どうしてもおちゃらけた雰囲気しかだせん。
しっかし、意外だったのは雛乃はんが緊張しいだった、ってところやろか?
きっと今まで『華の姫』という名前に合うように、自分を作ってきたんやろ。……まあ、それはわても一緒かもしれへんけどなぁ。
雛乃はんが受賞のコメントを喋っている。
先程の満面の笑みといい、今の落ち着いた姿といい……雛乃はんは、ほんまの『華の姫』やね。
彼女の言葉が終わり、次は光はんの言葉。
光はんはなんのためらいもなく歩き出しとる。
……さっき震えてたのは、武者震いだったんかいな? ああ、結果が怖かったのかもしれんね。
流石、光はん。コメントも素晴らしいいわ。わては優勝逃したけど、これで良かったんちゃうかな。
「最後に……真くん」
「へ……?」
考え事をしていたからやけど、間抜けな声が出たわ。光はん、なんでわてに振ったん?
「君が“黒の王子 ”でいてくれたから、私は頑張れた。ありがとう」
「……ほんと、反則やわ、白の王子はん……」
「たまには君を驚かせてもいいだろう?」
にこやかに笑う光はん。わては差し出された右手に、自分の左手を伸ばす。
わてと光はんを周囲が温かく見守ってくれているような気がした。