第2話「紙と剣と魔物と」
「おらレントー! また紙の山を勝手に持ち出しただろー!」
「違うよ母さん! これは実験だから! 紙の可能性を試してるの!」
「まーた冒険者ごっこかい! そんなヒマがあるなら漉き場の手伝いしな!」
レントは家の裏山へと逃げ出した。大事な紙束を抱えて、いつもの秘密の場所へ。
村を見下ろせる岩場の上。ここはレントの“紙剣”研究所だ。
「よーし、今日もやってみるか!」
レントは器用に紙を折り、細長い剣の形に整える。そこへ、右手を添えて——
「《ハードン!》」
スキル発動の合図とともに、紙剣がパキィンと乾いた音を立てて硬化した。
見た目はどう見ても紙。しかし、手応えは鉄と遜色ない。
「おお、やっぱカッチカチだ! よし、次は盾!」
今度はA3サイズの紙を重ねて折りたたみ、丸い盾を作成。そして再び、
「《ハードン!》」
パキィン!
試しに岩に叩きつけてみると、岩が少し欠けた。紙が岩に勝った瞬間だった。
(いける……これ、いけるぞ! 俺、紙の勇者になれるかも!)
そのときだった。ガサリと草むらが揺れ、獣の唸り声が響いた。
「……え?」
茂みから、牙をむいた巨大なイノシシ型の魔物が飛び出してきた。
「ぎゃああああ!? な、なんで魔物!? 村の近くだよここ!」
レントはとっさに紙盾を構える。
ドゴン!
激突した魔物を、盾が弾いた。紙なのに!
「うおおおおおおお!? ま、まじか! カッチカチ紙つえぇ!」
そのとき——
「下がれ!」
山の斜面から、誰かが駆け下りてきた。赤いポニーテールの少女。手には大剣。
「《ブレイクスラッシュ!》」
風を切るような一閃が、魔物を真っ二つにした。
「ふぅ……間に合った。って、あんた何やってんのよ紙で盾とか!」
「え、紙剣もあるよ。見てこのカチカチ感!」
「バカじゃないの!? でも……今の、確かに防いでたよね……?」
彼女の名はリーナ・バレル。実力派の新人冒険者。
こうしてレントは、初めての戦いで紙盾と紙剣を使い魔物をしのぎ、
そして“紙の勇者”としての第一歩を踏み出したのだった。
「なあリーナ。俺……冒険者になろうと思うんだ!」
「はぁ!? 紙職人が!?」
「紙職人はもうやだ! これからは紙で戦うんだ、俺は!」
「アンタほんとバカね……でも、ちょっと面白いかも」