第14話「魔王の力、刻一刻と迫る」
異形の魔物を退けたレントたちだったが、休む間もなく、異国の空気に不穏な気配が満ち始めていた。風は冷たく、空はどんよりと曇り、まるでこの世界そのものが恐怖に震えているかのようだ。
「なんかさ、空気変わったよね……絶対おかしいって」
ミーナが震える声でつぶやいた。
「まるで“何か”が……起きる直前みたいだ」
カイルも手に持つ槍を握り直し、いつでも戦えるように構える。リーナも剣を構えつつ、周囲を睨む。
「魔王の封印……まさか、すでに何らかの形で揺らいでるのか?」
レントは不安を胸に、背負った紙束に手をやる。硬化のスキルに頼りきりの自分の力が、この先どこまで通用するのか、わからなかった。
そんな中、森を抜けた先に、廃墟となった神殿のような建物が現れる。
「……あそこが怪しいな」
一行は慎重に廃神殿へと足を踏み入れた。崩れかけた柱、割れた床、壁に刻まれた古代語――そのすべてが、ただならぬ存在の封印場所であることを物語っていた。
「なんか……ゾワゾワする。やっぱ帰らない?」
「帰らない」
即答するリーナ。
神殿の奥、ひときわ大きな扉の前に立ったとき、突然レントのスキルが暴走を始めた。
「な、なんだこれ!? 勝手に紙が……硬化してる!?」
紙がレントの意志を超えて、バリバリと音を立てて石畳に張り付き、床を補強し始める。
「これは……この神殿の崩壊を防ぐために……? いや、違う、スキルが“何か”に反応してる!」
ミーナが恐る恐る魔力を感じ取り、青ざめた顔で叫ぶ。
「中に……いる! めちゃくちゃ強い魔力が、もう目覚めかけてる!」
その瞬間、扉の隙間から禍々しい瘴気が噴き出した。
「お、おわああああああっ!!」
ミーナが倒れ込み、レントが慌てて抱き起こす。
「大丈夫か!?」
「ま、魔力が……いや、“意志”が流れ込んできて……! “我は……目覚めの時を……迎える……”って……!」
その言葉を聞いた一同に緊張が走る。
「やっぱり……魔王が……復活しようとしてる!」
リーナが剣を構え、カイルが盾を構える。
「今はまだ扉が封じている。けど……時間の問題だ」
「だったら……!」
レントは意を決し、紙束から一枚取り出して、硬化させる。
「紙で……封印を補強してみる!」
「紙で!?」
「俺のスキル、“硬化”はただの武器じゃない。こういう時こそ活かせるはずだ!」
硬化させた紙を次々と扉に貼り付け、魔力の流出を少しずつ抑え込む。紙が触れた部分がみるみるうちに強固な“封印”となり、瘴気の漏出が減っていく。
「すごい……レント、本当にこれを!」
「今はこれで封じられる。でも、いつまでもつかわからない……!」
その時、扉の向こうから、はっきりとした“声”が響いた。
《フフ……紙の力ごときで、我が完全なる目覚めを止められるとでも……?》
「うおおっ、しゃべったぁぁ!!」
「しゃべるタイプの魔王だコイツ!!」
「ちょっと想定外だよレントくぅぅう!!」
「うるさい黙ってろミーナぁぁ!!」
ギャグを挟みつつ、レントたちは息を整え、決意を固める。
――このままではいけない。いずれ封印は破られる。
彼らは決意した。この魔王の完全復活を阻止するため、もっと力をつけ、もっと多くの情報と仲間を得る旅に出ることを。