第1話「神様からの贈り物」
ここは、神様が人にスキルを授ける世界。
人は十五歳になると、神殿へと向かい、一つだけ“特別な力”を受け取る。
「レント・クラフト、十五歳。本日、スキル授与の儀を受けに参りました!」
やや緊張気味に神官へ頭を下げた少年の名は、レント・クラフト。
代々、紙職人を営むクラフト家の跡取りだ。
──しかし、本人にその気はまったくない。
(紙職人? やだよそんなの! 一生紙漉きして終わるなんてゴメンだ!)
だからレントは密かに願っていた。
どうか、めちゃくちゃ強いスキルをください、と。
戦士系、魔法系、何でもいい。村を出て冒険者になる口実がほしい。
この儀式は、その願いを叶える“ワンチャン”だ。
神官に導かれ、神殿の奥へ進む。
中央に祀られた白い祭壇の前に立つと、ふわりと空気が変わった。
「汝の願い、聞き届けたり」
どこからともなく、神の声が響いた。
「スキルを授けよう。汝の力は——『紙を一定時間、硬化させる』」
レントの額に、淡い光の印が刻まれる。
「……え?」
間の抜けた声が漏れた。
「こ、硬化? 紙を硬くするって……それって、どのくらい? どんな風に? 何に使えるの?」
神の声はもう届かない。儀式は終了したのだ。
レントは、神殿の外に立ち尽くす。
(ど、どうしよう……これ、強いの? 微妙じゃね……?)
だが次の瞬間、ある考えが脳裏をよぎる。
(いや、逆に使えるかも。紙をカッチカチにすれば、武器になるんじゃ? 紙の剣とか! 紙の盾とか!)
紙職人の家に生まれた、その知識と経験。
その全てを「硬化スキル」で応用すれば、意外といけるんじゃないか?
「よし……とりあえず紙、折ろう!」
人生の新たな扉が、いま、紙一重で開かれた。