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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ツイン聖女 ~四六時中一緒にいるからって私に惚れちゃダメだよ。女の子同士なんだから!~

作者: セレンUK

「あの、舞さん。そろそろお風呂行きませんか?」


「えっ? あ、うん。そうだね。あのぅ、その、先に行っててくれるかな」


「ダメですよ。私たちは二人で一人。そう言ったのは舞さんですから」


「あ、あははぁ~(汗」


 皆さまこんにちは。私の名前は押切舞おしきりまい。ふつーの高校1年生だった私は突然異世界に召喚されました。いわゆる聖女召喚ってやつです。はい。だけど、聖女の力が全くなくって、今隣で私にぴったりと引っ付いている楪文乃ゆずりはふみのちゃんと二人、路頭に迷うところでした。

 でも実は、私たち二人がくっつくと聖女の力が使えることが分かったので、見知らぬ土地でなんとか二人して聖女やってます。


「舞さん、ほら、特訓ですよ」


「ひゃんっ! ちょ、ちょっと、文乃ちゃん、どこ触ってるの」


「どこって、舞さんの体ですよ。すべすべしてます。そうだ、オイルもらってきたんですよ。滑りを良くしたらもっと力が上がるかもしれません!」


「い、いや、もうぱわーあっぷは必要ないかなぁ、なんて……。え、ちょっと、文乃ちゃん? 目が、怖いんだけど、ああーーっ!」


 この後、侍女さんに救出されるまで、ヌルヌルにされ続けました。


「はーっ」


「どうされましたか? ため息なんかつかれて」


「んーん。何でもない」


 ひらひらで薄々のネグリジェを着て(着せられて)、湯あたりした体をベッドの上に放り投げて休んでる私。その横で同じくひらひらで薄々で、それでいて私の着ているのよりも面積が少ないネグリジェを着た文乃ちゃんが、私のため息を拾ったのだ。


 文乃ちゃんとは聖女召喚されたときにはじめて出会った。

 おとなしくて、すぐにおどおどしちゃう気の弱いタイプの子で、絶対に守ってあげないと、って思ったのを覚えてる。

 二人で一人の聖女。見知らぬ土地で彼女を守るために、それはすごく都合がよかった。勉強も一緒、散歩も一緒、ご飯も一緒、寝るのも、お風呂も。

 聖女はすごい力を持っているがゆえに、やっかむ人もいるらしくて、過去には命を狙われることもあったとか。

 だからずっと一緒にいた。二人なら、聖女の力が使えるなら、襲われたってへっちゃらだ。幸いなことに、私たち二人の聖女パワーは普通の聖女の3倍はあるらしい。

 一度襲われたことがあったけど、文乃ちゃんとの聖女フラッシュで悪人は改心した。(廃人になったともいう)


 それもこれも、どんなふうに手をつないだら力を上げられるか。どこをくっつけたらすごい技が出せるのかを常に調べているからだ。今日のお風呂もその結果。なんだけど、最近文乃ちゃんのスキンシップが度を越してきたというか、瞳が熱を持ってきたっていうか……。私、押切舞はきづいてしまったのだ。


(もしかして、文乃ちゃん、私の事、好きになっちゃった!?)


 思い当たる節はある。

 なんか、手だって前は普通に握っていたのに今は恋人つなぎになってるし、ご飯のときも、あーんしてくれるようになったし。(あーんは好きなおかずとかデザートをくれるからよし)


 で、でもでも、だめだよ、私たち女同士だし! それに、私は第1王子のリチャード様にあこがれてるんだから!


 横に顔を向けると――


 (近っ! 顔、近い!)


 すぐ横に文乃ちゃんの顔があった。お風呂上りの上気した顔。熱く私を見る目。そして、その唇に目がいって――


 (な、何を考えてるの、私っ!)


 すぐに逆側に転がって顔を逸らす。


 (大好きなのはリチャード様、大好きなのはリチャード様!)


 不審がる文乃ちゃんをよそに、念仏のようにリチャード様の名前を心の中で唱え続けたのだった。


 ◆◆◆


「文乃ちゃんを離せ!」


「そうはいかないな。お前たちは離れていると聖女パワーは使えない」


 舞ちゃんはいつも私の事を気遣ってくれる。初めて出会った時からそうだった。同い年のはずなのにすごくしっかりしてて、右も左も分からない場所で、見知らぬ私を助けようとしてくれた。異世界で不安で心細い私を一人にしないようにって、ずっと一緒にいてくれた。だから憧れが好意に変わるのなんてすぐだった。だけどそんな気持ちを伝えるわけにはいかない。伝えたが最後、舞ちゃんには軽蔑されて、この関係も終わってしまう。だから私は心の奥底にその想いを押し隠した。舞ちゃんを守るため。


 今私は捕まっている。正確に言うと、男の人に腕をつかまれて拘束されている。

 そして、舞ちゃんも同じ。私たちは拘束されたまま離されてしまったのだ。


 この人たちは、聖女をやっかむ刺客。ではない。

 第1王子の子飼いの手下。正確には、舞ちゃんがあこがれている第1王子、リチャードが、舞ちゃんを亡き者にしようとして放った刺客。

 舞ちゃんは気づいていないようだけど、私は最初から第1王子は嫌いだった。召喚された時、私たちに聖女の力が無いと分かったとき、彼は言った。「聖女の力が無いとしても、殺すのはお待ちください。後宮にて過ごしてもらうのがよいでしょう」それも、私の方を見ながら。

 舞ちゃんは後宮が何かを知らないので、ただ美形の王子が助けようとしてくれたと思ってるみたいだけど、実は違う。普段から、ことあるごとに私へのアプローチを仕掛けてきていたが、ほの字の舞ちゃんがそれを全部受けてしまっていて、私には一切届かなかった。

 そしてそれがエスカレートした結果が今だ。

 舞ちゃんはそんなことはまったく知らない。知らないうえで、私の身を案じてくれているのだ。


「さて、残念だが死んでもらう。恨むなら二人で聖女ごっこをしていた自分を恨むんだな!」


 男の刃物が舞ちゃんを狙う。

 二人が引き離されれば聖女パワーは使えず、私たちはただのか弱い少女。

 大人にいいようにされるただの子供でしかない。


 本当は隠し通すつもりだった。

 だって、それを知られたら、舞ちゃんとは一緒にいられなくなるから。


「ぐわーっ!」


 私の腕を捕まえていた男が悲鳴を上げて崩れ去った。

 私の聖女パワーに直接触れて耐えられなかったのだ。


「な、そんな、どうして! お前らは二人が密着しなければ聖女の力は使えないはず!」


「遺言はそれだけ? 舞ちゃんに怖い思いをさせた罪は重いわ。消え去りなさい! 直列聖女波動砲ティックルー・コラット


 私から放たれた強大な聖女パワーの光が下種な男を飲み込む。


「ふ、文乃ちゃん……」


 舞ちゃんが驚いた顔をしている。

 それもそうだ。今までだましていたのだから。

 私が一人でも聖女の力を使えるって。


 光が収まると、支えるものが無くなった舞ちゃんの体は前に倒れ込み、土に膝を着いたのだった。


 ◆◆◆


「どうして……」


 どうして黙っていたのか。どうして教えてくれなかったのか。頭の中がぐるぐるとなって、私は膝を抱えるしかできなかった。


 あの後、護衛の騎士が駆けつけてくれた。下手人は消え去っていて、文乃ちゃんの事がばれることは無く、いつもどおり二人の聖女パワーで片を付けたのだと思われていたのは幸いだった。


 呆然とする私をよそに、文乃ちゃんがテキパキと事後処理をし、そして今、部屋に戻ってきている。

 そして状況も整理できず、ずっと口を閉じていた私がようやく発した言葉がそれだった。


「黙っていてごめんなさい」


 その言葉だけで分かった。

 文乃ちゃんは私を守ってくれていたのだ。私に聖女パワーが無いとわかれば私は一人放りだされる。だからずっと一緒にいてくれたのだ。

 私がずっと文乃ちゃんを守っているって思っていたけど、実は逆だったんだ。


 事実を知って衝撃を受けている。だけどそれ以上に、文乃ちゃんの姿を見ているとドクドクと心臓が強い鼓動を撃っていて。

 よくある擬音語であらわすと、トゥクン。なのだ。


 私は無言でベッドへと上がる。


「文乃ちゃん。いいよ。私、文乃ちゃんの気持ち、知ってるから。私の体、好きにして……」


 ずるい言い方をした。自分からではなく、文乃ちゃんに決断を促したのだ。

 でも、その効果はばつぐんだった。

 ほら、文乃ちゃんの目が血走ってる。ちょっと怖いかな。でも、いっか。


 ぎしりとベッドが音を立てる。

 文乃ちゃんがベッドの上に乗ったのだ。

 私は腕を開いてベッドに仰向けに寝ている。その上に覆いかぶさるように文乃ちゃんが四つん這いになった。


 唇が近づいてくる。私の初めて。

 うまくできるかな……。


「だめ……。やっぱりできない」


 唇と唇が重なる直前。文乃ちゃんが顔を上げたのだ。


「ど、どうして? 文乃ちゃん、私の事好きなんでしょ?」


「こんなの舞さんじゃない……。うっ、うっ」


 文乃ちゃんが泣き出してしまった。

 初めての体験だったがゆえにエスコートに失敗した結果になった。


 文乃ちゃん曰く、今の私は気が動転してて、それを文乃ちゃんを好きだという想いと勘違いしているのだという。自分には何もないと思って、守ってくれそうな文乃ちゃんを本能的に求めただけなのだと。


 そんな状態で結ばれたくはないという文乃ちゃんが信じられないことを言いだした。


「舞さんと一緒にいるから私は聖女パワーが通常の3倍も出せるの。それは舞さんがレアな職業のブースターだから」


 文乃ちゃんは教えてくれた。私が他者の力を何倍にも上げることができる力を持ってることを。


「だから、舞さんだけでも引っ張りだこだよ。だから安心して」


 涙を流したままの笑顔。

 ずっと心に秘めていたのだろう。この話をすればもう今までどおりではいられない。

 お互いが一人で生きていくことができるのだから。


「安心した」


「そっか。よかった……」


 ――ちゅっ


「えっ!? ど、どうして」


 文乃ちゃんが目を丸くしている。


「安心したけど、この気持ち、消えたりしなかったよ。私はとっくの昔に文乃ちゃんの虜だったんだね。今分かった。ねえ文乃ちゃん。私の事、大切にしてくれる?」


「うん!」

お読みいただきありがとうございます!

長編執筆に行き詰っていたので、気晴らしに勢いで書き上げました!


お楽しみいただけたなら幸いです。

応援、評価、感想をいただけると作者が喜びます!

ぜひどうぞ。よろしく!

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