8話
やっぱりこの森相当広いな。いくら歩いても出口なんて見えてこない。
俺がこの森に入ってからそんなに歩いていた気はしないんだけどなぁ。でもなんでこんな森の奥地まで来てるんだ? 意味不明だな。俺の感覚がおかしくなったって言うのか? そうとしか考えられないよな。どう考えてもそんなにあるいないはず、俺が森に入って最初に叫んだのなんて精々30分歩いたくらいだろ。
ちょっと考えるんだ。俺が歩いた距離はどれくらいだ? よく思い出せないけど、こんなに歩いても森から出られないほどじゃないよな? やっぱりおかしい。俺が寝ている間に森の奥まで運ばれちまったんじゃねぇか? そう考えるのが自然だよな。俺だっておかしくなってるわけがない。俺のことを操ったりすることができるやつなんてこの世に存在するはずがないんだよ。
「流石におかしくないか? 俺の記憶もあやふやなところはあるけど、こうも食い違うのはおかしい。絶対に何か変な力が働いてるに決まってる」
これを俺の記憶違いだけで済ませることはできない。俺にも自信があるし、ましてや、俺が間違えることや勘違いをすることなんてありえないんだからな。それだと、色々とおかしな点が出てくるけどそれも全部見えない力のせいということで解決だ。俺に落ち度はない。この事実だけが確定しているだけでもほかの選択肢を絞る上で相当役にたつな。やっぱり俺のせいじゃない。この森は何か変だ。俺が森で迷うこと自体がおかしいことなのに、さらに色々なことが起きすぎている。
謎に復活した俺の声帯から始まり、壊れてしまったスマホといい、おかしなことばっかりだ。俺はもしかしてとんでもない場所に迷い込んでしまったんじゃないか? いくら考えておかしい以外の感想が出てこない。無意味に時間ばっかりが過ぎていく。この感覚最悪だ。俺の貴重な時間が無駄に消費されているだけでも耐えがたいというのに、これから先も解決策がないからな、ずっとこの状態を続けていくしかないという現実が待っている。どうにかしないと、俺も頭がおかしくなっちまいそうだ。俺ばっかりこんなに不幸なことばっかり起きて最悪だ。
どうしてなんだろうな、こんな状況だって言うのに気分は落ち込んでるって言うのにすぐにどうにかなるだろうと思っている自分がいる。俺からしてみれば、こんなことは日常茶飯事だし、すぐに解決していつもの平和が戻ってくるんだ。そう信じているが、今回ばっかりはちょっとまずいんじゃないか? これから先も俺は森でさまようことになっちまったら、今は誤魔化している空腹もいずれは耐えがたいものになり、俺を襲うことだろう。俺が飯を食わなくても耐えられるのは精々一日、二日だ。それを過ぎたときに果たして俺は空腹に耐えられるのか? 飯を食わないで過ごすってこと自体経験がないからな。そもそも、どれくらい飯を食わなかったら人間は死んじまうんだ? 俺はこのまま死に向かって行ってしまうのか? 本当に雑草を食って生き延びるしかないって言うのかよ。それは、最終手段だ。いくら俺でも雑草はできれば食いたくない。さっきは、雑草だろうが美味しく食べられる自信があるとか言ってしまったが、あれは完璧に勢いだ。そんな馬鹿な話があるわけないんだよ。せめて、キノコだったらいけるんだけど、これも博打だしな。毒キノコを食べたら即人生終了の運ゲーだ。もちろん、運にも自信はあるから、毒キノコなんて一生食べずにすむ自信はあるけど、キノコを毎日食べるのも飽きちまう。一番うまいであろう肉も料理しなければ生だ。俺も生肉を食う勇気はない。このままの状態が続いた場合は本当にどれかを食べなくちゃいけなくなるんだよな。考えるだけでも憂鬱な気分になっちまう。ほかの選択肢を用意する必要がある。つまり、俺が普通に美味いと思えて安全に食べられるもんだ。欲を言うならラーメンがいいな。ラーメンだったらいろんな味もあるし、飽きることもないだろう。インスタント麺をここで調理できればいいんだけどな。ああ、一回ラーメンのことを考えちまったら、ラーメン食べたい欲が爆発しちまった。どうしても、ラーメンがたべたくてしょうがない。
「うわぁぁーー!! ラーメンたべぇぇぇーー!!」
叫ぶことでこのたまった欲を少しでも吐き出そうとしてみたが、俺のラーメン食べたい欲はこれくらいでは収まってくれなかった。このままじゃ、俺の頭の中はラーメン食べたいで埋め着くされちまう。そんなことになったらこの森から脱出するどころの話ではなくなっちまう。この森でどうにかラーメンを作ることに全力を注ぎ込んでしまうだろうな。どう考えても時間の無駄だし、そんなことするくらいなら一刻も早く森から脱出してラーメン屋に駆け込んだ方がマシだ。
一旦違うことを考えるんだ。ラーメンから気を逸らせ。それさえできれば、俺の頭はラーメン脳から解放される。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、ラーメンが四杯……まずいぞ。気が付いたらラーメンになっている。これは本格的にまずいな。




