6話
俺の頭をフル回転させれば誰もが驚くようなとんでもねぇ言い訳が何個も連続で流れるようにそれこそ、空を飛ぶようなレベルで生み出されてくる。こんなことできるのは世界中探しても俺くらいのもんだろう。俺以外にいたら紹介してほしいくらいだ。すぐに紹介してくれ。今すぐにだ!! 早くしてくれ。俺には時間がないんだ。すぐにしてくれ。
はぁ、言い訳を考えるのも楽じゃねぇなぁ。俺の頭脳をもってしても案外思いつかないもんだ。俺の代わりに誰かが考えてくれればそれでいいんだけおどなぁ。それしかねぇよ。俺の頭脳が使い物にならない今、それしか方法は残されてねぇよ。しっかし、俺には素晴らしい頭脳が残されているからな。まだ諦めるのは早すぎる。母ちゃんに怒られるくらいなら今すぐ森で遭難して遭難し続けたほうがマシだ。ましてや、このまま言い訳も思いつかないで家に帰るなんてことはできねぇ。しちゃいけねぇんだ。俺がそんなことしてちゃあ、世界中の俺のファンを悲しませることになっちまう。俺という世界のスーパースターを汚すわけにはいかねぇんだよ。そのためにも早く言い訳を考えて、この森から生きて脱出することを目指さないといけないってわけだ。森で遭難したからと言って俺は思考停止したりしねぇぞ。俺を舐めるな!! 俺は今までの人生、森で遭難するよりもやばいことをいくつも成し遂げてきたんだ。それを考えればこの程度のことでへこたれやしねぇし、諦めたりもしねぇ。俺の人生は壁にぶつかってばかりのしんどいもんだけど、それが生きがいになってんだ。俺の生きがいは目の前の壁をぶっ壊して、それを成し遂げていくことだけだ。俺はこの山のすべてを攻略して見事に脱出して見せるぜ。
「俺の力を見せてやるぜぇ!!」
俺は力の限り頭に力を入れた。
厳密には頭皮にしか力は入ってないんだろうけど、それでも何もしないよりかは何百倍も何千倍も何億倍もマシに決まっている。俺はできることはすべてやってから結論を出すタイプなんだよ。やってもねぇくせに文句を言ったり、できねぇなんて言ったりはしねぇ。全部自分の手で確かめてから評価することで正しい評価を下すことができるんだよ。これほど、物事を公正に判断している奴が俺以外にいるか? いたら今すぐ連れてきてくれ。今すぐにだ!! 俺には時間がねぇんだよ、こんなところで来るかもわからねぇ奴を待ち続けている時間なんてねぇんだ。俺にしてみれば、ここで現れる奴なんて大した事ないことくらいわかってるんだが、それでも俺はそれに縋ることしかできねぇほどに追い詰められているんだ。俺には誰とも知らない救世主が必要なんだよ。誰でもいいから俺をたすけてくれぇぇぇぇーーー!!! いや、誰でもはダメだけど、相当スペックの高い奴なら大歓迎だ。俺と同レベルの頭脳を持っているとなおよしだな。それくらいの頭脳を持ってねぇとまず話にならない。俺より劣っている奴が助けに来てくれたところで意味なんてないし、時間も無駄に使う。それなら、誰も来なくて俺一人で考えたほうが時間の効率もずっといい。そうだよ、なんで俺はいきなり人に頼ろうなんて考えになっちまったんだ。俺が自分自身で何とかすればいいだけの話だろうが。そうだよ、俺の力を見せるいい機会じゃないか。そうだよ、そうだよ、そうでしかねぇよ。そうに決まっている。俺に神様がチャンスをくれたってだけの話だ。俺の力を存分に発揮してこの山から無事に脱出、そして完璧な言い訳で母ちゃんにも怒られない。神様はそんな不可能を可能にするようなもんをみてぇってことだろうよ。そりゃ俺だって見て見てぇよ。夢物語みてぇなことを成し遂げる自分をなぁ。そうか、これが武者震いってやつか。足の震えが収まる気配がない。このままだと、俺の足は震えすぎてがりがりになっちまう。そんなことになっちまったら、俺は上半身と下半身のバランスがとんでもなく悪いアンバランスな人間になっちまう。そんなことになったあいい笑いもんだよ。俺の人生が狂いっぱなしだ。俺にはそんなことになっても耐えきるだけのメンタルなんてねぇし、そんなことになってものうのうと生きていられる程能天気でもない。俺に力を貸してくれ。神様。俺に力を、そして俺に力を分けてくれ。森の生物たちよ。ここに新たなる森の守り神が爆誕だ。俺のすべてをかけてこの無理難題に挑んでそのすべてを見事に達成する。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁーーー。 俺にかかってこいやぁぁぁぁーーー!!!」
俺は叫ぶ、叫ぶという行為は俺にとってとてつもない意味を持っているんだ。
叫ぶことにより、心身ともにリラックスでき、力もみなぎってくる。これ以上適した気合いの入れ方を俺は知らねぇし、今後も出てくることはないだろうな。それくらい叫ぶという行為は優れているし、唯一無二だ。俺にはこれしかないって断言できる。
なんで俺は無駄にこんなことをしてるんだ。しかも、森のなかで俺は何をしてるんだ。こんなことして何になるんだ。冷静になってしまったとたんこれだ。なん手無駄なことをしているんだろうという虚無が、俺を襲う。




