5話
また朝がやってきた。
俺が目を覚ますと、あたりはすっかり明るくなっており新しい一日を告げる鳥の鳴き声なんかもしている。
俺は一体どれくらい眠っていたんだろうか? そもそも寝た時間を覚えていないのにこんなことを考えている時点であほらしいな。俺としたことがまさか時計も持っていないとはな。俺の相棒、スマホが時計も兼ねてくれていたんだけど、そのスマホもぶち壊してしまって今は悲しいくらい小さくなってしまった部品が数個だけ、ポケットに入っているような状況だ。走った時に大部分を落としちまったんだよな。俺のせいじゃないからどうでもいいんだけど、時間がわからないと結構困るな。こんなことだったら、太陽の位置を見て時間を割り出す方法を勉強しておくんだった。以前までの俺がそれをさぼっていたのがこれからどれだけ響いてくるんだろうか? 俺はこれから、この森を脱出するべく動き出さなくちゃいけない。そんな時に、時間がわからないのでは、色々と都合が悪いってもんだ。
それにしても、俺はいつの間に眠ってしまったんだろうか? 確かに寝ようと思って寝転がったところまでは覚えているんだが、それ以降の記憶が一切ない。もしかすると、俺は数年の間眠りっぱなしだったんじゃないだろうか? その可能性も現実的なレベルであり得るんじゃないだろうか。そう考えると色々なところで辻褄があう。俺が寝たときの記憶を持っていないこと、今が何時かわからないという俺にしてはありえない状況だということ。この二つだけでも断定していい程の材料だ。
「俺の体に異常はないか? 何年も眠ったままだったら、どこかしらに異常が起きているはずだ」
ペタペタと自分の体を触ってみるが、何処にも不自然なところは見当たらない。どうやら数年の間眠り続けたというのは俺の考えすぎだったようだな。こんなにいつも通りなことあるもんか。足とか手も使わなければ衰えてしまう。ましてや、数年間眠ったままなんて体を一切使っていないようなもんだ。まず、立つこともままならないだろう。俺が守り神に進化していればその限りではないだろうけど、残念ながらまだそれのレベルまで至っていないからな。俺にしてみても、なんでこんな不思議なことを考えてしまったのか謎だ。寝起きで頭が働いていなかったにしても、起きてすぐに自分が数年間眠り続けたかもしれないなんて考えになるのか? いや、ならないだろ。これも何かの陰謀だ。俺が寝ている間に催眠をかけて俺を意のままに操ろうという輩がいたんだ。そうに違いない。そうに決まっている。それしかありえねぇだろ。じゃないと、俺が突然意味不明なことを考えちまうあほってことを認めることになっちまうんだからな。どう考えてもそれだけはありえない。天地がひっくり返ろうが、地球が爆発しようが給食の揚げパンが残ろうがありえないことだ。それくらい俺が失態を犯すなんてことはありえないことなんだよ。俺のレベルでそんなことになるなんてとんでもねぇ大惨事だ。もし、俺がやらかすようなことがあればそれは一生に一回レベルの大事件だからな。まだ、俺の一生は始まったばかりでこんなところでそんな大ポカをしでかすはずがないんだ。
「気を取り直して、さっそく下山する道を探すとしますか」
ひとまず、立ち上がり俺は周囲を見渡した。
見渡す限り森。360度木に囲まれてしまっているこの場所はさしずめ、森ってとこだな。そう、この場所こそが森なんだよ。
森でしかない場所にいる俺だが、この場所から一刻も早く脱出しなければならない。俺の母ちゃんは勝手に外泊なんてしたらぶちぎれちまうからな。怒った母ちゃんほど恐ろしい存在はいない……おい待ってくれよ。俺今まで寝てたんだよな。つまり、俺が家を出てから確実に一日がたっていまっているということだ。これが意味することはすでに母ちゃんはぶちぎれている。俺は家に帰った瞬間、正座させられ説教が待っているということだ。そんなの絶対に勘弁だ。俺が悪くて、こんな状況になったわけじゃないのに怒られるなんて理不尽なことがあってたまるかよ。怒られるんなら俺じゃなくてこの山に来ようと思った昨日に俺だろう。俺が怒られるのだけはどう考えてもおかしい。
家に帰る前に解決しておかないといけない緊急の任務が発生してしまった。
これを解決できないことには山から脱出とか言っている場合じゃない。これだけはどうにかしないと、俺が大目玉を食らう羽目になっちまう。それを回避するためには、とてつもない説得力を持った言い訳を考えるか、やむにやまれぬ事情があったことにするしかない。俺が山で遭難したってだけでは母ちゃんを納得させる理由としては弱いだろう。俺が山で遭難するくらいのことで外泊したころを許してくれるようなやさしい母ちゃんだったらそもそも俺はここまで怯えていない。どう頑張っても勝てないんだろうという絶望感が漂うほどの力の差があるんだ。もっと、母ちゃんが納得できるような言い訳はないのか? よしっ、今日は一日言い訳を考えるぞ。




