42話
俺に話しかけるためのじゃんけん大会が開催されるのを今か今かと待ち続けている俺だが、思いのほかこの町の住人たちの意見がまとまらずになかなか始まらない。もうどれくらい待っただろうか? 大勢の住民がいるのにも関わらず、俺は真ん中で放置されている。俺のことは誰も見えていないのか? それとも、じゃんけんに勝つまでは俺に関わってはいけないとか決めているんだろうか?
このままずっと待たされてちゃ俺の体力がもたねぇ。ちょっと回復したとはいえども、俺はすぐにでも飯を食って寝たいんだ。これ以上ここで引っ張られるようだったら俺はもうおさらばさせてもらおうかな。ずっと付き合ってられるほど俺も暇じゃないんでね。
「おーい、俺もう行っちゃうぞ? 誰も俺に話しかけてこなくていいのか?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! まずいぞ、俺たちが待たせすぎたせいで、この人がどこか行っちまう。誰かとりあえず止めてくれ」
「ふざけんなって、まだじゃんけんも終わってねぇのに誰が話しかけられるって言うんだよ。そういうお前が止めればいいじゃねぇか」
「あんたが行きなさいよ。それに、近くにいるじゃない。もうそう言うことだったって諦めなさいって」
「俺には無理だぁぁぁぁーーー!! まだ死にたくねぇーーー!!」
なんだこの茶番は……俺ですら見ていて恥ずかしんだが。これを平然とやってのけているこいつらのことを少しだけほんの少しだけ凄いと思ってしまった。俺にはこんな恥ずかしい真似できねぇからな。できたとしても、こんなに人の視線がある場所でやるなんてことはきっとできねぇ。俺には人並に羞恥心というものが搭載されているからな。こんな真似をできるのは心が死んでいるやつか、頭のネジが数本外れてしまっている奴だけに決まっている。つまり、こいつらは全員頭のネジが外れているやばいやつか、心が死んでいるやばい奴ってことだよな? まずいぞ、俺もこうしている場合じゃない。こんなやばい連中から絡まれる前にこの場から速やかに撤退したほうがいいんじゃないか? 大体なんでこんなことになってるんだっけか? 俺が人気者になっちまうって言うのは必然的なことではあるが、いくら何でも人があつまりすぎているというかなんというか……確かに俺は人ならざるほどの魅力を持っているとはいえ、何もせずにここまで人に囲まれちまうもんなのか? 俺って、ここまで人から注目されるほどなのか? 謎は深まるばかりだ。やっぱり、こいつらがどこかおかしいという結論で間違いないだろう。だって俺は何もしていないんだからな。
「早くしなさいよ。本当にどこか行っちゃったらどうする気なの?」
「知らねぇっての。ってか、そんなの俺の知ったこっちゃねぇんだよ。俺がなんでそこまでの危険を犯さないといけないんだよ。俺はまだまだ人生やりたいことが残ってるんだぞ。こんなところで死んでる場合じゃねぇんだ」
「俺だって死にたくねぇっての。自分だけが死にたくねぇわけじゃねぇんだ。誰だって死にたくねぇ。でも、それでもお前がいかなくちゃ何も解決しねぇだろうが」
「なんで、ちょっと俺が行くみたいな雰囲気出してきてるんだよ。俺はじゃんけんに負けてねぇ。なら、俺が行く必要もねぇよな? こうなるから、さっさとじゃんけんしておくべきだったんだっての。だれだよ、無駄に渋って時間かけてた馬鹿野郎は。もうそいつが行けよ、責任くらい取ってもらわないとな」
「私じゃないわ。私はずっとじゃんけんすることに賛成だったもの」
「俺でもねぇぞ。俺だって、賛成してたんだからな。そうだ、こいつだよ。こいつがずっとごねてたんだ」
「え? なんで僕!? ちょっと待ってくださいよ。いつ僕がそんなことを言ったんですか? 適当なこと言って責任を押し付けてこないでください」
「ふざけんな、とぼけたって無駄だぜ? 俺はこの耳でしっかり聞いてたんだからな。お前が、じゃんけんなんてくだらないことで決めるのはどうかしてるって言ってたのをな。どうだ? もう言い逃れできねぇぞ?」
「そんなこと言ってません。大体、これだけ人がいたら僕が喋ってたかなんてわからないでしょ」
もうこの場から離れてもいいかな。今度はなにやら全員がパニックになってしまっている。どうやって収拾を付けるつもりなんだろうか? 俺にはもうどうすることもできない。むしろ、俺がどうにかしようとすればするほどパニックがひどくなる気がする。こいつら全員、俺のことを無駄に恐れている感じがするからな。俺が何を下って言うんだよ。どうして、俺のことをここまで恐れる必要があるんだ? 俺のどこがそんなに怖いって言うんだよ。どう見ても優しそうな好青年でしかねぇじゃねぇか。もう俺がこの場から去ったほうが早い気がする。俺がここにいても何もすることもないし、できることもない。というか、この場所自体には俺は用はないんだよな。早く、金をゲットして、飯にありつきたいんだ。俺は今無性に腹が減っている。こんなことをしている場合じゃないんだよ。




