表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/43

36話

 ついに本当についに覚悟を決めちまった俺はゆっくりと歩いて町の入口へと向かっていった。


 ここでいうゆっくりというのは比喩でもなんでもなく、腹が減っていてスピードが出ないだけだ。俺は今、人生で一番ゆっくり歩いているといっても過言ではないだろう。むしろ、これからもこの速度を超えることはできないと自身を持って断言できそうだ。だからなんだろうか、町の入口は見えているのに一向に近づいている気配がない。俺の歩く速度が遅いせいか? いくら何でもこれはおかしすぎる気がするんだが……。

 俺はさっきからまったく近づいてこない入口に向かって今モテる全速力で向かう。全速力とは言いつつも死ぬほど遅い。もう普通の俺だったらじれったくなって死んでしまっているくらいの速度でゆっくりと向かっている。俺はこの速度で歩いていると言えるのか? もはや速度が遅すぎて歩いているというよりも止まっていると行ったほうが近いんじゃないだろうか? 絶対にその通りだな。こりゃもう止まってるようなもんだわ。実際ビックリするくらい進んでいない。心のどこかでまだ町に入ることを躊躇しているのかもしれないな。俺も、案外臆病なところがあるんだよ、こう言う時に覚悟を決めたとか言いながら、実際にはなかなか決心が着かないことなんてよくあることじゃないか。こうなってしまってはどうしようもないな。いくら疲れているとは行ってもこれでは埒が明かない。いつまでたっても町に着かないという不思議な現象が起きてしまうんだよな。いや、もう既に起こってるんだけどな。どういうことだよ、俺はそこまでゆっくり歩いているつもりなんてないんだぞ。むしろ、心は急いているんだ。早く町について腹いっぱい飯を食いたい。もう俺の頭の中はほとんどがこの思考に支配されていると言っていい状況だ。ほとんどと言わず、ほぼ百パーセントと行ったほうがいいかもしれないな。いや、それでも少ないくらいか。完全に百パーセント、いや、百二十パーセントと行ったほうがいいだろう。それくらいには俺は飯のこと以外を考えていないといってもいいはずだ。飯以外のことなんて考える余裕がないほどに空腹に襲われてしまっている。もう腹が減りすぎてどうにかなっちまいそうだ。もう手遅れかもしれねぇな。だって、こんなに前に進めないなんてどう考えてもおかしいだろ。俺は前に進もうとしてるんだぜ? それが、このざまって言うのは俺の意思が介在しないところで何かが起きているということだよな。俺は進もうとしている、でも体はついてきていない。それすなわち、俺の意思とは別の意思が体の支配権を握っているということだ。俺から体を奪い取ろうなんていい度胸してるぜ。どうなるか目にものを見せてやろうじゃないか。ははは、俺の力を敵に回した代償を支払わせてやろうじゃねぇか。さっさと出て来いよ。俺を貶めようとしているのは丸わかりだぜ。そっちが出てこねぇって言うんだったらこっちから見つけてやろうじゃないか。でも、今は腹が減っててそっちのほうが優先だからな。本当に幸運な野郎だぜ。今じゃなかったら完全にお陀仏になっているところをタイミングが良かったおかげで命拾いしてるんだからな。俺は、むやみやたらと人を殺したりはしねぇ主義だからな。いくら、俺に気概を加えようとしたからって速攻殺したりなんてするつもりもない。俺には、まだまだやるべきことがあるからな。殺人を犯して指名手配何て状況はいくら何でも笑えない。

 そんなことはどうだっていいんだよ。どうすれば、俺は町に到着できるんだ? さっき上から眺めてた時が一番可能性があったんじゃないか? もうそれ以降、町の中を見ることなんて叶っていもいない。それどころか、すぐ前に見えている入口にすら到着できない始末だ。どう考えても俺がこんなしょうもないことをするなんて考えられない。

 俺だって、もっと早く町に入ってすぐに飯にありつきたいんだ。無一文じゃ飯を食えないことくらいわかってるが、もしかしたら何かの間違いで俺が飯を食えるって言う可能性だってあるだろう? 可能性はゼロじゃない限りワンちゃんあるんだよ。俺はあんまりワンちゃんを掴めたことなんてねぇけどな。大体、いつもそっちを意識して失敗しているタイプの人間だ。無様にもほどがるよな。それでも、俺は可能性が少しでもあるんだったら諦めたりしねぇよ。俺はどこまでも自分を信じてるんだ。俺が可能性があるって言ってるだぜ? そりゃもちろん、百パーセント成功するようなもんじゃないか。俺の勘に勝るものなんてないんだからな。俺はこのまま自分を信じさせてもらうぜ。いつか町に到着できるはずだ。俺だって少し疲れてるんだ、ちょっとくらい時間を無駄にしちまってもいいじゃねぇか。俺の勝ってだろ? そうだよ、俺の勝手なんだよ。だから、誰かに文句を言われる筋合いもねぇし、もしそんな奴がいるんだったら俺の渾身の魔法で跡形も残さずに消し炭にしてやるよ。俺の力を舐めるなよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ