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33話

 一度俺は自由を手放し、大地へと帰ってきた。

 これで、大空の冒険も終わりかと思うとなんともしみじみとした気持ちが湧いてくるもんだな。俺も、少しだけしか飛んでいたつもりはなかったけど、空が俺のマイホームになっちまっていたのか。これも人生。これこそが人生。俺の人生だ。


「でも、実際にこのまま突撃するって決めたけど、俺も人間だからな。羞恥心ってものはそれなりに持ち合わせてるんだよなぁ。どうしようかなぁ。また決心が鈍ってきちまったぜ。俺は一度決めたら貫く男、俺は一度決めたら貫く男」


 自分自身に言い聞かせ、鈍ってしまっていた決心をもう一度固め治す。これで俺はもう二度とこんなしょうもないことを口にすることはないだろう。俺の力で全部ねじ伏せる。そして、俺のことを笑うようなやつは二度と笑えなくしてやるんだ。俺を笑うなんてそりゃ、今世界で生きることを諦めたって見なしていいほどのくそ行為だもんな。

 しっかし、入口まで歩くのが面倒だ。やっべぇ、腹減ってたのと、死ぬほど疲れてたのを思い出してしまった。これじゃあ、俺はもう一歩も歩けない。歩くことができねぇ。もうこの場から一歩たりとも動くことはできねぇんだよ。さっきまで消費していたのは魔力だけで、空を飛んでいたわけだからな。そりゃ体力は使わねぇし、俺が疲労を忘れちまうわけだぜ。納得だ、俺の頭がおかしくなってしまったんじゃないかと思って、渾身の右ストレートを後頭部に打ち込むところだった。あぶねぇ。そんなことしちまったら流石の俺でも昏倒してしまうかもしれないからな。無駄な時間の頂点みたいなもんだ。そんなことしてる場合じゃないんだっての。俺は力の限りこの理不尽な世界に抗って見せる。たとえ、腹が減って動けなくなったとしても、俺は諦めねぇ。一歩も動けないほどに疲弊してしまっているこの状況でも俺は諦めねぇんだ。ふざけんなよ、くそが!! 俺の腹を満たせるものを何か持ってきやがれよ。神様に供え物をするのは当然の義務だろうが。


「まったくこの世界の住民どもは俺に対する配慮が足りてねぇんじゃねぇか。一旦、世界中の人間を教育しなおしておく必要があるかもな。これじゃあ、俺が魔王から世界を救ったとしてもそこはただの無法地帯でしかない。俺という神を信仰することで秩序が生まれ、文明が進化していくというもんだ。故に、俺は世界中の人間から敬われる存在にならないといけない。既に、その大部分は満たしているとは言えども、信仰する側に問題があるんじゃどうしようもねぇよなぁ。俺が悪いわけじゃねぇんだし、俺が改善しないといけないことだって一つたりともねぇんだ」


 考えれば考える程俺に対する扱いの低さが目に着いちまう。この世界に救う価値なんてあるんだろうか? 俺の力をこの世界のために使う必要があるんだろうか? 俺のことを少しも大切にしていない世界を俺が大切にする必要があるのだろうか? 謎は深まるばかりだ。これ以上考えちまったら、俺はこの世界を救うことを完全に放棄してしまうだろう。ここいらで一旦落ち着こう。俺はじじいと約束したじゃねぇか。この世界を救うって言うのに、この世界の住人は関係ねぇんだ。ただ、この世界を救ったらこの世界の住人達にはとんでもない幸運が訪れているようなもんだ。降ってわいたって感じだな。俺の存在自体この世界からしてみりゃ奇跡みたいなもんだっての。俺に感謝こそすれ、ここまで理不尽なことを押し付けてくるなんてどう考えてもおかしいだろ。俺の方がおかしいって言うのか? ふざけんなよ。俺の何処がおかしいってんだ。おかしいのはこの世界だ。いや、待てよ。俺自身、この世界の住人を俺に対する尊敬の念が足りてないとか言ってるけど、まだこの世界の住人とそもそも出くわしてねぇじゃねぇか。俺にひどい対応をしているのはこの世界そのもので住民は関係ねぇ。だったら、この世界が悪いだけで、住民はまだどうかわからねぇんじゃねぇか? 俺の早とちりだったってわけか。悪い癖が出ちまったぜ。俺としたことがこんなしょうもないことで騒いじまってミットもねぇ限りだ。


「悪かった。この通りだ。俺は素直に自分の過ちを認めることのできるできた人間だからな。おれが間違ってたんだそりゃ謝るさ。誰に謝ってるのかは俺にもわからんが、これから出会う善人の住民たちに先に謝っておこう。俺が悪かったんだよ、勝手に早とちりして住民たちを救う必要があるのかだって笑わせてくれるよな。どんな思考回路してたらそういうことになるんだっての。いや、俺は悪くねぇよ。これは、俺の頭を操ってそういう思考回路にした真犯人がすべて悪いんだ。あっぶねぇ、何か知らねぇけど、俺が悪いって思いこんじまってた。これも、俺に対する精神干渉攻撃だな。どこの命知らずが俺に対してこんなことしてきてるんだが」


 これは前世でも起きたことだな。死ぬ前の山で俺は不可解な行動を何度も取っていた。それは俺自身からしても相当に不可解だったんだ。どうしてそんな行動を取ったのか理解できない。自分がそんなことをするはずがないって言うものばかりだった。つまり、それは俺自身が俺の体を操作したんじゃないってことだ。話が飛躍しすぎているような気もするが、それが真実だ。


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