31話
一応透明になっている体の俺は、空を飛ぶために力を貯める。やっぱり、空を飛ぶって言うのは凄い魔法だろうから、俺でも少しは力を入れて臨まなければならないだろう。あまり力をため過ぎても、町もろともすべてを消し飛ばしてしまう可能性があるからな。そんな凡ミスして作戦を台無しにするのは流石にあほすぎるからな。いい感じのタイミングで力を解放し、浮力に変換して空へ飛び立つんだ。空へ飛び立ってしまえば後は楽勝。そのままの状態を維持しつつ、コツを掴めばいいだけだ。
俺は、ここぞというタイミングで力を解放した。
ズゴゴォォォォン!!!
俺の神がかった調整とは裏腹に、俺の体はすさまじい速度で空中へはじき飛ばされた。本当に弾き飛ばされたって言う表現が一番適切だろう。とんでもない速度で流石の俺も目を回しそうになってしまった。
それくらいとんでもなくすさまじい速度だった。
「おいっ、これじゃあロケットでも発射したのかってレベルだぞ。マジかよ、俺としたことが調整をミスったか? ふざけんなよ、これじゃあいくら透明になってるとは言え注目が集まっちまうじゃないか……いや、透明なんだからいくら注目されたところで俺の姿は誰からも見えないし、気にする必要もないんじゃないか? 壁には被害は出ていないよな。おしっ、大丈夫そうだな。地面にはかなりの大穴があいちまってるけど、壁には特に被害はなさそうだ。これで、俺は無事に空へトビ立てたってわけか。よっしゃ、このまま町の中を見て回るぞ」
俺はまだ空を飛ぶという感覚を掴めていないので、少しふらつきながら壁をこえ、町の中へ侵入していった。
もう少し飛べば俺も自由自在に空を飛べるようになるんだろうけどな。それには流石に練習が必要そうだ。俺も、魔法自体の発動には苦労はしなかったけど、それを操るとなるとそれなりの技術が必要なんだな。これで、一つ学んだ。俺はまた強くなってしまったようだな。じじいも俺が次にあった時にまさか空を飛べるようになっているとは思わないだろうしな。これで、不意をつける材料が一つだ。すっげぇ、苦労したことにしておこう。俺でも、かなり苦労して手に入れた力ってことにしておけばこれは切り札になるからな。この俺が、苦労するようなことなんてそうそうおこりえないんだから。俺には天才的なセンスと魔力があるんだから、魔法についてだけ考えればできないことなんてないんだ。それこそ、もっともっといろんな魔法を使えるようになっておかないとな。何か強そうな魔法とかないかな。時間を止めるのとか強そうだけど、それは流石にやりすぎか? 時間なんて止めちまったら面白さってもんが完全になくなっちまうもんな。俺でも、時間を止められて攻撃されちまったら、もしかするとやられてしまうかもしれねぇ。でも、バリアがあるからそれがあるうちは平気か。ってか、俺のバリアを貫通する攻撃を敵が持っていなかったらどうしようもないもんな。俺の行動を制限したところで攻撃が通じないんじゃ意味なんてない。時間を止めるって言うのもただそれだけじゃああまり意味がないんだな。その点、俺が時間を止められるようになっちまったら、それこそチートだな。敵が絶対に回避できない状況で最強の魔法を叩き込むことができるんだ。どう考えても誰も俺に勝てないじゃないか。じじいだって、時間を止められて動けなくなったら、俺の魔法を直撃するわけだからな。絶対に一撃で仕留めちまう。それじゃあ、俺も楽しめねぇ。折角じじいとの再戦をそんなしょうもない勝ち方で終わらせるわけにはいかねぇからな。俺の力を存分に発揮してとんでもなく最高な勝ち方をしなくちゃいけないんだ。だから、俺はこの世界で修行をするってわけだ。
「色々考えてたら、飛ぶのにも慣れてきたな。これなら、もう大丈夫そうだ。まずは、町の上空でこの世界の人達の服装を観察してみようか。それで、俺の服装が普通だったら一度町の外へ戻って入口から堂々と入るか。でも、わざわざ中へ入ってきたのにまた外に出るのもめんどくさいか? だったら、ひと気のない路地に降りて、透明化の魔法を解除してから大通に出ていけばいいんじゃないか? それが一番早いし、時間も無駄にならないよな。そうしようか、一旦外に出る必要なんてないよな。どうせ、中に入ってくるんだからそのまま中にいりゃいいだけの話じゃないか」
俺はまたあほなことをしようとしていたみたいだな。事前に気が付いて本当に良かった。これで、無駄な時間を消費せずにすみそうだ。
というか今はそんなことよりも俺の服装が異世界で浮かないかが問題なんだよ。それさえクリアしてしまえば、俺は無事に町へ降り立つことができる。今最大の難関はそこなんだよ。俺の服装がどうかってところなんだよ。でも、いざ町で俺の服装がおかしいって気が付いてもどうしようもないよな。透明の状態でずっと過ごすわけにもいかないし、町で新しい服を買うこともできない。だったら、もう俺はこのまま生きていくしかないってことか。それとも、最初だけは恥を忍んで耐えて、金を貯めて服を買うしかないのか。いやだ、俺は恥をかきたくない。そんなの絶対に嫌だ。




