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3話

「やっちまったぁぁぁぁぁーーーー!!!!」


 ついカッとなってやっちまった。

 俺は地面に転がるぶっ壊れたスマホを見て叫んだ。自分自身で叩きつけたことも忘れて、思うがままに叫びつづけた。


「はぁはぁ……終わった。完全に終わったぜ。これどう見ても治らないだろ。修理不能なレベルで壊れちまってるよな。うわぁぁ、最悪だぁ。なんでこんなことしちまったんだよ!!」


 俺にとってスマホは命の次に大切な存在といってもいいくらいのものだったんだ。それを地面に叩きつけてぶち壊す? 正気の沙汰じゃないって。つまり、これをやったのは俺であって俺ではない。俺に何かが取り付いていたとしか考えられないってわけだ。というわけなんだよ。そうとしか考えられない。こんなこと俺がするはずないんだからな。

 なんとしてもこのスマホの敵を取らなくては……大体俺はなんでスマホを地面に叩きつけたんだ? やばい、記憶が混濁してよく思い出せない。これが誰かに思考を乗っ取られた代償なのか。なんて残酷なことをしてくれたんだ。絶対に許さないからな。俺はもうキレたぜ。完全にキレちまったぜ。これ以上ないくらいにカチンと来てしまっている。こんなことは生まれて始めてだ。もうこれ以降経験することのないであろう程の怒りに俺の思考は支配されてしまっている。こんなことがあっていいものなのか。こんな理不尽が許されてしまっていいのだろうか? つまり、この世界が悪いってことだ。俺はこの世界を変えよう。手始めに総理大臣になろう。総理大臣になるしかない。これが世界を変えるための第一歩だ。まずは、生配信で総理大臣になる宣言をしよう。さっきまでの俺だったらこの場で大声で叫んでいたところだが、今の俺にはネットを使うという知恵がついている。俺に知恵までつけちまったら鬼に金棒、レンコンに昆布だな。


「さてと、スマホスマホ……うん? さっきまでポケットに入れていたスマホがねぇ!? まずい!! どこかに落としちまったのか? うわぁぁぁーーー!!! 俺のスマホがぁぁぁーーー!!!」


 地面に転がるぶっ壊れてしまっている俺のスマホを発見してしまった。


「誰がこんなことを!? ふざけんなよ!! 俺のスマホがいくらすると思ってるんだ!!」


 その瞬間、すべての記憶がつながった。


「うぁぁぁぁーーーーー!!!」


 俺は悲しみのあまり叫んだ。

 力の限り叫んだ。この世で一番声がでかいのは俺だとギネスブックにのるレベルで叫んだ。


 そうだよ、俺がスマホが圏外だったことにカッとなってやっちまったんだ。誰がやったんだって俺自身じゃねぇかよ。誰かに乗り移られたりなんてしてねぇ。俺がこの手で、そうこの手でやったんだ。真犯人は俺だったんだ。なんてことだ……俺は、俺はぁ……。


 想像もしていなかった事実に俺は打ちひしがれた。

 こんなことがあっていいのか? スマホを壊したのが自分自身だったなんてそんな奇想天外なことが起きえるのか? 俺がこのスマホを何か月も大事に使ってきたというのに、最後の別れがこんな形でいいのか? いや、よくねぇだろう。


「待ってよ。俺が絶対に治してやるからな!!」


 俺は地面に転がるスマホの部品を一つ一つ拾い集めた。

 これですべての部品を回収した。理論上はこれさえあれば元の姿に戻せるはずだ。なんてったって全部そのまま集めてるんだからな。足りない部品はないはずだ。壊れた部品もこの中から再生させてしまえばいい。壊れたものは治せばいいんだよ。人間はそうやって生きてきたんだ。俺の声帯だって治ったんだ、スマホ程度治せないはずがない。治せないなんていうやからがいたら俺がぶん殴ってやるよ。殴り飛ばして蹴り飛ばして、背負い投げまでお見舞いしてやるよ。そうすれば、その頭のおかしい考えを改めて俺に許しを乞うだろうな。許してやらんがな。一度口からでた言葉は二度と飲み込めねぇんだよ。身をもって教えてやるぜ。

 そうと決まれば、まずはこの山をダッシュで下山だ!! 俺はやるぜ!! 人生最高のスピードで山を下りきって見せるぜ!!


「よっしゃぁぁ!! 俺のスピードについてこれるかな!! うわぁぁぁーーー!!」


 俺は脱兎のごとく走り出したが、俺のスピードと衝撃にポケットからさっきまでスマホだった部品たちが飛んで行った。


「嘘だろ!? お前たちがいねぇと俺は!!」


 茂みの中へ散っていく部品たちを俺は助けることができなかった。

 無様にもその様子を眺めているしか俺にはできなかった。くそが!! 俺に神がかり的な反射神経が備わっていれば!! なんで神様はこんな残酷なことができるんだ。いや、違うか。あいつらは俺との別れを選んだんだ。ここは、笑顔であいつらを送ってやらねぇとなぁ。それが親友ってもんだろ。


「元気でな。俺はお前らのことを一生忘れねぇ!!」


 さぁて、家に帰ったら新しいスマホを買いにいかねぇとな。

 母ちゃんになんて言い訳して買ってもらうか考えねぇと。この前は電車に轢かれそうになったところをスマホが身代わりになってくれたって言い訳したから二度同じ言い訳は通じないだろうし。今回、山に来ることは言ってたから熊に襲われたところを身代わりになってくれたってことにしよう。


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