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「おっ、俺の降らせた雨でいい感じに火が消えてきたじゃねぇか。これで、この森をすべて焼き尽くすという最大の事故は免れたわけか。マジでよかったぜ。それはちょっと洒落にならねぇからな。しょうもないことばっかりしてきた人生だったが、人様に迷惑をかけたことはねぇんだ。いや、きっとない。少なくとも俺に覚えはねぇ。つまり、ないんだ。それをこんな転生してきたばかりの世界で迷惑行為するなんてありえねぇからな」
森を一直線に焼き払ってしまっていることについてはノーコメントで。
これは俺もやりたくてやったわけでもないし、ノーカンだ。俺は悪く無い。つまり、俺は迷惑行為をしたわけじゃない。だから、大丈夫だ。俺はこれからも世のため人のために生きていくんだ。ああ、誰かの役に立ちたくて体がうずうずしてきたんだけど。これじゃあ、町を探すのに集中できねぇな。この近くで誰か都合よく困っている奴はいねぇもんか……流石にいねぇか。そりゃこんな深い森の中に人なんているはずねぇっての。俺が特殊なだけだ。
でも、火を消火できたのは本当に良かった。あのまま放置しようもんなら、全部燃え尽きていたんだからな。俺もそこは気を付けたつもりだったんだが、爪が甘かったみたいだ。炎の威力を加減できなかったのもそうだけど、まさか炎があんなにも残り続けるなんて想像もしていなかった。それだけ俺の魔法が強いってことの表れだな。純粋に誇りたいんだが、そうもいかねぇよな。森を焼き払って俺はつえぇんだって馬鹿すぎるしあほすぎる。俺はそんな馬鹿みたいな真似しねぇ。俺は自分自信が真に誇れることしかしねぇんだ。この森を焼き払っちまったのも想定外で、本当は少し森を切り開くくらいのつもりだったんだ。この森も木が多すぎるから俺が少し減らしていい感じにしてやろうという親切心からきた結果なんだ。俺は気を使ったわけだ。親切心しかなかったんだ。
「それにしても、この森いい加減にしてほしいな。なんとか遠くを見渡す方法はないのか? ずっと先も見えない戦いをするのは正直精神的にかなりきついもんがあるぞ。俺のこの魔法で何とかならないのか? それこそ空でも飛べれば遠くまで一気に見渡せるってのになぁ……それだぁぁぁ!!! 俺が空を飛んで自分で見ればいいんだよ。それで万事解決じゃないか。最初からそうしてれば良かったもんを、俺も鈍ったかもしれねぇな。でもやっぱり、前世では魔法なんて使えなかったし、空を飛べるって言う感覚がないんだよな。思いつかなくてもしょうがねぇな」
空を飛ぶなんて突拍子もない発想に至ること自体が難しいんだ。俺もまだまだ常識の範囲内の存在だったってことだ。まったく、こんなに悔しい気持ちになったのは久しぶりだ。俺もまだまだだな。これからはもっと精進していかねぇとな。こんな調子じゃ、じじいとの戦いには勝てねぇよ。いや、でも自分の悪いところを正しく理解できるって言うことは俺にはまだまだ伸びしろが残されているということだよな。俺はもっともっと成長するぜ。そこで首を洗ってまってやがれよじじい!! 俺の力がじじいを軽く超えてさらに宇宙を一周したくらいの実力差をつけてやるからな。それくらい俺の力には限界がないんだ。俺のこれからはどんどん成長していく超絶成長モードだ。すさまじい速度で成長する俺にじじいでは確実に追いつけないだろう。俺は生まれてまだ十数年、しかもこの力を自覚してからはほんの数時間だ。対して、じじいは一体どれくらいの年月を生きてきたのかわからないほどの年齢だろう。それなら、俺に有利な条件でしかない。俺は無限の可能性を持っているのに比べてじじいなんておい先短いおいぼれでしかないんだ。そりゃ神だから、これからもずっと生きていくんだろうけど、生きてきた年数のことを考えれば、じじいの成長のピークなんてとっくの昔に過ぎ去ってしまっているんだからな。俺のピークはもちろんこれからだ。この時点でも比べるべくもなく俺の勝ちは確実だろうな。
こんなんじゃ、俺が勝つのは当たり前だし、ちょっとつまらないような気もしてきたな。でもまぁ、じじいが俺の想像を裏切る形で成長している可能性ももちろんゼロじゃないからな。そう考えると、俺があえて手を抜く必要もないよな。どう考えても俺が勝つのは確実なんだけど、万が一にも俺がさぼってじじいがとんでもねぇ成長を遂げていたとすると、話は分からなくなってしまう。確かに、成長する速度と幅では俺のほうが絶対に有利なのは間違いない。かといって、俺が何もせずに様子を見ていたところを思わぬ成長を遂げたじじいが圧倒してくる何て話はとてつもなく低い可能性を何度も潜り抜けた先では一応あり得る。俺もその可能性を考慮しておかないといけないってわけだ。俺が成長をおろそかにすることなく、盤石の体制で挑めばいいだけの話なんだよな。でも、それじゃあ、ぼこぼこにしすぎてしまう可能性もあるってわけだし、ここはひとつ美味い具合に調整するって言うのも一つの手かもしれねぇな。
「いや、違うだろ!! 俺はじじいとの激闘を忘れちまったのか? あんな激闘を繰り広げたライバルのことを下に見て、手を抜こうなんて考えを俺が持ってしまっていたことがもう怖い。俺は何を考えてたんだよ。全力でぶち当たっていく以外の選択しなんてあるはずねぇんだ。俺がじじいをこの手でぶっ飛ばしてやるんだからな」




