19話
「マジでどこまで焼き払っちまったんだよ俺は。どこまで言ってもこの消し炭になっちまった森の木しかないぞ。これじゃあ、俺はとんでもねぇことをしちまったみたいじゃないか。こんなことするつもりじゃなかったんだよ。ただ力加減がうまくできずにやりすぎちまっただけなんだよ。俺だって悪気があったわけじゃねぇ。なあじじい。俺のことを無罪だって証明してくれよ。俺にはもうじじいしか頼りにできる奴がいねぇんだ」
しばらく進んでみたが、この森の出口が見つかる気配はない。むしろ、ただただ俺が焼き払った道が続いていて俺を精神的に追い詰めてくる。これでもかというほどに続いている道がやばい。俺の心は既にかなりのダメージを負ってしまっている。絶対、じじいとの大激戦が無けりゃ俺は自然を破壊してしまったという自責の念に押しつぶされて今頃は身動きが取れなくなってしまっていただろうな。残念ながら俺はこの前までの俺とは別人なんだよ。俺のことは新しい俺と呼んでくれ。
しっかし、この森もどこまで続いてるんだろうか? 俺が適当に魔法を放った方角が一番深くまで続いていた説を提唱したいな。全方位にこれほどまでに続いていれば下手すりゃまた餓死してじじいのところに戻ることになっちまうからな。そんなことありえねぇ。
この道がどこまで続いているのか想像するだけで俺は楽しい。もしも、もしもだ。この森が世界の果てまで続いているとすると、俺はこっちに進んでいる時点でこの人生をゲームオーバーということになる。いつまでたっても森から出ることはできないんだからな。でも、この森がもう少しで終わって町が見えてくるとするなら、俺のこれからの人生は明るいものになる。これだけでも天と地ほどの差があるんだ。実際はここまで大げさな話にはならないんだろうけど、どうなってるんだろうな? もう俺の興味はこの道がどこまで続いているかということにすべて全力投球している。どこまでも続く道なのか、はたまたすぐに終わってしまう短い道なのか。その答えを知っているのはこの道を最後まで歩ききった時の俺だけだ。つまり、現時点ではわからない。どうしようもないんだ。なら、歩いてみるかないよな。ここで日和って別の方角に魔法をぶっ放すなんてのは二流のやることだ。真の一流はここでほかに逃げたりはしねぇんだよ。最後まで歩ききって見せるのが一流だ。俺は一流の男だからな。もちろん、最後までこの道に付き合ってやるよ。どこまで続いていようが関係ねぇ。俺が最後まで行くと言ったら最後まで行くんだ。
「暇だから暇つぶしを用意したいな。何か考えるだけで暇をつぶせるようないい話題はないんだろうか? この森関係だと……」
周囲を見渡してみたが、俺の周りには消し炭になっちまった木しかない。これじゃあ、何もいいアイデアなんて思い浮かぶわけがないんだ。この光景を少しでも変えたいが、これ自体が俺のやっちまったことだ。どうやったってもとに戻るわけもない。自分自身がやったことは自分がよく理解しているつもりだ。これをもとに戻すとなると、それこそ神のごとき力が必要になるってもんだ。俺も最終的にはじじいと並ぶ力を手に入れなくちゃいけないんだが……でもさっき引き分けたってことは俺の力は既に神の領域まで至っているって言う解釈でいいのか? そう言うことだよな。だって、神であるじじいと引き分けたんだぜ? それはつまり俺も神と並ぶほどの力を持ってるってことだ。最初こそ苦戦したものの、途中からはいい勝負を繰り広げてたもんな。やっぱり俺の力は神にすら通用するレベルのものだったってことだ。俺の潜在能力はわかり知れないと思ってたんだよ。でも、ここまで成長できたのはまぎれもなくじじいのおかげだな。じじいとの勝負が無けりゃ俺はこの異世界のしょぽいモンスターどもで経験を積むことになっていた。そんなレベルでは俺は神の領域まで至れてはいなかったかもしれない。もちろん、時間さえかければ神の領域まで至っていただろう。それでも、ここまで時間を短縮して成長できたのはじじいとの勝負という測りしてない経験をしたからだ。今度これに勝る経験をすることはないんだろな。魔王討伐でもあそこまで心が湧き踊ることもないんだろう。そう考えると、これから続く退屈に憂鬱な気分になっちまうな。おっと、こんなんじゃイケねぇ。俺はじじいとの再戦に向けてさらなる成長を遂げないといけないんだっての。魔王だって重要な経験値だ。俺の糧にしてくれようぞ。どんな時でも向上心を忘れないのが俺だ。モンスターの一匹と戦うのでも俺は全力を出して経験値を稼ぎに行く。手を抜いて相手をしてたんじゃ、何の意味もないからな。実際に戦うことになったら俺の力を存分に使ってぼこぼこにしてやろう。こりゃ、消し炭だけ残っただけでもありがたいってもんだな。木だから炭が残ったけど、モンスターだったら骨のひとかけらも残さずに葬り去ることになるだろうな。どんな強敵が現れたとしてもそれは、間違いなくじじい以下の存在でしかない。神と戦うような非常事態さえ訪れないければ俺は無敵だ。神と戦おうとも勝てばいい。つまり、俺は無敵だ。誰が、どんな奴が相手だろうと勝てばいいんだ。




