17話
俺は目を開けた。
先ほどまでの眩い程の光は収まり、目を開けても支障がないであろう明るさになったので、ひとまずだ。もちろん眩しかったらすぐに目を瞑る。そうすぐにだ、俺は眩しいのが大っ嫌いだからな。一瞬で目を瞑ってやるさ。誰も俺が目を開けていたことに気が付かないほどに一瞬で目を瞑ってやると心に硬く誓った。
「おっ、眩しくないぞ……なんだここ? 俺がずっといた山と同じなんじゃないか?」
俺の視界に飛び込んできたは何やら思い出深い山だった。
俺が死んだ山とは別物だと信じたいが、それもどうかわからない。あのじじいのことだし、俺を油断させて置いて、元居た世界に戻してもう一度殺そうという作戦かもしれない……それはないか。あれだけの激闘を繰り広げたライバルを一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。じじいは確かに性悪だし、陰湿だがこんなしょうもないことをしてくるようなやつじゃない。俺が一番知っていることじゃないか。これも全部俺の悪い癖だ、何かあるとすぐに人のせいにしてしまう。こんなことじゃ、この先無事に生きていけるかわからないな。この世界では頼れる人間なんて一人たりともいないんだ。すべてを自分の力でどうにかしていかないといけない。つまり、俺は今この瞬間から既に試されているということだ。俺はこの世界で生きていける人間なのか試されてるんだ。俺の力を舐めるなよ。この程度の山だったらすぐに脱出してやるぜ。少し、同じような流れになっているような気もするが、一つだけさっきまでの俺とは明らかに違うところだある。この世界に転生することで覚醒した俺自身の力だ。じじいの話によると並外れた魔力を有しているとか有していないとか。俺はこの世界では最強クラスの魔法使いとして君臨することができるというわけだな。これも、全部俺の才能によるところがでかい。魔力の保有量は完全に生まれた瞬間から決まっているものだという。つまりは、俺は異世界に置いて最強の力を持っておきながら何にも生かせない別の世界に生まれちまったというわけだ。この何とも言えないやるせなさから俺は今日脱出し、すべてはつながっていたことを証明して見せるぜ。俺の力をこの世界で存分に使って、魔王討伐だ。魔王なんて、俺の力にかかればおちゃのこさいさいだ。もうじれったいし、このまま魔王城に向かっちまってもいいかな? 流石にそれは焦りすぎか、俺としてことが物事の順序も守れないなんてな。何てこったい。すったかどっこいだぜ。魔王にもそれなりのプライドってもんがあるだろうしな。俺と勝負して速攻負けたとしてもすぐに引き下がってくれるわけもないだろう。こういう時は、徐々に魔王の戦力をそいで行ってから戦うもんだろう。手始めに魔王軍四天王を全員倒していくとするか。まず、その四天王とやらがいるのか確認するところから始めないとな。
「でもまず最初にこの森からの脱出だな。魔王軍がどうとか言ってもこの森から出ないことには何も始まらない。さまよい歩くのも面倒だし、見晴らしをよくしちまうか」
俺は前方に向かって炎を放つイメージをしながら右手を掲げた。
すると、俺の右手から爆炎が吹き荒れ、前方の木を飲み込んでしまった。その勢いのままどこまでも突き進み、やがて見えなくなってしまった。
こりゃ威力を間違えたな。ここまでの威力は求めてなかったんだよ、森を焼き尽くすつもりではあったが、あれじゃあ、どこまで飛んで行ったかまったく見えないじゃないか。町とかまで飛んで行って破壊してたとしても俺のせいじゃないからな。これは……そうだ!! 俺の手から出ていった炎が悪い。俺は悪く無いし、怒られる筋合いもない。悪いのは全部炎何だ、大体、俺以外に人なんていないんだから誰がやったかなんてわかりっこないんだ。なんで俺はこんなにもびくびくしなくちゃいけないんだよ。はぁ、無駄に気を張って損したな。俺の力の証明にはなったけど、あれでもそこまで強い魔法を打とうと思ったわけじゃないんだよな。つまり、俺の魔法はもっともっともっともっと威力が上がるって言うことだ。伊達に人類最強の魔法使いとして異世界に来てないってんだ。この世界の魔法使いがどの程度のものかは知らないが、俺に勝てるもんならかかってこいや。俺が正面から正々堂々相手をしてやるぜ。そして、完膚なきまでにぼこぼこのぎったぎったのすっとこどっこいにしてやるぜ。
「移動するか。折角道も開けたことだしな。ちょっと炎が残ってるけどそのうち消えるだろう」
俺は自分で切り開いた炎の道を歩いて進むことにした。そもそも、進むつもりで森を焼いたってのに、やっぱり進まない何て選択肢は存在しないんだ。森を焼いちまった罪悪感を少しでも和らげるためにこの道を実際に使ってやろう。これで、使わなかったらなんのために森を焼いたんだよって話になっちまうからな。俺はそのあたりまで頭が回るんだよ。言い訳できない要素は全部潰しておかないとな。いざという時に困るんだよ。




