11話
「じいさん、ちょっと落ち着いてくれよ。自分が何言ってるのかわかってるのか? 異世界に転生だって? そんな馬鹿げた話があってたまるかよ。いい加減、俺を森から助け出してくれただけだって言ってくれよ」
「神であるわしに向かって馬鹿とは何事じゃ。おぬし、不敬罪で死ぬことになるぞい。わしからあふれ出る神々しさで気が付かんのかのぉ。これじゃから、人を見る目がないやつは困るんじゃ」
「情報が渋滞してるって、俺が死ぬとか死なねぇとか以前に頭が混乱しちまって正常な判断を下せねぇよ」
じいさんの口からとんでもない情報ばかりが飛び出してくる。これでもかと、俺を追い詰めるかのような感じだな。俺だって色々と考えてるけど、そこまでのことは予想もしていなかった。じいさんの話がすべて真実だとするんだったら、俺はこれから異世界に転生することになるってことだよな? それに、じいさんは実は神? 俺が森の守り神になれていないってことを考えると俺よりも上位の存在ということになるんだな。これは、逆らったりしたらまずいか? 俺も、言いなりになるって言うのは性に合わないから、そこのところは大目に見てほしいところだけどな。実際に、異世界に転生することになったら俺は何をすればいいんだろうか。異世界に転生したとして、特にやりたいこともない。ただのほほんと第二の人生を歩むことになるだけだな……なんで、こんな突拍子もない話をすんなり信じてるんだよ。どう考えたっておかしいことくらいわかるだろ。俺を騙そうって言うんだったらもう少しマシな嘘を用意してもらいたいもんだ。いくらなんでも、とんでも過ぎて信じる信じないの天秤にもかからんわこれじゃあ。
「で? ほんとはどうなんだよ。その異世界に転生ってのは嘘だろ?」
「話の通じん奴じゃの。おぬしは自分が死んでいった光景も覚えておるんじゃろ? それじゃったら、この状況でわしの言うことを信じるしかないはずじゃぞ。どうして、そこまでかたくなになっておるんじゃ?」
「俺はあの程度のことじゃ死なねぇんだよ。そこがまずおかしいんだ。俺は餓死で死ぬほど軟な鍛え方をしてきたつもりはねぇ。せめて、交通事故とかだったらまだ信じれたかもしれねぇけど、餓死は無理だ。あれもただ眠くなっただけに決まってるんだよ」
「もうよい。信じるも信じないもおぬしの勝手じゃが、わしにも後の都合があるんでの。説明に入らせてもらうぞい。まずおぬしが転生することになる世界についてじゃが……」
「勝手に話を進めるなよ。俺はまだ納得してないんだ。勝手に進められても聞くわけないだろ。それか、俺が大声出して全部話を遮ってやろうか? うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!」
「黙るんじゃ」
「ぐへっ」
じいさんが言葉を発した途端、腹の底から出していた俺の叫び声がぴたりと止まってしまった。止まったというよりも止められたといったほうが正しいだろうか? 口が開かない。さっきまであれだけ開いていた口がピッタリくっついてしまってまったくあく気配がない。これが、口をぬいつけられるという感覚か。まるで、自分の口がじいさんに乗っ取られてしまったような感覚だな。意味不明なこの状況で俺はさらに叫びたくなるがそれも到底敵いそうにない状況だな。こんなことを言葉一つでできちまうじいさんは本当に神だって言うのかよ。でも、それ以外もう考えられないような感じになってきてしまっている。ただの人間に言葉だけで他人の口を封じるような力があるはずもない。この力こそが神である証明だとでも言うつもりか? なんて横暴な神だ。俺というただの人間に力の差を見せつけようってのか? 俺だって、人間の中ではぴか一の力を持ってるけど、それも所詮人間の中での話だ。神からしてみれば、どんぐりの背比べレベルでしかないんだろう。
「ううっ、ううぅぅ」
「何て言っておるのかわからんのぉ。どうしたんじゃ? まだ叫びたりんのかのぉ? あまりにもうるさいからわしも大人げなく力を使ってしまったわい。これも、おぬしが悪いんじゃぞ? わしに対してもう少し尊敬の念を持つのが当たり前のことなんじゃ。それを、わしに向かって叫ぶなんぞ許されるような行為ではないんじゃ」
「ううぅぅ」
「反省しておるようじゃの。よかろう、今その封印を解いてやろう。次同じような真似をしたら、おぬしは永遠に声が出せなくなると理解して喋ることじゃの」
ようやく口が開いた。
でも、じいさんの言うことが真実で、俺が叫んだらもう二度と声が戻らなくなってしまうかもしれない。この状況で叫ぶほど俺はあほじゃないんだよな。TPOはわきまえてるんだ。俺だって自分声を失いたいなんて思わないし、一度失っていたかもしれないものをもう一度失うなんて耐えられない。俺には絶対に耐えられないんだ。もう二度と声を失うような自体に陥ったら俺は壊れてしまう。イケボをなくすていうのはそういうレベルの話なんだよ。絶対に許されない!!




