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10話

 だんだんと意識が覚醒していく。

 俺は気を失っていたのか? 何がどうなってるんだ? 


「お、ようやく目覚めたようじゃの。おぬしの寝相の悪さには流石のわしも参ったわい」


「誰、じいさん? てかここどこ? 俺はさっきまで森の中にいたような……どうなってるんだ?」


「よく覚えておるのぉ。大体の者は死ぬ前後の記憶を失っておるんじゃが、おぬしは少し特別なようじゃの。そっちのほうが都合がよくてわしとしては助かるんじゃがの」


「死ぬ前後の記憶? ちょっと待ってくれ。確かに俺は空腹で死にそうになったはずだ。でも、あれは全然まだ余裕で俺は死ぬほどの空腹じゃなかったはずだ。それがなんで死ぬとかそういう話になるんだ?」


「おぬしはもう少しいけると思っておったかもしれんがの、体はとうに限界を超えておったんじゃよ。簡単なことじゃろう、おぬしはご飯を食べずに餓死したんじゃ。まったく、最初から雑草でもキノコでも食べておれば無事に家に変えることができておったというのにのぉ。しょうもないことばかりして時間を潰してばかりいたせいじゃの」


 待ってくれ。俺が死んだ? この俺が餓死ごときで死んだって言うのか? 確かに記憶は残ってる空腹に耐えきれずそのまま意識は失った。でもなぁ、それでも俺なら生き残れたはずだ。こんな簡単に死んでたまるかってんだよ。まったく持って理解しがたい。俺の力をもってすればありえないことが起きてるということだ。つまり、これは夢だ。今度は勘違いなんかじゃないぞ。正真正銘夢に違いない。俺の勘がそう告げている。それはつまり夢だということだ。この爺さんだって俺がテレビか何かでみたじいさんを脳が勝手に夢に出現させているだけだろう。通りで見たことあるような顔だったわけだ。簡単に騙されてやるほど俺は甘くないからな。


「お前のやり口はもう理解した。俺は簡単に騙されたりしねぇからな。絶対にお前なんかに騙されない。ここが夢だってことくらいわかってるんだぞ。ほら、すぐに証拠を見せてやる。おりゃぁぁぁーーー!!! いってぇぇぇぇぇぇーーーー!!!!」


 前回の反省をまったく生かさずに、渾身の力でそれこそ頬の肉を引きちぎる勢いでつねった。もはやちぎった。

 突然頬を襲う信じられないほどの激痛に地面をのたうち回る。なんで俺はこんなことしちまったんだ。いてぇ、痛すぎて思考がまとまらない。これじゃあ、この爺さんの思うつぼだ。というか、痛いってことはこれは夢じゃないって言うのか? おかしいだろ、こんなの夢でもおかしい話なのに、現実に起きてるって言うのか? どうなってやがるんだ? 俺は一体どうしちまったんだ? こんな頬がちぎれるような思いをして自分自身の無能を証明しただけじゃないか。こんなの間違ってる。世界が間違っている。俺ばかり不幸な目にあるこの世界が間違っているんだ。俺は悪く無い。絶対に悪く無い。俺が悪いなんてありえねぇ。何回だって言ってやる。俺は悪くねぇし、これからも俺が悪いことなんて一切起きるはずがないんだ。


「何をやっておるのじゃ? 盛大に何かを宣言したと思えば、いきなり頬をつねって転がる……おぬしもしや真のあほなのじゃろ? わしにはわかるぞ。おぬしの死ぬ前の行動はあらかた目を通させてもらった。奇行ばかりしている変人というのが現在のおぬしの評価じゃ。どうじゃ? 間違っておらんじゃろう?」


「間違いだらけだわ。いや、間違いしかねぇ。俺の何処が奇行ばかりしてる変人だよ。それ自体が大きな間違いだからな。俺はただすさまじい力を生まれ持ってしまったスーパーエリートでしかない。それ以上でもそれ以下でもないんだ」


「その発言があほなんじゃよ。大体、おぬしは何をどう考えたら手ぶらで富士の樹海に足を踏み入れようなんて気になるんじゃ? 遭難して当たり前じゃろう? わしが何度おぬしの奇行に頭を痛めたかわかるか? わしですら途中で数えることを諦めたんじゃぞ? それほどにおぬしのあほさ加減は極まっておったんじゃ」


「うるせぇ!! 俺の何処が悪いって言うんだ。俺に落ち度なんてねぇよ。むしろ、俺を操ってたやるが悪いだろ。そいつが黒幕だ!! 今すぐここに呼んできてくれ。そして、俺の無実を証明しろよ!!」


「おぬしは操られてなんぞおらんかったし、あれはすべておぬしが自分の意志で行ったことばかりじゃ。おぬしのとりあえず叫んでおけばいいみたいなのは控えてもらえんかの。単純にうるさいわ。いきなり大声を出すような奴にろくなやつなんておらんじゃろ。まったく、なんでわしはこんな変人を選んでしまったのかのぉ。さっきまでのわしをぶん殴って改心させたいわい」


「俺が何に選ばれたんだって? そもそも、俺は死んだんだよな? それがどうして、この謎の場所にじいさんと二人きりで会話してるんだ? もしかして、森に迷い込んだ俺を助けてくれたとか? それだったら、実は俺は死んでなくて、痛みも感じる。何もおかしいことはないな。そうなんだろ? なぁ、俺を助けてくれたんだよな?」


「ある意味ではその通りじゃが、おぬしが死んでおるのはまぎれもない真実じゃよ。わしは不幸にも……ここでは一応不幸だったことにしておくが、死んでしまったおぬしに第二の人生を与えるために呼び出したんじゃよ」


「そうか。俺はついに森の守り神になったってわけか。わかったぜ、じいさん。俺はこれからあの森を守っていけばいいんだな。任せておいてくれ。俺にかかればどんなことも万事解決だ。なんの憂いもないだろ」


「おぬしは神になんぞなっておらん。神はそれほど簡単になれるほど甘いものではないんじゃ。おぬしは異世界に転生することになったんじゃよ」


 い、異世界?


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