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一話

「すげぇぜ。こんなの見たことねぇ。とんでもねぇ、山だ!!」


 すさまじい、俺が今ものすんごく感動してる。今までの人生で感じたことないほどに感動している。どれくらい感動しているかというと普通の感動がご飯一杯分だとしたら今の俺は地球、いや宇宙規模で感動しているだろう。そのくらい凄い。何が凄いのかはよくわからないが、とんでもない。すさまじい、いますぐこの感動を世界中のみんなに共有したいという衝動が抑えられない。どのくらいの衝動かというと、普通の衝動が味噌汁一杯分だとすると、今この衝動は地球、いや宇宙規模で俺を駆り立てている。そのくらいすさまじいんだ。俺の心は何が何でもこの感動を世界中の人達に伝えようと叫んでいる。


「うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!」


 すぐに叫んだ。

 それも今までの人生で出したことのないほどの大声で叫んだ。

 どれくらいの大声かというと、普通の声がハンバーグ一個分だとするなら、これは地球、いや宇宙規模で響き渡る程の大声といって差支えないだろうな。声帯がぶっ壊れてもいいという覚悟の叫びだ。普通の人間に出せる声の音量は優に超えているだろう。事実、今俺の声帯はぼろぼろだ。二度と声は出せないかもしれない。いや、今の医学の進歩なら数年後には声帯が復活するかもしれない。声帯といえば、俺は自分の声がすさまじく好きだったんだが、この声がもう出ないってなると感慨深いもんがあるな。

 同時に、なんでこんなバカなことをしてしまったんだという後悔の念に襲われる。どれくらい後悔しているのかというと、そうだなぁ……朝残した水を、学校から帰ってきて飲んで腹を盛大に壊した時と同じくらい後悔している。そのくらい後悔しているんだ。今にも泣き出しそうだ。俺の感動と衝動はどこに言ったんだよぉぉぉーーーー!!!!

 俺の声帯を返せと、数分前の俺に叫び散らかしたいが、もうその声は俺にはない。

 俺にはどうすることも出ないんだ。つまり、手の打ちようがない。何もできない、こんな俺に生きている価値はあるのか? 究極の美声を失った俺に何が残るって言うんだよ。何も残らないじゃないか。ふざけんな、これも声が出ない。なんで俺はこんなことをしてしまったんだ。元はといえば、山を見ただけで意味がわからない程感動した数分前の俺が悪い。その後に大声を出した俺も悪いがことの発端はどう考えても感動していた俺だ。何が、この感動を世界中に伝えたいだ。勝手にやってろよ。なんで、俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだってんだんだ。くそが!!! 


 待てよ、その前に、この山に来る予定を立てた俺の方が悪いんじゃないか? そうだよ、そうに違いない。もうそうでしかない。そうに決まってるんだ!! すまねぇ、数分前の俺、どう考えても数時間前の俺の方が悪いじゃないか。誰がこんな普通の山に行こうなんて考えるんだよ。普通にゲーセンでも行ってろよ。そしたら、俺は声帯を失うこともなかったんだ。山に感動することもなかった。衝動に駆られることももちろんない。むしろ、楽しくゲームができていたわけだ。今の俺と天と地ほどの差があるといっていいだろう。というか、いうしかない。いうしかないんだ。俺の馬鹿な考えがすべてを狂わせた。数時間前の俺よ、今すぐぶん殴らせてくれ。俺の渾身のダイナミックウルトラスーパーデンジャラス右ストレートを喰らわせてやりたい。そして、その何もつまってない頭の中身をぶちまけさせて殺すんだ。そうすれば、今の俺はなかったことになって、何事もない日常が帰ってくる……はずねぇだろうがぁぁぁーーーーー!!!! 過去に戻って自分自身を殺しちまってんじゃねぇか。どうしたらそんなことできるんだよ。そりゃ俺はここにはいねぇだろうよ。だって死んでるんだもんなぁ。天国か地獄かどっちに行くのかはわからねぇが、いずれにせよ、俺はここにはいられなくなっている。そんなことして何になるって言うんだよ。こうなったら、こんなとんでもないことを考えた数秒前の俺にダイナミックチャリオットブランドボンバー左ストレートをくらわして何もつまってない頭の中身をぶちまけさせるしか道はねぇ。そうすれば、この考えに至ることもなく、無事に俺を始末できる。そうすれば、今の俺は無事に消えて何事もなかったかのようにいつもと変わらない日常が帰ってくるんだ。そうに違いない。いや、そうでなくちゃ困る。そうであってくれ!! 頼むから!! 声帯が潰れて声が発せない人生になんの価値があるって言うんだ。俺の声帯を返せ!! このくそ野郎が!! ふざけんなよ。叫ばせろよ。俺に何か叫ばせろ!! 脳内ばっかりで叫んでても仕方ねぇだろうが!! うわぁぁぁって叫びてぇぇ!! こんなに叫びてぇのは生まれて初めてだ。何かを失って初めてその大切さに気が付くんだな。つまり、俺は死ぬしかない。声がない人生なんて意味がない。このまま山の一部になろう。俺は大地に帰ってこの山の守り神になるんだ。


 これで俺の考えはまとまった。


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